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#41 揺らぐ存在


 「アマノ!アマノ ・シンゴ!ねえ!知ってるでしょ?」

 

 「なんなのだ貴様。ここは宝物庫。許可なきものは通れぬ。」

 

 「むぅ!アンタ昔会ったことあるよね!?私と!」

 

 金色の和風な建物。記憶にまだ新しい天照の屋敷に向かったユリ。

 

 結果はこのとおり白い衣を纏った男に足止めをされている。

 

 男は至って真面目に役割を全うしている。

 

 「私よ!私!天稚彦!」

 

 「はぁ。あのなあ、そんな現世の服を巻き付けて子供の姿で言われてもな。」

 

 呆れたように答える男。確かにその通りだった。

 

 今のユリはチンチクリンと呼ぶ他ならない。

 

 身なりは神とも言い難く、幼すぎるその体。

 

 若干怪しい滑舌に、馬鹿さ加減の出る言葉遣い。

 

 誰が天稚彦と理解できようか。

 

 「あっそ。なら無理やり通るよ。どいて。」

 

 刹那、ユリは瞳を紅く染め上げ、右手を男にかざす。

 

 男ははいはい、と言いたげだったが、扉の端まで吹き飛ばされる。

 

 「かはっ!?」

 

 「早くどけないからだよ。その服寄越しな。」

 

 傲慢に自由に。

 

 魂か肉体か、退行したせいで、容赦がない。

 

 無理やり服を剥ぎ取り、自らに巻き付ける。

 

 「き、貴様ァ!!」

 

 男は怒りを露わにして立ち上がろうとする。

 

 「座ってろって。誰が立っていいって言った?」

 

 高圧的な言葉遣いにソレに従ってしまう言霊の力。

 

 明らかに現世にいた頃より力が増していた。

 

 「なっ!?」

 

 男は金縛りにでもあったかのように、その場で震え続ける。

 

 「宝物庫ねえ。だいぶ様子が変わったみたい。」

 

 問答無用で扉を開け、金色の神殿へと入っていく。

 

 ユリを迎え入れると突如扉は閉じる。

 

 そんなことは気にすることも無く、周りを見渡す。

 

 装飾が成された武器や防具、豪華な衣装、飾りが目立ったが、いちばん目に付いたのは目の前にそびえ立つ扉。

 

 機能は働いておらず、沈黙しているが、よく知っている。

 

 巨大な白い扉。

 

 まるで、ユリを見下すようにそびえ立つ圧倒的な存在感と古き記憶の再生。

 

 「……異界の門。これをしまい込んだから、行き来が大変になったのね。」

 

 ユリは納得してみせる。

 

 そのまま奥へと進む。

 

 

 細長い廊下を抜けると、ユリは口を開きニヤリと微笑む。

 

 『禁忌の宝珠 牛鬼』と記されていた。

 

 常世から牛鬼はアジスキタカヒコネによって盗まれた。

 

 今は二つに分かれた牛鬼はハジメと天野が所持していたはずだ。

 

 黒き漆黒の中心に目を引く青い光。

 

 ユリは吸い寄せられるように手に取る。

 

 「あぁ。シンゴの匂いがする……。」

 

 見た目は幼いはずなのに、想い人に思いを馳せる様子はなぜだか情欲を誘う。

 

 溢れ出る色気が狂気にも見える。

 

 頬を高揚させて、興奮しているのが分かる。

 

 片時も離れたことがないのだ。狂気なまでにユリは天野を思い続けている。

 

 ペロリとひと舐めすると、簡単にそれを飲み込む。

 

 「……フフ。」

 

 いとも簡単にそれを飲み込むと、弾ませながら歩みを進める。

 

 異常な光景の連続。

 

 常世に来てから明らかにユリの様子は常軌を逸していた。

 

 「これで残り香から、居場所が特定出来る。……まっててね。シンゴ。」

 

 堂々と正面から出ると兵士だろうか。男たちに囲まれる。

 

 「事情は聞いている。元の世界へ返してやるから、こちらへ来なさい。」

 

 「へえ。神人かあ。随分偉くなったね。……『私に指図するな』。」

 

 瞳を赤く染め、飲み込んだ牛鬼の影を背後に纏わせる。

 

 圧倒的なまでの存在感と強い言葉。

 

 男たちは階段から転げ落ちていく。

 

 「……お、おい!おまえ……何者だ?」

 

 先程身ぐるみを剥がされたオトコが震えながら、ユリに問う。

 

 『天稚彦。……傲慢な堕ち神だよ。』

 

 その一言を聞いたあと、男の意識は途絶えた。

 

 ーーーーーー。

 

 ■□現世□■

 

 「じゃあ、そういうことでよろしくね。ハジメさん、ヒロ、ソラ」

 

 「はいよー。任せとき。」

 

 「ゆっくり買い物してくるといいよ。」

 

