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#38 回り出す歯車


 「シンゴって……誰のこと?」

 

 「……え?」

 

 ユリは開いた口が塞がらない様子で衝撃を受けている。

 

 さすがの優とカレンも、ただ事では無い事が起きているのが伝わった。

 

 硬直した表情のまま、ポロポロと溢れ出る涙。

 

 涙の理由。

 

 優がこんな冗談を言うはずはない。

 

 本当にこの世界から天野が消えてしまった、と理解出来てしまったのだ。

 

 なにも知らず。否、気がつく隙もなく、天野真護はこの世界から消失した。

 

 「……ごめ……ん。わすれて?……なんでもないから。」

 

 絞り出すように漏れ出すユリの掠れた声。

 

 「っ!」

 

 優はそんな彼女を放っておける人間では無い。

 

 優しく包み込むように、ユリを抱き寄せる。

 

 「そんな顔されて。放っておけないよ?……聞くからちゃんと。ひとりで抱えたらダメ。……おしえて?」

 

 優は優しく言葉を紡ぐ。

 

 言葉を選んでいるのではない。

 

 自然と紡がれる言葉。ユリは涙で濡れた顔を優にそっと押し付ける。

 

 「……うん。お願い……きいて。……私の『好きな人』の話を。」

 

 カレンはそっと2人のやり取りを見つめる。

 

 暖かい空間。自然と微笑みが生まれる。辛いことも、怖いこともここなら受け入れてくれる。そんな安心感。

 

 この寮に来れて、本当に良かったとそう思うのであった。

 

 ーーーー。

 

 「……天邪鬼に天探女、天野真護……ねえ。」

 

 落ち着いたユリの話を聞き終える面々。

 

 ハジメは頭を抱えながら、思考をめぐらせていた。

 

 各々にごはんを食べたり、お酒を飲んだり自由にだが、真剣にユリの話を聞いていた。

 

 それぞれが落ち着ける行動を探しながら、ユリの話に耳を傾けていたというのが正しいだろうか。

 

 「まずは確定していることを整理しましょう。」

 

 「確定していること?私はまるで何もわからない。」

 

 話し終えたユリに、話しを振るヒロ。

 

 なにか思い当たることがあるのだろうか。内容を整理するように促す。

 

 「簡単です。ユリさんからみれば、『なにも分からない』が状況です。でもそれってユリさんだからなんです。視点を変えてみてください。僕たちには共通して『シンゴさん』の記憶が無い。でもユリさんにはある……ということです。」

 

 「確かに。一緒に行動していたはずなのに、ユリにだけはある。」

 

 「その考えで行くなら、私たちの歴史や関係性にも変わる点があるはず。その人はずっと、一緒に戦ってきたんでしょ?」

 

 たったひとつ見方を変えるだけで、思考の幅が広がる。

 

 溢れ出るようにソラが仮説を立て、ユリに確認をとる。

 

 「ええ、目立つ記憶としては。一度ソラのことを説得したり、クロエの一件の際過去に囚われたみんなを救ったり、百合野の一件では私はシンゴと戦ってる。……あとは後に聞いたけど、牛鬼の件でハジメが落ち込んでいる時に殴り合いをしたとか何とかって。」

 

 話の中に登場した当事者たちはそれぞれに眉を顰める。

 

 自分の記憶と照らし合わせるが、上手く一致しないことが伺える。

 

 「俺の記憶がみんなと同じなら、ソラのことを説得したのはユリだった。クロエの件でみんなを呼び戻したのは俺。百合野の一件の時はユリは俺たちと一緒に戦ってた。…殴り合いは記憶にないな。雨の中川で叫びまくった記憶はあるけど。」

 

 「私たちと相違ない記憶だ。なあ、タケル?」

 

 「だな、ハジメの記憶がしっくりくる。」

 

 周りの面々も同意するように頷く。

 

 「……つまり、結果は変わらず、シンゴが介入した過程だけが捻じ曲がってる……ってこと?」

 

 「そういうことだと思う。……ちなみにさっき言ってた天邪鬼や天探女については幌先や百合野・琴上で起きたことと変わりは無いよ。」

 

 幌先の人間であるカレンが大きく歴史は変わってないことを伝えてくれる。

 

 「と、いうことは。転生して『天野真護』として生まれてきた部分が修正されたってことね。」

 

 つい先程、泣いていた少女とは思えないほど冷静さを取り戻していた。

 

 もう泣いても仕方がない。なんとかして、解決の糸口を探し、問題の究明を急ごうとしているのが伝わる。

 

