100話 進言
ユニコーン達は膝あたりまで湖の中に入っていたり、湖畔でお互いを毛づくろいしあったり、水を飲んでいたりと様々だ
そんな群れの中から少し離れた森の中に数頭の塊がいる
クリス達はユニコーンのリーダーに案内されその塊に近づいて行くと、身体を寄せ合っていた4頭のユニコーンが少しバラけた
塊の中心にいたのだろう
そこには小さなユニコーンがいるではないか
「きゃっ、可愛い」
クリスは仔馬を驚かせないように手で口元を隠して呟いた
大人のユニコーンの足くらいの身長で、じっと立っている
ユニコーン特有の角はまだないが、額に小さなコブのようなものがあるので、そこから角が伸びるのたろう
「もう少し近くで見てもいいですか?」
クリスがリーダーのユニコーンに聞くと、リーダーのユニコーンは首をクリスの方へと向けた
「ああ、構わないよ
ただまだ触れないでくれよ
足腰がしっかりしていないし、何に驚くかもわからないから」
「はい」
クリスはそーっと小さなユニコーンに近づいた
あどけない瞳が愛らしい
「可愛い」
クリスはしゃがんで、じっくり観察した
母親らしきユニコーンが横に立ち、仔馬の鬣をがしがし噛んでいる
噛まれる度に仔馬はよろめいたが、何とか耐えていた
クリスはふと仔馬の奥に広がる森に何か気配を感じた
「ペガサスだ」
ヴァレンタインがしゃがみ込んでいるクリスの背後に立ち教えてくれた
随分離れた所からこちらの様子をうがってかいる
鬱蒼とした森の中に真っ白なペガサスが浮きたって見えた
身体が大きいのだろう
2,3頭は見えたが、もしかしたらその奥にまだいるのかもしれない
大きな羽は今はたたまれているが、ハッキリと背中に羽が見えた
クリスはすっと立ち上がり、ヴァレンタインの腕にしがみついた
何とも言えない神々しさに圧倒されてしまったのだ
ペガサス達はしばらくクリス達を観察すると、森の奥へと消えて行った
「奴らは警戒心が強いんだ」
リーダーのユニコーンが教えてくれた
「何だか圧倒されちゃったわ」
「警戒心が強いから姿を見せるのはかなり稀だよ」
レジナルドもクリスの側まで来て、さっきまでペガサスがいた辺りを見つめた
「ユニコーンだって珍しいのにペガサスまで見れるなんて…」
クリスはまだペガサスに圧倒されているのか、ヴァレンタインから離れない
「ここは土地も広大だから、魔獣の種類も多い
ルガード国やベイル国にはいない魔獣がかなりいるだろうね」
「そんな魔獣達を統率なさっている旦那様はすばらしです」
再びベネットの主自慢が炸裂したのだった
♪♫♬ ♬♫♪
クラーク国の首都にある王宮では国王に謁見を求めて、国王が現れるのを待っている中年の貴族がいた
しばらくすると国王が謁見の間に現れ、謁見を求めた貴族が深々と頭を下げた
数段、高い場所にある玉座に国王が座ると、国王の横にいる宰相が口をひらいた
「シンプソン伯爵、面を上げなさい」
「はっ」
シンプソン伯爵の目の前にいる国王は随分若い
まだ30代といったところか
先代の国王が亡くなり皇太子が即位するはずだったが、巧妙な罠で皇太子を陥れると第四王子のこの男が国王として君臨したのだ
「シンプソン伯爵、そなたの娘からの手紙を読ませてもらった」
「はい」
「ドロレスはレジナルドに手こずっているようだな」
「はっ、申し訳ございません」
ドロレスの父であるシンプソン伯爵は慌てて頭を下げた
「私からレジナルドにドロレスとの婚姻の儀を執り行うよう命じよう」
「陛下…!ありがとうございます」
「あと、そのレジナルドが夢中だという女はこの城で軟禁すればよい
レジナルドの手綱を取るために利用するにはちょうど良い」
「はい」
「私からレジナルドに下命しよう
そなたはドロレスにその旨を伝えておくように」
「はい、仰せのままに」
シンプソン伯爵は再び深々と頭を下げた
シンプソン伯爵が謁見の間から退出すると、宰相は顔を歪めた
古来よりレジナルドはこの大国の魔獣達を統率してきた
レジナルドとは魔獣を統率する代わりに干渉しないという約定を結んでいる
現国王はレジナルドを完璧に支配したいのだ
自分が策略をねり皇太子を失脚させ、兄達にあらぬ罪を着せ処刑した
自らがそうならないために、危険な種は取り除きたいのだろう
そのような心配はせずともレジナルドは魔獣を統率し人間に干渉はして来ないと一度だけ進言した事があった
だが国王は
「魔獣との約束事など信用出来ん」
と一蹴した
このまま何事もなく、この野心の強い国王の思い通りになれば良いが…
宰相はクラーク国の長い歴史の中、レジナルドとの関係を変えずにずっと上手くやって来たのに、それを反故にする事への不安がたまらなかった
もし反対にレジナルドを怒らせ、それこそ国王が一番恐れている反乱が起きたりしては…
このクラーク国にも軍隊はある
だがそれもレジナルドという素晴らしい将軍がいてこその軍隊だ
レジナルドに代わり指揮を取れる武人がこの国にいるだろうか
ずっと平和な国だったので、そんな果敢な武人などいるはずがなかった
もしかしたら我々は虎の尾を踏んでしまったかもしれない
宰相はもう一度だけ国王に進言しようと心に決めた
この国王は自分に従わない者は簡単に切り捨てる
二度も同じ進言をして、無事で済むとは思えないが、このままではクラーク国が大変な事になるかもしれない
自分の犠牲でこの愚挙を止める事が出来るならば…
「恐れながら、国王陛下」
自分の横にいる宰相が突然畏まり進言を始めたので、国王は顔をしかめた
「レジナルド将軍は大昔よりこの国の平安に尽力を尽くしております
陛下がご心配するような事は決して起きません
今ならばまだ間に合います
どうかレジナルド将軍にいらぬ干渉をお止め下さい」
頭を深々と下げている宰相に国王は冷たい視線を送った
やかて玉座からゆっくり立ち上がり、宰相へと近づいてきた
宰相は頭を下げたまま、ぎゅっと目を瞑った
先程までシンプソン伯爵がいた辺りには、玉座のある場所から階段をつたい真っ赤な血が流れ落ちていた
ご精読、ありがとうございます
m(_ _)m
次話もよろしくお願いします!
。◕‿◕。