 「帰ってくる時は念の為連絡してくれ。」

 

 「うむ、ご苦労!健闘を祈るぞ。」

 

 「お前は邪魔なんだよ。なに歓迎された顔してんだ。」

 

 「まあ幼いから仕方あるまい。」

 

 「なぬ!?盛大な出迎えでは無いのか!?」

 

 「はいはい。行きますよ。」

 

 寮の玄関先で繰り広げれる会話。

 

 優とクロエは出掛ける様子だ。

 

 クロエがこの世界で暮らしていけるように買い物やらをする予定だ。

 

 その間残ったソラ、ヒロ、ハジメ、タケル、モミジで鈴蘭を出迎える。

 

 そういう手筈だ。

 

 クロエの件がバレれば、色々と面倒なことになる。

 

 しかし、ユリのことを放置する訳にも行かない。

 

 専門家である彼らに協力を煽る他ないのだ。

 

 

 「それじゃ、行ってきます。」

 

 「行ってらっしゃい。」

 

 ーーーーーー。

 

 「それで?我をどこに連れ出す気だ?」

 

 「デパート。服とか小物とかは早いからね。って言っても近所の比較的値段が安めのところだけど。」

 

 「ほう?department storeだな。」

 

 「なんで英語?」

 

 「業界人と言うやつだ。この世界では共通言語なのだろう?昔国を訪れた時に海の外も回るべきだったな。」

 

 「そういえば、神様って国とかによって信仰違うじゃない?そういうのってどうなってるの?」

 

 「知らぬな。我らは常世から来た。常世の神が現世で日本を作った。それ以上も以下もない。」

 

 「つまんないの。一説によるとその当時の教育や国力を誇示する役割だったって話だけど。そういうものなのかな。」

 

 「さあな。いるのではないか?我も常世全てを知っているわけじゃない。もしかしたら、我が知っていたのはほんの一部なのかもしれぬ。……もしかしたら、無数に世界はあるのかもしれぬしな。」

 

 「よく言うよね。世界線とかパラレルワールドとか世界層とかよくわかんないけど。」

 

 何も考えず、思いついた話を続ける二人。

 

 ボーッと歩いていると近所のデパートが見えてくる。

 

 「ほら、ついたよ。」

 

 「ほほう?中々のものじゃないか。我を楽しませてくれよ?」

 

 ーーーーーー。

 

 「ふむ。なるほどな。これは素晴らしい。ここに来るだけで大体の文化体系が理解出来る。」

 

 エレベーター、エスカレータ、立ち並ぶ無数の飲食店に、食品売り場。

 

 行き交う人々に雑貨、娯楽施設、服や装飾品の数々。

 

 扉を抜けただけで全てが視界に入るように構成された縦長の空間。

 

 照明の数々に、照らされてどこもかしこも星のように煌めく。

 

 「……良き時代になったな。」

 

 「そう?……悪意はまだ残るよ。」

 

 「……知っているか。現世は神に見放されたのだ。天稚彦の死亡によってな。」

 

 「天稚彦って……ユリのこと?」

 

 「そう。現世を平定しに行った神の裏切り。……そして、絶え間なく争う人々。剥き出しの欲望と貧困にあえぐ人々。……あの時よりはマシになっただろう?」

 

 「…そう……なのかもね。」

 

 「不満があるなら、貴様なりのやり方で変えていけばいい。そうやってうつり変わってきたのだろう?人間は。……我は今そう思った。さ、shoppingと行こうでは無いか。」

 

 「……ふふ、また英語?」

 

 優は微笑みながら、クロエの後にやれやれとついて行くのであった。

 

 悪意に満ちたクロエの姿はもうない。

 

 冷静に人間になった肉体とこの世界を見守る瞳は正しく神であった。

 

 優はどこか世界を忌み嫌った自分とクロエを重ねていた。

 

 だが、もう違うのかもしれない。どこか心配していたが、安堵する。道は違えたが、クロエに共感してしまう部分もあったからだ。どうしてもどうにかしてあげたいと優は思ってしまう。


しかしながら、心配は無用だろうか。彼女もようやく穏やかな表情をするようになった。

 

 まだまだ理不尽が横行する世界。

 

 それでも優は勝ち取ったこの世界が間違いでは無いと確信できたのであった。

 

 ーーーーー。

 

 買い物を終えて待ち合わせのカフェに寄る。

 

 待ち人はカレンと大地だ。

 

 クロエをこの世界に住まわせるために諸々手を回してくれたようだ。

 

 「こっちだよー!」

 

 店に入るや否や、二人が手招きをする。

 

 落ち着いた空気の店内。優たちは椅子に腰かけ、荷物おきに紙袋とレジ袋を3つほど入れる。

 

 落ち着いてきたところで、注文を済ませる。ジャズミュージックとコーヒーを嗜みながら会話が開始された。

 

