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#43 理を超えた幸せ。


 突如、常世に出現した鈴蘭たち。予想通り天野とユリの元へと辿り着いた。

 

 「お母さん!?」

 「鈴蘭!?」

 

 動揺した二人の顔がそこにはあった。

 

 「なーんで二人とも喧嘩してるの!」

 

 「あれ……なんでだっけね?」

 「うん……気がついたら戦ってた。」

 

 鈴蘭は腰に手を当ててお母さんのように説教する。

 

 子どもの姿に戻ってもあまり様子は変わらないようだ。

 

 対する天野とユリは見た目こそ天使と悪魔のように変わってしまっているが、四人の登場により元の姿へと戻る。ユリは幼いまま、天野は翼のみ消失し、美しい姿はそのままだ。

 

 「鈴蘭、目的は果たした。早く戻ろう!」

 

 焦るように話すジン。

 

 常世の危険性を理解しているのかもしれない。

 

 「あっ!そうだった!二人とも戻るよ!」

 

 2人を見つけたことで安堵し、気を緩めていた鈴蘭。

 

 我に返ったように2人を現世に戻るように催促する。

 

 「うん!帰ろう!シンゴ!!」

 「そうだね……ユリ。」

 

 二人はにこやかに言い放つ。

 

 鈴蘭が扉を開き世界に小さな穴が空く。

 

 「シンゴ、先いってて。すぐ追いかけるよ!」

 

 「わかった。待ってるね。」

 

 微笑みながら扉に触れる天野。

 

 刹那。

 

 「ぐっ!?あぁあああああっ!!」

 

 突如、黒い雷鳴が閃光し、天野の体に直撃する。

 

 その場に倒れる天野。

 

 雷鳴の方向に視線を移す面々。

 

 ユリはゾッとする。

 

 「……あ、あま……てらす」

 

 「ん?大御神様……が抜けているぞ?ワカヒコ。」

 

 目の前に現れたのは赤く染った着物を纏う美女。

 

 頭には豪華絢爛な装飾と髪飾り。

 

 歩く度にシャンシャンと揺れる装飾は威圧感がある。

 

 だが、それ以上に身に纏う神聖なオーラに気圧される。

 

 「なるほど読めてきたぞ。あのオネーサンが今回の元凶って訳か。」

 

 何かを理解したカイが切り出す。

 

 「明らかにそうでしょうね。…さっきの天野とユリが争っていたのも天野があの女に操られていた可能性がある。」

 

 「ユリはどーせ、牛鬼の力を暴走させたんだろ、天野をがむしゃらに探すうちに暴走してな。」

 

 「は!?状況理解早くない!?」

 

 モモコが考察を立てジンが補足する。

 

 あまりの状況理解の早さに困惑するユリ。

 

 「なら、あの人の事情を聞いて解決すれば終わりね。」

 

 力を抜くように扉を閉じる。鈴蘭はそのまま向き直りオンナと向き合う。

 

 「ほう?さすが現世で神に近づいたもの達だ。天稚彦と縁を持ち、我が弟と運命を交えたものよ。」

 

 オンナは語りながら鈴蘭たちに近づく。

 

 ふわっと舞い上がり、地面に足をつける。その一瞬の出来事が自然と美しく感じる。

 

 「……妾のものにしたいなあ。」

 

 鈴蘭の眼前まで近づくと、女は言い放つ。

 

 目が本気だ。妖艶な様子についうっとりとしてしまうが、気を取り直しぷいっと顔を背ける。

 

 「私結婚してますし、このとおり子供もいますから。」

 

 「そうか。それは残念だ。……だが、サグメは渡せぬ。それに今は妾の支配下だ。意識は戻ったにしろ魂の権限は妾が持っている。」

 

 「あんた何者?いい加減名乗りなさいよ!」

 

 「ほう?サクヤの姫巫女か。サクヤによう似ている。お主からはスサノオとサグメのチカラを強く感じるな。この中で一番神に近い。どうだ?妾とこぬか?」

 

 次は話し始めたモモコに近づく。

 

 モモコは全身に寒気が走るのを感じる。

 

 思わず、モモコの手は空を切り、女の頬にビンタする。

 

 パチンと大きな音が響き渡りさすがの全員も絶句する。

 

 どことなく流れる『やっちまったなモモコ』という空気は拭えない。

 

 「きっも!所構わず口説いてんじゃないわよ!見た目いいからって調子乗んなよ?……結局人柄がものをいうのよ?人に頼む態度?神だがなんだか知らないけど。困ってんでしょ?……まともに話せないわけ?どんどん本題から話ズレてんの。……あんたらと違ってね、時間の概念がこっちにはあるの。さっさと済ませて。」

