表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/46

#28 嵐前の序曲。


 広がる青い海。聞こえる波の音。

 

 都会の喧騒から切り取られたような、自然豊かな景色。

 

 快晴の日差しが降りそぞく。

 

 「さすがにあちぃな。」

 

 「まあ、待ってるのも醍醐味じゃない。」

 

 ヒロとハジメは水着に着替えている女性陣を待っていた。

 

 日差しがとても暑い。

 

 灼熱の太陽に身を焦がすようだ。

 

 「水着でそんな時間かかるものなのか?」

 

 「ハジメはお兄さんキャラなのに、そういうところが足りないよね。」

 

 「真面目くんからしたらそうだろうね。」

 

 このとおり、暑さで2人のトークは嫌味めいたものになっている。

 

 「ほらほら、二人とも暑いからってイライラしない。ほら、飲み物買ってきたよ。」

 

 見兼ねた天野が気を利かせてジュースを買ってきたようだ。クーラーボックスに入れてありひんやりとする。

 

 これ飲んだら準備手伝ってね、と言わんばかりに配慮がきいている。

 

 天野はユリと共にいる時間が長い。そのためかこういうイベントでは率先して動く。

 

 クーラーボックスなんていつの間に準備したのだろうか。

 

 パラソルやベンチ、レジャーシートなんかも天野の後ろから見える。

 

 「おお!ありがとう!お前は優しいな!お前は。」

 

 「僕はただでさえ山に行きたかったのに。」

 

 天野の用意周到さに気がつくことも無く、2人は一気にジュースを飲み干す。

 

 普段であれば、『準備よすぎな!』『どれだけ張り切ってるんですか』ぐらいのリアクションはあってもいいところだ。

 

 天野は渋々1人で準備を始める。

 

 実際そこまで時間かからないので、良いのだが。二人とも運転で疲れているだろうと配慮し、準備に取り掛かる。

 

 「2泊3日、明日は山だって言ったろ。それにソラの水着姿に釣られたくせによ。」

 

 「べべべ、別に!そんなんじゃない!」

 

 「むっつりだな。」

 「ムッツリだね〜、僕はユリの水着見たいよ。きっと美しいだろうなあ。」

 

 構わず会話を続けていた二人であったが、ようやく天野が準備に勤しんでいることに気が付く。

 

 話しながら準備を手伝う。

 

 「結局、天野さんと琴上さんは付き合ったの?」

 「いやぁ?そういうんじゃないよ。」

 

 天野が持ち上げようとした大荷物を一緒に持ち上げるヒロ。

 

 「やる事やってる雰囲気あるけどな。ヒロとソラはガチで進展してなさそうだけど。」

 

 レジャシートを広げ、砂の上に広げていく。その上にクーラーボックスを起き重しにしている。

 

 準備を進めながらも恋愛において一歩リードしているハジメは2人を余裕でいじる。

 

 「そこに関しては……。あまり、よく分からなくて。」

 

 「ソラのこと嫌いなのか?」

 

 「そういうことじゃないけど、ずっとそばにいたから意識した時にから回るというか……。」

 

 ヒロは曖昧ながらに言葉を紡ぐ。いきなり距離や関係性が変わる訳では無い。

 

 ましてやソラの親友である優を好きだったのだ。後ろめたさもあるだろう。

 

 ソラも片思いが長く上手くいってないようなもどかしい気持ちになる。

 

 ハジメは何もせずともふたりの距離感で進んでいると解釈する。

 

 そっと横目で天野を見やる。彼はあまり触れてほしく無さそうだ。

 

 どこかユリを大事にしすぎている節がある。だが、ハジメも鬼と人との距離には自信が無い。

 

 何事もなく想いが成就されることを願う他ならない。

 

 「大変なんだな。てか、タケルは?」

 

 準備を一通り終え、ハジメは背もたれ付きの椅子に寄りかかり日差しを避ける。

 

 同じようにヒロはベンチに座り、天野はレジャーシートに横になる。

 

