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#35 彷徨う亡霊【色欲の鬼】

活動報告にて報告させていただきましたが、残酷な描写のタグを追加させてもらっています。また、32話におけるリリの設定を変えています。変わらず、本編を楽しんでもらえれば、幸いです。※詳しくは活動報告をご覧下さい。

今回久しぶりに長めの内容となっています。楽しんでもらえれば幸いです。


 「おにぃさんも、大切なものを守れない。あの人に殺される。逆らわない方が身のため。」

 

 私は目の前に立つ青年に忠告する。逆らうなんて危険なことはしてはいけない。

 

 誰よりも私がその恐怖を知っている。

 

 私は父親を目の前でリムに惨殺されている。

 

 この世界には絶対に逆らっては行けない人がいる。

 

 無駄なことは考えては行けない。

 

 ーーーーーーー。

 

 

 父親は母親が死んでからおかしくなった。

 

 急にオカルトグッズを世界各国から集め始め、毎晩死んだ目で儀式をするようになった。

 

 「俺の命を……俺の命を…俺の命を……だから……だから……」

 

 悪魔を呼び出す儀式。

 

 逆五芒星の儀式。中心に父親は立ち、自らの命を悪魔に差し出す儀式を行った。

 

 「俺はぁあああ!!!悪魔に魂を売ってやる!!!!」

 

 毎晩毎晩、そんな儀式を続けた。

 

 そしてついに、父親は禁忌に触れてしまった。

 

 ーーーーーー。

 

 家から異臭がどんどん強くなっていた。

 

 「お父さん……?なんの臭い?……ねえ、もうやめようよ、お腹すいたよ……」

 

 「す、すすす、すまない。あともう少しなんだ……!い、いいい!!!命がぁ!命が命命命命命命!命が必要なんだ!」

 

 父親も私も、食事などしていない。

 

 掠れた私の声は父親の耳には届かない。

 

 くさい。

 

 吐き気がする。意識が遠のいていく……。

 

 ーーーーーー。

 

 

 「あは!あははははは!!!ダメか!ダメなのか!これでも答えてくれないのか!!!!」

 

 どれぐらい経っただろう。父親の大きな声で意識が覚醒する。

 

 なんで父親はあんなに元気なのだろう。

 

 私はもう、体が動かない。

 

 お腹がすいた。

 

 耳だけが研ぎ澄まされている。

 

 極力、力は使いたくない。

 

 グチャグチャ。何を食べてるような咀嚼音が聞こえる。

 

 私はゆっくりと目を開けた。

 

 やっと、ご飯が食べられるのか?そんな淡い期待が生まれたからだ。

 

 「あは!あっははははは!!!」

 

 人……なの?

 

 本当にあれが?

 

 上半身裸で、男は生肉のような血抜きされていない肉を口いっぱいに放り込んでいた。

 

 目は血走っており、眼球は上転している。

 

 私は生まれて初めて恐怖した。

 

 鬼……だ。

 

 絵本で見た日本の鬼。

 

 その表現が正しかった。

 

 ソレは私を視界に入れるとニヤリと微笑んだ。

 

 気色悪い。

 

 「あぁあああ!!!生き返ったんだね!!!リコ!!!」

 

 「ちが……わた……し。お母さんじゃ……!!」

 

 真実を告げられた男は表情を一変させ、私をベッドに投げ飛ばす。

 

 焦燥感が巻き起こる。痛みや空腹を超えて、全身を恐怖が埋め尽くす。

 

 体は麻痺したように、何も感じないのに、心だけが強く警鐘を鳴らす。

 

 「そうか……。そうだったよ。……なんで生き残ったのがてめえなんだよ!!!!」

 

 「ひっ!?」

 

 わたしは震えが止まらない。体の自由なんてとっくの昔に無い。もう体が動かないんだ。

 

 壊れてしまった日常が今本当に終わろうとしている。いつかこうなるであろうと予測していた結末へと収束していく。

 

