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#25 悪意を乗り越えて


 ハジメはリビングの扉を開ける。

 

 ソラがアイスを食べながら、こちらを向く。

 

 「説明しなさい、バカ鬼。あの子なんだったの?あと優なら部屋に行ったわよ。」

 

 「……あとでな、今は優の方が……」

 

 「ストップ、今はそっとしてあげなよ。整理する時間だって必要でしょ?」

 

 ほら、アイスでも食べなと言いたげな顔でアイスを差し出すソラ。

 

 「……それはやめておく。だが、一回落ち着くことにするよ。」

 

 息をつき、やっと元のハジメの顔に戻った。

 

 ーーーーー。

 

 「百合野家?」

 

 ハジメは一度整理するためにもソラに説明を始める。

 

 「ああ、百合野と幌先の関係は知っているか?」

 

 「知らないわよ、初めて知ったわ。」

 

 「この辺の名前は『琴街』だろ?字の通り、昔から琴上が統括している土地だ。」

 

 「そうね、その名前は知ってる。」

 

 「んで、隣の土地『鬼河川』ってのが、百合野が統括している土地だ。ついでにその隣にあるのは天緑山町な。」

 

 「ああ、あのでかい川のあるところね。天緑山は自然豊かで有名よね。宮ノ森さんの実家がある。」

 

 「そ、川を隔てた向こう側。その3つは昔から妖怪絡みの事案が多く多発している地域なんだ。」

 

 「そういえば、幽霊屋敷だの極寒地だの、変なこと多い割には大事にならなかったわね。」

 

 「最近まで名前を隠し行動していた琴上が活発に動いたからな。優の親父さんのモデルハウスの件も琴上絡みで解決してる。」

 

 「そういえば、そういう話だったわね。んで百合野とさっきの女何が関係あるってのよ。」

 

 「あいつは『幌先』。百合野家に代々使える家系だ。有名なのは人の意思に関係なく虚を描く『言霊』。」

 

 「それって……ユリも使えなかった?」

 

 「ユリはクソめどくさい家の血筋だからな。簡単に言えば、百合野・琴上・幌先の血を受け継いでいる。」

 

 「ふーん。そういえば、モモコさんが言っていたような気がする。」

 

 「まあ、軽くな。琴上は妖怪を憎む家系、百合野は鬼を憎む家系なんだ。幌先は百合野に絶対服従してしまう『呪いの紋章』が刻まれている。過去に百合野を守れなかった幌先が体に刻んだものらしいがな。」

 

 「物騒な話ね。絶対服従ってなんでなのよ?」

 

 「百合野と幌先は一心同体。どちらかが死ねば、どちらかが死ぬ。契約を破棄すれば、生まれてきた意味を記憶を無くす。最悪の場合精神崩壊を起こすって言われている。」

 

 「あんた詳しすぎない?」

 

 「俺は鬼としてこの世界に召喚されて、最初に出会ったのがユリ、天野、モモコの3人だ。」

 

 「その時に事情を聞いたって訳?話しすぎでしょ。」

 

 「俺は最初モモコによって隠された存在だったんだ。隠すため、世界に溶け込むために『野村大地』、カイの弟だな。そいつに出会った。」

 

 「カイ先生ねぇ、イマイチあの人の立場が分からないのよね。」

 

 「大地には『平穏と隠蔽の化け狸』ってのが、ついててな。無害の妖怪の長みたいなやつだな。そいつにはこの世界の事象を都合よく捻じ曲げる力がある。俺はその力にあやかった。」

 

 「それで鬼なのに普通に暮らしてるわけね。紅葉やタケルも同じ原理?」

 

 「ま、そんなとこだな。みんな化かされてるんだよ。……あとはそうだな、モモコは『均衡と天秤の天狗』の使い手でな。百合野と琴上、九尾とオロチ、人と妖怪みたいに敵対しているものの間に入る存在だ。」

 

 「ふぅん、だから色々知ってるわけね。んで、ハジメはどちらかと言うとモモコ側って訳か。」

 

 話がなんとなく整理されていく。それぞれの家、動く動機。

 

 ーーーーーー。

 

 「まあそんなとこだな。んで今回絡んできたのが幌先。大方百合野からの差し金だ。神の騒動が落ち着いたと思って油断してた。相当前から優に近づいていたとはな。」

 

 「あの子で良かったんじゃない?なるべく穏便にすまそうと動いた結果でしょ。……優と本当に友達みたいに仲良くしてた。きっとそれも言霊の力だったのかもしれない。でも、優が誰かを連れてくるなんて。私とヒロちゃん以外有り得なかったから。」

 

 ソラは少し優しげに語ってみせる。本当に二人は昔からの付き合いのようだった。長い付き合いであるソラが言うのだから間違いない。

 

 唐突に現れたにもかかわらず、ずっと居たような不思議な感覚。あれが言霊の力だろうか。

 

 「ああ。俺もそう思って見逃したんだが。あ、そのアイス自白の言霊付与されてるからな。」

 

