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#34 ユリの花言葉【天野真護VS琴上幸理(傲慢の鬼)】


 昔から友達が出来なかった。

 

 私はどんなことにでも興味を示した。

 

 人が何倍も努力することを、私は興味だけで手に入れられた。

 

 それでも、純粋で真面目に生きていれば、いつかきっと報われるって信じてた。

 

 私は間違ったことはしていない。

 

 ただ、人より色んなことに興味があるだけ。

 

 ーーーーーー。

 

 「軽度の発達障害の可能がありますね。……確かお相手は親戚の方なんですよね?多いんですよ、どうしても。」

 

 ーーーーーー。

 

 「わたし、病気なの?」

 

 「別に大したことないよ。誰にだってあること。あなたは人よりそれが難しいだけ。……ゆっくり学んでい行こ?」

 

 「お母さんは嫌じゃないの?私変なんでしょ?」

 

 「お母さんも変なの。昔ね精神科って言うところを受けてたから。」

 

 「せいしんか?」

 

 「そう、心が弱いの。」

 

 ーーーーー。

 

 「わーい!みんなみんな!遊ぼうよ!!」

 

 「いやだよ、ユリちゃんひとりで何でも遊ぶじゃん。」

 

 「危ない遊びも多いし」

 

 「順番も守らないじゃん」

 

 「え?なんで?そんな決まりあるの?」

 

 「人と遊ぶなら当たり前のことだよ?」

 

 「当たり前?楽しくみんなで遊ぶのが普通じゃないの?」

 

 ーーーーーー。

 

 「もういい!ユリちゃん、ひとりで遊んでなよ!約束の時間守らないなんてありえない!」

 

 「ちがうの!まって!ごめん!待ってよ!!!」

 

 ーーーーーー。

 

 今度こそは早く行かないと。

 

 人より時間がかかるんだ、私は。

 

 歩いていったらダメだ。色んなところに言ってしまう。

 

 公園で待つんだ。

 

 もう1回、謝ろう。

 

 そしたら、きっと。

 

 ーーーーーーー。

 

 「いたた!!危ない!危ない!やっぱり急いだら危ないね!」

 

 「君、大丈夫?」

 

 転んだ私に差し伸びられる手。

 

 その瞳に吸い寄せられ、私の興味は彼一色に染まる。

 

 私はその瞬間、恋をしたんだ。

 

 ーーーーーーー。

 

 「だから、私と一緒にいてよ!!!!真護!!!」

 

 「いつだって、一緒さ!!!きみこそ、僕から離れるな!!!あんな亡霊に縛られちゃいけない!!!君は!!!自由で、純粋で、そのままでいいんだ!!!!」

 

 天野は深く、ユリの両手を掴み離さない。ユリは暴れるようにして手を離そうとする。

 

 「それじゃあ!誰もいてくれないの!!!私を束縛してよ!」


天野を突き飛ばし、霊力を爆発させ天狗、オロチ、九尾が妖怪となって顕現する。

 

 「僕に依存するなあ!君は君のままで素敵なんだ!僕はそのままの君を受け入れてみせる!!!」


圧倒的なまでの霊力の影。その三体をまるでユリの去勢のように右手でいとも容易く消し去る。天野は牛鬼の禍々しいオーラを身にまとい恐ろしい形相で力を発揮する。


まるで、信用出来ないユリからの印象であるかのように、恐ろしく強大だ。ユリは黒き翼を生やし防戦しながら迎え撃つ。

 

 お互いの高い霊力がぶつかり合う。

 

 「でもずっと!逃げてきたじゃない!!!私を見てよ!!!誰を見ているの!?」


叫び声をあげるユリ。怖くて仕方ないが、今の彼女には傲慢の鬼の力がある。悪意の感情に任せて、天野の強大な力の一点に強い一撃を与える。

 

 「っ……!」

 

 天野の脳裏にふたつの影がよぎる。大きな打撃となったのは間違いない。

 

 『ユリノ姫君』『天稚彦』

 

 ユリはあまりにも酷似しているのだ。

 

 当たり前だ。魂の在り方が天稚彦とは同じ。ユリノとは遠い子孫に当たる。

 

 どうやっても天野の中での暗雲は晴れない。

 

 どこか、重ねてみているような罪悪感。

 

 向けられてこなかった好意の視線。

 

 ヒトに愛されてこなかった天野にとっては初めてのことで混乱する。

 

 「真護はあの時もそうだった!自分のお母さんのお葬式なのに顔色一つ変えないで!……おかしいよ!真護の本当の気持ちを教えてよ!!!あなたが見えないの!あなたのことを知りたいの!ぶつけてきてよ!!」


ユリの霊力は爆発し、ぶつけ続けられる巨大な霊力の拳。徐々に天野の力が弱まっていく。

 

 高ぶる感情。お互いに人を信じきれない。

 

 だからこそ、惹かれあい求め合う。

 

 ただ、ひたすらに。

 