 「はぁはぁ。お前はリコに似て綺麗な顔だなあ!!!……なんでリコじゃねえんだよ!!!!…ああっ!?す、すまない!い、いいあ、痛かったろう?」

 

 男の情緒はもはや、ぶっ壊れている。私は男に顔を撫でられ、その後強烈なビンタを食らう。頬が赤くなるのをお構い無しに撫でて謝って、また怒って殴られて。何時間もそれを続けられた。

 

 ーーーーー。

 

 泣いて怒って、喜んで。

 

 狂気。

 

 その表現が正しい。

 

 対照的に私の感情は薄れゆく。

 

 知りたくもないのに、この先の未来を私は知っている。

 

 この男にめちゃくちゃにされるのだろう。

 

 

 

 今のこの男は人間では無いのだから。

 

 神様どうか、お救いくださいませ。

 

 お母さんが口にしていた縋る言葉。

 

 私はそれを頼りにすることしか出来ない。ひとみにギュッと力を入れてただ、行為が終わるのを待ち続けた。

 

 きっと、終わってしまう命だから。少しでも絶望しないために。生きるために。

 

 だが、そんな希望も何十時間と意識を失い目を覚ましては迎える苦痛を味わえば、どうでも良くなってくる。

 

 命は尽きると思った。初め芽生えていた感情、最後の抵抗も虚しく痛み辛さ、圧倒的な終わりのない現実、それら苦痛を得て私は生を諦めた。

 

 おかあさん、まってて。今行くからね。

 

 「ぁ……てぇ……。」

 

 形にならない言葉、回らない思考。

 

 ああ、死ぬのか私……。

 

 そう覚悟した刹那。結末は予想もしない形で変わった。

 

 ーーーーーー。

 

 「全く。面倒だねえ。男は日本人と来た。だから、私たちに依頼が来る。」

 

 黒髪。日本語。何を話したか分からないが、私の意識や思考、空腹感が消え目がスッキリと覚めた。

 

 視界が捉えたのは見慣れない3人組。中でも中央の女性に目がいく。

 

 顔は平面的で身長も高くない。

 

 ひょろっとした細身。年老いたおばあちゃんに黒服のガタイのいい男が家に土足で踏み込む。

 

 「なんだ貴様らあ!!!!俺は今リコと愛を育んでいるんだ!!!!」

 

 隣のベッドから起き上がった男が怒鳴り声をあげる。

 

 男は裸。私も服を着ていない。

 

 急に血の気が引いたのがわかった。私は父親に何をされていた?

 

 こわいこわいこわい。

 

 身体が震えだし、思い出すのを拒絶する。

 

 這い上がってくるように、嘔吐感が込み上げる。

 

 刹那。

 

 私は本当の恐怖を知ることになる。

 

 男の体は次の瞬間には上半身と下半身、真っ二つに割れていた。

 

 「娘に手を出して、愛を育む……ねえ。心底鬼は欲望に忠実だねえ。」

 

 え、なに?

 

 私が自分が何をされたのか考えているうちに理解できない光景が目の前に広がる。

 

 「あぁ……あああああっ!?」

 

 遅れて自分が何をされたのか理解した男は身体を横たわらせ、悲鳴をあげる。

 

 「これで殺すと思うか?『自分の指を噛み砕きな。』」

 

 「あぐっ!?」

 

 男は年老いた女性に何か言われると、自分の指を噛み砕いた。

 

 痛み苦しみ、涙を流す男。

 

 一本、また一本と嫌がりながらも確実に指を噛み砕いていく。

 

 「ふぐっ!?うう!?んんん!!!あぁああああああああ!」

 

 指を全て噛み砕くと男は絶望した様子で、女を見上げる。

 

 「な、なにした?何をしたんだ?体が…?勝手に……いや、違う!!!俺のあ、足は!?なんでまだ俺は生きているんだ!?」

 

 男は日本語で何かを言っている。瞳からは大量に涙が流れ、ちぎれてしまった指を震えながら抑える。

 

 不思議と下半身が切断されたようのにそこからは血が出ていない。ほんにんも絶望はしているが、痛みはないように見える。

 