 「ありがとう……みんな。すこし私なりに動いてみるよ。」

 

 「力になれることがあったら、いつでも頼ってね。」

 

 「過程は違えど、鬼なんだ。俺にもできることがあるかもしれん。燻ってた時助けてもらったんなら、礼は返さないといけねえしな。」

 

 「それを言うなら、私たち全員クロエにやられてるし。その天野って人が陰ながら助けてくれたのは本当なのよ。」

 

 「百合野は関与していないと思うけど。一応、調べてみるね。」

 

 「ありがとうみんな。」

 

 ユリは心の底から笑顔になる。

 

 今まで、強くみんなと関わってきた訳じゃない。

 

 ただ、なんとなく居心地がよかったから、流されてここにいた。

 

 それだけなのに、みんなはどこまでも優しく寄り添ってくれる。

 

 「この恩は……かならず。」

 

 ユリは強く決意をするのであった。

 

 天野を取り戻した暁には、一生を賭けてでも、彼らのためになることをしよう。そう胸に誓った。

 

 

 ーーーーーーー。

 

 

 

 「……事象が捻じ曲がる、簡単に。……私だけが違った。」

 

 ヒロのアドバイスにより状況をクリアにすることが出来た。

 

 そのおかげで、とある異能の力にたどり着く。

 

 『平穏と隠蔽の化け狸』。野村大地が器として機能している妖怪の力だ。

 

 ハジメやタケル、紅葉などをこの世界に適合させるほどの力。

 

 他にも説明のつかない不可解な事象を人間の目に観測しやすい形で改変する。

 

 さらに全妖怪の調停をになっており、モモコの扱う『均衡と天秤の天狗』の力も重なれば、この世のどんな事でも都合よくねじ曲げられると言っても過言では無い。

 

 「琴上に行こう。大地さんなら、何か知っているはずだ。」

 

 ーーーーーー。

 

 翌日早朝に起きたユリは簡単に身支度を終えると、出発する。

 

 最低限お金とスマホを持った程度。

 

 傍から見ても急いでいることが分かる。

 

 学校にも行かなければならない。琴上の家に急がなければならない。日中大地は保育園で保育士をしている。

 

 輝がいない間は仕事をしているのだ。

 

 そのため出勤する前に、話をする必要があった。

 

 バスを使えば数分でたどり着ける場所に琴上の家はある。

 

 しかしそんな時間もユリには足りない気がした。

 

 能力を最大限利用し、加速する。

 

 そのまま塀や壁を乗り越え民家を飛び越えていく。

 

 とにかく時間が惜しい。

 

 一応日常のことも頭にはあるが、全ての事柄がどうでもいいほどに時間が惜しい。

 

 きっと大地に出会い、天野の居場所が分かれば、すぐにでも日常を放って飛び出すつもりなのだろう。

 

 そう思うほどに、彼女は疾風のごとく進んでいく。

 

 「……っとと。ついたか」

 

 長く白い階段が見えて足を止める。

 

 階段を超えた先に見える鳥居。

 

 目的地はもうすぐだ。

 

 「……姉貴?」

 

 刹那、背後から見知った声が聞こえて、振り返る。

 

 早朝のトレーニングだろうか。タオルを首から垂らし汗を流した少年、輝と出会う。

 

 半袖に短パン。いくら中学生になったばかりとは言え、少々子供っぽい服装だ。

 

 それだけ何にもかまけず、修行に取り組んできたのだろう。

 

 少し胸が痛む。

 

 彼を追い詰めてきたのは自分であると知っているから。

 

 「大地さんに用があるの。まだいるかしら?」

 

 「ああ、掃除してるよ。……またなんかあったのか?」

 

 「ちょっと個人的にね。」

 

 「そうかよ。……大地も忙しいんだ。用が済んだら帰るんだな。」

 

 テルは話して貰えなかったのが、気に入らないのか不貞腐れたように口を尖らせる。

 

 「……そうね。あんたのお世話で忙しいものね。」

 

 そんなテルの嫌味にイラッときたのかユリも挑発に乗る。

 

 「……あ?」

 「…なに?」

 

 ふと出逢えばやはり、険悪な空気が流れる。私とも尊重しあっているのにまだ素直になれないところがある。

 

 一言余計に言葉が出てしまうのだ。

 

 「おーい!待ってよ!テル〜!」

 

 緊迫した空気が流れる中、輝の背後から可愛らしい少女が顔を覗かせる。

 

 「……ぜぇ、ぜぇ。一緒に……走るって……いったのにぃ。」

 