 

 早口で強くまくし立てるモモコ。

 

 カイは笑いをこらえるのに必死だ。

 

 ジンとモモコは頭を抑えて憂鬱そうな顔を浮べる。

 

 ダメージを受けながらもあまりの衝撃に絶句する天野。

 

 ユリは自分の親や師匠たちがどれだけすごい人たちかを改めて実感するが、空いた口がふさがっていない。

 

 「ぶっ!あーはっはっ!!!その通りだ!人と話すのなんて久しぶりでなあ!つい、調子に乗ってしまったよ。済まない済まない。妾は天照大神。無礼失礼した。……宮ノ森桃子、野村海、琴上人、幌先鈴蘭。」

 

 ビンタされた驚きと衝撃でつい大爆笑する天照大神。モモコの発言は現世の概念で言えば全くのド正論であった。

 

 天照大神は反省の色をみせ謝罪してみせる。

 

 続いてそれぞれの魂に刻まれた名前を読む。

 

 結婚していようが、本当は別の名前になる運命があろうが、それが魂の名なのだ。

 

 ーーーーー。

 

 「では、世界の分類について語ろう。」

 

 案内された王室。

 

 常世の世界を天高く舞うことで、辿り着いたそこは全ての常世を見ることが出来た。

 

 浮遊する町。空中に浮かぶ建物の羅列。

 

 天上の世界と表現するのが正しいだろう。

 

 「お主らの知るように世界はひとつでは無い。天上の世界と天下の世界。神達が多く集う世界『常世』。人々が多く暮らす『現世』。ここまでは理解できるな?」

 

 「まあ、見てきた世界だからな。」

 

 天照大神の問いにジンが答える。

 

 「妾の弟は大変勝手でな。父上から仰せつかった役割を全うしなかった。

 

 本来スサノオは現世を任された存在であったが、暴れ回ってな。

 

 最終的に根の国という悪意などが生まれる母上が統治する世界へと腰を下ろした。

 

 そのため現世を統治する神が必要になってな。妾は何度か息子を送った。

 

 だが、聞くところによるとスサノオの息子『大国主神』が現世にひとつ国を作ったと言うでは無いか。政治のためにワカヒコとサグメを派遣したのだ。」

 

 「だけれど、僕たちは役割を全うできなかった。まんまと下照姫に恋をしたワカヒコ、邪悪な心を持った僕、世界を手に入れようとしたアジスキタカヒコネ。牛鬼の問題。……ですね。」

 

 「ああ、その通りだ。問題がどんどん山積みになり、現世も危険となった。病む負えず手をつけられなくなった鬼たちを根絶やしにしたのだ。そして世界の扉を閉じた。

 

 ふと世界を見れば、スサノオが現世に干渉しすぎたせいで、根の国と黄泉の国の境界が薄くなってしまっていた。

 

 それにより、現世は鬼や妖怪が出入りしやすくなり、酒呑童子が再び世界に降りてしまった。他の鬼たちも同様だな。

 

 そしてなにより問題となったのが、悪意や負の感情と言ったものの処理が出来なくなり、今のような手の付けられないような世界が出来上がった。

 

 今よりも文明が遅れていたために幾重にも戦が起きた。妾は現世を見捨てたのだ。

 

 だが、世界は繋がっている。常世にも皺寄せがやってきた。悪意の処理と耐性が妾達にはなかったのだ。そのために鬼が配備されていたことを知った。神達は追い詰められると悪鬼として世界を破壊し回った。」

 

 「なんだか、スサノオってやつとんでもねえな。たしか琴上では英雄とかって祀ってなかったか?」

 

 「八岐大蛇を討伐してたからな。そのうちの琴上に現れたオロチも討伐してくれている。」

 

 「海の記憶としてもあるな。……いやーな話聞いたわ。」

 

 一通り話を聞き終えると要はスサノオという規格外の存在のより世界は大いに乱れたという話を聞いた。

 

 つまり鬼がいなくなった常世においても危機は続いているということだ。つまり。

 

 「それで、天野くんを利用って訳ね。心を壊した私たちを回復させるのが条件?」

 

 「その通りだ。妾には心を癒す力があった。サグメには悪に対する耐性が生まれていた。今この世界にはサグメが必要なのだ。……提案がある。ワカヒコ……いや、ユリ。真護とこの世界で契りを交わさぬか?……子供を作りこの世界を平定してくれぬか。」

 

 「なあっ!?」

 

 ユリが赤面し変な声を出してしまう。

 

 天野は俯き赤面している。

 

 「それはつまり、ユリもこの世界に寄越せってことか?」

 

