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#4 幼馴染 〈前編〉


 ソラが学生寮に住み始めて、大体一週間が過ぎようとしていた。

 

 ソラとハジメは、喧嘩するのではないかと、ハラハラしていた優。

 

 しかし、入居初日、ソラは謝罪からはいった。

 

 いくら前世の記憶があると言っても、今のハジメが悪とは限らない。

 

 実際、ハジメは悪意に飲まれていての話で、本人は至って誠実そのものである。

 

 しかし、そう簡単に信じることは出来ないと、ソラは実際に自分の目で見て確かめることにした。

 

 仲が良いとは、言えないが、平穏に毎日は過ぎ去り、今日はいよいよ高校の卒業式。

 

 制服に身を包み、リビングに集まる優とソラ。

 

 「おはようさん。制服は初めて見たな。いよいよ、卒業だな。」

 

 朝食を並べながらハジメは2人に挨拶をする。

 

 「なんだか、あっという間のようで、長かったです。」

 

 濃厚な一年を過ごした優は思いに耽ける。

 

 「アタシは、やっとかぁって感じだけどね。最近は暇すぎて。」

 

 「あら、そうなの?ソラは大学で顔合わせとかはないの?」

 

 「まー何回か?」

 

 「たしか、星とかの専門科目があるんだっけ?」

 

 「そうそう!宇宙科学専攻できんのよ!そこ!」

 

 「昔から、星とか好きだもんね!」

 

 「そういう優は、けっこう意外な大学行ったよな?」

 

 「私あまり、自分の話しないからね。」

 

 「医療福祉、心理に……てんこ盛りの新設校だよな?」

 

 「そう、特別なカリキュラムの認可が降りた学校でね。最初の一年はそれぞれの職業のお仕事をしっかり学ぶの。資格取っても辞める人多い業界だからだとかで。」

 

 「テレビとかに出てる心理とかは行ってみたら違うってよく言うもんなあ。」

 

 「いいねえ、若者の未来に花を咲かせる会話は。」

 

 色とりどりの朝食を食しながら、会話に花を咲かせる2人。

 

 そんな二人を見ながら、微笑むハジメ。

 

 なかなか、管理人が板に着いたきたようだ。

 

 「やば!もうこんな時間じゃん!久しぶりすぎて、遅れそう!」

 

 ふと時計を見ると、もうすぐ出る時間だ。

 

 「ホントだ!ご馳走様です!ハジメさん!」

 

 バタバタと走り回る二人。

 

 「女性は用意多いもんなあ。」

 

 のんびりと椅子に腰掛け、慌てふためく様子を見つめる。

 

 「行ってきます!」

 

 満開の笑みで、優はソラと共に寮を後にする。

 

 「おう、行ってこい。」

 

 今日で最後の高校。優は、以前とは比べ物にならないほど明るくなっていた。

 

 どこかハジメも優しい顔つきをしている。

 

 ソラも何処か晴れやかな顔をしていた。

 

 

 ーーーーーー。

 

 「そいや、いつから『ハジメさん』呼びになってんの?」

 

 「へ!?え、確かに!無意識だった!」

 

 「心配だなあ。ハジメのやつ、顔だけはいいからなあ。優はタイプだろ。ああいう、爽やかイケメン!」

 

 「やめてよ〜そんなんじゃないよ〜」

 

 「じゃあ、ヒロちゃんは?」

 

 「なんでそこにヒロが出てくるのよ〜。」

 

 「えぇ。絶対お似合いなのに。」

 

 「んもう。ヒロ気になってるの、ソラでしょ?私は、ただの幼馴染なの。」

 

 「ちえ。つまんないの。ドロドロの恋愛見たいのに。ヒロちゃん絶対優のこと好きだと思うけどな〜」

 

 「釣り合わないよ。ヒロってば、なんでも出来るんだから。」

 

 「ま、女の子ファンも多いしねえ」

 

 「そうそう。」

 

 通学途中。2人は他愛もない話しを繰り広げていく。

 

 年頃の女の子だからか、話題には尽きない。

 