 「紅葉と買い出しに言ったよ。鬼同士であんなに仲良いなんて、珍しいね。」

 

 天野はリラックスしながらハジメに話す。

 

 「二人とも、人間に近ずきすぎた鬼だからな。そうかもしれない。タケルはイタズラな鬼でな、人の姿に化けて人間を誑かしていた。でも本当に善意で人に化けた時があってな。あいつは人間が大好きなはずだったんだ。でもなあ〜」

 

 伸びをしながら軽くタケル、つまり茨木童子について語る。

 

 続きを語る必要は無いと判断したのか濁す。

 

 ハジメの瞳にかつての青鬼の姿が目に浮かぶ。

 

 人を愛し、人を憎む。両価性な感情を孕んだ歪な鬼。彼を変えたのは他ならない緑鬼、橋姫だろう。

 

 「紅葉も人と手を取り合って協力していた鬼なんでしょ?」

 

 ヒロが聞いた話をそのままハジメに質問する。

 

 「そうだな。結局牛鬼の力によってかき乱されて人間に同胞を殺されたけどな。……そういう意味じゃ、裏切られる痛みを知ってるんだよ、牛鬼とか以前にどこかにあった人の鬼への悪意を真に受けた二人なんだよ。」

 

 「鬼の話はいつも胸が痛くなるね。人よりよっぽど純粋な心をしてるよ。」

 

 「とかいって、天野だって鬼や神を経験してるだろ?」

 

 「僕はいつもユリのために力を使ってたから。姿や魂は違っても僕は誰かに必要とされたいんだよ。」

 

 まただ。ハジメは少し鋭い眼光を天野に向ける。

 

 強すぎる思い。今度は間違えないという強い決意。

 

 少し天野の瞳は濁っているのかもしれない。

 

 盲目的にユリを守ることのみに執着している。もっと自分の欲をだしてもいい、そう感じてしまう。

 

 ユリは天野がそばにいてくれればそれでいい、そう思っている。

 だが、天野は彼女を幸せにするために奮闘する。

 

 その未来に、ユリの隣には天野が必要だと言うのに。

 

 ここはひとつ、鎌をかけてみよう、と試みる。

 

 「この間の一件で神からなにも言われてないのか?」

 

 「さあね。今の僕は人間だからね。……次に絡んでくるとしたら、『百合野』だよ。」

 

 「百合野ねぇ……。実際カレンのことどう思う?」

 

 「カレン自体は悪くないと思う。……問題は百合野李夢っていう百合野家前当主なんだよ。彼女はどんなことをしても鬼をこの世から消そうとする。たとえ人を殺してもね。」

 

 「どうにかならんのか、その婆さん。」

 

 「ユリの両親やカイさん、モモコそんを頼って全員で戦ってやっと同じステージに立てる……かな。一昔前にリムと戦った『織詩歌』っていう最強の霊能者がいたんだ。ユリのひいばあちゃんに当たるね。その人は戦いの末仲間全員と記憶を失ったらしいよ。」

 

 「ユリの家系ってめんどいんだな。……今は平和に過ごせてるし、下手に関わらない方が良さそうだな。」

 

 「うん、それがいいと思うよ。」

 

 「もし仮に百合野が絡んできたらどうするんだ?」

 

 「当然ユリのために力を使うよ。」

 

 ハジメはため息をつく。慣れないことをするものでは無い。神や百合野そんなものが絡んできたとすれば、ユリを救う方法は1つだ。

 

 天野が離れればそれでいい。そうなるはずだ。

 

 だからその話をしようと思ったのだが、予想通りの答えだ。

 

 ユリが幸せならそれでいい、たとえ自分が消えてしまっても。そういう答えに聞こえる。

 

 アマノの頭にあるのは常に最悪の展開。その際どう動くか。どうすれば、ユリにとって1番いいか、と言ったところだろうか。

 

 ユリの身辺に関する情報はさすがだ。

 

