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#39 消失と邂逅


 「常世に行きたいって言うけどよ。どうやって行くんだ?」

 

 当然の疑問であった。

 

 行きたいからと言って簡単に行ける場所ではない。

 

 「私は神だった時常世にあった扉をくぐっただけ。あんたは常世から現世へ、現世から常世、常世から現世常世に行ってるよね?」

 

 「……ああ。そうなるな。」

 

 記憶を巡りながら答えるハジメ。

 

 初めは酒呑童子が牛鬼を喰らい、暴走してしまった時、天照によって現世に送られた。

 

 その後道満と頼光に牛鬼を倒され、常世に戻った。

 

 最後は居場所を失った常世から逃げるように優の悪意に引き寄せられた。

 

 どれも受動的で本人の意思によるものでは無い。

 

 「さあ!どうやって移動してきたの!?」

 

 普段頭の回るユリであるが、今回は突発過ぎた。

 

 ハジメに丸投げではないか。

 

 瞳を輝かせて期待しているようだ。

 

 「すまん……俺もあんま、お前と変わらん。扉通っただけだ。」

 

 「えぇえ。それどうやって出すのよ。」

 

 「昔みたいに出っぱなしじゃねえからな。」

 

 そんなこんなで頭を悩ませる2人。すると、意外な人物の声が聞こえてくる。

 

 「まったく。騒がしいと思ったら、バカ二人でなにやってんのさね。」

 

 階段から降りてくるモミジ。呆れた顔で、見つめてくる。

 

 「いや、だってわかんないじゃん。」

 

 子供のように不貞腐れるユリ。今は機嫌取りをしてくれる天野が居ないため普段見せていなかったユリの表情が見える。

 

 「ばかか。わたしはどうやってきた?ハジメは?それがもう答えだろう?」

 

 「あっ……優なら扉開けるのか!」

 

 「もしくは……お前の母親だな。黒ユリ倒した時開いてたろ?」

 

 続いてタケルも会話に参加する。疲れた様子でモミジにもたれ掛かる。

 

 「黒ユリって言い方嫌ね。クロエね。」

 

 自分とクロエの容姿が似ているのが不快になり、訂正を求める。

 

 「おん、すまん。すまん。……おぇえ。」

 

 具合悪そうに答えると、タケルは嗚咽をしてみせる。

 

 「お前……大丈夫か?」

 

 ハジメが心配そうに見つめ声をかける。明らかにタケルは具合悪そうだ。

 

 「気にするな。これはただの二日酔いだ。」

 

 モミジがため息をつきながら、タケルの耳を引っ張る。

 

 「あたたたたたた!!!」

 

 「何処の百裂拳だ。ほら、水飲んだら部屋行くぞ。」

 

 「嫌だ!仕事したくない!」

 

 「馬鹿みたいに飲むから辛くなるんだ。むかしのハジメじゃないんだから。やめろ。」

 

 「お、おい。あんまタケルに無理させんなよ?」

 

 「真面目にやれば、すぐ終わるのにこいつはヒロに甘えて仕事しないのさ。アンタも言ってやってくれ。」

 

 「助けてくれぇぇぇぇぇ!オレは働きたくないんだ!!!」

 

 「現世で生きていくんだろ!なら、金を稼げ!バカモノが!」

 

 「嫌だから!配信!オレ、イケメンだからお金貰えんの!無理でもほら、格闘技とかさ!」

 

 「……変な虫がついたら、燃やす。格闘技は相手が死ぬ。」

 

 「は?なんだよそれ。意味わかんねえ。」

 

 ーーーーーー。

 

 ブツブツと言い争いをしながら二人は部屋へと戻って行った。

 

 「え?あの二人ってやっぱりそういう感じ?」

 

 「どうなんだろ、お互いに無くてはならない存在。そんな感じだな。」

 

 「ふーん。」

 

 仲の良い二人。無くてはならない存在。

 

 その言葉に自分にとっては天野だと再認識させられる。

 

 「んで、優に聞いてみんのか?」

 

 「もちろん。」

 

 「また、怒られねえか?せっかくもろもろ片付いたのに面倒事増えるのはごめんだぜ?」

 

 「バレなきゃ大丈夫よ。扉開いて移動するだけならこれまで、色んな人がやってきたんだから。」

 

 「バレずにってどうすんだ?」

 

 「ここの寮はわたしが悪巧みにするにはうってつけなのよ。」

 

 ユリはニヤリと不敵な笑みを浮かべる。ハジメは不安そうな顔で見つめる。

 

 「おいおい、本当に大丈夫……か?」

 

 「私を誰だと思ってるの?琴上幸理よ?」

 

 どこから湧いてくるのか分からない自信。

 

 これまで成功体験の賜物だろうか。

 

 それとも切羽詰まった焦りだろうか。

 