 「そういえば、最近、私悪意の勉強もしてるんだよ!」

 

 「え、例えば?」

 

 「こないだね、こんなもの拾ってさ。」

 

 言いながら優は、カバンから星が記された札を取り出す。

 

 「それって……」

 

 それは間違いなく、ソラの所有している札であった。

 

 ユリとの戦闘の時にでも、落としたのだろう。

 

 優が拾い、なにか勉強したようだ。

 

 「こういう、御札って魔除とかに効くよね。だから、特殊な力でもあるのかなって。」

 

 「う、うん。あるでしょうね。てかそれ、アタシのだし。」

 

 「あ、そっか!ソラそういうの詳しいんだっけ!え?これ、ソラのなの?」

 

 「前に話したでしょ。ハジメを襲った時に使ったのよ。」

 

 「じゃあ、やっぱり悪意とかには効くんだ?」

 

 「そりゃ、五芒星って言って、歴史も古いし、色んな呪術の対策とかに使われたりしてるものだからね。……陰陽道の基本元素をシンボルとしていて、魔除の力もあるよ。」

 

 「へえ、凄いんだ?」

 

 「その札に霊力を込めて、木、火、土、金、水それぞれに意味を持たせる必要はあるけどね。もしくは、シンボルとなる力を持つもの同士を繋げるとか。」

 

 「なんか、風水みたい。」

 

 「ま、こういうのって、歴史的な背景とか文化とかに基づいてるからね。神社とかも災害が起きてない安全な地帯に立てられることが多いとかなんとか。」

 

 「ソラは物知りだね。あっ、これ返すね。」

 

 優は興味深そうにソラの解説を聞きながら、御札を手渡す。

 

 「はいよ。最近、前世の記憶を取り戻してきてるからなのか、こういうの調べるの好きでね。力を使えるようになったってのもあるけど。」

 

 「まだ完璧じゃないんだ?」

 

 「そうね、まだ、感覚でどうにかしてる。あのユリって人にも勝てなかったし。」

 

 「ユリ……さんね。何者なんだろ?」

 

 「さあ?でも、ものすごく強いよ。」

 

 「今度会ったら、色々な話、聞いてみるよ。なんで私を守ってくれるのか、ハジメさんとはどういう関係なのか……とか。」

 

 「最後のは嫉妬ですかい?」

 

 「ち・が・う!」

 

 ーーーーーー。

 

 なんだかんだ、話しているとあっという間で学校へと到着する二人。

 

 あとは軽くリハーサルをして式を終えるのみだ。

 

 「じゃ、後でね。」

 「うん、バイバイ。」

 

 クラスが違う2人はここで、お別れ。

 

 教室へ入ると浮き足立つ生徒たち。

 

 こういう時は、悪意を向けられる心配はない。

 

 優はほっとしつつ、席に座り、窓を眺める。

 

 「おっ、来たぞぉ!ましろちゃんだ!おら、行けって!」

 

 どうやら、ほっとしたのも束の間。

 

 卒業式恒例のイベントが待っていた。

 

 「やめ、やめろ。押すなってえ。」

 

 卒業式マジックと言うやつだろうか。一生に一度のこのタイミングは誰しもが無敵となる。

 

 思い返して笑い話になるか、恥ずかしくなるか。

 

 周りは楽しむだけのようだが。

 

 押し出され、運動部の男が優に近づいてくる。

 

 運動ばかりしていて、女の子と接点がなかったのだろうか。男臭さが前面に出ている。

 

 丸刈りで、高校生とは思えない老けたおっさん風の顔立ち。鍛え抜かれた肉体に高身長。

 

 一言で言うなればゴリラ顔とでもいえようか。

 

 そんな男子生徒が近づいてくる。

 

 彼は、クラスの人気者で、ムードメーカー。

 

 ゴリラ顔をしているためか、ゴリラのモノマネでみんなを笑わす。何かとポジティブな少年だ。

 

 もちろん、直接的に優との関わりは無い。

 

 優からの印象といえば、落ち込んでいる時、突然始まるゴリラモノマネで授業の中断。

 