 「まあ、結局は楽しんだ方がいいってことだよ。」

 

 ヒロが話をまとめる。

 

 「まあ、そうなんだな……。てか、おせぇーよ!女性陣!!!!」

 

 ハジメの心からの叫びが海全体に響き渡るのであった。

 

 嫌な予感はある。こんな楽しい毎日にはいずれ終わりがくる。

 

 嫌なくせだが、ハジメはそう思ってしまう。

 

 徐々に陰謀の魔の手は感じている。

 

 後手に回らきゃいいけどな、と思ってしまう。

 

 そしてそんな嵐が起きる前にヒロや天野が想い人と結ばれて欲しいと思ってしまう。

 

 ーーーーーー。

 

 「お、お待たせしました」

 

 ようやく優たち女性陣が水着姿て現れる。

 

 あまり優は肌を露出しないため、水着姿に思わずときめくハジメ。

 

 肌を露出するのが緊張するのがモジモジと体をクネらせる。頬は赤く染まり、上見遣いでハジメを見つめる。

 

 フリルの着いた赤色の水着。桃色のフリルのおかげで胸元は強調されていないのが、自然で可愛らしく見える。

 

 腰周りには斜めにスカート形を模していて不意に見える下の水着に色気を感じる。

 

 

 

 髪も邪魔にならないように高めのポニーテールに仕上げている。

 

 何よりも白く透き通った素肌が太陽光に照らされて神々しく見える。

 

 ハジメはゆっくりと近づき、微笑んでみせる。

 

 「似合ってるぞ、優。楽しもうな!」

 

 「っ!……はい!!」

 

 ハジメの一声によってようやく緊張がほぐれたのか笑顔が見える。

 

 「この水着、ハジメさんの赤い瞳意識……したんですよ?」

 

 「お、おう。赤は好きな色だ、嬉しいよ。」

 

 「よかった。」

 

 「これ良かったら使えよ。恥ずかしいんだろ?」

 

 ハジメは言いながら白いパーカーを手渡す。水で濡れても平気な優れものだ。

 

 優をイメージして白を選んだことは恥ずかしくて言えないようだ。

 

 やや頬は赤いようだ。当然だ。付き合って初めてのお出かけなのだ。以前よりも強くお互いを意識している気がする。

 

 「ありがとう……ございます……うれし……。」

 

 白いパーカーを抱きしめ、頬を赤く染める優。

 

 「(ハジメさんから貰っちゃった。……ずっと前から持っていたのかな、ハジメさんの香りがする……)」

 

 ハジメは鼻の下を擦りながら視線を逸らす。

 

 「(ああ。夏の海、最高だな。)」

 

 2人だけの空間がそこにはあった。

 

 ーーーーー。

 

 「……どーかな。似合う?」

 

 ソラは青を基調としたビキニを華麗に着こなす。

 

 金色の髪と相まって人魚姫に出会ったような相乗効果を発揮する。

 

 自分の魅せ方を熟知しているのか、一回転し前かがみになる。

 

 少し垂れ下がる前髪を耳にかけ、胸を強調する。

 

 すらっとしつつも女性らしいフォルムは出ており、鮮やかな肉体美を感じさせる。

 

 男性なら誰しもその豊満な肉体に瞳を奪われるだろう。

 

 ビキニからこぼれ落ちそうな果実へ自然と視線が向いてしまう。

 

 「とても綺麗だよ。結構大胆だね。」

 

 「……そーかな。こういうの嫌?」

 

 「ううん。とてもよく似合ってる!」

 

 「やった!!じゃ、泳ご!!」

 

 「あっ、ちょ!?」

 

 ソラは幼い少女のように微笑むと、ヒロの腕に抱きつき海へと連れ出す。

 

 ソラの豊満な胸がヒロの腕にくい込み、ヒロは無心になることを決めた。

 