 どちらにせよ、今のユリは活力に満ち溢れている。

 

 どんな行動もがむしゃらに起こしてしまうだろう。

 

 それもこれも今までブレーキの役割を果たし担ってきた天野が居ないために。

 

 記憶は無いが、確かにハジメはユリを止められる気がしなかった。

 

 今までどうしていたのか段々と辻褄が合わなくなってきている。

 

 ハジメはようやく、天野の存在を理解出来てきたように感じる。

 

 目立たないようで、いつも上手に立ち回る青年。

 

 そういった存在がユリの傍らにいた気がする。

 

 そうじゃない今のユリは不安定で見ていて落ち着かない。

 

 ーーーーーー。

 

 「常世……か。」

 

 ハジメの脳裏に過去の出来事が再生される。

 

 楽しかった思い出、戦いの日々、裏切られた記憶、辛い記憶、豪快に酒を飲み人を喰らう醜い自分の姿。

 

 後悔が沢山残る場所。

 

 今はもう手が付けられない乱れた場所。

 

 自分が乱した1人でもあること。

 

 過去の栄光と叶えられなかった夢。

 

 ハジメは少しホームシックとも言えない感情を孕んでいた。

 ーーーーーーー。

 

 翌日。

 

 「で、集まったわけよ!協力して欲しい!お願い!」

 

 「え、あ、うん。でも謎のメンバーだね。何すればいいの?」

 

 「あ、大地さんも来たんですね!よろしくお願いします!」

 

 「えっと。お嬢様に呼ばれて。……カレンさんお久しぶりですね。」

 

 唐突に集められたのは優、カレン、大地の3人であった。

 

 困惑しつつも受け入れる優。

 

 とりあえず、挨拶を済ませるカレンと大地。

 

 特殊なメンバーに不安そうに見つめるハジメ。

 

 「ほら、なに突っ立ってるのよ?アンタもよ。ハジメ。」

 

 「はぁあ?なんで俺も?てか何すんのか説明してくれ。」

 

 「ふっふーん!聴いて驚きなさい!まずは優に常世のゲートを開いてもらうわ!境界線が緩くなることで、ハジメは恐らく天野と干渉できるはず!大まかに場所を私に伝える!そして大地さんには隠蔽の力で、百合野やお母さん達にバレないようにすること!そして最後、カレンは上手く周りに言い訳をして欲しい!」

 

 「何が聞いて驚けだ。とんでも計画じゃねえか。俺と優に関しては出来るかどうかも分からない。大地は協力してくれるかどうかも微妙だ。……最後にカレンに対してが1番適当だ。」

 

 勝ち誇った顔で宣言したユリをハジメが一蹴する。

 

 自信に満ち溢れた顔がみるみるうちに歪み、口を尖らせる。

 

 「しょうがないじゃん?これしか浮かばなかったのよ!」

 

 「いやいや、ユリちゃん。私の扱い雑だよね?これでも幌先の人間なんだからね。」

 

 「僕はあまり賛成できない案です。少なくとも鈴蘭さんや当主、兄さんや義理姉さんが禁止していたんです。何かしらのリスクがあるとしか。」

 

 「私は……できることなら、協力したいけど。……危ないことは積極的には行いたくないな。別の方法もあるかもしれないし、なにより情報が少ないよ。」

 

 「…あっはは。だよね。ちょっとできるか試したかったのよ。急に集めてごめん。」

 

 「……ん?」

 

 偉く簡単に引き下がるユリに違和感を覚える。さすがに焦りすぎていたのだろうか。

 

 「まあ、でも実際優は2回ほど扉開いているし、くぐり抜けたハジメさんやモミジさんは普通に生活してる。出来ないこともないと思う。……少し時間をくれたら、調べることもできるよ。」

 

 カレンは自分の考えを口にする。今すぐにでは無いが、協力出来る姿勢だ。

 

 「ありがとう、カレン。頼むよ。」

 

 「私は色々試してみるね。…ほら、最近力使ってないから、なまってるかもだし。」

 

 「別に協力しないってわけじゃねえんだ。俺らの仲間のことだ。もうすこしゆっくりでもいいんじゃないか?」

 

 「そうね、ありがとう。」

 

 「僕も今回の件には後ろめたさがあります。当主たちには黙っておきますよ。……僕も色々調べてみます。」

 

 「ありがとう。みんなと巡り会えて本当に良かったと思うよ。」

 

 ユリは落ち込みつつも、協力を惜しまない姿勢に感謝する。

 

 「……私はみんなに何もしていないのにさ。こんなに協力してもらって。……いつも私は周りのことなんて考えずに……」

 

 「そんなこと言わないの。そういうの抜きにしても支え合うのが『友達』なんだよ?」

 

 肩を落とし、自分の傲慢さを恥じるユリ。

 

