14 意味
「……あ」
目を開けた私が見上げていたのは、心配そうにこちらを見ているヒューの顔だった。
「シンシア。リズウィンから……聞いたよ。彼の中に入って、危機を先んじて助けていたんだって?」
ヒューはいつもの淡々とした口調で、そう言った。もう彼は既にディミトリから全部、聞いた後みたいだった。
「……ヒュー。どこまで聞いたの?」
「多分、シンシアが思っていることは全部聞いてるよ。良く当たる占いねえ……あの男は周囲からの情報源などないに等しいという事情も良くわかるが、同情してしまう程に世間知らずだし。それを利用する君も、どうかとは思う」
私がディミトリが人と関わりがないための情弱っぷりを利用したことに、ヒューは眉を寄せて深い不快感を示した。
「あの……ごめんなさい。これには、ちゃんとした理由があって……」
「どんな理由……?」
間をおかずに尋ねられて、私はどう言って良いものか悩んだ。けど、ヒューは私をもう逃してくれる気はなさそうだ。
「私……心臓が悪いんだけど、死に近いせいかディミトリの危機がわかるようになったの。それに、ヒューも見ていたように走ったりして発作を起こすと、彼の中に入っていて、二回彼を助けることが出来たわ」
かなり無理でしかない言い訳だけど、ヒューだって普通ではありえない不可解なことが続いてることは理解しているはずだ。だから、これで納得して貰うしかない。
ヒューは眉を寄せて、考え込んでいる様子だ。次に何を言われるのか、私は緊張して固唾を飲んだ。
「その、不可解な危機察知とリズウィンと同化する件は置いて置いて……なんで、心臓が悪いなら治療しないんだ。普通に学校に来ている場合じゃないだろう。もし、体の不調の原因がわかっているなら、早急に対処すべきだと思う」
頭もよく効率的に物を考えられる彼らしい意見だと思う。けど、私は首を横に振った。この小説の中のシンシア・ラザルスは、もうすぐ死んでしまう予定だ。
「私の心臓の痛みは、原因不明なの……医者に罹っても異常はないと言われるだけで、お父様もお母様も手を尽くしてくれた。けど、原因はわからないままなの。だから、もし……死んでしまうのなら、残る人生を明るく楽しく生きたいの。近くに居るヒューにも変に、このことで私に気を使ったりして欲しくない」
思わぬことを告白されたせいか、ヒューは悲しそうに顔を歪ませた。
「シンシア。なんてことだ。けど、どうか治療を諦めないでくれ。出来れば、君の体に負担がかかるリズウィンとの同化も止めて欲しい……お願いだ」
悲しそうなヒューの表情を見れば、心が痛い。彼だって、友人は私一人しか居ないのに。
「……良いの。ヒュー。私の病気はもう仕方ないし、生きている間はずっと楽しく幸せでいたい!」
「シンシア……そんな事言わないでくれ。嫌だよ」
あまり感情を見せないヒューは、私の前で初めて涙を見せた。
「ヒュー。泣かないで……ディミトリを助けることが出来て……無駄死にならないのが、救い。私の人生にも、意味があったと思えるもの」