104話 破綻
初冬を迎え肌寒い日が続いていたが今日は日差しもありとても暖かいので、クリスとヴァレンタインは屋敷の裏側へ散歩も兼ねて向かっていた
屋敷の裏側は手つかずの林だったが、今はすっかり姿を変えた
林はなくなり、その代わり新たな屋敷を建てている
「春にはここに住めるな」
「わざわざ屋敷を建ててくれるなんて…」
クリスは恐縮した
今、建設中のこの屋敷はヴァレンタインとクリスの新居となる
屋敷を建てているのはドワーフ達だ
親方らしいドワーフがヴァレンタイン達に気が付くと側へ寄ってきた
「ヴァレンタインのぼっちゃん」
「ぼっちゃんはよせ」
「屋敷は順調だよ
とても住心地の良い屋敷を建ててやるからな」
「それはいいが、ぼっちゃんはヤメロ」
ヴァレンタインの抗議を受け付けないドワーフの親方はクリスの方を見た
「嬢ちゃんも屋敷だけじゃなく、家具なんかも好きなデザインで作ってやるぞ」
「ありがとう、リアム老」
リアムと呼ばれたドワーフは「ふふん」と鼻をこすった
「この屋敷と私達が暮らしている屋敷もリフォームして大変でしょ?」
「なぁに、儂らドワーフは物を作る事が好きなんだ
皆、楽しんで作っているよ」
「良かった」
クリスの微笑みに若いドワーフ達が見とれて、手が止まってしまった
「後で何かつまめる物を届けるから、休憩の時に食べてね」
「そりゃ有り難い」
リアムは汗を拭いながら喜んだ
「親方〜ちょっと!」
建設中の屋敷からドワーフがリアムを呼んだ
「親方じゃない!リアム老と呼ばんか!!」
「あ〜わかったよ、親方!
ところでこれなんだけど…」
「だから親方とよぶなと…」
リアムは怒鳴りながら呼んだドワーフに向かって行った
そんなリアムの後ろ姿を見ていたヴァレンタインは
「どいつもこいつも…」
と呟いてしまった
♪♫♬ ♬♫♪
クリスとヴァレンタインは建設中の屋敷から移動し、庭園にある小さな湖に向かった
湖の側には小さな東屋があるので、そこを目指した
すると東屋の方から屋敷の方へ向って歩いて来る身なりのチキンとした初老の男性がヴァレンタイン達に気が付いた
「ヴァレンタイン様、クリスティーナ様」
「どうした、スコット?」
初老の男性はレジナルドの城で執事をしていたスコットだ
「東屋にお茶の準備を致しましたので、お呼びに向う所でした」
「気が利くな」
スコットはレジナルドが城を離れると決めた時、自分はずっと執事をしていたのでエリザベスの屋敷でも執事をさせてくれと申し出たのだ
思えばあの時もスコットから始まったな、とクリスは思い出してしまった
レジナルドの城ではヴァレンタインと共に南棟の4階が2人の滞在中のフロアだった
その日、クリスは寝る前の温かいお茶を飲み終え、今まさにベットに入ったところだった
コンコンコンとドアがノックされ、クリスと側仕えの侍女は顔を見合わせた
「クリスティーナ様、お休みのところ申し訳ございません」
ドアの向こうからスコットの声がした
侍女はドアを開けると、スコットと話しをしてクリスのもとへ戻って来た
「お嬢様、旦那様がお呼びだそうです」
「レジナルド様が?」
こんな時間にレジナルドから呼ばれるとは…
何かあったのかしら?
クリスは不安になりながら、ベットから降りた
側仕えの侍女はすぐにガウンを持って来ると、クリスの肩に掛けた
クリスはガウンの袖に腕を通しながらドアへと向かった
侍女がドアを開けると、そこにはスコットが立っていた
「申し訳ございません、クリスティーナ様」
「いえ
何かあったの?」
「旦那様からご説明があります
どうぞ、ご案内致します」
スコットはそう言うと数歩、後に下がったのでクリスが部屋から出ると、開けていない方のドアにヴァレンタインもいた
「ヴァル」
「何だろうな?
とにかく行こう」
ヴァレンタインはクリスに手を差し出したので、クリスはそっとヴァレンタインの手に自分の手を乗せた
スコットが歩き始め、その後ろをヴァレンタインとクリスがついて行き、更にヴァレンタインとクリスの側仕えの2人も付いて来た
案内されたのは東棟の3階にあるレジナルドの執務室だった
スコットはドアをノックすると
「お連れ致しました」
と声を掛け、ドアを開けた
執務室に入ると広い部屋の窓際に大きな机があり、レジナルドは椅子に座ってその机に両肘をついていた
その机の前にはエリザベスが立っていて、こちらを振り返っている
「遅くにすまないね、ヴァル、クリス」
「どうしたんだ?何かあったのか?」
クリスをエスコートしたままヴァレンタインはレジナルドがいる机に向かいながら聞いた
エリザベスはヴァレンタインがレジナルドの正面に居られるようにすっと左側に移動し場所を空けた
ヴァレンタインがレジナルドの正面まで来ると、レジナルドは無言で机の上にある紙をすっとヴァレンタインの前に差し出した
ヴァレンタインはその紙を受け取り目を通した
クリスも隣からその紙を見た
契約書だ
契約書には魔獣が人間に危害を加えないようレジナルドが魔獣を統率する
国王はレジナルドに干渉しない
と書かれていた
契約書の下の方には国王とレジナルドのサインがあり、黒ずんでいるが恐らく血であろう
押印してあった
その契約書には透かしのような魔法陣が描かれているが、その魔法陣は斜めから真っ二つに割れていた
ヴァレンタインが契約書に目を通すと、驚きの顔になった
「レジ、これは…!」
「見ての通り契約の書だ」
「だけどこの契約の書は…」
ヴァレンタインはそう言いながら紙を指さした
「そう、破綻した」
クリスは魔法で作った契約の書を初めて見た
魔法陣が割れていなければ、その契約の書は有効だったのだろう
「どうするんだ?」
珍しくヴァレンタインが真面目に聞いた
レジナルドは椅子の背もたれに身体を預けると
「どうもこうも…この契約が無効になったんだ
私はこの地を去るよ」
と笑顔で答えた
「えっ!」
驚いたのはクリスだけだった
「私はこの契約によりずっとこの地で魔獣達を統率してきた
たまに首都やこの前のようにハーブの所へ行く事は出来たが、基本的にはここから離れられなかったんだ
だが人間がこの契約を反故したのだ
私がこの地に留まる理由はもうないよ」
レジナルドは全てから開放され、清々しい気分だった
ご精読、ありがとうございます
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次話もよろしくお願いします!
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