 たいてい、女子に絡まれている時に大声で囃し立てる等々。

 

 嫌われていると感じている。

 

 「あの!真城ちゃん!」

 

 「は、はい。」

 

 「オレと付き合ってくれぇぇぇえええ!」

 

 そんな彼からの突然の豪快な告白。浮き足立つ生徒たち。

 

 スマホがこちらに向けられる。

 

 これは、何かのドッキリか?冗談か?とも思える。クスクスと笑いをこらえる生徒たち。

 

 面白がる悪意の数々は聞こえてくるが、当の本人からは、なにも聞こえない。

 

 真剣ということだろうか。

 

 鼻息を荒くしながら、優の返事を待つ男の子。

 

 赤面し、目を瞑っている。まるで神に祈っているかのようだ。

 

 これは真剣に答えるしかないだろう。

 

 嫌われていたと思っていた男子からの告白。

 

 驚きつつも観念した優は口を開く。

 

 「……気持ちは嬉しいけど、ごめんなさい。」

 

 爆笑に包まれる教室。

 

 優は嫌な気持ちでいっぱいだ。

 

 彼は誠心誠意気持ちを伝えてくれているのに。

 

 「だ、だよなあ!はは!わかってる。分かってた!ゴリラとは付き合えんよな!あは、あはは、はは……はぁ。」

 

 あからさまに落ち込み、乾いた笑いをする男の子。

 

 どれだけ本気だったのか伝わってくる。涙が目に浮かんでいる。

 

 マイナスな感情でいっぱいなのか、普段ポジティブな彼からは想像も出来ないような悪意が漏れ出る。

 

 いつもの優なら避けていただろう。だが、今の悪意は優に向けられているものでは無い。

 

 自分がダメだと責めるような、自虐的な悪意だ。

 

 誠心誠意向き合い、良い思い出にしなければならない。

 

 今日でもう会うことは無いのだ。少しぐらい優も頑張らなくては、という気持ちになる。

 

 向き合ってこなかった人間関係に、優はすこし前向きな気持ちを見せる。

 

 「見た目とかじゃないよ……は、話したこと無かったから。」

 

 正直に思いを伝える。

 

 きっと、出会い方が違えば、彼に可能性はあった。

 

 優は人を見た目で判断するような人ではない。そしてこんなに真摯に告白されたことも無いのだ。

 

 「っ!……ありがとう。……嫌な気持ちにして悪かった!……君を好きになって良かった!」

 

 正直な優の気持ちが伝わったのか、男の子は晴れやかな気持ちで、その場を去り、男子たちに慰められ豪快に泣いている。

 

 笑いながらも和気藹々とする生徒たち。

 

 そんな青春の一ページを綴っていく彼らを見て、優もまともな学校生活を送りたかった、そう、少し虚しくなるのであった。

 

 だが、優は気がついていなかった。ムードメーカーな彼が、優を陰ながら助けようとしていたことを。

 

 だが、あまりの不器用なやり方に優が混乱していたのだが。

 

 女子たちに囲まれて揉めている時、大声ではやし立て、ソラが気がつくようにしたり、優が暗い顔をしていると授業中突然、悪ふざけしたり。

 

 すべてが悪いことだらけではなかった。

 

 優から見れば、嫌なことも、多くの人が何かを思い、行動していたかもしれない。

 

 少なくとも、優は彼に嫌われていると思っていたため、少し好意を嬉しく感じる。

 

 男性から向けられる悪意に怯え、嫌悪感を抱いていた優だが、恋というのも経験したいと思うのであった。

 

 そして、改めて見えている悪意だけが、本物ではないと思い知らされるのであった。

 

 「………ありがとう。」

 

 優は勇気ある男子生徒にそっとお礼を添えた。

 ーーーーーーー。

 

 程なくして、無事卒業式を終える。

 

 優の通っている高校は、総合型の学校のため、意外と淡白な卒業式だ。

 

 コースや学科、進学や就職。

 

 人によって道が違うことが多いためか、狭いコミュニティでの、盛り上がりはあるが、一般の卒業式のように泣いたり感動したり、そういったことは無い。

 

