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#32 罪の代償【琴上人VS暴食の鬼】


 今から十数年前。

 

 世界を混乱に導いた『天邪鬼』が、封印から目覚めた。

 

 きっかけは、俺たちにあった。

 

 ーーーーーー。

 

 何千年も歴史を持つ『百合野』。その血と先代の当主『ユリノ姫君』の魂を受け継いだ『鈴蘭』。

 

 彼女と何の因果か巡り会った、『琴上人』『宮ノ森桃子』『野村海』。

 

 俺たちにはそれぞれ『九尾』『天狗』『八岐大蛇』との繋がりがあった。

 

 そして、鈴蘭には百合野に封印されてきた『天邪鬼』が宿っていた。

 

 世界を破滅に導く3大妖怪『九尾・天狗・八岐大蛇』。そしてその三つが生まれし時蘇る『天邪鬼』。

 

 そんな、おとぎ話が本当だと信じられていた。

 

 実際俺の祖父は九尾と恋に落ちた存在で俺の中には『九尾の力』が宿っていた。

 

 その事に気がついた時だった。

 

 当たり前にあった俺の中の常識が崩れた。

 

 俺は人間で、妖怪を撃つ力を持っている。

 

 世界に広がる妖怪や悪を消すことが俺の役目だ。

 

 ずっとそう思い続けてきたからだ。

 

 だからこそ、己が妖怪だと知った時、人間であるためには妖怪を殺すしかないと思った。

 

 『あんた、人間でいたいだけでしょ?』

 

 その通りだった。

 

 妖怪じゃない。俺は人間だ。

 

 『悪い妖怪ばかりじゃなくて、いい妖怪もいるんだよ?』

 

 知るかそんなもの。

 

 『お前のこと、俺が助けてやるって言ってんだ。ひとりで抱えてんじゃねえ!』

 

 うるさい。うるさいうるさい。

 

 誰も頼んでいない。

 

 ーーーーーーー。

 

 そんな調子で俺は妖怪と共存する道を模索する『鈴蘭』たちと決裂した。

 

 今でも思う。俺は自分のことしか考えていなかったと。

 

 モモコやカイはそれぞれに繋がりのあった『天狗』『オロチ』と向き合い己の前世を受け入れていた。

 

 俺は自分の中で巻き起こる『悪意』『憎悪』に身を焦がし、最後には友人を手にかけた。

 

 死んでしまった友の姿。

 

 泣きじゃくる幼なじみ。

 

 体を黒く染めた想い人。

 

 そこまでの極限状態になって、ようやく俺は自我を取り戻した。

 

 『俺は……なにがしたかったんだ……?』

 

 遅すぎる後悔に止まらない涙。

 

 

 最終的には殺した親友『カイ』は一命を取り留めていたが、今でも自分の暴走に恐怖する。

 

 自分の目的信念は己にとってはその時『善意』なのかもしれない。

 

 だが、俯瞰してみれば、全くの『悪意』なのだ。

 

 ーーーーーー。

 

 それから直ぐに天邪鬼は鈴蘭の力により、一旦の命を終えた。

 

 満足そうに浄化されて行ったのを覚えている。

 

 あいつも暴走を繰り返して、歯止めが利かなくなった存在なんだ。

 

 ーーーーーーー。

 

 それから俺は鈴蘭たちと和解し、己の罪を認めることにした。

 

 まず向かったのは静かな森だ。

 

 俺はそこに住む害のない妖怪を殺し回った、という過去がある。

 

 どんな処罰も受けるつもりで俺は足を踏み入れた。

 

 『お前が大切にしている人の命を差し出せ。そしてお前の近しい人間の魂も捧げよ。それをもって罪を許そう。』

 

 『お願いします。どうか……俺の命で……!手を打ってくれま……せんか?』

 

 俺は必死で懇願した。

 

 何度も何度も地面に頭をめり込ませて。

 

 『お前はそうやって命乞いをしたものを殺したのだ。貴様のような穢れた魂要らぬわ。』

 

 『本当に……本当に……ごめんなさい……』

 

 俺はそう呟くことしか出来なかった。

 

 結局命を支払ったのは父さんと母さんだった。

 

 『お前は大切なものを守れない』

 

 本当に……その通りだよ。

 