 「(落ち着くんだ、大坪ヒロ。彼女は友達だ。大切な人だ。そんな目で意識してはならないんだ。……そうだ、冷静になるんだ。そうだ、目を瞑って対応すればいい。そうに違いない。)」

 

 ヒロの心は大荒れである。何とか平静を装うと瞳を閉じる。

 

 だが、感覚をひとつ遮断したことで更に胸への意識が高鳴る。

 

 「(つぁあああ!?何だこの楽園は!?程よくひんやりして、スベスベだ!!!って馬鹿野郎!!!僕は何を考えている!)」

 

 「ふふ、ヒロちゃん。さすがに意識しちゃった?」

 

 小悪魔的な表情で悶絶するヒロに抱きつくソラ。

 

 「ひゃえ!?ぺべ別、なにもやましいことは!!」

 

 思わず瞳をあけ、ソラを見やる。

 

 体に密着しているせいで、胸を視界に入れてしまう。

 

 「えっへへ。私、結構大きいでしょ?」

 

 「ぐっ……か、からかわないでよ。ほら、泳ぎ方教えて。」

 

 「はーい!(ヒロちゃん可愛い。どうしよう。意地悪したくてたまらない!)」

 

 ここもまた、2人だけの空間ができあがっているのであった。

 

 あまりソラを女性として意識していなかったヒロには効果覿面な行事となるだろう。

 

 ソラの悪巧みが工作される中、ヒロは泳ぎ方をレクチャーされるのであった。

 

 ソラは普段完璧なヒロに教える時間を作れたこと、意識させるのに絶好のタイミングであることに喜びを感じ、ニヤニヤが止まらない様子だ。

 

 ーーーーー。

 

 「みんなはしゃぎ過ぎよ、まったく。」

 

 ユリは一人取り残され文句を言い放つ。

 

 「不貞腐れないで。僕がいるじゃない。」

 

 「いつも通りじゃない。」

 

 「ふふ、そうだね。……水着よく似合ってるよ。天使かと思っちゃった。」

 

 白く美しい髪の毛をそっとお下げに結い、ワンピースのような淡い緑を基調とした水着を着こなしている。

 

 体型へのコンプレックスなのが布面積は多く露出は少ない。

 

 だが、へその部分が露出されており、美しいクビレの曲線が見事だ。

 

 肩や足も見事に女性らしさを演出し、何よりも白髪が太陽光に照らされ輝きを放つ。

 

 「私はお子様体型だからお世辞はいいのよ。本当は黒のスク水着ようと思ったんだけどあの二人にとめられてね。似合わないでしょ。」

 

 「そんなことは無いよ。可愛いよ。確かにスク水もスタイリッシュでスポーティで似合うけどね。……僕にはユリしか視界に入らないよ。ユリだからこそ可愛いと思えるんだ。」

 

 「……ばか。そういうこと言うなし。はいはい。仕方ないから遊んであげるわよ。」

 

 「うん、ありがとう。それにほら、もう一人置いてかれている子はいるよ?」

 

 「あら、ほんとね。」

 

 2人が視線を送ったのは隅っこで座るカレンだ。

 

 「リア充どもめ!滅せよ!あっははははははは!!!」

 

 「なに悲しい呪文唱えてるのよ。あんたもこっち来なさい。」

 

 「うわっ!?ユリ様!」

 

 「すっかり元気みたいね。」

 

 「えぇ。まあ。お陰様で?」

 

 「そう、それは良かったわ。」

 

 ユリは言いながらカレンの横に座る。

 

 「かっ!?」

 「え?」

 

 ユリは思わずとんでもない声を出してしまう。

 

 それもそのはずだ。カレンの胸に視線がいったからだ。

 

 「メロン!?メロンなの!?」

 

 「なっ!?ひや!?」

 

 あまりの驚きにそのままカレンを押し倒す。

 

 「一体何を食べたらこうなるの!?」

 

 ユリは夢中で胸を観察する。

 

 「みみみ、見ないでぇ!!!」

 

 「……ユリ。やめなさい。」

 