 切断された指からは、黒い血がドロドロと溢れ出ている。

 

 「血があ!?血が止まらない!!!」

 

 男の意識は手のことでいっぱいだ。

 

 私には言葉は理解できない。オトコが痛がり、絶望しているのは誰が見ても明らかだろう。

 

 見ていらない。今この場において何が起きているのだろう。

 

 だが、女の言葉によって男が指を噛み砕いてしまったのは事実なのだろう。言葉が分からなくても様子を見ていればわかる。

 

 分かる……が。例えそうであったとしても異質すぎる光景。

 

 恐怖を塗り替える恐ろしさがあった。

 

 「誰がやめていいと言った?まだ指はあるだろう?」

 

 女は続けてもう片方の手を指さす。

 

 私は見ていられず視線を逸らす。

 

 「あぁああああああ!!!」

 

 バキバキと骨が砕け、咀嚼する音。

 

 男の悲鳴と女の笑う声。

 

 「どうだ?痛いか?あん?」

 

 ようやく悲鳴が収まると、男の髪の毛を鷲掴みにして、笑みを浮かべる。

 

 「もう、やめてくれ……。俺はただ、リコを蘇らせたいだけなんだ……!」

 

 「リコを殺したのはお前だよ。覚えていないのかい?」

 

 「……は?……ちが、通り魔の犯行だって……」

 

 「もうひとついいことを教えてやろう。鬼の儀式は成功している。と言うよりずっと前から成功してたんだよ。」

 

 「なに、言ってやがる?」

 

 「思い出させてやるよ」

 

 女は男の額に指先を立てる。

 

 「あぁ……ああぁっ!?」

 

 男は泣くように声を漏らす。

 

 何が起きているのか私には分からない。

 

 「やめて……お父さんを……ゆるして」

 

 私はそう呟くことしか出来ない。

 

 「このガキずっとなんか言ってますよ?もう少し回復させますか?」

 

 「いやいい。程よい回復だ。そいつは鬼にも狙われず、不運をその身に受けた。私が引き取るさ。恐らくエクソシストとしての素質でもあったのだろうさ。育てて、鈴蘭、いや詩歌の代わりに私の後継に育て上げる。」

 

 女は私に向かって何を呟きながら、男の首をはねる。

 

 「ああ、ああ!?」

 

 「別にいいだろう?この男は鬼に支配されていた。墓を荒らし回って、お前の母親も殺したんだぞ?それに町の人間もみな、な。」

 

 「あああ、あああ。」

 

 私は声をふるわせることしか出来ない。

 

 目の前で人が死んだ。

 

 父親が死んだ。

 

 簡単に首が飛んだ。人の首が簡単に。

 

 分かってる。殺されるべき罪はあったと。

 

 それでも、悪意ではなかったはずだ。

 

 なぜ?何故こんなことに。

 

 「そうか、言葉が違うから父親が何をしたかを知らないのか。ならば、父親の鬼としてやってきたを見せてやろう。」

 

 女の魔の手が私に触れる。

 

 私は拒絶するように動くが抵抗虚しく簡単に触れられる。

 

 「あぁあああああああっ!!!」

 

 知りたくもない真実を私は刹那的な速度で見せられる。

 

 私の意識はその瞬間に途絶えた。

 

 ーーーーーーー。

 

 どれぐらい経っただろう。私は目を覚ますと、知らない天井に怯える。

 

 「……ど、こ?」

 

 口をついた言葉に違和感を感じる。

 

 「日本語……?」

 

 「そうさ、いちいち思念で話すのも面倒だしねえ。あんたはまだ力を使えないし。無理やり意識に刻んだのさ。」

 

 「ひぃいい!?」

 

 私は横から老人に話しかけられ、恐怖の声を漏らす。

 

 この人は父親を殺した人。

 

 恐ろしい人。

 

 なぜ、私は生きている?