 その手を優しく握り、微笑む優。

 

 「それに何もしてないなんてことないよ。いつも一緒に戦ってきたじゃん。遊びにも行ったしさ。天野さん?も戻ってきたらパーッと遊ぼうよ!」

 

 「……うん。本当に……ありがとう。」

 

 ーーーーーー。

 

 その日の夜。

 

 「……。バイバイみんな。……私はみんなを危険に晒すのも違うと思ってしまった。シンゴ以外で初めて。こんなにも愛おしく感じる場所は。……でも、それでも、私は。」

 

 寮の扉は優しく開かれ、音もなく閉じられる。

 

 夜の静寂が寂しく、また気持ちをゆっくりと丸裸にしていく。

 

 ーーーーーー。

 

 「天緑山。天狗が暴れたことで有名な山。サクヤ。……サグメと一緒に救った町。……天狗、天野のもう片割れ。ここなら、たどり着けるかもしれない。」

 

 刹那、導きのように月光がユリを照らす。

 

 美しいその姿は大地に咲く一輪の花。

 

 月の光の力を得て、今天に帰ろうとしている。

 

 かぐや姫を彷彿とさせるような趣深い光景が形成される。

 

 「今行くからね。…シンゴ。」

 

 ゆっくりと地面に手をかざし、土地の記憶を読み解く。

 

 蘇っていく記憶。

 

 土地の歩んだ歴史。

 

 時間の境目が歪さをまし、世界との繋がりが不安定となる。

 

 術式のような円陣が薄紫色のあやしいひかりを放つ。

 

 月光と相まって、幻想的な光景が演出される。

 

 「シンゴにできて、お母さんに出来て、優にできて、わたしにできないわけが無い!!」

 

 強い決意で開眼する瞳。

 

 徐々に蓄えられた霊力が術式に注がれる。

 

 「開いてよ!開けよ!扉!!!」

 

 刹那、ユリの心臓が大きく飛び跳ねる。

 

 「かはっ!?」

 

 ドクン、ドクン。

 

 脈打ち加速していく心音。

 

 「ごぶっ!?」

 

 込み上げてくる血液に耐えきれず、吐血しまう。

 

 瞳も何かに引っ張られるように充血していく。

 

 「カァカァ!!」

 

 漆黒の夜を怪しく染め上げるカラスの声。

 

 「っあ!ああっ!!」

 

 月光が強くなり、体に熱を帯びていく。

 

 「くっ!?あっあああああああっ!!!!」

 

 ユリの悲鳴と苦痛の声が木霊する。

 

 いとも簡単に地面が裂け深淵が目の前に出現する。

 

 「これで……やっと。」

 

 そのまま、体を落とすように滑り込むユリ。

 

 数刻の時が流れ、ゆっくりと扉はユリをつつみ、閉じられる。

 

 ーーーーーー。

 

 「はぁはぁ!!!っ!?」

 

 飛び上がるハジメ。肉体を蝕むように汗が止まらない。

 

 鼓動も早まり、記憶が蘇る。

 

 「……あま、の、っ!?天野!!!」

 

 何も無い空間に手だけを伸ばし意識が覚醒していく。

 

 「なんで、忘れてんだ。……違う、ユリに伝えなければ!」

 

 ーーーーー。

 

 「ユリ?こんな時間にすまん、天野の場所がわかったんだ!」

 

 ノックしても返事がない。ユリは不眠気味でいつもなら、起きている時間だ。

 

 「すまん、開けるぞ?」

 

 だが、開けようとした扉に違和感が走る。

 

 「……あいて……る?」

 

 「あっ!ハジメさん!大変なんです!私力が使えなくなってて!!」

 

 開けた部屋に吹き抜ける風。

 

 違和感と焦燥感。

 

 そして、突然優が背後から話しかけてくる。

 

 「え?力が……?」

 

 「あ、えっと。ユリに何が用事ですか?」

 

 「ああ、天野の記憶が戻ってな。居場所もわかったんだ。確かに『常世』にいる。」

 

 「なんだ。我は疲れているのに。やかましいな。」

 

 ユリの部屋から声が聞こえ、優とハジメは絶句する。

 

 褐色の肌に黒髪。

 

 ユリのように幼い顔立ちなのに何故か目を奪われる美貌。

 

 華奢な肉体に聞き覚えのある言葉遣い。

 

 「なっ!?クロエ!?」

 

 「よぅ。久しいな、酒呑童子。…そして『真城優』?」

 

 常世に旅立ったユリ。

 

 唐突に戻った記憶。

 

 失われた優の力。

 

 目の前に現れたクロエ。

 

 多くの事象が起こり加速していく運命。

 

 この先に何が待っているのだろうか。

 

 常世にいる天野に出会うことはできるのだろうか。

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