 ジンが瞳を紅く輝かせながら天照大神に近づく。

 

 「そうだ。お主らも協力して欲しい。境界人となってこの世界と現世の調停と悪鬼討伐を頼みたい。……なにも問題はなかろう?ユリとシンゴは一生二人で過ごせる。……お主ら四人は過去に失った青春時代を遅れるのだ。もう一度愛を育むもよし、意識を変えてほかと交わるもよし。なんなら、四人で好きなように交わればいい。」

 

 「相変わらず、気持ち悪い思考だな。神様と違ってひとりでいいのよ。俺らは。それに俺は桃子以外見えねーっての。待たせてる家族もいる。俺はお断りだ。」

 

 「私も同感ね。昔は色々あったけど、あの時の私はステータスとして欲しかっただけ。今となれば、カイが断然いい男。そんなの関係なくカイがいいって思えたんだけどね。……息子と娘もいるのよ。……私は帰るわ。」

 

 「俺はやっと。やーっと、鈴蘭と結ばれて二人の子供に巡り会えたんだ。俺の贖罪の日々はまだ終わらない。……せめて、手に入れた幸福ぐらい噛み締めないとバチが当たる。……俺も戻らせてもらう。てめえの世界の都合はてめえで解決しろ。」

 

 「確かに失った青春って言われると私は満喫できてなかったと思う。みんなでバカやりながら、また戦うのも楽しいなって思うよ。でもね、でもそれって失ったセイシュンがあるからこそ思えることなんだよね。私は過去の自分を否定しないよ。待ってる人もいる。……それはユリと天野も同じ。……優ちゃんたちが協力してくれたんだよ?……ユリ、良い友達ができたね。」

 

 鈴蘭たちが強い言葉を形にしていく。

 

 その想いに呼応するように肉体が大人の体へと成長していく。

 

 肉体は魂の影響を受ける。

 

 それは積み重ねてきた悪意によって肉体は成長していき、魂は穢れていく。

 

 しかし、肉体もまた精神に影響を受ける。浄化した魂は再び元の形へと戻っていく。

 

 魂のあり方はそう簡単には変わりはしない。

 

 クロエが話していた長期に渡り常世にいると精神と肉体がバラバラになるというリスクを彼女たちは乗り越えたのだ。

 

 「すごいよ。さすがだよ。お母さん。……そっか、そうなんだ。みんな待ってくれているんだ。……いこっ、シンゴ。たっくさん時間作らないと。」

 

 「いいのかい?ユリ。僕はみんなの力を消失させた。それが普通の暮らしに……幸せに繋がると信じて。」

 

 「そーだよ?みんなに謝らないとね。……そんなの必要ない、そういう繋がりがあったから私たちは出会えたんだから。」

 

 「わかったよ。……そうだね、きっと受け入れていかないといけないんだ。」

 

 「うん、一緒に受け入れていく。」

 

 ユリは天野の肩に寄りかかる。

 

 二人の全身は光り輝き、見慣れた人間の姿へと戻る。

 

 「ふっ、自力で契約を解いたか。……お主たちの覚悟、しかと見せてもらった。……再び命令するぞ琴上幸理、天野真護。……現世を平定してまいれ!」

 

 「……御意!」

 

 六人の肉体は光り輝き、現世へと旅立つ。

 

 「……まったく。面白いように動いてくれる。妾の構想通りじゃ!アハッハッハ!!!」

 

 六人が消えたあと大声で笑う天照大神。

 

 彼女の目的は常世のリセット。世界に悪意が蔓延り、能力を震えなかった天照大神。

 

 天野の再臨により、全ての悪意を浄化した。

 

 対処に困った生き延びた神人はユリが尽く消滅させた。

 

 どうしても天野から取り出す必要のあった牛鬼もユリが持ち帰り、ユリが扉を開き鈴蘭が先の戦いでココロを壊したことで、クロエを現世へ送ることに成功した。

 

 そう、本当の物語の黒幕は天照大神なのだ。

 

 自分の世界を浄化するために現世を利用したのだ。

 

 「本来であれば、現世も手に入れたかったが、スサノオとクロエに邪魔されたなあ。ま、奴らは既に神としての力を失った。スサノオはニュールドに変えたし、クロエは自滅して神としての力を失った。黄泉とニュールドが交わったせいで衛藤立生が異世界転生したのは予想外だったが、まあ良い。妾の世界に仇なす物は消えた。好きなように世界を作るとしよう。……妾は妾の正義の元に行動するまで。クックック!!」

 

 ーーーーーー。

 

 「みたいなこと天照考えてたけど大丈夫そ?」

 