 優もそのひとりである。

 

 あっさりと終わった卒業式。

 

 荷物をまとめて帰るところだ。

 

 他クラスであるソラ、ヒロとも合流し、遊びに行くか悩む3人。

 

 「どうする?せっかくだし、記念にどこか行かない?」

 

 「いいね!ご飯とかカラオケとか?」

 

 「ボーリングとかスポーツもありますね」

 

 男性一人に女性二人という組み合わせだが、3人は気にすることなく仲良くしている。

 

 それもそのはず。

 

 優とヒロは幼馴染で、古くからの仲。

 

 ソラは中学からの付き合いだが、何かと孤立することの多い3人は意気投合している。

 

 ソラとヒロは似た者同士で、二人とも容姿端麗、成績優秀、運動神経抜群と、絵に書いたような憧れの的だ。

 

 だが、卓越しすぎてるが故、中々仲良くなれることは少ない。

 

 神格化されたり、人によってはストレスの対象となったり。

 

 優とは違うかもしれないが、人と違う存在は何かと毛嫌いされる傾向にあるのだ。

 

 ソラは見た目が尖ってる反面、人に嫌われやすい傾向にある。

 

 ヒロはどちらかと言うと逆で落ち着いていて、周りをよく見ているせいか、神格化されやすい傾向にある。

 どこか、人に距離を置かれるタイプの人間だ。

 

 どちらにしろ、2人にとって優は普通に接してくれる大切な友達、という訳だ。

 

 優はとりわけ、特別なことをしている訳では無い。

 

 自分がそうであったように、普通に接してもらうことを誰よりも好む。

 

 そのため、優も人には優しく、普通に接することが多い。

 

 正しいと思ったことを素直に行動しているだけなのだ。

 

 そんなこんなで、放課後の予定を立てていると、扉が開かれる。

 

 「まだ帰ってなかったのか?名残惜しいか、卒業は。」

 

 「あ、すみません。もう帰るところです。宮ノ森先生。」

 

 扉を開けたのはカイであった。

 

 だが、いつもと違う様子が見える。

 

 卒業式であったためか、整った格好をしているのもあるが、優はカイの傍らに立つ女性に視線が行く。

 

 「……そちらは?」

 

 「ああ。そっか。真城は会ってなかったな。紹介する。嫁の桃子だ。」

 

 「……はじめまして。宮ノ森桃子です。真城優さんね。お父さんにはお世話になっているよ。」

 

 「……は、はじめまして!」

 

 綺麗な桃色の髪の毛。通った鼻筋。綺麗な女性らしい丸みを帯びた曲線を描きつつも、細長く整ったスタイル。

 

 優は思わず、瞳を奪われる。

 

 ソラも綺麗な女性に入るとは思うが、モモコの場合、仕事のできる美しい女性という表現が適切だろうか。優は見惚れてしまう。

 

 ようやく、モモコの妖艶な様子に慣れてきたのか、優は一つの疑問に辿り着く。

 

 「お父さんとお知り合いなんですか?」

 

 疑問に思うのも当然だ。

 

 宮ノ森桃子といえば、大企業の娘で、働く女性の憧れ。

 

 次々に新事業を始め、その全てが成功しているという。

 

 地元の人間であれば1度は聞いたことのある名前だ。

 

 地方に大きな土地を持っており、大昔の天狗の話に題材されているとか。

 

 とにかくスケールの大きな話がゴロゴロある女性だ。

 

 あまりにも全ての幸運を手にしていることから、『天狗の加護』を持っているとまで話に尾がつくような人間だ。

 

 そんな超絶カリスマな女性が、対照的に運が悪くて有名な優の父親と接点があるとは思えない。

 

 「今うちの会社に手伝いに来てくれてるのよ。……お父さん、運は悪いかもしれないけど仕事は凄いわよ?」

 

 ニコッと微笑み、優の不安を解消してくれるモモコ。

 

 「……ちょっと、耳貸してくれる?」

 

 「え、あはい。」

 