 天野も思わず呆れて静止を促す。

 

 「辞められるわけないでしょ!これは人類のためなのよ!!!私が大きくなるためなのよ!!!あなたは世界を見捨てろと言うの!?薄情だわ!!!」

 

 ユリは今まで見た事もないような迫真の様子を見せる。映画のクライマックスかよ、と突っ込みたくなるb級ぶりだ。決して、ユリの胸がb級だと言っている訳では無い。

 

 カレンはショート丈の水着とサーフパンツを合わせたシンプルな着こなしだ。

 

 胸を強調していないにも関わらず盛り上がる二つの丘。

 

 まるで大地の恵のようだ。

 

 ユリは視線を釘付けにされ、ゆっくりと手を伸ばしカレンの胸に触れる。

 

 「なんて、完成されたお胸なの!?理想!…理想郷がここにあるわ!!!」

 

 「や、やめてよぉ〜」

 

 カレンは顔を真っ赤にし、顔を覆う。

 

 「(なんだろう。今日一ユリがテンション高い。……幌先花蓮、嫉妬するぞコノヤロウ。)」

 

 天野は徐々に苛立ちをカレンに向ける。

 

 「(僕も女性化するか?……そうかその手があったか。力を限界まで高めれば女性化など容易いな。いや、いっその事カレンを男に変えてしまうのはどうだろうか。いや待て、ライバル出現なのか?それは。)」

 

 変なことを考え始めて迷走する天野。

 

 「あ、天野さん。助けてえ」

 

 女性同士の絡み。それも片方は想い人。

 

 満更でも無い様子に見えるカレン。

 

 「っ!?」

 

 天野は謎の背徳感と高揚感を得る。

 

 「美しい……これが楽園か?」

 

 先程まで向けていた嫉妬が不思議な快楽へと昇華される。

 

 「げっ!?何してんの姉貴……。」

 

 「おや、いよいよ女に手を出したかユリ。」

 

 遠くから輝と座敷が姿を表し、困惑した表情を浮かべている。別にそういう価値観を否定するわけでは無いが、天野とユリの関係を知っていると異様な光景なのだ。

 

 「おおおい!?何だこの状況は!?カレンとユリが鼻息を荒くしながら……つぁあああ!?」

 

 買い物を終えたタケルと紅葉も戻ってきたようだ。驚愕し実況しようとしたタケルの目に砂を投げ飛ばす紅葉。

 

 「実況せんでいい。天野お前鼻血出てんぞ。」

 

 「え?ああ。」

 

 「はぁはぁ、たまらんぞ!柔らかい!最高の感触だ!エデン!エデンだ!!!」

 

 「……姉貴もいい加減やめてやれよ。」

 

 「誰でもいいから助けてぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 カレンの悲痛の叫びが響き渡るのであった。

 

 ーーーーー。

 

 全員揃ったところでバーベキューが開催され、各々に食事を楽しむ。

 

 色彩豊かな野菜に、海の香り。

 

 口に運ばれる香ばしいお肉。

 

 程よい歯ごたえが心地よく、たまに砂が入ってジャリっと音が鳴るのも楽しい。

 

 外で行うことで開放感もあり、とても心地よく感じる。

 

 普段関わりがない人とも話が弾んでいるような気がする。

 

 海に来て一気に高揚したテンションは落ち着き、全員が落ち着きを取り戻した。

 

 「うーん。」

 

 全員を見渡すと楽しいそうに食事に楽しむ姿が目に入る。

 

 ハジメも肉を焼きながら食事を楽しむ。

 

 ふと、思ってしまったがもう1人ぐらい呼んでも良かったとおもってしまう。

 

 ハジメと優。

 ソラとヒロ。

 天野とユリ。

 座敷と輝。

 タケルと紅葉。

 

 そして、カレン。メンツ的にどうしても孤立してしまうのだ。

 

 今はハジメが肉を焼いているため優とカレンが話しているが。

 

