第二話 トビーの行方(追放側視点)
勇者ビル一行は魔王を倒した事にしライアット王国へと戻り国王へと報告をしていた。
「おお、遂に魔王を倒したか!」
「はい、長く厳しい戦いでしたがようやく世界を平和に出来ました。」
(ま、魔王も魔物も城に居なかったんだがな。 これで世界各国に俺の黄金像を立ててもらい崇め奉られる夢が叶う!)
(やっと私の立派な道場を建築してもらえるわ!)
(これでアタシだけの魔法研究所を造れるなんてワクワクするわね!)
ライアット王国の姫【セレス・ライアット】はキョロキョロと勇者パーティーを見回すが一人欠けている事に違和感を感じたのか明らかにムスッとした表情になる。
「あの、お父様。」
「む、どうしたセレス?」
「トビー様がいらっしゃらない様ですが?」
「確かに居らんの、勇者ビルよトビーはどうした?」
「トビー……ですか?」
(なんでアイツの名前が出てくるんだ?)
「ワタクシは最初に貴方達にトビーを連れて行く様に言いましたよね?」
(ま、マズイ! セレス姫様が怒ってる、クソ……魔王討伐後にあわよくば結婚しようと思ってたのに何故俺に惚れない!! そうだ、トビーを死んだ事にすれば良い! そうすりゃ姫様だって諦めがつくだろ。)
「トビーは……魔王との戦いで…………」
「戦いでなんです?」
(ちょっと! ビルあんた何言おうとしてんの!?)
(まさかトビーを死んだ事にする気じゃないでしょうね!? もし生きてる事がバレたらアタシ達国を騙した事になるし下手したら報酬どころか打首物よ!?)
ビルは悲しげな表情を創り上げ涙ながらに騙るがセレス姫はゴミを見る目で勇者一行を見下ろしている。
「ふむ、残念じゃな……トビーが居らぬのなら報酬を渡せぬの。」
「「「へ?」」」
「聴こえなかったのですか? トビー様が居ないのなら報酬は渡せないと言っているのです。 どうせ浅はかな考えでトビー様が魔王との戦いで戦死したとでも宣うつもりだったのでしょうがそうはいきませんよ?」
「勇者ビルよ、お主……嘘を吐こうとしておったのか? ワシの娘に?」
「お、お待ちください! まだ何も言ってないです、死んでないです!! 一時的に別れただけです!!」
(そうだった、この国王親バカだった! セレス姫様の言う事を全て鵜呑みにするくらいには娘を溺愛してんだった!!)
「別れた!? 別れたですって!! トビー様を何処に行かせたのですか!」
「え、それは俺にも分からないです。」
「でしょうね、あの方は何時も思い付きで行動しますものトビー様何処へ……」
「あの、私達の報酬は?」
「決まっているでしょう! 報酬が欲しいならトビー様を連れて来なさい!!」
「うむ、そうじゃなそなたらの報酬はトビーを連れ戻してからじゃな。」
「「「そ、そんな!!」」」
勇者一行は城からトボトボとさた足取りで出ると三人で酒場へ趣き酒を呷りながらトビーが行きそうな場所を話し合う。
「ぷはー、なあトビーが行きそうな場所分かるか?」
「さあね、私には見当もつかないわ。」
「そうだ、アタシのサーチ魔法で何処に居るか調べてみるわ!」
「そうか! ベリルの魔術なら範囲百メートルは誰が何処に居るのか分かるしな!!」
「サーチ!」
ベリルはサーチの呪文を唱えると白目を剥きトビーを探すが既にライアット王国から出ている為に見つからなかった。
「どうだ?」
「近くに居そう?」
「駄目ね、見つからなかったわ。 下手をしたらライアット王国から出ている可能性が高いわ。」
「やっぱりか。」
「どうするのよ、このままだと私の道場が立ててもらえないじゃない!」
「もう出ているなら速く追い駆けた方が良さそうだな。」
「ストップ!」
「な、なんだよ?」
「居場所も分からないのに無闇矢鱈に行動するべきじゃないわ!」
「確かにそうね、けど情報も無いしどうすれば良いか。」
「トビーの居場所もそうだけど、何か悪意の様な物をサーチ中に感じたわ。」
「悪意? なんだそりゃ、何処かから魔物の残党でも俺達を狙ってるとでも言うのか?」
「いいえ、この感じは魔物とは違うわ。」
ベリルは感じていた、ビルもメリーもその正体には気付いていない様だが明白な悪意をベリルだけは感じていたのだ『ざまぁ』の気配を。
「ま、考えてても仕方ないでしょ旅でもしながらトビーを探しましょ。」
「そうだな、事情を話して報酬さえ貰えればアイツには用はねえしな。」
「ビル、その考えは止めた方が良い! 思い出したわ、この感じは『ざまぁ』と呼ばれる気配よ!!」
「「『ざまぁ?』」」
「『ざまぁ』て言うのはね、今迄戦って倒して来た魔物に手も足も出ずに敗北するだけでなく周囲から悪人として見られ最悪死に至る場合も有るわ。」
ベリルは淡々と『ざまぁ』について語り、その恐ろしさを二人に伝えるが酒も入ってるせいか話半分にしか聴いていない。
「何言ってんのか分からんが、今日は疲れたし宿屋で休むか。」
「そんな馬鹿みたいな事あるわけ無いでしょ、ベリルも相当疲れてるみたいね。」
「…………。」
(駄目ね、二人共『ざまぁ』の恐ろしさを知らないのね。 アタシは別の世界で死んでいるから分かるわ。 本当に恐ろしいのは身体の弱体化、知能の低下、更には有り得ない強さの魔物の存在。)
勇者一行は心身共に疲れており宿屋で休む事にし、ベリルだけは眠れないのか窓から夜空を見上げ、転生前の記憶を思い出していた。
「あれは本当に怖かったわね、あの時も役に立たない仲間を追放してからが地獄だった。 トビーを追放した時から既にアタシは“知能の低下”をしていたのかもしれない。」
ベリルはぐっすり寝ている二人を見ながら『ざまぁ』を回避する為に試行錯誤を頭の中で繰り返す。
(“ヒナプロジェクト”か……多岐に渡る異世界の住民が晒される脅威、せめてこの世界だけでも終わらせないと!)