 不意にモモコは軽くウインクすると、優の耳元で囁く。

 

 「あたしね、とある妖怪と仲良くてね。お父さんの不運の力消してあげてるの。……だから安心して?」

 

 「……妖怪って、もしかして、天狗……ですか?」

 

 「そう。カイと同じように、アタシもそっち系に詳しいの。」

 

 「そうなんですか!」

 

 「……でね、忠告。あの寮、アタシが建て直したから、悪意そこまで引き寄せないと思うけど、あまりハジメに負担かけすぎないで欲しいの。それと難しいかもだけど、悪意溜め込みすぎないようにね。」

 

 「はい!もちろんです!自分のことですから。何とかしてみます!」

 

 「そ?ならよし!」

 

 モモコは優から離れ、年上の見守るような優しい瞳をする。

 

 「あと、全然関係ないんだけど、本当にどうでもいい話なんだけどさ。」

 

 少し間を置き、モモコは言葉とは裏腹に本当にモモコが聞きたい話を優に振る。

 

 「はい?」

 

 優は困惑した表情を浮かべるが、続くモモコの一言にほっこりして笑ってしまう。

 

 本当にこの人はカイが好きなのだと思える内容だったからだ。

 ーーーーーー。

 

 しばらく話して、優達と別れたカイ、モモコ。

 

 誰もいない教室で、二人は溜息をつき少し深刻な顔をする。

 

 「……で、大丈夫なの。ユリは。」

 

 「さあな。誰かに負けるってことはまず無いだろうけど。」

 

 「そりゃ、アタシとアンタの弟子だかんね。……それに『鈴蘭とジンの娘』だし。」

 

 「だが、問題は、百合野家だよな。」

 

 「悪鬼の行動が、頻発してる。多分、優ちゃんの力でもあると思うけど。」

 

 「天邪鬼が、残したこの世界の残滓。悪意の成れの果て。その力が増幅してるって方がしっくりくるな。」

 

 「いい加減、百合野家のばあさんにバレるかもね。『天野真護』が、この世界を滅ぼしかけた『天邪鬼』の生まれ変わりってことがね。」

 

 「なあ。優のことしろ、常世のことにしろ、鈴蘭やジンに話した方が良くないか?」

 

 「アンタ、ジンくんの親友でしょ。なら分かるでしょ。アイツ頭馬鹿みたいに硬いのよ?」

 

 「わーってるよ。そんなこと。でもいい加減、隠すのきついぞ。……いくらユリの頼みだからって。」

 

 「今のところは危機は回避してる。優ちゃんも常世の扉は意識的には開けないみたいだし?このまま話が流れてくれれば、百合野家にもバレないし、何とかなるわよ。」

 

 「まあ、俺ら大人が頑張るしかないな。」

 

 「そうね」

 

 二人は教室から見える外の3人に目を向ける。

 

 「悪意を自在に操る次世代。危なかっしいな。」

 

 「そうね。女二人、男ひとりだからね。揉めなきゃいいけど。」

 

 「誰が言ってんだか。」

 

 「はい?」

 

 「……なんでもないっす。」

 

 過去に男女のトラブルがあったのか、余計な一言を言うカイ。

 

 その一言に覚えがあるのか、鋭い眼光で、モモコはカイを睨みつける。

 

 「そういえば、聞いたわよ?アンタのファンクラブあるそうね。女子高生が作った。」

 

 「はい!?ちょ、まて。落ち着くんだモモコ。右手を下ろすんだ、な?な?これには訳があってだな?俺は関与してないというか。」

 

 「問答無用!」

 

 

 「いったぁああっ!!!」

 

 その後モモコの強烈なビンタがカイに直撃したことは言うまでもないだろう。

 

 ちなみに余談だが、卒業式なのに、モモコがカイにくっついて来ているのは、理由がある。

 

 毎度、女子高生に告白されるからだ。

 

 そのためイベントのある月はモモコは決まって、わざとらしく学校に来る。

 

 本当にモモコはカイが好きなようだ。

 

 そして、カイは物凄く年下からモテるようだ。

 

