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12 職員室

「……それで、ちょうど良く午後は自習だったから、僕と街で買い物する事になったの?」


「うん!」


 ヒューは私が街に買い物に行きたいと言ったら、急ぎの用事さえなければ、こうして付き合ってくれる。とても良い感じの友人なのだ。


「リズウィンなら、筆記用具とかが喜ぶんじゃない。あいつは勉強家で良く職員室に来てわからない問題なんかを、教師に質問しているから」


「えっ……そうなんだ。ディミトリ、真面目なところも素敵……優しいし、真面目だし……もう、美点の供給過多で心が壊れそう」


「恋は盲目と良く言ったものだけど……あのリズウィンと付き合うことで、自分に不利益があることは認識しているよね?」


「や、何言ってんの。ヒュー!」


 私はとんでもないことを当たり前のように話し出したヒューに驚いて、立ち止まった。隣を歩いていた彼も、きょとんとした顔で立ち止まり私を見ている。


「何? リズウィンの傍に居る事については、これまでに何回も警告しているけど……もしかして、僕の話をまったく聞いてなかったの?」


「違うの違うの。ヒュー。私がディミトリと付き合うなんて、そんなのある訳ないじゃない!」


「……え?」


 ヒューはわかりやすく「何言ってるんだ。こいつ」みたいな顔をしている。


 ファンが自推しを愛するという概念は、前世でもそれほど周知されているものでもなかったので、私がディミトリに対しこう思っていることは、頭の良い彼にも想像出来なかったに違いない。


「ディミトリには、いつも幸せで何不自由なく暮らして欲しいけど……それは別に私が彼の恋人になりたいって訳でもないの。だから、私。彼の恋愛対象になりたいなんて、全然思わない。見返りなんて、求めてないの」


 ディミトリと付き合うなんて有り得ないと、きっぱりと言い切った私に、ヒューはますます訳がわからないという顔になった。


「……ふーん。シンシアはリズウィンを恋愛対象ではなく、神のような信仰の対象としているということ?」


「それも、少し違うかも……素晴らしい人だと思うけど。万能な存在だと、神格化している訳ではないわ。彼だって人間だし、間違うこともあると思うもの。けど、もしお金が困っていると言うなら助けてあげたい。そう言う意味では、お金を払うお布施として抵抗はないかな」


「貢ぐのには、抵抗はないのか。けど、もし彼に恋人が出来たら? リズウィンが優秀な学生であることは間違いないし、あれだけの容姿持っているから、シンシアのような物好きな女の子がまた現れるかもしれない。そうしたら、君はどうするつもりなの?」


「え! 応援する! だって、ディミトリには、ずっと幸せでいて欲しいから」


 再び足を動かして歩き出した私に、ヒューはなんとも言えない表情になっていた。


「……そうなんだ、まあ、僕はそういう無償の愛について理解は出来ないけど、止めないよ。人は自分の思想について、常に自由であるべきだ。でなければ、自分ではない誰かの奴隷としての生を終える事になると思う」


「もう。ヒューって……いっつも、そんな小難しい事考えてるの? 頭疲れない?」


 頭の良いヒューはついつい色々考え過ぎて、こういう話をしてしまうから自分は周囲から嫌われるって言ってた。


 前世を生きていた私は多様性についてはこの世界の人よりおおらかだし、だからこそ彼と話が合うのかもしれない。


「別に……疲れないよ。自分では当たり前のことだし。それより、シンシア。リズウィンに何を買うのか、まだ思いつかないの?」


「うーん……どうしよっかなー? あ。そういえば、ディミトリが良く職員室に通ってるって、さっき言ってたでしょ? ヒューも、職員室に質問に行ってるの?」


 私なんて職員室は呼び出されて怒られる時と日直の時しか近づかないのに、皆偉すぎる。どっちが若い学生としてのスタンダードなのかわからないけど、偉すぎる。


「いや? エドケリ先生とか……サマンサ先生とか。今年入ったばかりの新人の先生に、たまに質問されることがあるんだ。担当の、授業の感想とか」


「へーっ!! すごいすごい。先生からそんな立場に任命されてるなんて、ヒューって、本当に頭が良いんだね。すごい」


「……うーん。学問を人より早く理解出来ることを頭が良いとシンシアが思うなら、僕はそうなのかもしれない。けど、僕はシンシアみたいになりたかったよ。明るくて、友達も多いし、悩みだって引き摺らない。同い年に馴染めない僕や生まれた種族で迫害されているリズウィンにも、臆することなく声を掛ける。シンシアは自分の凄さを、わかっていないと思う」


「えへへ。そんなに褒められると、照れちゃう。ヒューにも、何か買ってあげようか? あ。この前に、体操服も借りてたお礼もあるし!」


「良いよ。そんなの」


「もう。何々。遠慮しないでよー!」


「別にしてないって……そう言えば、この前にシンシアはエドケリ先生のことを気にしていたよね?」


「え? う、うん」


 そうだ。ディミトリを次に襲う悲劇には、エドケリ先生が深く関わっている。


 いくらディミトリがダークエルフの血を引いていようが、罪をなすりつけるのしたら、それなりの力が必要な訳で。


「あの人。うちの学年の担当なんだけど、今日は最上級学年の魔法薬の授業を任されたらしくて動揺してたよ。大丈夫かな。担当が急遽の休みで自習にしても良いんだけど、最上級生は卒業試験も近いから……あの人が担当する事になったんだ」


 新任のエドケリ先生は、学長の甥。慣れない授業。え。これって……嫌な予感しか、しない。


「嘘っ……それって、いつのことなの? ヒュー」


「? 今日午後からって、聞いたけど……え。シンシア! どうしたの?!」


 私はヒューが話終わるのを待たずに、ドミニオリアの高等学校の校舎への今来た道を走り始めた。


 どんくさい私にしては、割とスピードを出して走れたと思う。


 早く早く。足。早く動いてよ。ディミトリに、克服出来ないトラウマがまたひとつ増えてしまう!


 走ったことで心臓に強い負担がかかったのか胸がぎゅうっと痛み出した私は、走りながら慌てて胸を押さえた。


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