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#42 原点回帰


 ユリは常世で天野を探し続け、優はクロエ・大地・カレンと常世について語り合う。

 

 そんな中、寮では鈴蘭たちが来訪していた。

 

 「事情は何となく聞いてます。ユリのこと真剣に考えてくれてありがとう。……いつか、こんな日が来るんじゃないかって思ってたの。」

 

 鈴蘭は顔をふせながら話す。優しくモモコが肩をさする。

 

 「立ち話もなんだ。……中へどうぞ。」

 

 ハジメはなんとも言えない表情で一行を迎え入れた。

 

 リビングに案内され、長テーブルへと着く面々。

 

 「俺達も黙ってユリを行かせたわけじゃない。天野を見つける方法をずっと探していた。常世に行ってもどこにいるのか分からなければ意味は無いからな。」

 

 至って冷静に言葉を発するジン。補足するようにカイも言葉を添える。

 

 「知っての通り俺達は天邪鬼と戦った。祖先や前世でも交わった因縁がある。俺ならウミという前世、そしてヤマタノオロチという相棒の力。……これらは天邪鬼が存在したことで生まれたモノだ。」

 

 「私なら天狗。天狗には直接天邪鬼と分離したからか強い繋がりがある。……天探女が牛鬼を取り込み悪意に落ちたのが天邪鬼。残った力で別れたのが、天狗。……天稚彦と天探女が現世に来て初めて救った町『天緑山町』は、わたしの祖先の町だから。必然的に私にも力が宿った。」

 

 カイに続いて、モモコも語りだしジンと鈴蘭もそれに続く。

 

 「俺は九尾の力。妖怪との半妖だから、もちろん力を受け継いでいる。……九尾・八岐大蛇・天狗は神獣や神といった存在で天邪鬼の力によって妖怪に覚醒した。つまりは俺達は天邪鬼……天野のセンサーとして機能するはずなんだ。」

 

 「そして私は代々天邪鬼を封じてきた百合野の末裔。天邪鬼を百合野一族に封じる儀式を行った『百合野鈴蘭』の生まれ変わり。人間としては私が一番彼と繋がりが強い。」

 

 「んで?結局どうだったんですか?」

 

 黙って話を聞いていた面々。口を開いたのはソラだった。

 

 「四人が揃っているとき。かつ、異界の扉が開いた時。…つまり、異界に俺たちが行けば天野は簡単に見つけられる。」

 

 簡潔にまとめられた言葉に少しの安堵が出る。

 

 だが、その代わり疑問が生まれた。

 

 「でも、やらないって言うことは何か理由があるんですね?」

 

 ヒロが確信をつく。

 

 カイが頷き、モモコが説明してくれる。

 

 「四人揃っていないと、力としては不十分。」

 

 「なるほど?つまりは、貴様ら4人を旅立たせるためにべつに扉を開く存在が必要だと?」

 

 答えを求めるように、モミジがまとめてくれる。

 

 天野を見つけるセンサーとしてのチカラは4人揃っていないと不十分だということだ。

 

 4人は確定で、常世に飛び立つ必要があり、行きと帰りでそれぞれ扉を開く存在が必要だということ。

 

 「妙な話だな。この前開いていたじゃないか。扉。」

 

 「わたしに開く力はある。でも、移動するまでそれも4人を旅立たせるまで扉を維持する力は私には無い。」

 

 「つまりは行きのコストが高ぇってことだな。行きさえ何とかなりゃ、帰りは1人ずつ送ればいい。そういうことだろ?」

 

 ハジメが以前鈴蘭が扉を開いていたことを思い出し質問する。そして!直ぐに鈴蘭から答えが提示され、タケルが考えを口にする。

 

 タケルの言葉を補足すると、とこよに飛び立つことは難なく可能だ。しかし、四人揃っていなければ、目的である天野の場所が分からない。

 

 天野の場所を把握するためには、四人同時に同じ座標に位置する必要がある。

 

 つまりは、四人同時に同じタイミングで扉を抜ける必要があるということだ。

 

 帰りは戻ってくるのみなので、バラバラでも何とかなるという話だ。

 

 「話はわかったが、問題が二つあるんじゃねえか?」

  一通り話を聞き終えたハジメが口を開く。

 

 「まずひとつに、天野は見つけられても、無鉄砲に飛び出したユリをどう見つけるか。そして、2つ目に誰が扉を開くか。俺達は六鬼と戦ってから極端に力を失ってる。優をあてにしているのなら、無理だぞ?」

 

 「冷静な分析。さすが、最強の鬼と言ったところか。」

 