 「おせぇんだよ。おかげで姉貴と鉢合わせたじゃねえか。」

 

 「ええ!噂の天才、ユリさん!?……いないじゃない!テルの嘘つき!」

 

 「あ、……あれ?はぁ、もっかい走るか。」

 

 「えぇえ。もう疲れたよぉ!」

 

 「お前体力なさすぎ。」

 

 「お前って女の子に言わないの!桃華!モモちゃんって小学生の時は呼んでたじゃない!」

 

 「ば!やめろ!ほら、行くぞ!」

 

 「あっ!待ってってば〜!わたしもカイトにぃみたいに慕ってよ!」

 

 「カイトさんは特別なの。」

 

 「なにそれ〜!」

 

 ーーーーー。

 

 少年と少女。

 

 ふと、昔の自分と天野が頭によぎった。

 

 逃げるようにその場を後にしたのだ。

 

 楽しく日常に戻る面々に、自分だけが取り残されたと感じてしまう。

 

 平和になった世界。面倒な事柄も消えたはずなのに。

 

 ユリだけは、この世界に満足出来なかった。

 

 彼女にとっては何よりも彼といることに意味があったのだ。

 

 「テルにもそばに居てくれる同年代が出来たのね……。」

 

 ーーーーーー。

 

 階段を登り終えると、箒を手に取る大地が視界に入る。

 

 早朝の涼やかな風と、少しばかりの霧。

 

 目の前に立つ大地は一瞬驚いた、というような表情を浮かべる。

 

 しかし、すぐに表情を引き締まらせる。

 

 「……どのようなご要件で?」

 

 その様子を見て、一瞬で理解出来る。

 

 大地は何かを知っていたにも関わらず、黙っていたことを。

 

 ユリは気がついた時には大地の襟首を掴んでいた。

 

 「シンゴの居場所を教えなさい。世界の理を操れるあなたなら知っているのでしょう?」

 

 酷く冷静に、だけれど瞳の奥に強い決意と想い。

 

 締めあげられる手により一層力が込められる。

 

 「お嬢様様がお望みの答えは持ち合わせていません。……お帰りを。」

 

 「……殺すわよ?」

 

 「……お好きにどうぞ。」

 

 ユリの眼光はどこまでも鋭く、容赦ないことを意味する。

 

 本当に殺そうとしているのがわかる。

 

 その瞳を見ても大地は表情ひとつ変えず、ユリから瞳をそらすことは無い。

 

 ユリは全身に霊力を滾らせる。

 

 左手に全霊力を注ぎ込み、大地の服部に叩き込む。

 

 『やめなさい。』

 

 「っ!?」

 

 刹那、脳に語りかけるように鈴蘭の声が響き渡りユリの拳は空を切る。

 

 「っあ!?」

 

 運動エネルギーが変換され吹き飛ぶ大地。

 

 すれ違うように通り抜けるユリ。そのまま、力無く地べたに倒れ込む。

 

 

 

 勢い余って、息が吸えなくなるユリ。横たわりながら過呼吸を起こす。

 

 「はぁーはぁーはぁー。」

 

 落ち着かせるように呼吸を繰り返す。

 

 屋敷の門が開かれ中から鈴蘭が出てくる。

 

 「一気に全力の霊力を解き放とうとするからよ。」

 

 「ケフッケホッ!……お母さん!……どうして!」

 

 「大地くんはなにも嘘をついていない。本当に知らないのよ。天野くんがどこに消えたのか。」

 

 「……え?どうして?どうしてお母さんは覚えているの?」

 

 「はぁ。さっきその辺で輝に会わなかったの?」

 

 「会ったけど。」

 

 「輝も覚えてるわよ。」

 

 「……なっ!?」

 

 ユリは額に手を当てて、苦悶の表情を浮かべる。

 

 言いようのない怒りが込み上げてくる。

 

 輝にもきっと記憶はない。言っても無駄だ。

 

 何も手がかりはない。

 

 早く、大地のところに行かなければ。

 

 そんな思考だった。

 

 そのために、先に入れることのできた情報を遅れて手に入れた。

 

 ヒロに視点を広げるというアドバイスを貰い、そこから思考をふくらませる術をソラから学び、落ち着き人を頼ることを優から学んだばかりなのに。

 

 なにも活かせていない。

 

 自分の不甲斐なさに苛立ちが沸く。

 

 「……優たちの記憶を捻じ曲げたのは化け狸の力ですか?」

 

 「……その通りです。」

 

 ユリは一度落ち着きを取り戻すと、質問の仕方を変える。

 