 『お前をこんな運命に巻き込んだのは俺のせいなんだ。だから何も気負う必要は無い。お前なら立派に当主になれるさ。……俺もお前と同じように人間でいたくてな。カイナさん……鈴蘭のお母さんに酷いことをしたんだ。でもどっちつかずでな。悪になりきれなかった。だからお前に背負わせた。悪いと思ってるよ。』

 

 『ダメだ……!父さん!』

 

 『家族の罪は私の罪でもあるの。ここはお母さんとお父さんが精算するから。あなたは前を向きなさい。……立派に役目をこなすのよ。ジン。』

 

 『あぁああああああああっ!!!!』

 

 俺はただ罪を背負って嘆くことしか出来なかった。

 

 この重みを罪を忘れてはならない。

 

 いや、もしそうだとしても。

 

 『やめろぉおおおおおおおお!!!!』

 

 俺は全力で叫び、力を解放した。

 

 妖怪の長、『隠蔽の化け狸』に全力の一撃を与え、父さんや母さんが命を落とすのを阻止した。

 

 『ほれ、見ろ。貴様の本性は、覚悟はその程度だ。』

 

 『罪は認めてやる。だがな!違ぇだろ!大切なものを奪われて、また奪って。それじゃあ!ただの繰り返しだろうが!』

 

 『ククク。ハーハッハッハッハ!その通りだよ。若造。それでいい。……当主になるのだろう?もっと狡猾に生きよ。若すぎる。』

 

 『……え?』

 

 手のひらを返すように、微笑んでみせる歪んだ狸。

 

 不気味に瘴気を纏っているのに、その時だけは偉く優しい顔をしていた。

 

 『我ら、妖怪は元来人間の悪意の成れの果て。ここに集まっていたのは悪意に溺れ奇跡的に自我を取り戻したもの達だ。……だが、行き場を失い彷徨っていたのも事実。……べつに怒ってはおらぬよ。』

 

 『じゃあ……?』

 

 『ああ、協力は惜しまない。元々先程までのは貴様を見極めるための行為だ。悪く思うな。……まあ、少しばかりの鬱憤払いだな。良いか、人の痛みを忘れるな。今の気持ちを忘れるでないぞ。』

 

 ひとまず俺は、妖怪との繋がりを得ることが出来た。

 

 失わずにすんだ両親に安堵の表情を向ける。

 

 相手が何枚も上手だっただけだ。

 

 ほんとうなら、妖怪大戦争が起きていてもおかしくはなかった。

 

 俺は無差別に命を奪ったこと、その重さが理解出来ていなかったこと、自分が経験して初めて気がついたこと。

 

 そのことを決して忘れてはならない。

 

 ーーーーーーー。

 

 

 

 監視役に野村大地。カイの弟が選ばれた。この世界で一番穢れを持たない存在との事だった。

 

 魂を常に化け狸に監視され、俺を見張る役回りだ。

 

 言い方を変えれば、人質だ。

 

 やはり、何枚も上手。世界の裏側で世界を調停してきた妖怪は格が違った。

 

 俺はカイになんと言っていいか分からなかった。

 

 なんの力を持たず、カイが守り続けてきた弟をオレが巻き込んだ。

 

 カイの前世はウミという少女だったと言う。

 

 俺のご先祖さまでもある。

 

 オロチが襲ってきた時に捧げられた少女。

 

 大地同様に清い心を持った少女だったと言う。

 

 なんの因果だろうか。

 

 世界は同じような事象を繰り返している。

 

 

 そんな気がしてならなかった。

 

 『気にしなくていい。俺もオロチと共にこれから歩んでいく。その過程ではきっと巻き込んでいた。……ある意味じゃ身の安全が保証されてる。……今のお前が道を外すとは思わねえしな。』

 

 親友の信頼が肩に重くのしかかる。

 

 俺の命に枷がかけられていく気がした。

 ーーーーーー。

 

 それから数年後、俺は琴上家の当主となった。じっさまが、色々手を回してくれて簡単に継ぐことが出来た。もちろん、天邪鬼や九尾を討伐したという功績が影響してのことだが。

 

 その後、俺が向かったのは『百合野家』だ。

 

 先代(前世の俺)の罪を謝罪しに赴いた。

 

 また、天邪鬼の件も落ち着いてたこともある。今後のふたつの家系の緊張を整える必要があった。

 

 ーーーーーー。

 