 ーーーーーーー。

 

 しばらくして、行きつけのファミレスに着いた優たち。

 

 まずはご飯を食べようと話はまとまったようだ。

 

 「わたしちょっと御手洗行くわーなんか頼んでおいて〜」

 

 「りょーかーい」

 

 席について間もなくソラは、トイレに向かう。

 

 ソファ式のテーブル席に向かい合わせで座る優とヒロ。

 

 「……何頼もっかなあ〜」

 

 優はウキウキで端末を操作しながら微笑んでいる。

 

 「そーいえばさ。今日、告白されたらしいじゃん。どうなったの?」

 

 その話題が気になって仕方なかったヒロはようやく口を開く。

 

 「え〜もー広まってんだ〜。気になるの〜?やらし〜」

 

 少し告白された話を触れてほしくない優はヒロを茶化してみる。

 

 「いや、答えたくないならいいけどさ。その、幼馴染として気になるじゃん?そういうの。」

 

 やや、優とは砕けて話すヒロ。それも幼なじみ故の特別だろうか。

 

 実際この手の話題が、気になるのは嘘ではないヒロ。

 

 想いを伝えたくても伝えられないヒロにとっては優がどんな人がタイプなのか気になるというのが本音だ。

 

 実際問題男女における友人関係というのはなかなか難しいものがある。

 

 恋人ができたりすると簡単に遊んだりも出来なくなる。

 

 「別に話したくないわけじゃないけど。私あんまりそういう話分からないからさ。……それに例え好きな人が出来たとしてもヒロとの関係は変わったりしないよ?……今までと変わらない。それにちゃんと出来たら言うよ?」

 

 「そっか、そうだね。」

 

 話の流れ的に振ったということが分かる表現の仕方だ。

 

 喜ばしいことではない。他人の不幸だ。

 

 だが、ヒロは安堵する。

 彼はずっと優のそばにいて、彼女を想い続けた。

 

 今更その気持ちに嘘はつけない。

 

 だが、ヒロは安堵するばかりで無自覚な優の言葉に気がついていない。

 

 優はどこまでもヒロのことを『幼馴染』としてしか見ていないのだ。

 

 ーーーーーー。

 

 食事、カラオケ、スポーツ、ボウリング、ゲームセンターと、遊び尽くし、楽しい思い出を作った3人。

 

 時間というのはあっという間で、時刻は22時近くを回っている。

 

 「あー!楽しかったァ!名残惜しいけど、私達そろそろ帰るよ。」

 

 切り出したソラ。優もそれに賛成のようだ。

 

 「そっか、二人は今寮だもんね。」

 

 「うん、またね。」

 

 ーーーーーー。

 

 離れていく2人。

 

 ヒロはひとり、悲しそうに二人に背を向けて帰る。

 

 楽しい時間の後訪れる唐突な一人という感覚。

 

 ヒロはあまりこの感覚を好き好まない。

 

 ヒロは楽しかった思い出とともに、今日の出来事を振り返る。ふと今日の優は様子が、すこしおかしかったような気がしてくる。

 

 以前よりも元気で、活動的だ。

 

 今日の告白にしたってどこかおかしかった。

 

 そんなことを思い始めるヒロ。

 

 頭によぎる『ハジメ』の顔。

 

 彼と出会ったことで優はどんどん変化していっている。

 

 もちろん、いい意味でだ。

 

 だが、ヒロは気に入らなかった。

 

 拳を強く握りしめる。

 

 優やソラは現段階で自分のしたいことを見つけている。

 

 そしてどんどん変化していっている。

 

 それは、悪意に纏わる色々な経験を得ての話だ。

 

 同じようにヒロも悪意の力を持っている。

 

 しかし、まだ、能力に自覚していないのだ。

 

 そして、自分を見つけられていない。

 

 「……ボクは何がしたいんだ?」

 

 いつも自問自答を繰り返す毎日。

 

 みんなどんどん進んでいく中、ヒロだけが、何をしたいのか分からなかった。

 

 そして、友だちである二人の進歩。

 

 「……置いていかないでくれ」

 