 

 恐怖が先行し、壁際まで移動する。日本の家庭で見られるという和室だろうか。

 

 慣れない足場に、襖。

 

 明らかに私が住んでいた場所ではない。

 

 「日本?」

 

 「ああ、そうさ。寝ている間に栄養投与と治療をした。体は……聞くまでもなく元気そうだな?」

 

 「なっ!?帰して!!!私を元の場所に!」

 

 「帰すわけなかろう?それにお前祖国の名前も言葉も覚えていないだろう?」

 

 「何を言ってるの!!私は!!……あ、れ?」

 

 自然と出てくるはずの出身国と自分の名前、言語。全てが口から消えたように出せない。

 

 「なんで?……なんでなんでなんで!……あぁっ!?あああああああ!!!!!!」

 

 私はまた気を失った。

 

 ーーーーーー。

 

 「ふっ、やっと起きたか?次はどんな悪いニュースが聞きたい?」

 

 私は目覚めては知りたくもないことを教えられ、その度にパニックを起こし、意識を失った。

 

 何度目の目覚めだろう。

 

 なにかの糸が切れたように、私は取り戻した感情を再び失っていた。

 

 「まっ、こんなものか。後発の能力者にしては上出来だ。……これから私の手となり、足となって動いてもらうぞ。……ふん、名前がないと困るな。……リリ。そう名乗るといい。お前は今日から百合野莉理だ。」

 

 「………。はい。」

 

 無駄な抵抗だ。もう名前なんて覚えていないのだから。

 

 従っていれば、ご飯は出るし、おばあ様の調教の時以外は自由だ。

 

 飢えに苦しむことも痛い思いをすることもない。

 

 従っていれば、幸せなのだ。

 

 私はそう言い聞かせ、リムに従うことにした。

 

 ーーーーーー。

 

 

 

 『だからって何もしなかったら、なにも守れない。俺は自分が間違ってるとは思わない。だから、せめて、自分のやれることはするよ。リリも、そうなんだろう?だったら、強くなるんだ。一緒に見返してやろう。』

 

 そんな私の目の前に現れた『幌先栄介』は眩しいほど輝いていた。

 

 何度も、何度も。リリに理不尽な思いをさせられても彼は立ち上がった。

 

 失っていた私の奥底の『きぼう』がふつふつと湧き上がるのを感じた。

 

 この人なら、世界を変えられるかもしれない。

 

 私を救ってくれるかもしれない。

 

 私も感情を思い出してもいいのだろうか?

 

 そんな、禁断の果実に触れてしまいそうな誘惑が私の中で巻き起こる。

 

 『彼と一緒に自由に生きたい』

 

 『私も幸せになりたい。』

 

 『誰かを幸せにしたい。』

 

 「私が協力する、カイナとあなたは私が守る。……だから楽園に私も連れて行って」

 

 触れた果実は、甘くて中からたくさんの想いが溢れ出た。

 

 きっかけなんてそんなもので、私はいつしか、リムに反抗する勢力を作り上げた。

 

 感情を生み出すきっかけとなったのは。きっと……。でも私がその想いに気がついた時にはカイナは栄介の子供を身篭っていた。

 

 いい。これでいいんだ。

 

 この子を守っていこう。それが私に与えられた役目なんだ。

 

 正しい世界を作るために。

 

 だから。

 

 そのためには。

 

 鬼なんて存在してはいけない。

 

 また私のような存在が生まれてしまう。

 

 今は。今だけはリムが正しいんだ。

 

 ーーーーーーー。

 

 現在。百合野の屋敷、異次元の中。

 

 リリ、栄介、咲。

 タケルを憑依させたヒロ、モミジ、ソラ。

 

 六名が退治している。

 

 「色欲の鬼、父親が快楽を優先して手に入れた絶望と恐怖、人々の魂を奴は媒介にしてる。そして後発の霊能者ってのはたいていバケモノだ。普通に戦って勝てる相手じゃない。」

 

 「読み解けたの?術式。」

 

 ソラが赤く染った御札をしまい込む。

 

 解説するように語ったモミジはため息をついた。

 

 「あまりいいもんじゃなかったがね。」

 

 ソラはあの後、三名に向かって術式を発動させた。

 

