105話 挑戦
「夜が明ける前にこの地を去る
君達も準備をしてくれ」
「そんな…」
クリスはあまりにも突然の話しなので驚き、言葉を失ってしまった
「近々、このような結末を迎えるだろうとは思っていたんだ
ベスには前から頼んであるから準備は出来ている
すぐに出発の準備に取り掛かってくれ」
レジナルドの言葉にクリス達の後ろで話しを聞いていたスコットやローズマリー、そしてヴァレンタインとクリスの側使えの召使も「はい」と返事をした
クリスはふと心配になり、レジナルドに聞いた
「レジナルド様
ドロレス嬢とニコル嬢はどうするのですか?」
クリスの質問が意外だったのか、レジナルドはきょとんとした顔になってしまった
だが「こほん」と咳払いをすると、ゆっくりクリスを見上げた
「彼女達がどうなろうと、私の範疇ではない
彼女達が生きようが死のうが、それは彼女達次第なのだよ
放っておきなさい」
クリスは何か言おうとしたが、それより前にレジナルドが口を開いた
「スコット
ここで働く者達に説明をして、私と共に行くかこの地に残るか決めるように言ってくれ」
「はい」
「ローズはこの屋敷にある必要と思われる物を運び出すんだ」
「畏まりました」
「お前達はヴァルとクリスの準備を手伝うんだ」
「「はい」」
レジナルドは手際よく使用人に指示を与えると椅子から立ち上がった
「それでは取り掛かってくれ」
「「「「はい」」」」
♪♫♬ ♬♫♪
クリスが部屋に戻ると、側仕えの侍女はすぐにクローゼットを開けた
「まずはお着換えをいたしましょう」
「ええ、お願い」
着替えをしながら侍女はクリスに持って行く物を確認した
もともと客としてこの城に滞在していたので、持って来た物をまとめるだけで事は済む
クリスも手伝いながら何個も鞄や箱を広げて、二人で床に座って荷物を詰め込んだ
「貴女はどうするの?」
クリスが聞くと、侍女は荷物をまとめる手を止めずに答えた
「私は旦那様に付いて行きます」
「そう」
クリスは少し考えて
「貴女も荷物をまとめなくてはいけないのでしょう?
ここはだいたい終わったから、貴女の準備をしてきて」
「ですが…」
侍女は困惑した顔でクリスを見た
クリスは侍女が悩んでいる事に気が付くと、にっこり微笑み侍女の肩に手を乗せた
「私はここで待っているから
貴女の準備が終わったら迎えに来て」
どうしようか悩んでいた侍女だがクリスに言われ覚悟が決まったのか、顔つきがきゅっとなった
「ありがとうございます
すぐに準備をして参りますので、ここでお待ちになっていて下さい」
「ええ」
侍女はぱっと立ち上がると急いで部屋から出て行った
侍女を見送るとクリスは
「よいしょ」
と立ち上がり、ドレスに皺が残らないようにパタパタと叩いた
クリスは自分の顔の前で両手をぎゅっと握ると神経を集中した
しばらく「うーん」と困惑していたが
「えいっ」
と声を掛けると、クリスの目の前にぼん!と煙が上がった
そこにはもう一人のクリスが現れていた
クリスはまじまじと自分に模した使い魔を見ると
「少し色が薄いわね」
と残念そうに呟いた
薄いというか透けているので、向こう側が見えている
手紙のやり取りで鳥の使い魔は創れるが、自分に模した使い魔を創ったのは初めてだった
今からやろうとしている事もそうだが、これはクリスにとって初挑戦だ
挑戦のひとつめである自分に模した使い魔はイマイチだった
「やっぱりベスみたいに上手く出来ないわね」
エリザベスの使い魔・ローズマリーは完璧だ
使い魔と知らなければ、部通の魔獣だと思える程の出来栄えなのだ
ローズマリーに比べると、今クリスが創った使い魔は何とも危なげだ
だが時間がない
クリスは次の行動に出た
自分の部屋のドアをそーっと開けて、廊下に誰もいないか確認した
幸い誰もいない
クリスは部屋を出ると2階の食堂へ向かった
もしかしたら使用人と鉢合わせするかもしれないが、今は皆慌ただしく動いている時なので何とか言い逃れも出来るだろう
クリスに模した使い魔もクリスに付いて来ている
やっぱり見つかったら何か聞かれちゃうか
だが時間もないので、なるようになれ!の気持ちでクリスは食堂へと向かった
タイミングが良かったのか、食堂に着くまで誰とも会わなかった
クリスは食堂に着くとドアをそーっと開けた
中は真っ暗だ
良かった、誰もいないわ
クリスは食堂に入ると魔法で明かりを点けた
ドロレスとニコルが滞在している部屋は、この食堂の上あたりだ
今から結界を張るので、なるべくドロレス達の近くで張りたかったのだ
さらに食堂ならば食料や水も近くにあるので、それも利点だった
クリスは結界を張った事がなかったので「うーん」と悩んでしまった
「シールドみたいな感じかしら?」
使い魔を見ながらクリスが呟くと
「違うと思うぞ」
と背後から声がした
クリスはびっくりして、思わずぴょんと飛び上がってしまった
どきどきと激しく鼓動する心臓を押さえながら振り向くと、食堂の入口にヴァレンタインが立っている
「ヴァル」
クリスはほっとしたが、冷や汗も出た
ヴァレンタインはつかつかとクリスに近づくと
「何をしようとしてたんだ?」
と聞いてきた
クリスはとぼけた顔で天井をみつめながら
「べ、別に~」
と答えたが、ヴァレンタインはクリスの横を通りすぎ使い魔の方へと行ってしまった
「あっ!ヴァル!!」
クリスが手を延ばすがヴァレンタインには届かず、ヴァレンタインはクリスに模した使い魔をまじまじと見た
「姿かたちはちゃんとしてるが、透けてるぞ」
「だって初めて創ったんだもん」
クリスはヴァレンタインのダメ出しに口を尖らせた
「で?この使い魔を使って何をするつもりだったんだ?」
「えっと、それは…」
クリスが焦っていると、ヴァレンタインはにやりと笑った
「まあ、だいたいわかるけどな
あの人間を助けたいのか?」
やっぱりお見通しだったか~
クリスは苦笑いをした
「放っておけなくて…」
「うーん」
ヴァレンタインは顎に手を当てて考えた
「どうするつもりだったんだ?」
「結界を張ろうと思ってたの
そうすればあの二人は救助を要請して、救助されるまでここに隠れていればいいから」
「ふーん」
クリスの説明を聞き、ヴァレンタインはもう一度使い魔のクリスを見た
「この使い魔を人柱にして結界を張り、こいつに維持させるんだ」
「使い魔に維持させるの?」
「そうだ
クリスはジュリアを浄化する時に魔力を込めた石を四方に置いてジュリアを閉じ込めただろ?
あの要領で、今度はこの使い魔を中心に円状に結界を創るんだ」
「あ、なるほど!」
クリスはヴァレンタインの案に関心したが、言うほど簡単な事ではない事も理解していた
マリア グアダルーペの魔力を受けついだとはいえ、やった事もない魔法はすぐに出来るものではないのだ
だがやらなければ…とクリスは「ふんっ!」と握りこぶしを作るのだった
ご精読、ありがとうございます
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