13話 勧誘
ヒラヌル王女のお茶会を終えてから10日程過ぎた
メイスン伯爵家の令嬢となり人間社会に紛れ込んでいる魔獣のジュリアを見張る為に、ヴァレンタイン達は相変わらずルガード国の首都にあるオルドリッジ家に滞在していた
オルドリッジ家当主のリチャードも部下にジュリアを監視させてはいるが、今のところ何の動きもないとの事だ
「だいたい普通の人間が魔獣を監視出来る訳ないだろ」
庭園の中にある広々とした場所で、ヴァレンタインは下僕を使ってクリスの特訓をしていた
下僕が身体の形を変え、霧状になってクリスに襲いかかってきた
クリスは右手に杖を持ち、魔力を集めて自分を守るように防御魔法を張った
杖はクリスの身長より長くなっている
防御魔法に触れた霧はバチバチと弾かれた
すかさずクリスは杖を霧状の下僕に向けて浄化魔法を放った
浄化魔法に当った下僕はザァーと消えていく
「うん、随分良くなったな」
ヴァレンタインは満足気だ
「でもどうするの?
監視を付けても無理なら、あの魔獣が人間を襲っているかわからないじゃない」
クリスは杖を持ったままヴァレンタインに聞いた
噴水の側にあるテーブルにはお茶が準備されていて、エリザベスは優雅にお茶を飲んでいる
エリザベスがクリスに指を向けると、クリスの目の前にエリザベスが創り出した下僕が現れた
ヴァレンタインの下僕とは違い女性の形をしている
下僕は素早く動くとムチを振るいクリスに襲いかかった
一瞬、防御魔法を張るのが遅れて、クリスの頬にムチがかすってしまった
クリスは防御魔法を張ったまま自分に重力魔法を掛けると、一歩で女性の下僕の懐へと入り込んだ
ムチのような長い武器を使う相手ならば、相手の懐に飛び込むと安全だ
すぐさまクリスのは魔力で剣を創ると左手に持ち、下僕に突き刺した
浄化魔法も施してある剣なので、下僕はザァーと消えてしまった
「ふう」
クリスは防御魔法を解いた
「少し休憩しなさい」
「うん」
エリザベスに言われ、クリスはエリザベスのいるテーブルへと向かった
ヴァレンタインもテーブルの側まで来ると、クリスの頬の怪我に気が付いた
「ケガしたのか?」
「あ、これ?
さっきのムチが避けきれずにすっちゃったの」
クリスが頬に指を当てながら頬の辺りに視線を落としている間に、ヴァレンタインが目の前まで来ていた
ヴァレンタインに気が付いたクリスが顔を上げると、ヴァレンタインはケガをしていない方のクリスの頬に手を添えると、ケガを舐めた
ネコ科なので舌はザラザラしている
ザリ、ザリとヴァレンタインはクリスの頬を舐めた
クリスは顔が真っ赤になっている
「ヴァル!何回言ったらわかるの!?
無闇に女の子を舐めるなと言ったでしょ!」
エリザベスは立ち上がるとツカツカとヴァレンタインの背後に立ち、襟首を掴み引っ張るとクリスから引き離した
クリスから引き離されたヴァレンタインは
「何でだよ」
と不満気だ
クリスは真っ赤になって舐められた頬に手を当てて下を向いている
「…ケガは治ったわね」
エリザベスは不本意な表情だ
「座ってお茶でも飲んで一休みしましょ」
「う、うん」
クリスは真っ赤なまま頷くと、椅子に座った
「まあ別に悪さをしている訳でもなさそうだし、このまま放っといてもいいんじゃないか?」
ヴァレンタインは下僕が入れたお茶を一口飲んだ
「そうよね
私達だって紛れ込んでいたんだから、他の魔獣がいても不思議じゃないわ」
この2人、飽きたな
クリスはそう考えた
「でも皇太子殿下に接触しているわ」
「食べるならとっくに食べてるよ」
「そうね、大丈夫でしょう」
あ、やばい
本当に飽きてる
そこへ侍女が「失礼します」とやって来た
「お嬢様、シャイフ・ミナ・ベルトレ侯爵令嬢からお手紙が届きました
「ありがとう」
クリスは侍女が差し出したトレイから手紙を受け取ると封を切り、手紙を読むと「ふー」とため息をついた
「どうした?」
クリスは苦笑いをしながらヴァレンタインを見た
「ヒラヌル王女がヴァレンタインに会いたくて、シャイフ様に席を設けて欲しいって泣きついたそうなの」
「面倒な子ね」
エリザベスは冷静にお茶を飲んでいる
「それで?何か頼んで来たのでしょう?」
「そう
ベルトレ侯爵夫人主催の夜会があるから、ヴァレンタインと参加して欲しいって」
「やだよ」
一考の余地もなく、ヴァレンタインは断った
まぁ確かに面倒だよね
わかるけど…
クリスは困ってしまった
ネコ科のヴァレンタインとエリザベスはとにかく気まぐれだ
頼み事をした時、すんなり受けてくれる時もあれば、すっぱり断る時もある
今回はすっぱり断る方だった
こんな時はもうどれだけ頼んでも無理なのだ
だがエリザベスは少し考えて
「そのジュリアとかいう魔獣も来るのかしら?」
あっ、そうか!
それならヴァレンタインも行ってくれるかも
「お父さまに頼んで確認してもらうわ」
「そうして
こんな街中に住み着いている魔獣なら、動きがあるのは夜だわ
もしその夜会に参加するなら、何か動くかもしれないわね」
「うん」
エリザベスは顎に手を当てて少し考えた
「その夜会にジュリアという魔獣が来るなら、私も行くわ
私も一度その魔獣を見てみたいから」
「え?でも誰にエスコートしてもらうの?」
♪♫♬ ♬♫♪
エイブラハムは驚いていた
部屋に本を持って来て、ゆっくりとお茶を飲みながら過ごしていたのに、突然クリスとヴァレンタインとエリザベスが訪れて来たからだ
しかも今度の夜会にエリザベスをエスコートしろと言う
「僕がベスをエスコート!?」
「そう」
「なんで!?」
「他にいないから」
「………」
エリザベスは絶世の美女だ
魔獣とはいえ、ときめかない男性はいないだろう
エイブラハムは少し期待してしまった自分が情けなかった
ま、そうだよね
僕はその程度だよね
自分で自分を慰めた
「この前、お話しした魔獣がその夜会に来ればの話しだけどね」
「メイスン伯爵の養女の?」
「そう」
魔獣絡みなら仕方ないか
「…いつだい?」
「お兄さま、いいの?」
クリスはエイブラハムがあっさり承諾してくれたので驚いた
「皇太子殿下に近づいている魔獣だからね
それならば僕が行くのも当然だよ」
「それじゃあ、よろしくね」
エリザベスはニッコリと微笑んだ
ご精読、ありがとうございます
m(_ _)m
次話もよろしくお願いします!
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