 いまや妖怪はカイやモモコが天狗とオロチを収めるものとして君臨している。

 

 滅多なことでは暴れることはなくなった。

 

 俺にも九尾の力が宿っている。

 

 妖怪にとって三大妖怪の存在は大きいようで、簡単に収めることが出来た。

 

 ひとまず、日本の平和は確保出来たということだろうか。

 

 俺は琴上家の当主として近隣住民への妖怪への対策は行っていたつもりだ。

 

 鈴蘭は通訳士となり、度々世界を回っている。世界にも悪魔と呼ばれる存在がいるようで、それを退治するエクソシストが存在していた。

 

 海外は海外で、うまく世界を調停していたようだ。鈴蘭は日本と海外の橋渡しとなり、人と人の繋がりをうみ、世界の悪意を取り除く活動をしている。

 

 モモコは実家の企業を継ぎ、社会的な面から過ごしやすい世界を作ろうと画策している。

 

 カイは教師の資格を取り、思春期に起きる増幅される悪意に付いてアプローチしている。

 

 再び大きな悪意が生まれることを懸念して。

 

 鈴蘭は言った妖怪と人間が共存していく世界を作ると。

 

 それは元を辿れば、人の悪意が根源となっている。

 

 それを調整し、溢れたものを退治する。悪意が形となって見えてしまう自分たちにしかできない事だと言っていた。

 

 俺もその意見に賛同した。

 

 昔ほど妖怪は信じられる存在ではない。

 

 だが、昔以上に自然は絶え、技術が発展したことで格差も生まれている。

 

 その結果穢れた魂が次々と形成されていく。

 

 それがこの世界だ。

 

 それを少しでも取り除いていく必要がある。

 

 そう思った。

 

 普通の人には観測できないだけで、確かに身の回りに起きている。

 

 俺たちのように悲しい運命が訪れないように苦しみを知る俺たちが世界を救わなければならないのだ。

 

 ーーーーー。

 

 俺は思いの丈を百合野李夢に伝えた。

 

 現状や俺たちの取り組みについてだ。

 

 概ねリムは納得し、理解してくれた。

 

 だが、条件を出された。

 

 『ひとつは、鈴蘭やこれから産まれてくるユリノの血を引くものを百合野家に関わらせないこと。こちらからの呼びかけには応じること。』

 

 『別にいいが、次の当主は誰にするつもりだ?』

 

 『家のリリを考えている。』

 

 リリは立ち上がり、大きく反発した。

 

 『嫌です!おばあさま!私は百合野でもなんでもない!真にこの家を継ぐべきは鈴蘭ちゃんよ!』

 

 ーーーーー。

 

 聞けば、リリは養子らしい。養子と言っていいかは分からないが、日本人とどこかの国とのハーフらしい。

 

 通り魔に母親を殺害され、父親は精神的におかしくなったと言う。その結果、精神的なストレスから虐待や育児放棄に及んだと言う。

 

 それを無理やり引き取り、百合野の子供として教育を無理やり施した。

 

 凄惨な過去と精神的なストレスにより、簡単に力に目覚めた過酷な運命を背負った女性だ。

 

 リムが彼女を育てた理由は鈴蘭の代わりを作るためだ。

 

 鈴蘭とは『初代当主ユリノ姫君』の魂と『天邪鬼』を身体に宿す存在。

 

 そのユリノ姫君によって一族が滅亡しかけた記憶をリムは保持している。

 

 だから鬼や鈴蘭を偉く避けているのだ。

 

 そして再び世界が闇に落ちると踏んでいる。

 

 だからこそ、一族を繁栄させるためにリリを次の当主にしたいのだ。鈴蘭ではなく。

 

 リリであれぱ、百合野の人間や幌先の人間と結ばれれば百合野の血を絶やさずにすむ。

 

 どこまでも身勝手な考えだが、それだけ一族を守ろうとしているということだろうか。

 

 ーーーーーーー。

 

 『お前の意見は聞いていない。黙っていろ。』

 

 『っ……。』

 

 リリはずっとリムの奴隷だった。

 

 それを救ったのが、鈴蘭の父親だ。

 

 栄介の活躍により、彼女は心を取り戻した。

 

 今回の天邪鬼の騒動に乗じて鈴蘭を殺そうと企んでいたのを陰ながら助けてくれていたのだ。

 