 「えっ!?早く言いなさいよ!!!」

 

 怒りつつも、ソラは気にせず口に運ぶ。一体何本食べたのだろうか。

 

 「陰陽師にはわからないのか?」

 

 少し引きつつ、ハジメは聞いてみる。

 

 「分かってたら幌先関連のことも知ってるでしょ!……前世の世界でも名前すら出てこなかった。琴上と百合野は確かに記憶にあるわ。てかあんた知ってたなら教えなさいよ。」

 

 「こっちは眠り、こっちは記憶消去、コレは強制強化……だな。」

 

 「え?無視?ちょっと。」

 

 ハジメはアイスの袋を並べる。どれも優とソラ、カレンが食べたものだ。

 

 「えぇ。なんで効いてないの?てか無視すんな」

 

 さすがに効果を聞くと怖くなるソラ。

 

 「ん?ああ。すまん。悪意が強すぎると効かないみたいだな。ソラは善の力のはずだけどな。」

 

 「前世では……でしょ。今の私はそうでも無いみたい。扱えるには扱えるけど。」

 

 「なにせ、力の差はこちらの方が上みたいだ。」

 

 「何がしたかったのかしらね。」

 

 「ま、動機が欲しかったんだよ。あいつは。本当に傷つけていいのか。見極めたかった。……でも思ったよりも呪いは深そうだった。あいつ、誰かに命令されてるみたいだった。」

 

 「趣味の悪い命令ね。敵の男にキスしろとか。」

 

 「……お前も見てたのか。」

 

 ハジメは頭を抱えて落ち込む。

 

 「玄関の話し声、リビングダダ漏れでなにか面倒なこと起きたのかなって見に行ったら、あれよ。角度的に口にしているようにしか見えなかった。」

 

 「……最悪だ。」

 

 「ま、どうせイチャイチャして終わりよ。そろそろ行きな。私は満足した。私ヒロちゃんのとこ行くから今日は2人っきりね。」

 

 「……ありがとよ。」

 

 ーーーーーー。

 

 「優、話せないか。」

 

 扉の向こう、優のすすり泣く声だけが聞こえてくる。

 

 「さっきは悪かった。言い訳はしない。不安にして悪かった。」

 

 扉がゆっくりと開き、優は顔を伏せている。

 

 「ハジメさんは私に話してないことが多すぎます。さっきのカレンの話私にもしてくださいよ!……不安で不安で仕方ないの!」

 

 優はおそらく先程の話を悪意を通して聞いていたのだろう。

 

 また優だけ蚊帳の外になりそうだった。

 

 事情はなんとなくわかった。

 

 わかったとしても優の心の中に生まれた傷は癒えない。脳裏にあの光景が焼き付いて離れない。

 

 優は顔を上げる。

 

 どうしようもなく顔は涙で濡れ、赤く染っている。

 

 また優を傷つけた。

 

 ハジメはそっと優を抱き寄せる。

 

 「触らないでください、浮気者!私ともキスしてないのに!」

 

 「頬だ。頬にされただけだ。」

 

 「え?」

 

 「正直いうとずっと迷ってた。俺が手を出していいのか。そばにいるだけじゃダメなのかって。」

 

 「……そんなの、ずるい。」

 

 「ああ。カレンにああいうことされてようやく気がついたよ。……心を繋ぐのは難しい、そばにいるだけじゃダメなんだって。気持ちを形にするのも大切だって。だから……俺で本当にいいか?また傷つけてしまうかもしれない。」

 

 「……約束してください。なんでも話すって。あとご飯も一緒に食べてください。……もうハジメさんはこの世界の人なんですから。……たとえ、また世界が暗闇に落ちても私と一緒にいてください。」

 

 「でも……。」

 

 「どうやったって私たちは巡り会ってきたじゃないですか。暗い闇や過去が阻むなら、私が上書きします。」

 

 優はそっとハジメにキスをする。

 

 ずっと、求めていた温もり。

 

 何に怒っていたのかさえ、どうでも良くなる。

 

 心が満たされて、お互いに想う『守りたい』『そばにいたい』と。

 

 優の中で複雑に心を支配していた悪意が浄化されていく。

 

 まだ残る因縁。

 

 それが例え2人を襲おうとも、二人なら立ち向かえる。

 

 優はゆっくりと離れる。

 

 つぎはハジメが優にキスをする。

 

 ああ、どうして悩んでいたのだろう。

 

 こんなにも愛おしいのに。

 

 ハジメはゆっくり離れ、耳元で呟く。

 

 「…もう離さないからな。」

 「はい、そばにいます。」

 

 二人の顔は忽ち笑顔になっていた。

 

 何が起きたって二人は離れらない運命なのだ。

 

 そう、それはカレンの作戦は失敗したことを表していた。

 

 二人に悪意があったってそれを超える繋がりがあるのだから。

 

 どうしようもないことが多い世界。でも二人に至っては乗り越えられるのだ。

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