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#36 憤怒の鬼 【大罪の七鬼】


 私の知っているカレンは、とても明るかった。活発で人当たりがよく、私もそれに救われていた。

 

 「はははは、初めまして。ああっ!?すみません!緊張してしまって!」

 

 「どうした、どうした!大丈夫だって!」

 

 初めての自己紹介。慣れない新たな生活。環境に適応するのが苦手な私は、とても緊張していた。

 

 案の定の自己紹介での、この有様。

 

 それをカレンは明るい空気で場を和ませてくれた。

 

 ほっとして、自然と笑顔が溢れた。

 

 大学生活が始まってすぐ、周りはグループを作り始めた。

 

 少人数のクラスのため、男子と女子は程よく距離をとった。

 

 社交辞令のようなやり取りで湧いている女子が大半。

 

 残りは余り物のように男子と仲良くするものもあれば、私のように孤立してしまう人もいた。

 

 私は今度こそはと思い、みんなの中へと積極的に入ったり、孤立している人を誘ったり、やってみた。

 

 今度こそは向き合ってみせると。

 

 傍から見ても無理をしているのが伝わっていたと思う。

 

 だんだんと私はおかしくなって行った。

 

 ちょうど、牛鬼やヒロのことで思い悩んでいた時期とかなっていたのもあるが。

 

 私は日に日に悪意を溜め込んでいたと思う。

 

 クロエの件が一段落して、元の生活に戻ったがなにかがぽっかりと抜けていた。

 

 やりがいや自分の道に不安を抱き始めたからだ。

 

 でも、カレンはいつも真っ直ぐだった。

 

 私のそばにいてくれた。

 

 もしかしたら、それは言霊の力だったのかもしれない。

 

 だけれど、穴の空いた私の心を埋めてくれたのはカレンだった。

 

 無理が当たった私は徐々にクラスに馴染めなくなっていた。

 

 いつも一緒にいるのは、カレン。

 

 だけど、それで良かった。カレンはそのまま私を受け入れてくれたから。

 

 「ここの授業面白かったよね!なんかモチベ上がるって感じでさ!」

 

 「だね!はやく資格取りたいよね!」

 

 どちからかと言うと私たちはクラスの中でもモチベーションが高い方だった。

 

 そのため、周りと差ができていたのは否めない。

 

 でもカレンとバカやりながら、勉強したのはとても楽しかった。

 

 不満を言い合って何時間も電話したり、ドリンクバーと少しのご飯だけで盛り上がるファミレス。

 

 私がまた大学を楽しめたのは、カレンがそばにいたからなんだ。

 

 特になにか特別なものを貰ったわけじゃない。

 

 ただ、横にいてそれが自然で楽しかったんだ。

 

 ーーーーー。

 

 優の目の前に虚ろな表情で立ちすくむカレン。

 

 優の知ってるカレンはどこにもいない。

 

 カレンは色んなことを我慢して、欲求を抑えて、リムに従って生きてきたのだ。

 

 その果てに生まれた嫉妬の心。

 

 おなじ境遇にあいながら、別の道を歩んだ2人。

 

 「いつもイライラしてたよ。あんたは色んなもの持ってるのに!色んな人がそばにいてくれのに!」

 

 カレンの感情が高まっている。

 

 そばにいた友達の見えなかった感情。

 

 それが、本音となって吐き出される。

 

 「……うん。」

 

 優は瞳を強く見開いて、覚悟を見出す。

 

 受け入れていくつもりだ。多くの悪意と相対してきた。

 

 優はその度に乗り越えてきた。共に進んできた。

 

 だからこそ、カレンの悪意だけは、しっかりと受け止めなければならない。

 

 瞳に涙が浮かんでくる。

 

 いくら覚悟を決めても、そばにいたカレンの言葉は想像を絶するほど胸に突き刺さる。

 

 「私は!こうすることしかできない!!!好きでこんな風になった訳じゃない!」

 

 「……うん。」

 