 記憶を読み解き、三人を倒す手がかりを得ようとしたわけだ。

 

 その間、ヒロとタケルは三人の意識を一時的に失わせ、身体を動かなくした。

 

 と言っても10秒ほどの出来事の話である。

  その間に術式に潜り込み、記憶を遡ったモミジは異常と言える。

 

 「かっ!?はぁはぁはぁ。」

 

 膝をおり、その場に倒れるヒロ。

 

 経った数秒でも歴戦の霊能者の動きをとめたのだ。大半の霊力を持っていかれたのだろう。

 

 「……っ!」

 

 術式が解かれると、真っ先にヒロはリリによって蹴り飛ばされる。

 

 「あぐっ!?」

 

 腹部を蹴り上げるように重い一撃をくらい、頭上に体を浮かせる。

 

 そのまま滞空していると瞬時に上に上がってきた栄介に地面に叩き落とされる。

 

 「あぁ……。」

 

 大半の力を失ったとはいえ、茨木童子を憑依させていたのだ。速度では圧倒的なはずだった。

 

 困惑し、痛みに悶えるヒロ。

 

 「なんでって顔してるな?坊主。」

 

 「あぁあっ!?」

 

 歩いて近づく咲。悪魔のような笑みでヒロの顔面を踏みつける。

 

 「俺たち幌先には百合野の一部の力を授かる。その力ってのが、言霊なわけ。言葉に乗せた術式を意味を紐解くことで、形となす。まあ、オレも兄貴も声に出さないで形にできるがな。……こんなふうに。」

 

 咲は呟くと、ヒロの影から蔦のような植物が生え体を拘束する。

 

 「おまえちぃーっと厄介だからよ、寝てろよ。」

 

 ーーーーー。

 

 ヒロを攻撃した瞬時にソラを攻撃する栄介。

 

 ひらりと舞うように交わすと背後からモミジが拳を栄介にぶつける。

 

 「何を念じたかは知らないけど。あんたらの目的は私たちを倒すこと。それならば、速度は関係ない。確実に狙ってくるんだから。」

 

 「頭の回る鬼だ。危険と判断する……!」

 

 「そうさ、私は鬼さ。私たち鬼より人間の方がよっぽど怖いと思うけどね。」

 

 モミジは妖艶に微笑むと、術式を展開する。

 

 「しまった!?」

 

 術式に勘づくが、既に遅く足を黄金に染める。

 

 「っ!?金属化!?」

 

 「あんたは私に踏み込んだ時点でその術式を踏み抜いている。感情が先行したね。そんなにやましい過去だったかい?」

 

 「貴様あっ!!!!」

 

 激昂すると同時にモミジを背後から剣が襲う。

 

 その剣に貫かれ、モミジはその場に倒れる。

 

 「な、に!?」

 

 「わざとに決まってんだろ。敵討ちもできねえ、どっちつかずの野郎に言われたくねえんだよ。」

 

 栄介は見下ろしながら、モミジに語ってみせる。

 

 術式は解かれ、ヒロと同じように拘束される。

 

 「鬼は簡単に再生するからな。」

 

 影から形成された剣はそのままモミジに突き刺さったままだ。

 

 ーーーーーーー。

 

 「ちょっとはやるかと思ったけれど。検討違いみたい。さっきと状況変わってないよ?」

 

 「……そうね。むしろ、悪くなってるよ。私の式神もあんたには効かないみたいだしね。」

 

 「当たり前だよ。私には浄化の力があるからね。陰陽師が作る式神は霊気から生まれる。私は霊気を分解できる。私に近づいた時点で消滅だよ」

 

 「それよ。そこが謎なのよ。あんたは色欲を体に宿らせている。聞けば、六鬼って感情から生まれるんでしょ?ならあんたはなぜ、そいつを浄化しないのか。」

 

 「それでさっきの術式?答えはわかったの?」

 

 「聞く前に攻撃しちゃったから。分からないよ。でもハッキリわかったのはあんた達はデタラメに強すぎる。ほかの人たちの反応は着実に消えている。残ってるのは私たちと優たちぐらい。……ってことで、私が至った結論。それは!あんたらには自我があるということ!」