 一時的に三大妖怪を封印してくれたのも彼女たちだった。

 

 だが、騒動が収まれば、この通り。リリは利用される。未だに鳥籠の中にいるのだ。

 

 ーーーーーー。

 

 『もうひとつの条件は鬼を私たちは絶対に許さない。鬼と手を組むなら、私たちは全力で貴様らを撃つだろう。文句はあるまいな?前世で妖怪と親しくしたと、我ら一族を殺したのだから。』

 

 『わかってます。そんなことは絶対に。……たとえ、起きたとしても、納得させる結果に終わらせます。』

 

 『ふっ。ならば、協力は惜しまない。』


本音では琴上を恨んでいるのだろう。だが、それ以上に鬼やユリノがいたからあの悲劇は起こったと解釈した。そんな気がする。


ちょっとした綻びでこの関係は崩れる。俺が上手く繋いでいく必要がある。決して、二度と間違わないために。

 

 ーーーーーー。

 

 こうして俺たちは難なく、世界を調停していった。

 

 真城優が現れるまでの数年までだが。

 

 ーーーーーーー。

 

 悪意を宿し、鬼をうむ。

 

 そして別世界との扉を開く。

 

 鬼を召喚する。

 

 正直いって規格外な存在だった。

 

 早々に気がついたカイやモモコが対応してくれたが、偶然が重なり、真城優に近づくのに時間がかかった。

 

 突如出現した悪鬼。

 

 当初俺たちは転生した天邪鬼の残滓かと疑ってしまった。

 

 天野とユリを守るために家から追い出し、天野の存在を隠した。

 

 家から出せば、他の連中に気が付かれることがないからだ。

 

 大地の力を借り、2人の存在を隠し、カイやモモコに力を修行をつけさせることで、監視もできた。

 

 その間に起きたモデルハウスの既視感の感じる事件が起きた。

 

 まさか、雪娘や悪意を持ったオロチが現れるなんて。

 

 小学生のときを思い返し、俺の力不足で残滓が残っていたのだと思った。

 

 給付金も渡して、助けたつもりだった。

 

 だが、突如として酒呑童子が降臨した。

 

 それも真城の家にだ。

 

 さすがに疑わずにいれず、カイに調査を依頼した。

 

 『あの子は別に普通の子だったよ。ハジメとは関係ねえ。給付金も喜んでたぜ?』

 

 カイのお節介な癖を忘れていた。真城が危険になると踏んだ。

 

 そしてユリにも隠すようにお願いされていたらしい。

 

 青鬼が出現し、いよいよ百合野家にも問題を追求された時にカイを問いただした。

 

 『どういうことだ?カイ。』

 

 『ユリにお願いされていたんだよ。この件は私に預けて欲しいって。でも確かに色々複雑な事情が混ざってるみてえなんだ。俺らと同じく神と関わりがあるかもしれねえ。』

 

 早い段階で真城の正体『道満法師』にたどり着いた。

 

 だが、実際に本人を調査してもその兆候は現れなかった。

 

 だから問題ないと甘くみていた。

 

 直々に『アジスキタカヒコネ』が現れるとは思っていなかった。

 

 結果、それぞれ前世での力を取り戻したり、牛鬼をハジメや天野が制御したり解決はした。

 

 だが、あの一件によって真城優が危険であると周知したようなものだ。

 

 百合野家はあくまで、天邪鬼がいなくなったから、落ち着いただけ。

 

 鬼が次々と跋扈し、優は厄災を呼び寄せる。

 

 全力で潰しに来るのは理解出来る。

 

 ーーーーーーー。

 

 「だが、なんであんなに嫌っていた鬼を自分たちが生み出して、それを嫌っていた鈴蘭に押し付けるかねえ。」

 

 ジンは目の前に対峙する鈴蘭と拳を交えながら呟く。

 

 横から挟み込むようにして、カイやモモコも力を解放する。

 

 「本家の天狗の力見せてあげるよ!!!翼の舞・撃翼乱舞!!!」

 

 回転するように翼と羽扇子を交錯させ、踊るように風を操る。

 

 「フフフ。分かってないなあ!モモコちゃん!ぜーんぶ食べちゃえばいいんだよ。」

 

 「えっ……」

 

 モモコは不意に鈴蘭に手を引かれると、抱き寄せられ、キスされる。

 

 「むぐっ!?ば、ばか!何してんのよ!」

 