 優は零れそうな涙を堪えながら、ゆっくりと歩みを進める。

 

 「来ないで!!!!そうやって、誰彼構わず、あんたを好きになるなんて思い上がらないでよ!!!私はずっと一人で頑張ってきたの!甘えて暴れてきたあんたとは違うの!!!!鬼を倒さないといけないの!!!」

 

 「うん、わかってるから」

 

 「わかってない!!!!来ないでって言ってるでしょ!!!」

 

 怒号を上げるカレン。肉体から溢れ出る瘴気。勢いと怒りがこもった霊気が形となって解き放たれる。

 

 「くっ!ぐぐぁ!!!」

 

 優はその塊を右手で抑え、霊気を高めていく。

 

 「受け止めてみせるよ!隣に居てみせるよ!私には、カレンが必要だから!!!!一緒にいて欲しいから!!!」

 

 「ふざけないで!この欲張り物が!!!!」

 

 カレンの叫び声に呼応するように霊気と瘴気が混じり合う。

 

 まるで人魚を彷彿とさせるような幻想的で美しい水色の輝きを放つ。

 

 極限までカレンの霊力が高まったことを意味している。

 

 「あぁあああああ!!!」

 

 優は両手と全身を使ってカレンの霊力をその見に受ける。

 

 「いい加減!諦めなさいよ!!!バカ!!!」

 

 「……嫌だよ。だってわたし、欲しがりだから!我慢なんて出来ないから!……ワガママだから!」

 

 「なっ!?」

 

 優はボロボロになり、身を削ってもなおカレンに優しく微笑む。

 

 「カレンが悪意に飲まれてどうしようもなくて、誰にも当たれないなら。…私も一緒に背負うから!カレンがしてくれたみたいに!」

 

 「わたしは、そんなんじゃない!そんなんじゃないんだよ!!!仕方なくアンタに近づいただけ!」

 

 「……へへ、嘘ばっかり。楽しかったでしょ?ずっと追い求めてたんじょ?……また、寮でゲームしようよ!ハジメさんにご飯作ってもらってさ!……海にも行こうよ!今度は2人だけとか!女の子だけとか!一緒にまだまだやりたいこといっぱいあるんだよ!」

 

 「っ……!」

 

 カレンの手に震えが起き、瞳から大粒の涙が溢れ出す。

 

 優との毎日は、本当に本当に楽しかったんだ。

 

 もっともっと前に会いたかったと。

 

 別の形で会いたかったと。

 

 蘇っていく楽しい記憶。

 

 「っ!!!」

 

 カレンのその手に力が弱まる。

 

 優は笑顔でカレンの悪意を受け止める。

 

 「……うけ……とめたよ?……帰ろう?カレン。」

 

 「……うん。」

 

 ーーーーー。

 

 『殺せ』

 

 「……っ。」

 

 「カレン?」

 

 『殺せ』

 

 「ぐっ、ああっ!?」

 

 「避けろ!優!」

 

 「ああぁああああああっ!!!」

 

 刹那、カレンから大量の瘴気が漏れだし、悪意と混沌を形成する。

 

 周囲を飲み込むほどの膨大な霊力が爆発し、赤とクロが反転した世界を構築する。

 

 カレンの右手が痛々しいほど輝きを増し、カレンの肉体を侵食していく。

 

 「私のことを忘れてもらっては困るな。……逃がすと思うか?カレンは私が作り上げた最高傑作だぞ?因縁を断ち切るまで、罪を昇華するまで、止まらないんだよ!」

 

 胡座をかき、不敵な笑みを浮かべるリム。

 

 戦闘中のハジメは強欲の鬼によって首を絞められている。

 

 「ちくしょ!ドジっちまった!……離せよ!低級鬼が!」

 

 「お前、人間と交わって弱くなった。俺の方が強い!」

 

 「あぁあああああっ!!!」

 

 「ハジメさん!!!」

 

 叫び声を上げて、ハジメを助けようとする優。

 