 「元はと言えば、何個も世界を手に入れようとして失敗してしわ寄せで自分の世界大変なことになって。自業自得だよ。ごめんね、利用したみたいになって。ユリが来てくれないとクロエ出られないし牛鬼も処理出来なかったからね。」

 

 現世に戻ってきた面々。天野とユリは天照大神の考えを見抜いていたようだ。

 

 「実際あの場面じゃ、ボクは神に戻ることでしかみんなを助けられなかった。天照に対しても悪い気持ちはあったからね。これで気兼ねなく普通の日常を謳歌できるよ。」

 

 「そうだね。これで常世からの呪縛から開放される。」

 

 二人は談笑しながら寄り添い合う。もはや、2人を邪魔するものは無い。

 

 「あっ、そういえば言ってなかった。ただいま、ユリ。待っててくれてありがとう。」

 

 「言ったでしょ?どこへでも私はついて行くし、受け入れる。……あなたと生きていきたいから。……おかえり。……ずっと、私はこうなるのを前世から待ってたんだから。」

 

 「そうだね、あまりにも遅すぎるかもだけれど、今なら、言える。愛してる。……僕と一緒に生きてくれますか?」

 

 「もちろんだよ。……ん。」

 

 後ろで見守る鈴蘭たちに見えないよう曲がり角で抱きしめ合い口付けを交わす。

 

 ようやく二人は誰にも邪魔されずに理を超えた幸せ手に入れのだ。素直に純粋に溢れる想い。

 

 何千という想いを超えて。

 

 ーーーーーー。

 

 「アイツらも自分たちの罪を精算したってとこだな。」

 

 「そうだね。けっきょく私たち行く必要なかったんじゃ?」

 

 「そんなことねーだろうよ。あのままだと二人で子作りして戻ってこなかった。俺たちがトリガーになったはずだよ。常世をリセットするつもりでも同じことが起きないように悪意を処理する存在は欲しかったはずだ。」

 

 「なんだか、神様に一泡吹かせられてスッキリしたわ。」

 

 「お前はやりすぎな?」

 

 「なんでよー!私のビンタで話し合いに持ち込んだのよ!」

 「はいはい。そーですねー。」

 

 「でも滑稽だよね。不要だと切り捨てたハジメの存在があの世界には必要だった。」

 

 「そして最終的には天野やユリ、見捨てた現世のチカラが常世には必要だった。」

 

 「……だね。結局は巻き込まれ続けた私たち現世が勝ったって感じで、いいんじゃない?」

 

 「そうだな。どんな悪意を宿していても、異界の鬼だとしても、幸福を得るために進んできた俺たちのな。」

 

 若いふたりの背中を見ながら思いにふける4人。

 

 ーーーーー。

 

 「ただいま、優!」

 

 「おわっ!?ユリ!!!おかえり!」

 

 寮の扉を開けて直ぐに出迎えてくれた優。

 

 ユリは思いっきり飛びつき、そのまま床に倒れ込む。

 

 暖かな春風と心地よい朝の香り。

 

 笑いで包まれる戻ってきた日常。

 

 争ってきた過去があっても笑い合えるこの世界で。

 

 生まれや経験、世界が違くても認め合える存在がいて。

 

 悪だと断罪されてもお互いに受け入れて。

 

 今ここの寮に反転した悪意、『幸福』が満ち足りていたのであった。

 

 優はこれからと今を受け入れながら微笑んだ。


優は優しくハジメに視線を送りハジメはグッと拳を突き上げた。悪と断罪された二人はこの世界にとって必要だということが証明された。それは、この寮にすまう人々にも言えることで、これからも違いを認め合いながら進んでいく。


クロエも人間の体に触れ寮に住むうちに見てみたくなったと言った。この世界を行く末と優たちの答えを。抱きしめ合う優とユリをみれば、それは分かることなのかもしれない。


優はハジメと、ヒロはソラと。


天野は幸理と。


それぞれに未来を思い描くのであった。

 

 インバート・マリス〜異界の鬼と悪意を宿す少女〜完結。

ここまで、読んでくださり誠にありがとうこざいました。何度も述べていますが、皆様の応援のおかげでここまで書き終えることが出来ました。


私事ですが、就活〜就職、今に至るまでに被る作品で、世界の理不尽に叫びたくなった事でこの作品は生まれました。


この作品で伝えたいことは大きくひとつです。どんなに否定されることでもそれぞれに理由があって、認めてくれる存在や場所は確かにあるということ。


諦めずに今を生きる糧になってくれれば幸いです。


私の作品を読んで楽しんで頂ければ幸いです。では、またどこかでお会い出来ること楽しみにしています。


では、失礼致します。 パスタ・スケカヤ

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