15話 接触
ヴァレンタインとエイブラハムは両手にシャンパンを持ってエリザベスとクリスが居るテラスへと向かった
ヴァレンタインはクリスにシャンパンを渡そうとしたが、クリスは受け取らずにじっとヴァレンタインを見つめた
「ヒラヌル王女、随分怒っていらしたわ
国王陛下に進言されてヴァルに何かして来ないかしら」
ヴァレンタインはクリスがそんな事を心配していたとは思ってもみなかったので、驚いてしまった
「大丈夫だ」
「でも…」
ヴァレンタインはニッコリ微笑むとシャンパンを差し出した
クリスは差し出された事にようやく気が付いて、シャンパンをやんわりと受け取った
「婚約者がいる男にちょっかいを出してるのはあの王女だ
国王がそれを良く思うはずがない
それに俺は魔法使いって事になっている
王族が魔法使いと親密な関係になる事は禁忌だ
どう考えてもあの王女の行動が問題だから何も起きないさ」
「…そうね」
クリスは少し安心したので、受け取ったシャンパンを一口飲んだ
「「!!」」
突然、エリザベスとヴァレンタインが険しい顔になった
「どうしたの?」
驚いたクリスがそう問いかけた直後、屋敷の奥の方で魔力が発せられた事に気が付いた
「ヴァル!」
「ああ、ようやくジュリアとか言う魔獣が動きだしたかな?」
エリザベスは持っていたシャンパンをくいっと飲み切ると
「じゃあ行きましょうか」
と告げた
「ちょ、ちょっと待って!」
止めたのはエイブラハムだ
「何だ?」
「今、魔獣に姿を変えようとしたね?」
「ああ、空を飛ぶのは魔獣の姿でないと飛べないからな」
「ここで魔獣になったら大騒ぎだよ」
エイブラハムは自分の後ろを見た
テラスと会場の出入り口のドアはガラス張りなので、中からテラスの様子を伺う事が出来る
「面倒くさいな」
ヴァレンタインはやれやれといった感じだ
エイブラハムは右手に魔力を集めると、ガラス張りのドアに向って左から右へと一度だけ撫でるような仕草をした
「お兄さま?」
クリスはエイブラハムが何をしたのかわからなかった
「結界を張って、誰も会場からこのテラスに来れないようにした
それに中からはガラスが反射して外の様子を伺う事が出来ないようにもしたんだよ」
「すごいです、お兄さま」
クリスはいつもヴァレンタイン相手に魔法の練習をするが、それは攻撃魔法や防御魔法が主なので、このような魔法は知らないのだ
「それじゃ行くぞ、クリス」
ヴァレンタインがそう呼びかけると、エイブラハムは再び止めた
「ちょ、ちょっと待って!」
「またか!今度は何だよ?」
「僕はヴァルに乗るよ
クリスはベスに乗って」
「何でだよ?」
ヴァレンタインは明らかに不満気だ
「だって僕がベスに乗る訳にはいかないだろ?」
それはそうだ
男性のエイブラハムが女性のエリザベスに乗るのは抵抗がある
「何で?」
だがヴァレンタインはそれがわからないようだ
「もうヴァルったら
いいからお兄さまを乗せてね
ベス、行きましょう」
クリスがそう言って、さっさとエリザベスの側に行くとヴァレンタインはあせった
「え?何でなんだよ」
エリザベスはため息をついた
「ヴァル、いいからエイブを乗せて行くわよ」
エリザベスがぴしゃりと言うと、ヴァレンタインは諦めたのか黙ってしまった
2人は魔獣に姿を変えると、クリスとエイブラハムをそれぞれ背中に乗せた
先にエリザベスがテラスからふわりと駆け出すと、続いてヴァレンタインも駆け出すのだった
♪♫♬ ♬♫♪
ヴァレンタイン達が感じた魔力は屋敷の裏手だった
人気がなく、屋敷の裏手は林のようになっていた
その場所に近づくと、人間のクリスやエイブラハムでもわかるくらい血の匂いが漂っていた
「…ベス…」
「どうやら食後のようね」
クリスが魔獣のエリザベスから降りると、エリザベスは人型に戻った
ヴァレンタイも同じようにエイブラハムを降ろすと人型に戻った
すごい血の匂いだ
気分が悪くなる
クリスは顔をしかめながら辺りを探ろうと林の方へ進もうとしたが、突然ヴァレンタイが肩を掴んで止めた
「ヴァル?」
鼻の利くヴァレンタインは辛そうな顔をしながら、顎でクリスの足元を指した
クリスが足元を見るが、暗闇なのでよく見えないが大きな水溜まりがあるようだ
クリスはあと一歩進めば水溜まりに足を踏み入れてしまうところだった
暗闇のせいか水溜まりが黒く見える
…もしかして
クリスはぞっとした
「血?」
クリスの問いにヴァレンタインは頷いた
「賢い魔獣だと思ったけど、この食べ方じゃそうでもないかもな」
「あら、今回は特別よ
普段は綺麗に食べるわ」
林から声がした
どこにいるの?
暗くて確認できない
「上だ」
クリスはヴァレンタインの声に導かれ上を見ると、ジュリアが木の枝に座っていた
ヴァレンタインはクリスを自分の方へ引き寄せた
「特別?」
「そうよ
あなたを誘き寄せるためにわざと派手に魔力を使ったのよ?
血はサービス」
ジュリアはニッコリ微笑んだ
「俺達は誘き寄せられたのか」
ジュリアを睨みつけるヴァレンタインをジュリアは楽しそうに見ている
「ああ、やっぱり貴方は素敵ね
私の側に置いてあげる」
「俺は物じゃないぞ」
「関係ないわ
私がそう決めれば力づくでそうするだけよ」
「随分、傲慢ね」
エリザベスの言葉に、笑顔だったジュリアの顔が怪訝な顔に変わった
「貴女達は初めて見るわね
彼以外に用はないわ、消えなさい」
ジュリアがそう言うとジュリアの背後から触手のような物が無数に現れた
触手は勢いよくエリザベスとエイブラハムとクリスに向かって伸びた
ヴァレンタインはクリスを抱えて後ろに飛び退き、エイブラハムは杖を出して防御魔法で触手を阻んだ
「あら?」
エリザベスがいない事に気づいたジュリアだが、次の瞬間エリザベスが目の前に現れた
「!」
エリザベスの手にはレイピアが握られてる
ヒュンとジュリアの首を切り落とそうとエリザベスがレイピアを振ると、ジュリアは首を庇おうと手でガードした
ジュリアが座っている木の根元にぼとりとジュリアの左手首が落ちた
その側にエリザベスは着地すると、ジュリアを睨みつけた
ジュリアは静かにエリザベスをみつめている
だがその目からは怒りが感じられた
「気に入らないわね」
「私もよ」
ジュリアからは禍々しい魔力が身体から溢れ出し始めるのだった




