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#26 心満ちる時


 夏休みが始まって数日。

 

 ついにヒロが学生寮に越してきた。

 

 「お久しぶりですね。ハジメ。」

 

 大きめのカバンを手にかけ、キャリーバックをガラガラと引きずる。

 

 明るめの茶色ズボンに青いワイシャツ、中には黒いインナー。それぞれ爽やかに着こなしている。

 

 眼鏡をかけ、前髪は斜めに流れており、少し見ない間に大人びた印象だ。

 

 「偉く久しぶりに感じるな。ヒロ。ようこそ、学生寮へ。」

 

 ハジメは、にこやかにヒロを迎え入れる。

 

 荷物を受けとり、以前ヒロが泊まりに来た部屋へと案内する。

 

 「……あれから色々ありましたね。」

 

 何も無い部屋。これから色々な思い出が詰まっていく喜びを感じる。

 

 ここから新生活をスタートするという気持ちに高鳴りを感じる。

 

 「……そうだな。やっとお前は進めたんだな。」

 

 「そうですね。」

 

 感慨深く語るヒロ。この部屋とこれからの部屋。以前は何も無かった部屋。これから未来がある部屋なのだ。

 

 ヒロは部屋をとても気に入った様子だ。

 ーーーーーー。

 

 「そいや、会社設立したのになんでまた?ここは学生寮だぜ?一応。」

 

 「……まあ働きながら学びたいって言うのが建前です。でもせっかくなら、皆さんで残りの青春を楽しみたいと思ったんです。」

 

 「お前らはそこそこ遊んでたじゃねえか。」

 

 「ハジメやユリ、天野とはまだですよ。最近タケルや紅葉と話すようになったんですから。……それに噂の『カレン』にも会えたしね。」

 

 「……なるほどな。そーいや、まだ言ってなかったが、優と交際することになったよ。」

 

 「そうですか。遅いぐらいですね。何してたんですか。今まで。」

 

 「手厳しいねえ。単純に一緒にいるのが落ち着いててな。そこら辺を曖昧にしてた。」

 

 「そうですか。鬼のあなたに野暮ですが、しっかり交際するんですよ?……でもまずはおめでとう。」

 

 「……そうだな。ありがとう。」

 

 二人は部屋に荷物を置きながら、お互いの近況について話し合う。

 

 会話にも出た通り今日は、カレンも来ているのだ。

 

 カレンと優が廊下で話している。

 

 2人は壁を背に黙っていた。気まずさが滲み出ている。

 

 当たり前だ。正式には付き合っていなかったとはいえ、人の男に手を出したのだ。

 

 たとえ『百合野の呪い』であったとしても、どう切り出していいものかわからない。

 

 カレンの目的はハジメの本性を暴くこと、優が危険であると証明すること。

 

 そこから発展する話は、紛れもなく優たちの敵となる思惑だ。

 

 だが、沈黙を破ったのはカレンだった。

 

 「……こないだはごめん。」

 

 カレンは結局正直に謝ることにした。複雑な心境が垣間見えるが、まずは言い訳せずに謝る。そういう意思が伝わる。

 

 「……あの時はまだセーフだから大丈夫!……っていってもなんだか気まずくなっちゃったね。」

 

 ハジメの件だけでは無い。言霊の力や幌先といった霊能者の家系の事も絡んでくる。

 

 かなり関係性が拗れてきたと言えるだろう。

 

 「でもね……。私にとって、カレンはカレンだよ?……色んな事情はあると思うけど、これからも仲良くしてくれると嬉しいな!」

 

 優は満開の笑顔を向ける。

 

 悪意を乗り越えてきたからこその輝きだろうか。実際今回の件、以前の優ならば、また悪意を解き放っていたかもしれない。

 

 そんな輝く優とは対照的にカレンは自分が嫌になって仕方ない。

 

 「……ありがとう。今日も誘ってくれてありがとうね。」

 

 「ううん。気にしないで。みんなで楽しも?……さき戻ってるね!……あっ!もうハジメさんに手出したらアウトだからね?」

 

 「わかってる。……少ししたら行くよ。」

 

 優は笑顔で手を振ってその場を後にする。

 

 残されたカレン。

 

 苛立ちが込上げる。

 

 「……くっ。」

 

 歯を食いしばり、涙をこらえる。

 

 もしも、私が普通の女の子だったら。

 

 もしも、力なんてなかったら。

 

 もしも、初めて出会う鬼が『貴方』だったら。

 

 『もしも』あなたと本当の友達になれたら。

 

 幾つもの『もしも』が過ぎる。

 

 カレンにとって優は『理想の運命』そのものなのかもしれない。

 

 同年代、進路、特殊な力を持つ者同士、鬼に巡り会う運命。

 

 

 どこまでも同じ運命を辿っているのに、カレンと優はあまりにも違いすぎる。

 

 生まれた場所が違うだけでこんなにも世界は残酷に変わるのか。

 

 ーーーーーー。

 

 「あら、カレンじゃない。」

 

 カレンがリビングに戻るとユリが目を丸くしている。

 

 「……ユリ……様!?」

 

 反射的にカレンはひざまづき、頭を垂れる。

 

 「……このような、格好で失礼しました。直ぐに着替えます。」

 

 「ん、楽にしていいよ。優の友達ってカレンだったのね。」

 

 ふぅ、と緊張の糸が途切れるようにその場に座り込むカレン。

 

 「あんた呪い強くなってるね。婆さんになんかされた?」

 

 「いえ、そんなことは。」

 

 「ふーん。ま、いいけどさ。『負の感情』は百合野が大好物な感情だよ?あまり飲み込まれない事ね。」

 

