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#27 芽生えた感情


 天緑山。

 

 そこは、大変自然豊かな土地であり、古くから天狗の噂が絶えない土地である。

 学生寮から車を走らせ、一時間ほどの距離にある。

 

 優たちは車に揺れながら、目的地にたどり着くのを待つ。

 

 車を走らせるのはハジメ。さすがに11人も乗れないので5人、6人ずつに分かれる。

 

 もう片方の車はヒロが運転している。

 

 現在の車にはハジメ、優、カレン、ユリ、天野が乗っている。

 

 「ハジメさん、運転ありがとうございます。」

 

 優は座席の後方から、ハジメに声をかける。

 

 ハジメはミラー越しに映る優に目を一瞬配らせ返事する。

 

 「気にすんな、天緑山は桃子の実家でもあるしな。当日に行く手はずもしやすかった。……山や川、自然豊かな場所だ。好きに遊ぶといい、レジャーにはもってこいだ。少し歩けば海もあるしな。」

 

 「今度は宮ノ森って……ホント、有力者ばかり。」

 

 カレンは引きつった顔のまま、会話を流し聞く。

 

 優は安心したように微笑みリラックスする。

 

 優は交通事故で母親を失っている。あまりドライブを好き好まなくなっていたが、ハジメなら安心なようだ。

 

 鬼とはいえしっかり試験に合格し免許を取得している。そこら辺はモモコが管理しているだけある。

 

 「ぼくとユリが頑張った土地が今も残ってるなんて素敵な話だね。」

 

 「面倒な貴族追い払っただけよ。あんなん。」

 

 ユリと天野が落ち着いた様子で会話を行っている。1番後ろの席で二人並んでいる様子が妙にしっくりくる。

 

 三分式の席の構成になっており、真ん中からは、カレンと優が座っている。

 

 助手席には誰もおらず、ハジメが運転席にいる形だ。

 

 「そういえば、聞きたかったんだけどユリ?」

 

 「ん?どしたー?」

 

 優は唐突に思い出したかのように口を開くとユリと天野のことを教えて欲しい、との事だった。

 

 「ちょっとした旅行なんだ、たまにはお前らの話も聞かせろよ」

 

 ハジメも聞きたい様子で話を催促する。

 

 (ま、カレンなら大方知ってるし、いっか)

 

 ユリは、幌先の家に諸々の事情がバレるのを危惧したが、相手がカレンであるため話すことにする。

 

 「別に大したことないわよ。真護とは5歳か6歳ぐらいに会ったのよ。」

 

 「そうだね、公園でユリが転んでてね。あの時のユリはとてもお転婆でよく走り回っていたのさ。」

 

 「へえ。今のユリからは想像できないね!」

 

 観念したかのようにユリが話始めると、天野が嬉しそうに補足を入れてくれる。

 

 優もテンションが上がってきたのか、声がワントーン上がっている。

 

 「今も充分お転婆娘って感じだけどな。」

 

 ボソッと小言を言うハジメ。間をおかず、ユリの鋭い声が届く。

 

 「何か言ったかしら。」

 

 「……なんでもないっす」

 

 「あはは、それでそれで?」

 

 苦笑いしながら、カレンが話を進めさせる。

 

 ーーーーーー。

 

 「フツーにこいつかっこよかったから仲良くしたわよ。それから結構付き合い長くなってね。」

 

 ドライな空気感でユリは話を進めていく。

 

 「僕の両親は早い段階で亡くなってね。諸々の支援を琴上さんたちがしてくれたんだ。」

 

 対照的に暖かな声色で話す天野。

 

 過去の話で後ろめたさと綺麗な思い出と2人にとって色々な思いがあるようだ。

 

 「それから会う機会も増えていって……そのあとからは悪鬼が生まれるようになって、百合野がいちゃもんつけてきたり、お父さんやお母さんが真護と離れろとか言ってきたり、カイさんやモモコさんにスパルタ修行されたり、弟は反抗期になったり色々あったわ。」

 

 「中々大変だったんだね……」

 

 とても波乱があった様子だが、話すのが面倒になったようで大まかにまとめて話してくれる。

 

 大雑把に聞いただけでも壮絶さを感じる。

 

 他人事とは言えないカレンは少しうつむき加減で話を聞いていた。

 

 百合野の血を引くものは鬼との関わりを避けなければならない。それは過去に鬼との関係性で一族が滅びかけているからだ。

 

 ユリは一応は琴上の人間であるが、母親である鈴蘭は複雑な経歴、過去を持つためユリにも残された因縁が降りかかる。

 

 だが、それだけでは足りない。優は深淵を覗くことにした。ユリの瞳をじっと見つめ、意識を彼女の記憶、そして血脈へと意識を向けるのであった。

 ーーーーーー。

 

 鬼を消したがる百合野。その過去にまつわる災厄の鬼、天邪鬼。

 

 呪いか希望か。封印の結果、百合野の血を引く『鈴蘭』と名のつく少女たちは代々その身に天邪鬼を宿してきた。

 

 力を受け継いだ少女『百合野鈴蘭』は百合野一族の長『百合野李夢』に命を狙われる。

 

 記憶を失い、宿命から逃れた彼女を救ったのは奇しくも妖怪を憎む一族『琴上シノブ』。

 