 「(カップリンクがな。こうなるよな。おせえな、大地。来るって言ってたのに。どうしたんだろ。)」

 

 孤立してしまいがちなカレンを心配し、遅れてやってくる手筈になっていた大地のことを気にかけるハジメであった。

 

 ーーーーー。

 

 「くそっ!!!鈴蘭!目を覚ませよ!!!」

 

 雷鳴。暗雲。

 

 古くからの屋敷に立ち込める邪気。

 

 琴上家当主、ジンは膝をつきボロボロの様子だ。

 

 「あのババア!!!!鈴蘭に何をしやがったぁああああ!!!!」

 

 雷鳴にかき消される絶望の声。

 

 ゆっくりと鈴蘭は歩み寄る。

 

 振り下ろされる剣。

 

 全力でその一撃をジンは刀で防ぐ。

 

 「くそ!!ゆり達が危ない!!早く行かねえとならないだろ!!!大地間に合ってくれ!!」

 

 ーーーーーー。

 

 「ぐっ!?」

 

 大地を強烈な蹴りをくらいその場に倒れる。

 

 実年齢よりも若く見える女性百合野莉理。

 現在の百合野家当主だ。

 

 「やってくれる!咲さん、栄介さんまでもか!!!」

 

 リリを守るように二人の男性が立ち塞がる。

 

 幌先栄介。ユリの祖父に当たる人物だ。

 幌先咲。カレンの祖父にあたる人物だ。


2人とも黒いスーツに身を包み、額を露わにするスタイルで髪型を決めている。どちらとも白髪だが、見た目が若く見える。40代頃に見えるが、60ぐらいのはずだ。

 

 二人とも相当な年齢なのに衰えを感じさせない力で、大地に攻撃している。

 

 「一体何が起こっているだ!……無事でいてくださいよ!おぼっちゃま!!!」

 

 大地は冷静に分析する。ジンと鈴蘭はリムがそろそろしかけてくると常に警戒していた。

 

 そして、ユリや天野達がカレンと遠出をすると聞き、嫌な感覚を覚えた。

 

 大地と座敷は監視役でついて行く手筈になっていたおり、モモコやカイも向かう予定であった。

 

 だが、それを妨害するように突然屋敷にリムは姿は現した。なにかのトラブルが発生した際、連絡役がいなくなるため大地は残ることになったのだ。

 

 話し合いの時間を設けられ、鈴蘭とジンは当主として動けなくなる。

 

 自由に動けるように近くに大地が配置され、モモコやカイは周囲の警戒を行っていた。

 

 何事もなくやり取りを交わしていたが、突然鈴蘭は気を失い突如としてジンを攻撃し始めたのだ。

 

 予想外の事態だったが、何とかジンに逃がしてもらったわけだ。

 

 しかし、ユリたちに連絡をしようとした瞬間、リリ達に襲われ今に至るというわけだ。

 

 

 突然の豹変。洗脳かなにかの術式だろうか。

 

 特に細工した様子もみられなかった。

 

 モモコやカイが周囲を警戒していにもかかわらず、今大地が襲われているということも謎めいている。

 

 ーーーーーー。

 

 「何やってんだよ!!!先生!!!」

 

 カイの怒号が響き渡る。

 

 「あんた海外言ってたんでしょ!なに帰ってきてんのよ!!!」

 

 モモコも女性と交戦しながら叫んでいる。

 

 一度距離をとる二人。

 

 同じく相手方も距離をとる。

 

 相手は三人。黒いフードを深く被っている。

 

 「いい加減暑くないの?正体バレバレだし取ったらどーよ。」

 

 モモコが正論を吐くと三人は徐ろにフードを脱ぐ。

 

 幌先果伊菜。ユリの祖母にあたる人物。

 玉緒月花、玉緒陽太。片方は以前優の大学に来た女性であった。実はこの二人、百合野を守る使命を背負っているようだ。

 

 それぞれが素顔を表す。

 