 ヒロは孤独でいっぱいなのだ。

 

 ーーーーーー。

 

 大坪ヒロ。

 

 生まれた時からお手本を見れば、なんだって見ただけでできるという才能の持ち主だ。

 

 もちろん、本人が自覚していないだけで、『悪意による力』であることに間違いはない。


人が持つ悪意の波長を完璧にコピーすることで、その人が行ってきた努力や辛い経験、その他諸々を瞬時に会得できるのだ。

 

 だが、そんなことを知らず、無自覚で出来ないことが消えていくヒロ。

 

 気がついた時には全てが退屈だった。

 

 常に他人より、優れた力を持ち、周りから送られる尊敬の眼差し。

 

 走れば、必ず1位。スポーツに参加すれば高得点。

 

 勉強するにしても苦手分野がなくどんどん答えていく。

 

 だが、一つだけ『感性』という点において、優にだけは勝てなかった。

 

 どんなモノも見ただけで取得してしまうヒロに対し、悪意を引きつけるという点以外は普通な優は、それなりに努力している。

 

 美術、音樂、感想文といった点において、ヒロはよく言われることがある。

 

 「たしかに素晴らしいよ、君は。どこでもやって行けるだろう?だが、『オリジナリティが無い』。君は。何を考えて何を求めているんだね?」

 

 卓越した才能を持つヒロだが、その『器』があるだけで、決して『気持ち』がある訳では無い。

 

 言い方を変えれば、ただの人形なのだ。力があるだけの。

 

 ヒロは、早い段階でそう自覚してしまい、『自分』を求めるようになっていた。

 

 そんな時に出会った優は、酷く美しく見えた。

 

 迷いながらも、道を模索し、努力するその姿が。

 

 そしてついに、彼女は『自分』を見つけ、歩き始めた。

 

 「私は、ヒロみたいになんでも出来るわけじゃないから、頑張らなきゃ。」

 

 「どうして?どうして頑張るの?」

 

 「ヒロの幼馴染だからだよ!一緒にいたいもん!」

 

 幼い時の優とヒロのやり取りだ。

 

 ヒロはこの瞬間に誰かのために何かをすることの素晴らしさを知った。

 

 自分で考え行動して、結果を出す。

 

 これが本来のあり方なのだとそう思えたのだ。

 

 「だめた、やっぱり。誰にも渡したくない!」

 

 ヒロは、真っ直ぐ寮へと走り出した。

 ーーーーー。

 

 「やっほ、こんばんは。」

 

 寮に着くと、天野とユリが玄関前にいた。

 

 帰ってきた優とソラはキョトンとした表情をうかべる。

 

 「あれ、ユリさん。どうしてここに?」

 

 「あれ、言ってなかったかな。私もここに住んでるんだよ?あんま居ないけど」

 

 「そうだったんですね!」

 

 「あー敬語じゃなくていいですよ。僕達、二つ下なので。」

 

 「「えっ!?」」

 

 整った顔立ちに物静かな雰囲気、大人っぽく見えていたためか、二人は驚く。

 

 「はーん。お前ら老けてるってよ?」

 

 リビングから顔を覗かせたハジメがニヤつきながら、会話に入ってくる。

 

 「『フライパンで自分の頭を』」

 

 「あぁー!!!ストップ!ストップ!」

 

 イラッときたユリが言霊を使用し、ハジメを痛めつけようとするが、気がついたハジメに妨害される。

 

 「ユリ、そんなことに言霊を使ってはいけないよ。」

 

 「はいはい、分かってるよ。あんたって昔から小うるさいよね。」

 

 「ふふ、2人ってお似合いですよね。」

 

 「そう?ま、幼馴染みたいなもんだからね。」

 

 「え、お付き合いしてないの!?」

 

 驚きのあまり、声を荒らげるソラ。

 

 「ソラ、そうやって、誰彼構わず、くっつけるの、やめなさい。」

 

 朝のくだりもあるため、優は頬を膨らませて怒る。

 

 「ご、ごめて。」

 

 ーーーーー。

 