 鈴蘭は腕組みをしながら、コクコクと頷く。

 

 「不思議なことに歴史の流れが少しだけ、変わったんです。天野くんが消失した後にね。だから、記憶もそれに合わせて修正する必要があった。そうしないと、体と精神のバランスが保てなくなる。」

 

 「なら、私の記憶が変わらなかったのは?」

 

 「お嬢様の記憶を弄ると、世界の歴史が大きく変わったんです。……世界崩壊の可能性まで生まれた。だからいじることが出来なかった。お嬢様にとって天野くんが居ないとお嬢様の人間性自体に大きな影響が生まれる。そして、力を持つあなたは世界を崩壊させるほどの予測できない可能性を秘めていた。」

 

 「…そう、そういうこと。」

 

 体を起こし、体育座りをとるユリ。

  そのまま、頭をうずめる。

 

 記憶に周囲と齟齬が生まれたのはそれが原因。

 

 本来であるなら、ユリも記憶を修正する必要があったが、適応されなかった理由だ。

 

 自分には天野を救う何かがあると、踏んでいたために酷く落ち込む。

 

 「ね、どうしようも無いでしょ?」

 

 「でもどうして、お母さんや輝には影響しなかったの?」

 

 「それは、分からないけど。歴史が主に改変されたのは優、ハジメ、ソラ、ヒロ、カレン、タケル、モミジだけだったのよ。だから百合野の人も記憶あるし、当然お父さんも記憶ある。」

 

 「でも……。私帰ります。朝早くからすみませんでした。……あと殴ろうとしてごめんなさい。」


「気にしなくていいですよ。力になれなくて申し訳ありません。」

 

 「また来なさい。周囲と異なるものを持っていると苦しみは多い。……お母さんはそうだったから。」

 

 「……はい。」

 

 ユリは方を落としながら、階段を降りてゆく。

 

 天野の居場所が分からないなら、意味が無い。

 

 不安要素や分からないことが増えただけと言わんばかりな背中だ。

 

 ーーーーーー。

 

 「どうして言わなかったんです?記憶を失った共通点を。」

 

 「言わない方が……いや、本人が求めていなかったからね。」

 

 「もし、カレの居場所を知ってマシロさん達のチカラを欲しったら?」

 

 「……気が付かないことを祈るしかないわね。せっかく普通の生活が手に入ったのに。」

 

 「普通なんかよりも大切な人ものなんじゃないですか?」

 

 「分かってる。だから座敷童子と私とカイくん、モモコちゃん、ジンの五人で探しているんじゃない。」

 

 「……そうでしたね。でもいいんですか?おぼっちゃま。桃華ちゃんといい感じですよ?」

 

 「カイくんと桃子ちゃんの娘でテルが惚れないわけないでしょ。……私とジンが大好きな二人の子供なのよ?」

 

 「だからですよ。……おぼっちゃま、座敷童子とも仲良いから。揉めなきゃいいけど。」

 

 「……え?そういうこと有り得るの?」

 

 「年頃ですよ?」

 

 「いやいや。ユリみたいに一途になるように育てたつもりだけど?」

 

 「はあ。ジンさん、昔相当たらしこんでたのお忘れで?」

 

 「……あ。」

 

 少し会話の趣旨がズレる。

 

 そんな中ひるりと風が流れ、会話は終わりを告げた。

 

 ーーーーーー。

 

 「おお。おかえり。その様子じゃ進展なしか。」

 

 寮に戻るとハジメが出迎えてくれる。

 

 「まあ、少しは前進。でも本当にシンゴがどこにいるのかは分からない。この世界から消えたってのは本当みたい。」

 

 「そうか。学校は?休むのか?」

 

 「なんか、お母さんに秒でやられて疲れたし、休んじゃおうかな。」

 

 「……話聞きに行っただけなんだよな?」

 

 「そうよ?」

 

 「とんだジャジャ馬だな。」

 

 「なにか、軽食用意してよ。コーヒとパンでいいからさ。」

 

 「あいよ。テレビでも見て待ってろ。」

 

 「はーい。」

 

 言われてソファに横になり、くつろぐユリ。

 

 テレビのスイッチをリモコンで操作し電源をONにする。

 

 映し出された映像は、スーツを着たかしこまったコメンテーターと若いタレント。

 

 吹き出しにはとある不思議な研究について調査、と題されている。

 

 普段学校に行ってる時間。

 

 こういう番組は退屈なイメージがあるが、暇つぶしにはもってこいだ。

 

 「……ふーん。不思議な研究ね。」

 