 しかし、膨大なカレンの悪意のせいでまともに動けない。

 

 「さ、世界の終焉は近い。身を捧げ安寧を作り出せ。真城優!」

 

 「か、カレンに何をしたの?」

 

 カレンの肉体から溢れ出る欲望と憎悪、絶望の色は見たものを恐怖させる。

 

 こんなになるまで、リムはカレンを痛めつけてきたのかと思うほど、優の中で殺意が巻き起こる。

 

 道満だった頃の世界への怒りを彷彿とさせるほど、憎いと心の底から叫びたくなる。

 

 「この子はね、生まれつき契約者を持たなかった。だから私が仮の契約を結んでやったのさ。……こんなこともあろうかと、私に逆らえない紋章を刻んだのさ。鬼を殺すまでカレンは止まらないのさ。」

 

 説明を聞いたところで、優の中の殺意は増していくだけだ。

 

 「人のやることじゃない!こんなになるまで追い込むなんて!」

 

 「……はは。なんとでも言うがいい。お前こそ、世界を滅ぼそうと画策したり、鬼を召喚したりして。人のための仕事がしたい?笑わせるな。人を憎み世界をリセットしようとするやつなんて信用できるか。」

 

 「だからって!あなたが人道を外れていい理由にはならない!あなたからしたら、きっと私は悪なんだと思う!それでも、私は。だからこそ、私は今の私の正義を貫く!」

 

 「ならやって見るがいい!証明して見せろ!貴様の意志を!そのために友を葬ってな!あははははは!」

 

 「やらない!私は!……わたしは!」

 

 『カレンを信じる!!!!』

 

 「行け!カレン!奴を葬りされ!」

 

 『やめろぉおおおお!!!』

 

 『あぁあああああっ!!!』

 

 ーーーーー。

 

 「……え?」

 

 刹那、優が観測したのは。

 

 右手から血を流すカレンの姿だ。

 

 「だから、甘ちゃんなんだよ。……あんたらは。どこまで行ってもお人好しで…力があるのに……」

 

 「か、カレン!?うで!腕が!!!」

 

 大量の出血と相反して消えていく膨大な霊力。

 

 「あんたが寝ぼけたことばっか言ってるから……。へへ、私も希望見たくなっちゃったじゃん。」

 

 「……カレン!!!」

 

 崩れ落ち倒れるカレン。それを優は勢いよく駆け寄り、抱き寄せる。

 

 「力と意志が反発して自害したか。…興醒めもいい所だな。」

 

 「……黙ってろ」

 

 ハジメは瞳を真紅に染め、いとも容易く強欲の鬼を消し去る。

 

 霊力から刃を形成し、リムの首元に突き立てる。

 

 「……ふっ。」

 

 やれるものなら、やれと言わんばかりに薄ら笑いを浮かべる。

 

 「…いいから、見ていろ。」

 

 酷く低い声で言い渡すと、リムはゆっくりとカレンと優の方を向く。

 

 「ちが……血が止まらない!!!」

 

 「……無駄だよ。契約に逆らった代償……だから。最後に自我取り戻せて良かったよ。」

 

 掠れた声で呟くカレン。消え入りそうなその声に優の手は震える。

 

 「……大丈夫。……優なら、きっとやれる。……だって、私の相棒なんだから……なんでも持ってるんだから……。」

 

 力いっぱいの笑顔を最後にカレンの意識は途絶える。

 

 「あぁ、ああ……。」

 

 血に染まる優の手のひら。拭いきれず、顔を深紅へと染め上げる。

 

 聞こえない鼓動。色の変色していく素肌。冷たくなっていく体。

 

 そこには初めからなにもなかったかのようにずっしりとした体が、妙に軽く感じてくる。

 

 溢れかえるたくさんの思い出。

 

 まだまだ素敵な未来がたくさんあった。

 

 あったはずなのに。

 

 何を間違えた?

 

 何かが違った?

 

 私には何ができた?

 

 なぜ私は生きている?