 刹那、聞き馴染みのない声がハジメの背後から聞こえてきて、全員がゾッとする。

 

 現れたのは座敷わらしであり、不気味な笑みを浮かべてそこに立っていた。

 

 「うおっ!?いつの間に!?」

 

 「ひどいなあ。初めからいただろう?」

 

 「ぜんぜんわからなかったわ!」

 

 ハジメとタケルが大きな声で驚いてみせる。

 

 何故だが、座敷はとても楽しそうな表情を浮かべる。

 

 「能力というものはそう簡単に失うものでは無い。……天野の策略にハマってまんまと『忘れている』だけだ。」

 

 「まてまて。俺たちが力を使えなくなっているのは、天野の仕業なのか?」

 

 「ああ。そうだよ。忘れたのか?鬼に体を支配され心を壊した連中がいたのに、気がついた時には皆回復していた。主に重症だったユリ・鈴蘭・テルなんて能力も記憶も残っていた。単純に考えればわかることだろう?」

 

 「俺は記憶を取り戻したが、他の奴らは大地の力で記憶を失ってた。中々そこにはたどり着けねえよ。」

 

 「それもそうだな。……まあ、力については追々何とかなるということだ。」

 

 「大体わかったわ。それで?ユリをどう見つけるつもり?」

 

 「あまり本人が話したがらないから隠していたが、さっきも言った通り俺は九尾との半妖。ってことはユリも少なからずその血を引いている。……それに不完全だが、幌先の力や百合野の鬼との親和性、カイやモモコの力も継承している。……見つけることは出来る。」

 

 なぜ、天野が常世に行く必要があったのか、心を取り戻すためにどこまで力を使ったのかは分からない。

  しかし、能力が消えた原因は天野の力によるものだった。

 

 ここまでで、常世に行く算段は着いたように思える。

 

 残るは能力をどうやって取り戻すか。

 

 はたまた、本当に能力を取り戻していいのかという疑問が生まれてくる。

 

 「悪いとは思ってる。さんざん常世に干渉するなと言っておいて、優ちゃんに……いえ、あなた達に私たちは頼る他ない。」

 

 「だからせめて、お前たちが答えを出してくれ。」

 

 「この話にのるか、断るか。今のアタシたちにはこれしか方法は浮かばない。」

 

 「せっかく普通の暮らしが手に入るんだ。好きに決めていい。お前たちがダメだって言うのなら、また別の方法を探す。これがきっと天野の望みであると思うから。」

 

 それぞれに協力して欲しいという想いはありつつも、大人の無責任な態度を後悔しているのがわかる。

 

 ハジメ達は黙る他なかった。

 

 だが、そんな沈黙をいとも簡単に破ったのは、

 

 ーーーーーーー。

 

 「協力するに決まってます。…だってユリは私たちの仲間ですから。」

 

 決まっている。帰宅した優がいとも簡単に沈黙を破った。

 

 強い眼差しに偽りのない芯のある言葉。

 

 それを黙って腕組みをし後ろで見つめるクロエ。

 

 「ま、貴様らしいわな。」

 

 どこか、嬉しそうなクロエ。

 

 揺るがない言うの瞳。

 

 「ま、優ならそう言うよな。……おっしゃ!俺らもやるか!」

 

 優の言葉を歯切りに椅子から立ち上がる面々。

 

 まだ、先が見えない暗闇。

 

 見えてきたのは僅かな希望。

  いつもと同じように、これが正しいのか間違っているのかは分からない。

 

 でも夕の真っ直ぐな言葉はそれが普通だと思わせてくれる力強さがある。

 

 「本当に……いいの?」

 

 鈴蘭は心配そうな顔で見つめるが、優の回答は早かった。

 

 「元に戻るだけなんです。関係ありません。

 

 ……それに最初は忌み嫌っていたこの力も、存在が消えてしまえば、今の私はここにはいません。

 

 この力があってこそ、この寮があって

 

 それぞれの事情に触れた道があって、

 

 葛藤した日々、嵐のような日々、悪意と善意を常に考える日々、それらがあったんです。だからわたしは今を生きていけるんです。

 

 私は今の私を否定しません。

 

 私が私であるということは、友達が抱えている傷を共に受け入れるのが、私です。

 

 ……だから、ユリをお願いします!」

 

 どこまでも真っ直ぐで正しい言葉。

 

 鈴蘭たちはどこか忘れていた『あの頃』を懐かしむように、微笑む。

 

 「そうだね。……任せて。私の娘、家に返さないとね。」

 

 「ふふ、そうですね!」

 

 ーーーーーー。

 

