12話 愛妾
「お邪魔してもよろしいかな?」
クリスとヴァレンタインの背後から声を掛けたのはベルナルド皇太子だった
クリスとヴァレンタインは立ち上がると
「ベルナルド皇太子殿下にご挨拶を申し上げます」
と挨拶をした
「座っても構わないかな?」
構います
と心の中でクリスは返事をした
そう言えたらどんなに楽だろう
「構いませんわ」
クリスの返事を聞くとベルナルド皇太子は椅子に座ったので、クリスとヴァレンタインも再び席に着いた
「ヒラヌルから聞いたけど、婚約をされたそうだね?」
「はい」
ヒラヌル王女は早速、皇太子に泣きついたのか
「クリスティーナ嬢はとても可愛らしいからね
私の妃候補にと父上にお話しをしたところだったんだ」
はい?
クリスはキョトンとした
ヴァレンタインはギロリとベルナルド皇太子を睨んだ
「クリスティーナと僕の婚約は正式なものです」
「心配しないで下さい
父にも反対されました」
クリスはほっと胸をなでおろした
そもそも王族と魔法使いは結婚出来ない事になっている
王族が魔法の力まで手に入れる事を禁じているからだ
「昔と違い、今は魔法使いが随分と減ってしまいました
ルガード国ではオルドリッジ家が唯一の魔法使いの家系です
クリスティーナ嬢とエイブラハムにはそれぞれ家庭を持ち、魔法使いの家系を増やしてもらわねばなりません」
「そうですわね」
「何より、王族と魔法使いは結婚できませんからね」
ベルナルド皇太子はニッコリ微笑むとお茶を一口飲んだ
「ですが妹にはまだわからないようです」
「え?」
わからないって…頭悪いの?
なんてクリスは思ってしまった
「まだ幼く甘やかされて育てられた為か、気に入った物を手に入れないと気が済まないのです」
「はぁ」
まだ幼いって私と同じ年だよね?
王族が魔力を手に入れる危険性を理解出来ないの?
「ヴァレンタイン伯爵、妹が何かご迷惑をお掛けするようであれば、すぐに私に仰って下さい」
「ありがとうございます」
ヴァレンタインもニッコリ微笑んでからお茶を一口飲んだ
「ベルナルド皇太子殿下、こちらの素敵な方々はどなたですの?」
ベルナルト皇太子の背後から現れたのは、先程ヴァレンタインに魔獣だと見抜かれた女性だった
女性は両手をベルナルド皇太子の肩に乗せると、すべるようにベルナルトの胸へと手を伸ばした
ベルナルド皇太子はその手を取ると口づけをした
「ジュリア、こちらはクリスティーナ・ルナ・オルドリッジ侯爵令嬢とヴァレンタイン・リアム・レイメント伯爵だよ」
ベルナルド皇太子に紹介され、女性はクリスとヴァレンタインを見た
女性もクリスが魔法使いでヴァレンタインが魔獣と気づいているようだ
ニヤリの不気味な笑みをこぼした
「ジュリア・アバ・メイスンですわ
お見知りおき下さいませ」
メイスン伯爵はルガード国では古い家柄なので、クリスも知っていた
一体どうやって魔獣がメイスン伯爵家に入り込んだのだろう
「初めまして、ジュリア嬢
ヴァレンタイン・リアム・レイメントです」
「クリスティーナ・ルナ・オルドリッジです」
ヴァレンタインとクリスが挨拶をすると、ジュリアはニヤリと笑みを浮かべた
「まあ、可愛らしい魔法使い様ですね」
顔は笑っているが、目は獲物を狙うように鋭い
魔獣にとって魔法使いは大好物の餌だ
ヴァレンタインは身体を少し動かし、ジュリアの視界からクリスを隠した
ジュリアはベルナルド皇太子の耳元に顔を寄せた
「皇太子殿下、あちらで2人でお茶を飲みませんか」
「そうだね、行こうか」
ベルナルド皇太子はそう返事をすると立ち上がった
クリスとヴァレンタインも立ち上がる
ベルナルド皇太子はジュリアの腰に手を回すと、再びクリスとヴァレンタインを見た
「それではどうぞごゆっくり楽しまれて下さい」
「ありがとうございます」
ベルナルド皇太子とジュリアは背を向けると行ってしまった
「…ヴァル」
「何だ?」
「どうやって魔獣がメイスン伯爵家に入り込んだのかしら?」
「さあな」
「皇太子殿下、彼女が魔獣って気付いてないわよね」
「だろうな」
ベルナルド皇太子は空いているテーブルに座ると、ジュリアと身体を密着させ手にキスをしたり顔を近づけたりして楽しそうだ
離れた所ではヒラヌル王女がこちらの様子を伺っている
この王族達は魔獣が好きなの?
そんな事はないが、思わずそう考えてしまったクリスだった
♬♫♪ ♪♫♬
お茶会が終わり屋敷へと帰ったクリスとヴァレンタインはまずエリザベスの元へと向かった
1人でまったりとお茶を飲み本を読んでいたエリザベスは、突然部屋へ乱入して来たクリスとヴァレンタインに驚いている
「どうしたの?」
「魔獣がいた」
「?」
ヴァレンタインはお茶会で出会った魔獣の事を話した
「…考えられるのは人間社会に紛れ込んで、好きな時に人間を食べているかもしれないわね」
エリザベスは顎に手を当てて考えている
美人は何をしても絵になる
クリスはうっとりとエリザベスを見てしまった
「でも皇太子と親密な感じだった
ただ人間を食べるために紛れ込んでいるなら、わざわざ王族と接触する必要はないだろ」
「そうね
リチャードはいるのかしら?
とりあえずリチャードにメイスン伯爵家の事を聞いてみたいわ」
そう言うと3人は部屋から出て、リチャードの元へと向かった
♪♫♬ ♬♫♪
リチャードは執務室にいた
話を聞いたリチャードは困ったように話し始めた
「あのジュリアという娘は平民だったんだよ
どうやってベルナルド皇太子と知り合ったのかはわからないけど、ベルナルド皇太子がご自分の愛妾に迎える為に貴族の娘にする必要があったんだ」
「それでメイスン伯爵家の養女となったのですね?」
クリスは納得した
「そう
だがまさか魔獣だったとは…何か変な感じはしていたんだ」
リチャードは魔獣に気づかなかった事にショックを受けているようだ
「あれは特殊だ
人間が気づかなくて当然だ」
「そうなの?一体、何の魔獣かしら?」
エリザベスは怪訝な顔つきになった
「上手く人間に紛れ込んで、一度に襲うのではなく少しづつ食べているのね
首都は広くて大勢の人間がいるから、目立たないように場所を変えて襲ったりしているのかもね
頭の良い魔獣だわ」
「どうするの?」
クリスが不安げに聞いた
なんと言っても伯爵令嬢で、しかも皇太子殿下の寵愛を受けている
エリザベスが消し去ると言ったら、国王陛下や皇太子に話さなければならないだろう
「とりあえずは様子を見ましょう
向こうもヴァルの存在を知ったから、無闇に動きまわらないでしょうから」
エリザベスの案にリチャードも納得した
「そうだね
僕の方でも監視をつけるように手配するよ」
とりあえずは大事にならずに済んだようだ
クリスはほっと胸をなでおろした
ご精読、ありがとうございます
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