 

 カレンを救えたはずじゃなかったのか?

 

 何をしていた?

 

 綺麗事を並べた?

 

 みんなに何を託された?

 

 今までの私は何を学んできた?

 

 どうしてこんなにも。

 

 「なにも……できなかった。」

 

 湧き上がる後悔の波。

 

 零れ出す涙の塊。

 

 燃え盛る怒りの感情。

 

 どうしようもない無力感と抑えられない衝動。

 

 「っ……。」

 

 ーーーーー。

 

 裏切られた記憶。

 

 救われた記憶。

 

 失った記憶。

 

 手に入れた記憶。

 

 受け入れた記憶。

 

 ーーーーーー。

 

 行き場をなくした感情はどこに昇華していいのか分からず、上り詰めては消えていく。

 

 「くっ。」

 

 怒りのまま暴れてしまっては、今までと変わらない。

 

 落ち着いて時をやり過ごすなんて、以ての外だ。

 

 これ以上失う訳には行かない。

 

 逃げる?逃げてどうする?その先にむた誰かに頼るのか?

 

 世界を憎む?それはダメだと散々学んできたはずだ。

 

 私の傲慢さと嫉妬と強欲さ、暴食に怠惰、色欲。

 

 それが全てこの結果を作り出してしまったのだ。

 

 無駄な理想を掲げて。たどり着いたのがこんな結末だ。

 

 ーーーーー。

 

 もう抑えなくたっていい。

 

 理不尽を叫んだっていい。

 

 手遅れなんてことは無い。

 

 失敗を恐れては行けない。

 

 善意も悪意も全てはあなた次第。

 

 もう間違うことなんてない。

 

 あなたは何度も失敗を重ねて、数々の結果を見てきたはずだ。

 

 今やるべきことを。

 

 あなたにしかできないことを。

 

 ーーーーーー。

 

 「……!!!!」

 

 優はゆっくりと瞳を開く。

 

 何かを取り戻した気がする。

 

 肉体に神聖な気が漂うのを感じる。

 

 酷く心は落ち着いている。

 

 世界が眩しいと思ってしまった。

 

 当然だ。優自身が光を解き放っているのだから。

 

 綺麗な黒髪は真っ白に染まり、純白を纏う。

 

 生命に満ち溢れた気は神聖そのもので、美しく儚い。

 

 月夜に浮かぶ天上の姫が如くその姿は洗練された美貌を解き放っている。

 

 「なにが起きた……?」

 

 流石のリムも困惑した表情が収まらない。

 

 

 

 優の左でには白い花のような文様が浮かび上がり、その光源がゆうの力を爆発的に高めていた。

 

 「なっ!?」

 

 呼応するように刃を向けていたハジメも灼熱の炎が青く染まり、幻想的な美しい炎が完成される。

 

 冷たく人を寄せ付けない氷の瞳。

 

 二人の少年少女の瞳に宿るのは純粋な怒り。

 

 ひたすらに、友を救えなかった悲しみが引き起こした『怒りの感情』。

 

 「……まさか、まさかまさか!!そんなわけない!お前は……お前はっ!?」

 

 リムは何かに怯えるように体を震わせる。

 

 「お前の中にいたのか……!憤怒の鬼……!!そして、『織詩歌の魂』!!!」

 

 「ハジメさん……。終わらせましょう。こんな戦い。」

 

 「……ああ。悪いも正義も関係ねえ。」

 

 『あんたはやり過ぎたんだ。』

 

 この怒りは、リムを倒すことで終焉を迎えるのだろうか。

 

 それは、果たして優たちの答えなのだろうか。

 

 優とハジメは何を思い、何を考え、リムと対峙するのか。

 

 悪意の果てに、その答えは見いだせるのか。

 

 今はただ、友を守れなかった怒りと多くの罪を重ねてきたリムへと攻撃が始まろうとしていた。

 

 優の中の憤怒が目を覚ましたのだから。

 

 抑えてきた感情が、今爆発する。

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