 「力を取り戻す方法はひとつだ。『思い出せばいい。』鈴蘭たちは常世に行くために悪意を全て解き放つ必要がある。……準備はいいか?」

 

 六芒星を描いた術式を囲む優・ヒロ・ソラ・カレン・テル・大地。

 

 その更に外側に意識を集中させるハジメ・モミジ・タケル。

 

 術式の真ん中に背中合わせで立つ鈴蘭・ジン・モモコ・カイ。

 

 指揮を執る座敷童子。

 

 その様子を見つめるモモコそっくりな美少女と見慣れない儚げな表情の青年。

 

 「カイト、モモカ。しばらく家を空ける。頼めるな?」

 

 「……問題ない。」

 「え、わたしは大ありだよ!?なにこれ!?どういうことなの!?テルは何してんの!?」

 

 「安心なさい。何かあった時はその秘石が守ってくれる。それに大抵ビンタでどうにもでもなるものよ?」

 

 あたふたする少女と落ち着いた様子の青年。

 

 見ると二人の首元には光り輝く石が垂れ下がっている。

 

 「ビンタでどうにかできるのはママだけだよ!」

 「……モモカも、蹴り痛い。」

 「カイトにぃは黙ってて。」

 「……。」

 

 「へへ、何とかなりそうだな。」

 

 安心した様子で意識を集中させるモモコとカイ。

 

 ーーーーーー。

 

 「テル。」

 「分かってるよ。家は任せろ。」

 「無理はするなよ。」

 

 「分かってるよ。さっざと、姉貴と天野連れ返してこいよ?」

 

 「……ああ。」

 

 「……テル。わたしは元気で過ごしてくれればそれでいいよ?座敷と仲良くね。……あまり、モモカちゃんいじめたらダメだよ?」

 

 「……わーってるよ。いいから、行け。」

 

 「……うん、いってきます。」

 

 ーーーーーー。

 

 「行くぞ!!!力をかせ!クロエ!」

 

 「仕方ないな。今回だけだぞ?……清めるは邪を受け継ぐ妖の御魂。轟き求めるは狭間の扉。導くは百の鬼魂。分散し邪心を孕め失われし彼方よ。『神聖術式・邪心昇華呪・異界開門術・伝心百鬼術』!」

 

 気だるそうにクロエが唱えると順番に光り輝く面々。

 

 緑色の怪しい光が術式から繰り出され、鈴蘭たちから闇の瘴気が煙のように沸き上がる。

 

 闇の瘴気は雲のように集合すると分散し、優たちに分配されるように降り注ぐ。

 

 悲痛の非常を浮かべる優達であったが、ひとみを開眼させると紅く怪しい景色が広がる。

 

 思い出される数々の悪意の記憶。

 

 失った天野の記憶。

 

 みなぎっていく霊力。

 

 溢れ出てくる痛みと悲しみ。

 

 それを昇華させるようにひとまとまりに意識を集中させる。

 

 紅く染まった瘴気はそのまま、闇を更に強め、術式の真ん中へと集中し塊となり、みるみるうちに扉となる。

 

 開かれた扉の向こうに一筋の紅い光が差し込み、ハジメは強く天野の存在を認識する。

 

 それが道標となって、深淵を照らし、徐々に肉体を退行させていく鈴蘭たちを導いていく。

 

 四人が深淵に飲み込まれると、扉はゆっくりと閉じて行った。

 

 ーーーーーーー。

 

 「……やはり、来てしまったのか。ユリ。」

 

 天上に浮かぶ白い翼の美少年。

 

 対峙するのは瞳を紅く曇らせ牛鬼の影を纏う黒きつばさの美少女。

 

 果たされた再会はあまりにも虚しく、音一つ立てず静寂を演出する。

 

 刹那、二人の拳は閃光よりも早く激突し衝撃波を形成する。

 

 そこへ四つの光が舞い降り、姿を現す。

 

 「さっさと帰るぞ!馬鹿野郎!」

 

 「こんなところでいちゃついてんじゃないわよ。二人ともせっかちで勝手なのよね。」

 

 「昔のモモコより勝手じゃねえだろ。」

 「あ?なんか言った?」

 「なんでもないっす」

 

 「みんな若返って元気だねえ!…でも、そうだな。……迎えに来たよ!『幸理!』『真護!』」

 

 「お母さん!?」

 「鈴蘭!?」

 

 何故か戦闘をしていた二人。

 

 そんなふたりが取り乱すほどに衝撃的な光景。

 

 小学校五年生ぐらいの鈴蘭とジン、モモコ、カイがそこにはいた。

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