 「色々手続きは住んでて。書類渡しておきますね。」

 

 大地がカバンからA4のファイルを取り出しクロエに渡す。

 

 クロエは目を通すことなく、先程購入した手提げカバンにしまい込む。

 

 「読まないの?」

 

 「書類など。手に触れただけで理解出来る。……体は人間でも魂のあり方はそう簡単には変わらんのよ。……礼を言おう、大地。感謝する。」


大地はこくりと頷きニコッと微笑む。

 

 「なるほどね。」

 

 優は納得してみせるとコーヒーを口にする。

 

 「うげ……」

 

 苦手だったのか砂糖とミルクをふんだんに入れてかき混ぜる。

 

 「うえ…最初から甘いのにすればいいのに。」

 

 「……飲んでみたかったの!」

 

 対するカレンはみかんのフルーツシェイクを飲んでいた。

 

 中にクリームやミルクも入っていて見るからに甘そうだ。

 

 「あ〜おいしっ!」

 

 「それちょうだい」

 「やだ。」

 

 「お子ちゃまだな。」

 

 お前がなと突っ込まれそうだが、クロエはアイスコーヒーを口にしながら味に浸る。

 

 ふふっと笑いながらアメリカンコーヒーを口にする大地。

 

 ーーーーー。

 「でも驚いたよ。ユリに連絡してもぜんぜん連絡なくて。まさか常世に旅立つなんて。」

 

 切り出したのはカレンであった。

 

 優からクロエの件とユリの件を連絡したことで急遽集まることになったのだ。

 

 しかしさすがに急すぎて集まるのが1週間後になってしまったが。

 

 「せっかちすぎるのよね。まあ今更かもしれないけど。常世の行き方昔の文献に載ってたよ。」

 

 カレンは言いながら古びた文献を広げる。

 

 焼け焦げたような色で文字もかすれている。

 

 「ひっどい、ボロボロね。」

 

 「焼かれてますからね。百合野は。」

 

 「まあまあ、読み取れた部分の内容だけでも聞いてよ。『ここ現世なりて。世界は複数あり。神の国へ至るために記す。神この地に幾度なりて降臨せし。行き方は雑念を捨て邪を滅せよ、道開かれるもの童か、それとも無垢なるものか』って感じ。」

 

 曖昧で理解し難い文面である。まるで考察をしているかのような文面だ。

 

 書いたものは神にすがる思いでもあったのだろうか。

 

 「まあ、当ってるのではないか?」

 

 クロエが口を開き本に触れる。

 

 「なるほどな。……神に子供を連れされる事件が頻発したらしい。純粋無垢な子供はたびたび常世に迷い込んでいた。ようは神隠しだな。」

 

 本の内容を理解すると、手を離し満足気な顔で言うクロエ。

 

 「てか、あんたいるなら最初からあんたに聞けば解決じゃない。私の努力は一体。」

 

 不貞腐れるカレン。優しくアタマを撫でる大地。

 

 「怒らないで。これを持ってこなれば分からなかったことだから。」

 

 「……うん。ありがとう」

 

 どこか仲睦まじい二人。

 

 「へぇ」と声が出る優。

 

 その様子に頬が赤くなるカレンはジュースを飲み外へと視線を送る。照れているのだろうか。

 

 「じゃあ次は僕ですね。色々聞いてみて分かりましたけど。常世と現世は神ならば行き来は簡単だそうです。なので、天野くんもお嬢様も間違いなく常世には行けたでしょう。ただ僕が疑問に思ったのはクロエさんを封じたあともかたくなに当主達は常世と繋がるのを恐れているようでした。……クロエさんなにか分かりますか?」

 

 大地はある程度、推察を立てた上で、答え合わせをしているように見えた。

 

 「なるほど。だから我の身辺を整えたわけか。……そういう方が信頼出来るがな。……いいだろう。教えてやる。」

 

 納得してみせるクロエ。

 

 全員が息を飲んだ。

 

 「魂のあり方は変わらない。だが、肉体は精神に影響する。

 

 我が子供になったのは、肉体が人間だったからだ。……つまり、同様のことがユリにも起きたはずだ。

 

 神に戻るためには邪心を捨て魂を洗浄する必要がある。文献にもあったな?

 

 ……長く現世にいたユリはどこまで影響を受けたかは分からないが、長く常世にいれば

 

 いずれ退行が進みどうなるかわからない。記憶を失うか、自我を失うか、肉体を失うか。最悪の場合魂を失うか。


……それだけ肉体と精神は密接で危険ということだ。……いくら、元神であっても肉体がついて行かないのだ。……我のようにな。」

 

 全員が呼吸を忘れクロエの話に絶句する。

 

 クロエから語られた真実。

 

 つまりそれは、一刻も早くユリを助けなければならないということを意味していた。

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