 

 「そうよ。私たちは私たちの意思で、あなた達と戦っている。今回の騒動については、リムが正しいと私たちは思っている。それだけの事よ。悪く思わないで。」

 

 ーーーーーー。

 

 「はは、おかしな話ですね。」

 

 話を聞いていたヒロが拘束されながら笑ってみせる。

 

 「どういう意味?」

 

 怪訝そうな顔で聞き返すリリ。

 嘲笑うかのようにヒロは説明する。

 

 「あなた達は先の戦いで鈴蘭さんたちに手を貸した。その時もどちらかと言うと、リムさんが正しかったのでは?」

 

 「甘いわね。事情が違ったのよ。あの時はそこまでする必要がなかった。天邪鬼の力を受け継いだカイナは力を拒絶して月花と陽太に力を分けた。鬼が復活する可能性は本当に低かったのよ。」

 

 「なら僕たちだってそうだろう?むやみに力なんて使ってない。」

 

 「そう思ってるのが一番の証拠よ。あなた達のせいでこの世界に四体も鬼を呼び出した。しまいには、神なんて呼び寄せて。私達も初めは静観していたわ。でもやりすぎたのよ。」

 

 「牛鬼は倒した!ハジメもモミジもタケルも悪い鬼なんかじゃない!」

 

 「もういい。黙れ!」

 

 咲は告げると、蔦の拘束を更に強くする。

 

  「うくっ!?あぁあああああっ!!!」

 

 「でもね、世界の事象を曲げて彼らは存在するの。本当は彼らが存在しなければ、得られた利益がこの世界には存在する。人間じゃなくて鬼を資本として雇ったあなたなら分かる話でしょ?」

 

 「言葉遊びが巧みなやつ……だな!」

 

 腹部を貫かれたモミジが言葉を絞り出す。

 

 「素直に言えばいいだろう?好きな男に従ったのが先の戦闘だって。自分に関係ないなら、世界にとって正しいことをするってな!」

 

 記憶を読み解いたからなのか説得力のあるモミジの言葉。

 

 「っ!!!!慈悲で殺さないであげたのに。いいわ、殺してあげる!」

 

 刹那、リリの逆鱗に触れ、大地が揺れる。

 

 圧倒的な霊力の圧。

 

 ソラは何も出来ずに膝を着く。

 

 「っ!!!」

 

 このままではリリによって殺されてしまう。

 

 『何が正しいのか』

 

 不意にハジメの言葉がよぎる。

 

 世界はきっと、平和に向かっていたのだろう。

 

 間違いなくその平和を壊したのは優達なのだろう。

 

 リリたちは正しい判断をした。

 

 それでも。

 

 それがわかっていても止められなかった。

 

 今が幸せだって胸を張れる。

 

 友達と楽しく暮らして。

 

 遊びに行って。

 

 新たな出会いがあって。

 

 その中で、自分は救われて。

 

 好きな人と結ばれて。

 

 未来を思い描いて。

 

 確かに平和を乱したのかもしれない。

 

 だが、友達を失っていいのか?

 

 別の世界に送って二度と会えなくなる。

 

 そんな理不尽ってあるのか?

 

 みんなを繋いでくれた私たちの力をなかったことにする。

 

 その果てに私たちの関係は続くのか?

 

 私が苦しんで、もがいて手に入れたモノを『イケナイコト』だからって、奪われていいのか?

 

 そんなのって本当に正しいことなのか?