 「やっぱり、あなた方か。なんで百合野の味方してんですか。あの戦いの後、三人とも海外行って玉緒さん達はカイナさんを守っていたのでは?」

 

 「全てはリム様のために。」

 

 「またそれかよ。」

 

 三人は口を揃えてそれしか言わない。

 

 「いい?私が言えたことじゃないけど、年寄りが出しゃばらないで貰える?もう世代交代なのよ。いい加減、子供たちに介入するのはやめなさい。」

 

 「そうだな、俺たちの全盛期は天邪鬼を倒したあたりまでだな。」

 

 「そうね。裏方らしく、さっさと終わらせるわよ!!!」

 

 「ああ!!!」

 

 二人は霊力を高める。

 

 勝てない相手ではない。

 

 心配なのはゆり達だ。百合野の血を引くものたちの突然の変貌。

 

 そして系譜である月花や陽太、幌先にも影響が出ている。

 

 リムの仕業とみて間違いないが、酷い胸騒ぎがする。

 

 ーーーーーー。

 

 『大罪の鬼よ、肉体を喰らい顕現せよ。』

 

 どこからともなく年寄りの不気味な声が響き渡る。

 

 その言葉を最後にジン、カイ、モモコ、大地は絶句する。

 

 『顕現せよ、使命から逃れし怠惰。』

 

 モモコ達の目の前のカイナが影に飲まれ姿を変えていく。

 

 漆黒の闇を纏い迸る稲妻。

 

 熊のように巨体と獣じみた見た目に変化し、額には四つのツノがはえている。

 

 「……ば、馬鹿な」

 カイはその絶望を知っている。

 

 モモコも同じだ。あの日の絶望が蘇る。

 「まさか……鬼だって言うの?」

 

 だが、二人は立ち向かうことしか出来ない。

 ーーーーー。

 

 『顕現せよ、世界よりも愛を優先せしものよ、色欲。』

 

 「……。これが……『鬼』。ははは、馬鹿げてるよ、こんなの無理だ。」

 大地はその場に尻もちをつき、絶望する。

 

 影に飲まれ獣とかすリリ。長い耳のような二つのツノ。凶悪な赤い瞳。更に額に浮かぶ5本の角。牙が生え、それはもはや人の形を生していない。怪人。そう表現するのが正しいだろう。それでいて、女性らしい曲線を帯び、歪さを感じずにはいられない。

 

 大地は逃げることを選択した。

 ーーーーーーー。

 

 『顕現せよ、全てを喰らう悪魔よ、暴食。』

 

 目の前の鈴蘭は悪魔のように歪な表情を浮かべ影に飲まれる。

 

 虎のような毛皮をまとい、肩から三本ずつ突起物を形成する。

 

 爪は鋭く伸び、額にもうひとつの瞳が形成される。

 

 「がぁあああああああっ!!!!」

 

 「……。ああ、そうだよ、妖怪ってのはそうなんだ。話し合いの通じない凶悪な存在。お前の言う鬼も悪でしかないんだろうな、リム。……でもな、俺は誓いを立てた。もう殺さないって。誰も殺させはしないって。まずは向き合うってな。……誰かさんが許してくれねえからよ。」

 

 ジンはゆっくりと立ち上がる。追憶していく過去。

 

 悲痛の表情を浮べる。

 

 「お前の為なら、また俺はこの力を使うよ。人間として、そして、半妖としてなあ!!!!」

 

 同じくジンも力を高め、その身を獣へと落としていく。

 

 鋭い牙、鋭利な爪。

 

 歪な獣顔、9つのしっぽ。

 

 身に纏う紅蓮の炎。

 

 「お前をここで食い止める!!!」

 

 ジンは立ち止まることは無かった。

 

 ーーーーー。

 

 今、世界に嵐が起きようとしている。

 

 そんな非日常を知らず、優たちは夏の思い出を作っていくのであった。

 

 それはまるで、嵐の前のように、静かに、でも確かに近づいていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