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22 転生者

「シンシア・ラザルス。お前、転生者だろ!」


 全寮生の模範となるべきはずなのに、やってはいけないことを絶対してるマンであるスティーブ・レグナンは、意気揚々として言った。


 絶対に転生者だろうと睨んでいた私が、放課後に彼が大体居るらしいという天文部の部室へと訪ねてやって来たら、とても話が早い展開になってしまった。


 うん。そうだろうと思ってた。やっぱり、私の居た世界からの転生者だった。


 ページ数や時間の関係でエピソードを端折らざるを得ないコミカライズやアニメならいざ知らず、十巻にも渡る小説にも名前が出てこないキャラクターがヒロインのアドラシアンにまとわりついてるなんて、絶対におかしいもん。


「あ。はい。そうですけど。とりあえず、私の手紙を返して貰って良いですか? 私宛のディミトリ・リズウィンの手紙も、同様に返して下さい」


 冷静に手を差し出した私に、スティーブは嫌な表情をした。


「うわー……転生しているから、作中のシンシアとキャラクターが全然違うとは思ってたけど……お前、最高に真逆で違和感しかないわ」


 スティーブは嫌な表情をして言ったので、私はすごく不思議だった。何言ってるんだろう、この人。


「何言ってるの……? シンシア・ラザルス……っていうか、私は一巻序盤にしか出てこないでしょう? しかも、名前だけ出てくるお葬式で」


 私がそう言うと、彼も不思議そうな顔をした。二人同じように「何言ってんの、こいつ」みたいな顔で、見つめ合っている。


「……あ。もしかして、あんた。前世で、外伝が出る前に死んだ?」


 今とてもセンシティブなことを聞かれたような気がするけど、彼もそういえば転生しているはずなので、同じ立場なのだから仕方ないのかもしれない。


「……そうよ。確かラスボスのディミトリ中心に、本編が補完されると言う外伝でしょう? 私はディミトリが最愛の推しで、絶対に読みたかったんだけど……」


 思わず言葉を止めてしまったのは、スティーブがにやにやとした嫌な笑いを顔に浮かべたからだ。


 良くわからない気持ち悪さ。何……? この人だって、アドラシアンのことが好きだから、この世界に転生していたんだよね?


「だからあんなにも、人目もはばからずディミトリ・リズウィンとイチャついてるって訳ねー。なるほどねー……」


 顎に手を当ててうんうんと自分だけ納得するような彼に、私は正直カチンと来た。


「……ちょっと。良くわからないことを、言わないでよ。言いたいことがあるなら、さっさと言って。あ。私の手紙も返して」


 重ねて盗んだ手紙を返して欲しいと言っても、スティーブはふんと馬鹿にしたように鼻で笑って肩をすくめた。


「何も、知らないんだ。ヒューバート博士とも、仲が良いから……俺は彼ら二人を幸せにするために、不幸の元凶シンシア・ラザルスが頑張っているのかと思ったけど」


「ヒューバート……博士? もしかして、友人のヒューのこと? え……待って。何言ってるの?」


 スティーブ・レグナンの発する言葉の訳のわからなさは加速して、なんなら不気味なくらいに気持ち悪くなって来た。


「ああ。知らないのか。悲劇のラスボスディミトリ・リズウィンを戻れないところまで闇落ちさせた研究者は、あんたの友人のヒューバート・ルケアだよ」


「え?」


 きっとそうだろうと確信が合ったし、スティーブ・レグナンが転生者だとしても焦ることなく余裕を持って話していた私は、そこで動きを止めてしまった。


 え。待って。今、なんて言ったの?


「ヒューバート博士は、若くして亡くなってしまった友人シンシア・ラザルスを生き返らせるために、全知全能の力を持つという世界樹の力を利用しようとしていた……そのために、何もかも失って絶望していたディミトリ・リズウィンを使ったんだ。ダークエルフでも、エルフの血を引いているのなら、世界樹の力が引き出せる」


「嘘でしょう……」


 確かに小説本編では、ラスボスのディミトリ・リズウィンを倒した主役二人は、失ったものへの痛みを負いながらも幸せになりました……だったけど……え。待って。


 もしかして、私のお葬式って……あの壮大な小説を補完する外伝への、伏線だったってこと?