 彼は妖怪によって全てを失っていたが、普通の少女となった鈴蘭とのひと時の中で愛が芽ばえる。

 

 そして、時は流れ。

 

 鬼の力を拒んだ少女『果伊菜』が生まれる。彼女を宿命から救おうとした少年『幌先栄介』。

 

 そして生まれた『幌先鈴蘭』と妖怪を憎むように育った『琴上ジン』。

 

 そこに現れた『天邪鬼』。

 

 数々の思いを乗せ、幸せな世界になるために、死闘の末、天邪鬼は姿を消した。

 

 だが、再び世界はめぐり、『琴上ユリ』 と生まれ変わった天邪鬼『天野真護』は出会ってしまう。

 

 そして、世界中に人の悪意を糧とする残滓、悪鬼が各地で出現。

 

 天野の存在は直ぐに百合野に知れ渡り、討伐を余儀なくされる。

 

 ユリは宿命に抗うために悪鬼全てを討伐することを条件に天野の命を守ることに成功した。

 

 だが、試練は続いた。悪鬼を倒すために圧倒的な力を手に入れる必要があった。

 

 ユリは伝説級の霊能者モモコ・カイに力の扱いを指導され、それぞれの持ち霊であるオロチと天狗の眷属を体に宿す。

 

 そしてジンより祖先に九尾と交わった者がいることを教えられ、力を受け継ぐ。

 

 母親の鈴蘭からは圧倒的な霊力の操作と言霊を受け継ぐ。

 

 そうこうしているうちに、真城優によって悪鬼が全て復活。常世の混乱『酒呑童子』の来襲。

 

 ユリと天野の戦いはこれからも続いていくのであった。

 

 でも私は初めての友達が出来て、天野とも居られて平穏ならそれでいいと思ってるよ、優。

 

 「っ!?」

 ーーーーーーー。

 

 「みんなそれぞれに事情があって、それなりに大変なのよ。優だって色々大変だったでしょ?」

 

 ユリに一声かけられ、優の意識は戻ってくる。自分の知らない裏の世界を垣間見た気がした。

 

 同時に悪鬼を復活させてしまったのも自分だと知り、改めて悪意の恐ろしさを知る。

 

 結局のところハジメや天野を狂わせた『牛鬼』も悪意の成れの果てなのだから百合野の鬼を許さないという考えは極論すぎるが、間違っているとも言いきれなかった。

 

 優も自分が危険な存在だと言われても反論はできないだろうと理解出来てしまう。

 

 「まあ、そうだね。結局寮に来てからも色々あったからね。」

 

 優は落ち着いたように話す。とても人ひとりの過去を覗き見たとは思えない冷静ぶりだ。

 

 気がついたら一緒に戦って仲間になっていたが、ユリの事情も知っておきたかったようだ。

 

 幌先や百合野が出てきている今、どう思っているのか探りたかったというのが本音だが。

 

 最後見えたユリの本心で全てどうでも良くなった。わかっていたことだが、ユリは自由だ。過去の事情があろうとも優たちは関係ないと割り切ってくれている。

 

 だからこそ、学生寮を作ったり、モモコやカイに守らせてギリギリまで守ってくれたり、裏で動いていたのだ。

 

 「ま、そーいうことよ。私は家のしがらみが沢山あるってだけ。結局は真護と一緒にいれればそれでいいのよ。」

 

 「そうですね!そういうのが一番大切だよね!」

 

 優は心からの言葉を口にする。やはり、ユリはユリでしっかり友達なのだ。

 

 だから、きっとカレンともーーーーーー。

 

 「カレンもそういう大切な何かを見つけて家なんて抜け出してしまえばいいのよ。意外と何とかなるものよ?」

 

 誇らしげにユリが語ってみせる。経験者は語ると言うやつだろうか。

 

 「……そうかもしれないですね。参考にします。」

 

 「そうだよ!カレンも寮おいでよ!いいですよね?ハジメさん!」

 

 「ああ、大歓迎だぞ!」

 

 「……ありがとう……そしたら、真剣に考えちゃうぞ!」

 

 カレンは瞳に涙をうかべる。暖かい空気。以前まで張り付いていた空気のユリを変えたのが誰だか一瞬でわかる。

 

 どんな事情があっても普通に接してくれる彼女がいるからなのだと。

 

 自分だけが不幸ではない。みんなそれぞれに想いがあってこそなのだ。

 

 カレンは自然と微笑む。

 

 「お!やっと元気出てきたね!楽しむよ!カレン!」

 

 

 

 「よっしゃああ!」

 

 カレンは元気さを取り戻し、ひとつの決意を胸に抱くのであった。

 

 『過去に縛られるのはおしまい。リム様、待っていてください。私の答えを直接伝えに行きます。……この最高の夏が終わってから、必ず。』

 

 これが例え最後になったとしても、私はみんなを裏切らない。

 

 それでいいと思うんだ。

 

 だから、せめて今だけは楽しませて。

 

 車は登って下がってを繰り返し、自然豊かな山が見えてくる。近くに海も見え始め、絶景が広がる。

 

 車という狭い空間。窓に見える夢の景色。

 

 平坦では無い道のり。

 

 どこか、カレンの心とリンクする。

 

 車の中で芽生えて燃える想いに、自嘲的に笑ってみせるカレン。

 

 これからが夏本番だ。

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