 しばらく経ち、静かになった頃。

 

 みんなそれぞれ部屋で寝静まっている。

 

 なんだか、眠れず、リビングに来た優はお茶を一口飲む。

 

 「眠れないの?」

 

 背後から現れた百合の花のような美少女ーーーーユリに話しかけられる。

 

 窓からの月明かりが優しく二人を照らし、まるで儚い絵画のような構図となる。

 

 吹き抜ける夜風。

 

 まるで、嵐の前のように静かだ。

 

 「はい、ちょっと眠れなくて。ユリさ……ユリも?」

 

 ついいつものように敬語でかしこまってしまうが、すぐに言い直す。

 

 「今日はやけに外が静かでね。なんか気持ち悪くて。鬼が来る前ってこんな感じなの。」

 

 「……それは寝れないね。」

 

 ふふ、と微笑み合い、軽くお茶を飲みながら話す2人。

 

 優はユリを詮索していないが、ユリには悪鬼と戦う事情があるのだろう。

 

 なんとなく会話に困った優は、話題を振る。

 

 「あの、私聞きたいことあって。」

 

 「……あら。幼馴染との付き合い方かな?」

 

 「ちがうよーやめてよーユリまで。」

 

 「ごめんごめん、私は天野のこと昔から好きだからさ。なんとなく、ね。」

 

 「そうなの?」

 

 優は驚いた顔を見せる。

 

 優にとって幼馴染であるヒロはあくまで幼馴染。

 

 あくまで、友達なのだ。そういった感情を持ったことの無い優にとっては新鮮な感覚だ。

 

 「何驚いてるのよ。幼馴染でも、男女は男女。それに一番近くにいて色々乗り越えたりしてるからさ。」

 

 「そっか、そうだよね。そういことも有り得るのか。」

 

 ーーーーー。

 

 「それで?聞きたいことって?」

 

 「あ、うん。私は気絶してて覚えてないけどユリは結構強いんでしょ?」

 

 「つよいよー!……それが、どうかした?」

 

 「なんでも、悪意を霊力に変換してるとか」

 

 「そうだね。なるほど、強くなりたいの?」

 

 「まあ、それもそうなんだけど。どっちかって言うとコントロールしたくて。」

 

 「なるほどね。優は悪意を引き寄せて溜め込んじゃうんだよね」

 

 「そうなの。最近はソラが外では振り払ってくれてるのと、この寮で住み始めてからは、安定してるんだけど。」

 

 「いつまでもって訳にはいかないもんね。」

 

 「そう、だから教えて欲しくて。」

 

 「参考になるかは分からないけど。多分、優は『悪意と向き合っちゃってる』と思うんだよね。優しいから。」

 

 「ユリは受け入れてないの?」

 

 「受け入れてはいるよ。ただ、『向き合ってはいない。』だって、御先祖とか前世とか周りの人達の悪意だよ?今の自分には関係ないの。だから私は身体に受け入れて、『あーそんな辛いことがあったのか』って客観的に思うだけにしてるんだよ。」

 

 「なるほど。確かに私まるで、『自分が経験したかのように』向き合ってたかも。」

 

 「でしょ?参考にしてみて?」

 

 「ありがとう!勉強になる!」

 

 ーーーーーーー。

 

 「……っはぁ、はぁ。」

 

 何故だろうか。ようやく自分の心に素直に従った少年の心は黒く染っていた。

 

 寮が目の前に見える。

 

 『優を手に入れたい。』

 

 純粋にようやく自覚した内に秘めた『己』。

 

 我慢して我慢して、押さえつけてきた心。

 

 彼の心はもう、暴走している。

 

 「僕が、幼馴染だから、だからいけないんだ。『境一』、僕が、君になれれば。ぐっ!?あぁあああっ!!!」

 

 少年は寮を通り過ぎ、ハジメが寝泊まりしている小屋を見つける。

 

 「見つけたァ。」

 

 己を初めて認識したことで『大坪ヒロ』の力は暴走していた。


もはや、本能のまま、否。能力の赴くまま行動を開始したのであった。

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