 モモコは勢いよく鈴蘭から離れ顔を蒸気させる。

 

 「あ、あれ。」

 

 モモコはキョトンした顔で再び力を込めるが、霊力が湧いてこない。

 

 その場に座り込み、顔を赤面させている。

 

 「霊力は感情を私たちの力で変換したものだよ?衝撃的なイベントは力は鈍らせる。……それにね。」

 

 鈴蘭は解説を終えると微笑む。

 

 霊力は先程の数倍に膨れ上がり、七色のオーラが身を包む。

 

 「あっはははは!おいし!……肌の接触はね、霊力の受け流しなの。こんなことも出来るんだよ?降りてきて『均衡と天秤の天狗』!!!!」

 

 鈴蘭は背中から黒き翼を生やす。

 

 それはまるで、桃子の天狗の力を奪ったかのように美しい。

 

 呆気に取られ、攻撃のタイミングを失っていたカイが叫ぶ。

 

 「ちっ!八岐大蛇!!」

 

 カイは八岐大蛇を霊力と同期させ、そのまま突っ込む。

 

 「ほいっと。一直線はテルと同じだよ?カイくん。」

 

 嘲笑うかのように避けると、強烈な一撃をカイの腹部に浴びせる。

 

 「捕まえたァ!!!!」

 

 カイはその拳を掴むと、そのまま地面へと共に落下する。

 

 叩きつけるように上空から鈴蘭を下ろす。

 

 「八頭縛術!!!」

 

 カイは霊力を練り上げ、鈴蘭の全身を八岐大蛇の頭部で拘束してみせる。

 

 「鬼の分離方法ぐらい知ってるっての!……やりやがれ!ジン!」

 

 「九尾・干渉炎撃!!!」

 

 遠くからジンは八岐大蛇の八つの首に向けて力を発揮する。

 

 その霊力によってジンの体は高速で、鈴蘭の元へ引き寄せられる。残った一つのしっぽがジンの拳と連動し、火を纏う。

 

 「くらいやがれ!!!」

 

 「がぶっ!!!」

 

 鈴蘭は口を大きく開き、ジンの拳を勢いよく噛む。

 

 「あっあああああああっ!!!」

 

 悲痛の声が響くが、ジンはそのまま踏み込みを強くする。

 

 「むぐっ!?」

 

 「こじ開けてろ!食いしん坊が!!世界を調停すんだろ!食ってどうする!?そこに残るのは空っぽの皿だろ!!!そうしないための俺たちだろ!俺たちが世界を満たすんだよ!!!」

 

 ジンの影から無数の人影が浮かび上がり、鈴蘭に取り付く。

 

 『悪く思うなよ!奥義・百鬼夜行!!!!』

 

 捉えられない無数の影が鈴蘭の体を這いずり回り取り込まれる。

 

 『術式発動!強制分離!!!』

 

 刹那、ジンにむかって無数の影が解き放たれる。

 

 「なにっ!?」

 

 ーーーーーーーー。

 

 『お腹すいた、月花は?陽太は?どこ?お姉ちゃん!!!お姉ちゃん!!!』

 

 『まだ生きてたのか。百合野。呪われた血よ。……悪く思うな。』

 

 少年は炎に包まれる中、一人泣き叫ぶ少女に剣を振り下ろす。

 

 『どうして!どうして!こんなことするの!!!ゲンお兄ちゃん!!!!』

 

 ゲンと呼ばれた少年は剣を投げ捨て、泣きじゃくる。

 

 そのまま、少女を抱き上げその場を後にした。

 

 『これを食べて、遠くへ行くんだ。幌先月花ならまだ生きているはずだ。』

 

 『こんなものいるか!!!』

 

 少女は涙ながらに握り飯を地面に落とす。

 

 その瞳は憎悪に満ちていた。

 

 『お前がみんなを殺したんだ!!!天邪鬼なんかじゃない!全部は琴上が悪いんだ!!!』

 

 『俺は……ちがう……殺してない!!!ユリノは鈴蘭は!!!天邪鬼に殺されたんだ!!!アイツが鈴蘭に取り付いたから!!!!』

 

 『ならば!!!鬼も琴上も私は許さない!!!!もうどこかへ消えてしまえ!!!!』

 

 『ぐっ……。』

 

 ーーーーー。

 