 

 「違うっ!!!!」

 

 ソラは高らかに叫ぶ。

 

 リリは掌から形成した青白く光る霊力の塊を放出する。

 

 「あぁあああああっ!!!」

 

 ソラは全力で駆け抜け、モミジを守り抜く。

 

 ソラの懐から十二の式神が解き放たれ術式を形成する。

 

 「私もあんたと同じ!鬼が憎くて、曲がったことが嫌いで!でも、間違ってるって分かってても誰かのためだって手を汚した!でも同じなのはそこまで!あんたは違ったんじゃないの!自由を求めたんじゃないの!?間違ってるって分かっても、理不尽だって、鈴蘭さんを助けたんじゃないの!?」

 

 「黙れ黙れ黙れ黙れ!!!」

 

 更に攻撃の出力が上がっていく。

 

 「いいわよ!私のプライドぐらい捨ててやるわよ!この1年で私は鬼と笑い合いたいって思ったから!!!『こい!橋姫!!私の体をつかないなさい!!!』」

 

 「まってたよ!その言葉を!!!」

 

 橋姫は呟くと肉体を霊魂に変え、ソラの肉体へと入り込む。

 

 融合による霊力の爆発が巻き起こり、リリの光を容易く飲み込む。

 

 現れた女性は、金色の髪をベースとしつつ、毛先を黒染め所々の毛束が緑色に変色している。

 

 瞳は赤く染まり、鬼特有の異質な妖艶さとソラの陰陽師としての誠実な様子が合わさった女性だ。

 

 白を基調とした生地と紅葉柄を基調とした生地の半々羽織を身にまとっている。

 

 『コトダマ返し。』

 

 現れた女性はポツリと雨の一雫のように呟く。

 

 その一言の理解が追いついた時、リリ、栄介、咲は身を焦がすような痛みに襲われる。

 

 それに呼応し、ヒロの肉体は拘束から解放され自由となる。

 

 「な、何が起きてる!?」

 

 「多くは語らない。でも一言だけ。今の私にはお前たちは悪でしかない。だから、容赦しない。」

 

 「お前たちの行いが!正義だとでも言うのか!?」

 

 「それはお互い様だよ!」

 

 突っ込んできた栄介の攻撃をヒロは防ぐ。

 

 「どけよ!クソガキ!!!」

 

 栄介の強烈な拳が腹部に直撃し、ヒロは肉体を怯ませる。

 

 だが、そのまま肉体の怯みを利用し、回転するようにして拳を叩き込む。

 

 「ちっ!」

 

 舌打ちをすると、背後からヒロの影をもした剣が形成させれる。

 

 「木・棍棒形成!」

 

 そのタイミングと重なるように棍棒を形成し、剣の攻撃を防ぐ。

 

 「影を消す!!!」

 

 ヒロはそのまま、棍棒を下に振り下ろしその勢いのまま上空へ跳躍する。

 

 「いい発想だ!だがな!俺もいるんだよ!!!」

 

 「しまっ……!?」

 

 ソラが覚醒しただけであってヒロはもう疲労困憊。

 

 不意に現れた咲に対応しきれず、地面に落とされる。

 

 「鬼を肉体に宿したんだ。このまま殺す!!!」

 

 「ちっ!相棒に触れるな!!!」

 

 自力で分離した茨木童子。

 

 しかし、刹那。

 

 「あぐっ!?」

 

 茨木童子はヒロに吹き飛ばされる。

 

 そして振り下ろされた栄介の剣を白刃取りし叩き渡る。

 

 「なにっ!?」

 

 ヒロはそのまま、栄介に優しく触れる。

 

 「かはっ!?」

 

 刹那、感じたこともない衝撃波をその身に受け、地面にひれ伏す。

 

 「がっ!?」

 

 口から大量の血液が流れ込み、吐血する。

 

 「な…ん、で……?」

 

 揺らぐ視界。

 

 ヒロでは無いその姿が瞳に映る。

 

 「か……おる……にいさ……」

 

 そのまま、栄介は意識を失う。

 

 「……。」

 

 「何が起きてやがる!?てめえ!相棒じゃねえなっ!?」

 

 茨木童子が一喝するが、まるで聞く耳を持たない。

 

 ゆっくりと咲に近づく。

 

 「な、なんで。なんであんたが!?」

 

 動揺して腰を抜かす咲。

 

 そのまま気絶する。

 

 次は誰にしようかと言わんばかりに指先をリリに向け優しく微笑む。

 

 「まさか、『幌先薫』を体に憑依させたって言うの!?」

 