 「よく言うぜ、バカ姉貴。何度も呑まれてる癖によ。」

 

 「うっさい!」

 

 ドカーンと音がするような強烈なチョップをテルに喰らわせる。

 

 「いてえっ!!なにすんだ!馬鹿野郎!」

 

 茶番を繰り広げる2人を他所に優はカレンに話しかける。

 

 「そっか、ユリとテルくんは百合野の血も幌先の血も混ざってるんだったね。」

 

 初対面では無いという驚きも冷静に考えればわかることであった。カレンとは親戚に当たるわけだ。

 

 優はカレンに手を差し伸べ、そのまま立ち上がらせる。

 

 「テルくんには『呪い』発動しないんだね。」

 

 「……そうかも?なんでかな。」

 

 「この坊主は百合野や幌先より琴上の血が強いのさ。昔のジンに……いや、父親によく似ている。」

 

 影から音もなく、座敷わらしが姿を現す。

 

 姿形を人間の女性に見せているが、不気味さは相変わらずだ。

 

 そこにいた全員少しの驚きもありつつ、座敷の話に納得する。

 

 「それにしても奇妙なメンバーですね。鬼が僕含めて四人、霊能者が三人、陰陽師が二人。妖怪に例外が一人、っと。」

 

 天野はヒロの歓迎会に集まった面々を見渡す。

 

 天野、ハジメ、タケル、紅葉。

 ユリ、テル、カレン。

 優、ソラ。

 座敷童子。

 ヒロ。

 

 「寮のメンバーとオマケ3人組だろ?全部で11人。サッカーできるな。」

 

 「あと11人足りないわよ。このメンバーでやり合ったら超次元どころじゃないわよ。」

 

 ハジメの小ボケに対してソラが軽く突っ込む。

 

 「なら、現世VS常世!次回、ヒロくん死す!鬼の王に俺はなる!って感じだな。」

 

 「勝手に僕を殺さないで。あとごちゃ混ぜがすぎる。」

 

 止まらないハジメのボケに静かにヒロが反応する。

 

 「まあまあ。そんな話は置いておいてですよ。僕とヒロの一人称が同じについての議論をしなくては。」

 

 「あんたもくだらない茶番に乗らないの。海行くか、山行くのか多数決でしょ?そのせいで山用の服と水着準備する羽目になったんだから。」

 

 呆れたように天野にツッコミを入れるユリ。

 

 「僕のアイデンティティがぁあああ!しかもメガネって!!急にキャラ確立し過ぎですよ!」

 

 「あんたは壊れすぎよ。キャラ崩壊してるからもう手遅れよ。諦めなさい。」

 

 「アマノちゃん可哀想。いっその事ワタクシとか拙者とかにすれば?ボクはヒロちゃんだなあ、私的に。」

 

 天野の件はひとまず置いておいて。話を戻そう。

 

 せっかくの夏休み。外で歓迎会をしようという話になったのだ。しかし、見ての通り大所帯。

 

 話し合いは今日まで続いている。

 

 「どっちも行けばいいじゃないか。私は寝れればそれでいい。」

 

 まるでそれで決まりそうな解答をする紅葉。

 

 相変わらず眠そうで掴めない鬼だ。

 

 「お前ってホント怠けてるよな。」

 

 苦笑いしながら相槌をうつタケル。

 

 「そうだよ!どっちも行こうよ!ヒロちゃん!……わ、私の水着見せてあげてもいいんだよ?」

 

 「は、反応に困るってそういうの。僕は泳げないし、山の方が好きなだけだよ。」

 

 「み、見たくないの?泳ぎなら教えるよ!」

 

 「……つぁ。……見たいです、はい。」

 

 「で、でも最近太ったからあまり期待しないでよね!」

 

 「ソラはとても魅力的だから……その、自信もっていいと思う……よ?」

 

 「きゃ!そそそ、そういうこと言わないでよ!」

 

 ヒロとソラ。お互いに超人気のある2人だが、恋愛の駆け引きには慣れていない。

 

 いつもより、ぎこちない会話が繰り広げられる。二人とも赤面が止まらない。

 

 「お前ら、ここぞとばかりにラブコメすんな!早く爆発しろ!リア充が!」

 

 「「ハジメには言われたくない!」」

 

 ハジメは圧倒的に滑り倒しながらも最近覚えた現世のネタをトークに盛り込みたくて仕方ない様子だ。

 

 「ふふ、みんな、楽しそう。」

 

 優とカレンは茶番を繰り広げる面々を他所に端で見物だ。

 

 カレンは慣れない環境に複雑な心境が重なり静かにしている。

 

 「嬢ちゃんそのセリフは目立たねえぞ!こんだけ人いるんだから個性爆発させないと!」

 

 「お前が1番影薄いんだろ。」

 

 横から茶々を入れてくるタケル。あまり目立てていないことを気にしているのか声が大きい。

 

 その声がやかましいのかうるさそうに耳を塞ぐ紅葉。

 

 「鬼が、たくさん……。」

 

 カレンの中では整理が必要なぐらいインパクトの強い光景が広がっている。

 

 全員、カレンからはすれば、倒さければならない者たちばかりなのだから。

 

 常識なんて簡単に覆る。そう言われた気がする。

 

 なんだか、自分の悩みが吹き飛ぶ。カレンは少しばかりの笑顔を取り戻した。

 

 「……まったく。今日は楽しむか!うん!」

 

 優は傍らでいつもの元気を取り戻したカレンの様子を見つめ、微笑む。

 

 「……やっぱり楽しいのが一番だね!」

 

 その場にいたメンバーたちは、談笑を続けていくのであった。

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