「嘘じゃない嘘じゃない。けどさあ、あんたも不思議に思わなかったか? あのシーン。単なるモブの葬式なら、名前も出さずに終われた。けど、シンシア・ラザルスの名前は、あんたも俺も覚えている……そう言うことだよ」


「……作者の遊び心ってこと? 外伝にはどんな話が書かれていたの?」


 出来たら、目の前の「いかにも悪事を企んでますよ」みたいな顔をした奴に聞きたくない。けど、私はそれを読む前に転生することになった。


 前世を知る貴重な情報源は、スティーブだけなのだ。多少の気持ち悪さは、もう耐えるしかない。


「外伝に関しては、本編とは違うIFストーリーでさ。植物系の呪いで死んだシンシア・ラザルスは世界樹の力で生き返り、ヒューバートは改心し、ディミトリも救われる。確かに本編だとただただ可哀想な悪役ディミトリの最期が後味悪すぎたし、俺もあいつが救われることになって嬉しかったわ」


「……ちょっと、待ってよ。だったら!」


 なんで、私たち二人に構うのかと続けようとした私の言葉を制するためか、私に近づき彼は口元あたりに手をかざした。


 なんなの。距離近いんですけど……私が後ろに下がれば、なぜか彼も付いて来た。


「けど、俺さー……公式カップル固定厨なんだよねー。本編の主役のアドラシアンとエルヴィンがくっつかないと、気持ち悪いじゃん? 思わない?」


「思わない! 大体、わがままアドラシアンにシュレジエン先輩はもったいないよ! 私、アドラシアンは嫌いだけど、シュレジエン先輩は実際に会って見直した。好きな女の子に、優しくて甘過ぎるのは彼のせいじゃない」


「ははは。実物のエルヴィンを見て、イケメン過ぎて惚れただけじゃない? アドラシアン可愛いじゃん。あのくらい、甘えてくれる方が良いよ。可愛いのは、アドラシアンのせいでもないし。可愛い同性への嫉妬で、彼女への見方を歪ませるなよ」


 ドスの効いた低い声で私を壁際まで追い詰めた彼は、目が怖い。どうしよう。私。もしかして、言葉の通り藪蛇だった?


「ちょっと……近いんだけど。私に何するつもり?」


 息が掛かるくらいにまで顔を寄せられて、思わず顔を背けた。気持ち悪い気持ち悪い。何するつもりなの。


「あのさ。あんたも知っているだろう。可哀想なディミトリ・リズウィンが授業料を盗んだと冤罪掛けられて、ハメられる話。あいつはあれで、世界樹の力を利用しようと決めるんだ」


「……まさか」


 私はスティーブが言わんとしていることを察して、目を見開いた。


 いけない。ディミトリを襲う不幸の総仕上げとして、ドミニオリアの大学への進学の希望を捨てきれない描写があった彼は授業料を盗んだという冤罪を掛けられて、放校されてしまう。それでもう彼は、何の希望も捨ててしまうんだ。


 そうだよ。心臓の不調という命の危険が去って、彼と両思いになれて完全に浮かれていて思いもしなかった。


 もし、小説通りの展開になると、ディミトリはドミニオリアに居られなくなってしまう。


 慌てて私の体を囲うようにあったスティーブの腕から逃れようと、体を動かした。


「おっと……シンシア・ラザルス君は行かせない。外伝のIFストーリーでは、植物系の呪いってことで生き返っていたけど、普通に死んだらどうなるんだろうなあ……」


「離して!! 離してよ!! 信じられない。私を殺すつもりなの?」


 どうやらスティーブは、私を彼の手で始末して物語を進めてしまうつもりらしい。信じられない、何考えてるの!


「今更何言ってんだ。どうせ死ぬはずだったんだから、同じことじゃないか?」


「全然違うわよ! さいってい!! もう、早くどこかに行って!」


 私は出来るだけ憎しみを込めて睨みつけたけど、彼は余裕のある笑みで微笑んだ。


 待って。私が何の救いもない方法で、死んでしまったら……ディミトリはどうなるの。そうよ。ヒューは……私のことをただ一人の友人と言ってくれたヒューも、闇に堕ちてしまうの?


 どうしよう!


「シンシア・ラザルス。ここまで上手く行ってたと思うけど、詰めが甘かったな……アドラシアンとエルヴィンという、この世界で一番に神聖な二人に殉じてくれ」


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