 蝶よ花よと愛でられてきた少女の人生は一変していた。一般家庭の裏で泥にまみれ、飢餓感を拭うため廃棄物を口へと運ぶ。

 

 『……ぶっおおぇ。……はあはあ。……生きてやる生きてやる復讐を果たすまで。どんなものでも屈辱でも食べて、食べて、生き抜いてやる。』


襲ってくる嘔吐感を無理やり飲み込む。吐いてはいけない。腐っていても美味しくなくても口に入れて満たさなければならない。生きていくんだ。そのために必要なことなのだ。どんなに汚れたって、ここで終わってたまるものか。

 

 ーーーーーーー。

 

 『あっ!?せ、セイナ様!?一体なにがあったのですか!百合野は一体なにがあったんですか!!!』

 

 現れた女性は強くセイナと呼ばれた少女を抱き寄せる。痩せこけたその体は今にも壊れそうだった。強くだけれど、優しく包み込んだ。

 

 『月花……。みんな、ころされた。ごめん……なさい。陽太も殺されたんだ。ゲンに。琴上家に。そして天邪鬼に、お姉ちゃんも。』

 

 『……っ!?……ユリノを守るのが、私の使命です。どうか、どこまでもお傍に。』

 

 月花は自らの左手に小刀で傷を作る。

 

 『これは戒めだ。……主を守れなかった私の。……いや、幌先の。』

 

 ーーーーーーー。

 

 

 『爆風天撃!!!』

 

 ーーーーーー。

 

 「っ!?……あれ。俺どうしてんだ?」

 

 「あの後一瞬、鈴蘭から放出された鬼の瘴気に当てられたんだよ。平気か?」

 

 カイが手を貸してくれる。

 

 横になっていたようで、ゆっくりと引き起こされる。

 

 「モモコが起こしてくれたのか?」

 

 上空で翼を生やしているモモコに目がいく。

 

 「そうよ、ビンタしても起きなかったから。風でぶっ飛ばしてみたら、このとおりよ。」

 

 「乱暴だな。相変わらず。」

 

 「あんたはそういうんじゃないと目が覚めないからね。」

 

 「ふっ、悪いな。てかここは?百合野家?」

 

 「そ、鈴蘭倒したらあの空間から『私たち』だけ抜け出さたのよ。」

 

 「そうだ!鈴蘭は!?」

 

 「それが寝たまま。起きねえんだよ。魂が完全に汚染されてる。」

 

 「ちっ。困ったな。百合野の悪夢……リムの魂も歯止めが効かないのかもな。……リムを倒して事が丸く収まればいいが。」

 

 「……愛しの鈴蘭が大変だってのに。偉く冷静だな。」

 

 「こうなることは予測できていたからな。……今は事が収まるのを待つしかない。」

 

 「なにか、直せる方法を知っているのか?」

 

 「ああ。……天野が天探女に戻れば、魂は浄化される。」

 

 「は?なんだよそれ。」

 

 「俺が常世との干渉を避けていたのは、ユリが天稚彦の生まれ変わりで常世に連れていかれるから……ではない。」

 

 「じゃあなに?前世の膨大な悪意によって魂が破損するって分かっていたわけ?」

 

 「ああ。最悪の事態を予測して、治す方法を探っていた。神には創造と再生の力が宿る。天野はクロエの一件で前世の記憶と牛鬼という強大なパワーを取り戻した。鈴蘭によって転生したことで魂も浄化されている。単純な話、魂を浄化するには転生すればいい。だが、ただの人間が転生すれば、記憶はほとんど残らない。俺たちの記憶が戻ったのは天邪鬼と干渉したからだ。」

 

 「なら、どうして天探女に戻る必要があるのよ?」

 

 「言ったろ、創造と再生の力があるって。」

 

 「また、ユリに嫌われそうな展開だな。」

 

 「神には戻すが、常世には奪わせない。天野はユリに必要な存在だ。」

 

 「ならいいんじゃない?」

 

 「だな。ひとまず、若造たちを待つとするか!」

 

 「ありがとう、二人とも。もう少しだけ、俺のワガママに付き合ってくれ。」

 

 ーーーーー。

 

 暴食。いや。セイナ。

 

 今度こそ、みんなが生きて笑える世界を作ってみせるからな。

 

 お前のお姉ちゃんと一緒に。

 

 ーーーーーー。

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