 「……。」

 

 変わらず、眩しい笑顔を見せるヒロ。肉体から迸る神聖なエネルギーにリリは気圧される。

 

 近づくヒロに身動きが取れない。不意をついてソラが足元を拘束していたからだ。そんなことにすら、今のリリは気がついていない。

 

 悪戯っぽくヒロは微笑むと、リリの頭を優しく撫でる。

 

 「っ!?」

 

 刹那、ドックン!と鼓動が高鳴るのを感じる。まるで緊張の糸が切れたように脱力し、そのままリリは眠るように意識を失う。

 

 リリを倒したことで、いとも容易く世界は反転し始める。

 

 ヒロの肉体は黄金の輝きを放ち、別の魂がヒロから抜けていく。

 

 ヒロはその場に倒れ意識を失う。

 

 「よく頑張ってくれたね。この子達を悪く思わないで欲しい。僕の大切な弟で妹みたいなものなんだ。」

 

 霊体となり、現れる青年。長髪で赤みがかった髪の毛が綺麗に靡く。瞳は切れ長で奥底に強い闘志を感じるが、優しい微笑みによって穏やかな印象を得る。

 

 昔ながらの学ランを身にまとい、少し昔のような様子を感じる。

 

 「助けてくれて、ありがとう。橋姫の力を使っても互角がいい所だった。」

 

 「僕はもう、浄化されて死んだからね。リリの能力が及ばなかっただけの話だよ。霊気単体で見れば、君の方が上さ。」

 

 「どうして、私たちを?」

 

 「きっと、栄介やリリは悩んでた。君たちと対峙することを。咲も口は悪いけど、ずっと苦しんでたひとりだから。そろそろ呪縛を終わらせいとねって。」

 

 「あなたはリムに?」

 

 「そうだね、殺されたよ。栄介に全てを託してね。結果、彼は新時代の立役者となってくれた。世界は確実にいい方向に向かっているのさ。残るはふたつだけ。」

 

 「2つ?」

 

 「そう、我儘って思うかもしれないけど。『鬼との共存』『百合野家』との和解。それが僕とすず……詩歌が思い描いた未来なんだ。……だからあとは優に任せるといい。表の世界と裏の世界、朝と夜、月と太陽、悪意と善意。表裏一体、片方だけじゃダメなんだ。……でも彼女にはそれが出来る……だろ?」

 

 ーーーーーー。

 

 「あ、れ?」

 

 ソラはだだっ広い和室で目を覚ます。

 

 見覚えるのある面々を視界に捉え安心する。

 

 先程まで敵対していた百合野や幌先もいて、戦闘が終わり元の世界に戻ってきたことを理解する。

 

 戦闘での疲れかヒロはソラにもたれかかっている。

 

 ソラは優しく微笑み、ヒロの鼻をツンと触る。

 

 「こっちは終わったよ。……優。」

 

 戦闘を収束させた謎の霊体。

 

 一先ず、ソラ達の戦いは無事に幕を閉じた。

 

 ソラは募る思いを優に馳せ、そのまま眠りにつく。

 

 リリも戻ってきてからは何もつぶやくことなく、その場を後にした。

 

 触れた果実の美味しさは1番知っている。

 

 だからこそ、若い頃のように動けなくて、失うことを恐れる。

 

 自分とソラを不思議と重ね、理不尽に立ち向かったあの頃を思う。

 

 「どこで間違えたんだろ、私。」

 

 「間違ってないんだ。きっと。俺たちはその時正しいと思ったことをしただけ。」

 

 「そうね。薫さんがそれを伝えに来てくれたのかもね。」

 

 「そうだな。」

 

 栄介とリリは顔を見合わせて笑う。

 

 辛い過去があろうと、間違えた未来があろうと。

 

 今に満足していればそれでいい。

 

 今があるのは自分の行動の証なのだから。

 

 自分たちの正義を貫くことは出来なかったが、不思議と満たされていた。

 

 そして、あの頃を思い出せた、そんな気がしていた。

 

 

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