 『今回はこちらの方々にお越しいただきました。』

 

 コメンテーターの人がテンション高く話終えると、スタジオに白衣を着こなした日本人の男性と、同じ白衣を着たハーフ顔の金髪男性、そして、華奢な体つきをした女性が登壇する。

 

 「ふーん。思ったより若いね。」

 

 体勢を崩してすこし見入ってしまう。

 

 いったいどんな研究なのだろうか。

 

 『へえ、変な研究っていうから、もっとおじさん達かと思いましたけど若いっすね!』

 

 失礼な口調で若いタレントがコメントする。少し自分と同じ感想を抱いていることに恥ずかしさを覚える。

 

 お前よりは年上だろ、なんだその話し方は。

 

 と、外面を良くするユリは苛立つ。

 

 『んじゃ!さっそく本題入ってもらってもいいすか!?あんま尺伸ばしても引き長とか言われるんで!』

 

 テンション高めで食い入る若いタレント。

 

 お前のそのコメントで長くなってる、先ずは自己紹介だろうが、進行遮るな。

 

 そんな苛立ちを覚えつつ、ユリは画面に視線を送る。

 

 『いやいや、まゆちゃん。まずは、自己紹介から、ね?』

 

 『うぃーす!』

 

 『あはは、元気いいですね。……では、AI研究を専門にしています。喜多見光真です。よろしく。』

 

 『どーも!皆さんコンニチハ!吉崎刃蘭です!物理学専攻でえーす!』

 

 『あ、えっと。奈良沢朱葉。脳科学専攻です。よろしくお願い致します。』

 

 自己紹介を終えるとVTRが流れる。それぞれにそれぞれの分野で賞を取っている三人が中心となってチームを結成して新たな研究を進めているとの事だった。

 

 『VTR見ましたけど、凄いっすね!なんでも出来るじゃないですか!そこまでして研究したいことってなんすか!』

 

 当然の疑問だった。

 

 三人はそれぞれの分野で活躍し、確かな実績を残している。それにもかかわらず新たな研究を始めたのだ。これ程興味深いものは無い。

 

 『皆さんはタイムマシンとか異世界って凄くワクワクするワードだと思いませんか?』

 

 『ええ、たしかに。最近流行ってますしね。異世界モノ。一昔前にはタイムトラベル系も流行りましたからね。』

 

 『最初は僕たちタイムマシンについて、調べていたんですよ。コウマはaiの技術に優れていたので、僕たちの物理演算に加えて架空のモノをデモンストレーションしたり、スキャンしたり予測したり、そういうことを行っていました!』

 

 『そんな中私達の世界において度々時間や空間が変わる周期があることがわかりました。まだ研究途中で証明には至れていませんが、時間という概念と空間が大きく変わったポイントにひとが現れると世界が大きく歪むんです。』

 

 『ほうほう、とても怖い話ですね。まゆちゃんもどうですか?』

 

 『ちんぷんかんぷん!わからん!簡単におねがーい!』

 

 『まあ要は時間がズレたり、人が勝手に移動したり。普通じゃありえないことが頻発してるってことですよ。』

 

 『そうそして。こないだ見つけてきたんですよ。異世界に行き、帰ってきた高校生3人を。』

 

 『高校生なので、名前は仮名ですが。リツくん、ノゾミちゃん、タックンの三人です。』

 

 『彼らが話す異世界ニュールドはとても信ぴょう性を帯びており、異世界転移した学校では数値的にも異常なものが沢山ありました。』

 

 『僕たちは!異世界の研究をしているのです!』

 

 ーーーーーー。

 

 「これだ!!!!」

 

 ユリは気がつくとソファからおり身を乗り出していた。

 

 「ハジメ!異世界……いえ!常世に行きたい!力を貸して!」

 

 「はぁあああああっ!?」

 

 ハジメはユリの突拍子もない話に素っ頓狂な声を上げる。

 

 百合は瞳を輝かせてテレビの中の研究者3人に礼を言う。

 

 「そうよ、世界はひとつじゃない!まだ終わっていないのよ!…上手くいったらあなた達に常世の話をしてあげるわ!」

 

 「こええよ、おまえ。何テレビと会話してんだ。」

 

 「これは大きな進展よ!あのシンゴならやりかねないわ!」

 

 ユリは期待に胸を踊らせるのであった。

 

 一つの視点に囚われがちな少女は何かにぶつかりながらも確実に歩みを進める。

 

 ただ、ひたすらに心の赴くまま純粋に。

 

 回り出した歯車はもう止まることを知らない。

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