 その感情は『純粋』だ。

 

 天野は霊力を解除する。

 

 その反動によって、ユリはバランスを崩す。

 

 天野は優しくユリを抱きしめ、涙を流す。

 

 「……大好きだよ、ユリ。」

 

 「っ!?……ずるいよ」

 

 ーーーーーーーー。

 

 刹那。不意をつくように、ユリの体にまとわりついていた瘴気を天野は吸い上げる。


「ううっ!?あぁああああああっ!!!」


身にまとった強い悪意を無理やり吸い上げられ悲痛の声を漏らす。長年貯められてきたユリの悪意と百合野の悪意が混ざりあっているのだ。


いわば、生命力を吸い上げれているのと変わらない。

 

 「……この悪意は僕のものだ。君はやっぱりそれでいいんだよ。」

 

 ユリはゆっくり気を失い、その場に倒れる。

 

 「傲慢……か。厄介な感情だ。……残りは色欲と強欲、嫉妬。そして……いや、まさかな。」

 

 天野はブツブツと呟く。

 

 天野とユリの体は気がつくと、百合野家の一室へと転移される。

 

 水の流れる音、自然の香り。

 

 混沌した世界から解放され、目の前に疲れ果てたジン達が現れる。

 

 「鈴蘭とユリ、輝、カイナさんは見ての通りだ。……やられたよ。」

 

 百合野の血を引くものたちは、現実世界に帰ってきても意識を失っている。

 

 「輝は途中で暴走して全てを飲み込んだはずだが?」

 

 「気がついていたのか。俺が強制分離させたよ。」

 

 「便利なもんだな、ぬらりひょんってのは。」

 

 「妖怪の力を持つ者にしか意味はねえよ。それよか、現状は理解してるな?」

 

 「ああ、分かってる。だが、全員戻ってきてからだ。僕は全員助ける。」

 

 「その後で、てめえがどうなるか、分かって言ってんのか?」

 

 「ああ。もちろんだよ。僕は……ユリみたいに純粋にはなれない。……嘘つきだから。」

 

 「……勝手にしろ。だが……礼を言う、お前じゃなきゃ、助けられない。」

 

 「分かってるよ。これは僕にしかできない事だ。僕の罪だ。……クロエの件も百合野の件も僕の失敗から生まれたことだ。……それを僕は真城優に託すことしか出来ない。」

 

 「なんであいつなんだ、ユリじゃなく。何故あいつに託したんだ?」

 

 「気がついていないのかい?彼女にはもう1人、魂が宿っていることを。」

 

 「道満法師だろ?」

 

 「いや。いるんだよ、もう一人ね。二つの世界を観測し、平和望んだ人が。彼女の中には悪意と……『反転する悪意』があるんだ。」

 

 「まさか……!?」

 

 「彼女はね……『怒っているんだよ』」

 

 「まてまて!そんなこと有り得るのか!?」

 

 「安倍晴明はそういう奴さ。あいつはその時それが正義だと疑わなかった。数年先の未来を改変してでも、幼なじみの悪意を取り除きたかったんだ。それが『インバート・マリス』さ。どこまで仕組んだかは知らないが、僕とハジメに宿る牛鬼、前世の記憶、百合野家の因縁。全ての中心に『真城優』が繋がるようにできている。」

 

 「狂ってやがる!!!世界を混沌に陥れた道満に世界を救わせるための術式だったって言うのか!?」

 

 「少なくともその願いが形となってしまったことは否めないね。」

 

 「全ての事象がひっくり返るぞ!それじゃあ!道満が正義で、このシナリオを作った清明が悪じゃねえか!!!」

 

 「全部が全部ってわけじゃない。ただ、色々な偶然が重なっただけのこと。僕の罪に変わりはない。でもどうやっても優がこの世界を救うように生まれてきているのは確かだ。……だから僕は僕にしか出来ないことをするよ。」

 

 天野は深く黒いフードを被り、その場を後にする。

 

 呆気にとられ、ジンは放心状態になる。

 

 そしてため息のように笑う。

 

 「引退だな、これは。な、鈴蘭。俺たちじゃもう、手に負えねえよ。前世とか神とか、常世とか、そういうのに詳しいやつに任せようぜ。」

 

 優しく鈴蘭の頬に触れる。

 

 「何はともあれだ。俺は俺に出来ることをやった。…あとは任せたぞ、ガキども!」

 

 ジンはそのまま、疲労を回復するかのごとく深い眠りについた。

 

 残る鬼は三体。

 

 色欲のリリ。

 

 嫉妬のカレン。

 

 強欲のリム。

 

 六鬼戦争の結末、そして優の中に眠るもうひとつの魂とは。

 

 物語は結末に向けて、動き出す。

 

 目覚めないユリ、テル、カイナ、鈴蘭は穏やかな顔で眠っていた。

 

 悪意が晴れ、子供のような寝顔はどこまでも純粋そのものであった。

 

 

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