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#24 憧憬と現実


 私の名前は『幌先花蓮』。幌先とは、鬼と敵対する百合野を守る家系だ。

 

 どんなことをしてでも守らないといけない。

 

 生まれて6年。百合野の人々全てに名前と顔を教えるのがしきたりだ。

 

 誰かに認められれば、私はその人のパートナーとなる。私はある男によって選ばれた。

 

 紋章は生まれた時に刻まれる。

 

 その紋章にお互い契約を交わす。

 

 男は年上の肥えた豚のような見た目をしていた。

 

 どうせなら、年上のお兄さんのような人が良かった。

 

 契約を交わしたあとは百合野が絶対。

 

 命令に逆らうことは許されない。

 

 「ま、まさか僕にこんな可愛い女の子が選ばれるなんて!」

 

 夜。鼻息を荒くして体にまとわりつく変態。

 

 その当時私は12歳。

 

 六年がたち、力も覚えた。

 

 だが、なんど契約を断ち切ろうとしてもこの男との関係は断ち切れなかった。

 

 「はぁああ。相変わらず、いい匂いだね。今日もお疲れ様。」

 

 今日も拷問の時間が始まる。いつも修行を終えた私の体を隅々までこの男は嗅ぐ。

 

 本当に百合野の人間なのだろうかと思うほどに華がない。

 

 「どんどん、肉付きが良くなってきたねえ。」

 

 男は太ももや胸を容赦なく触ってくる。

 

 「いい子だ。そろそろいいかなあ?」

 

 男は熟した果実を見るように舌なめずりをする。

 

 気色悪い。

 

 だが、違和感に気がつく。

 

 体が動かない。

 

 呼吸が荒くなり、体の感覚が異常なほど敏感だ。

 

 そして気がつく。

 

 鬼だ。

 

 男はその場に倒れ込み、中から大きな巨体の鬼が現れる。

 

 「人間とは欲深いなあ。おかげでチカラを取り戻せたようだ。我は強欲。強欲の鬼なり。……そこの男はただの人間よ。この世界ではロリコンというのか?安心しろ、貴様の純血はわれが食らいつくしてやろう。ハハハハハッ!!!」

 

 「な、なにこれ。気持ち悪い来ないで!!!!」

 

 「うぐっ!?『言霊』か。そうか、契約は人間にしか適応されないのか。もう少しマシな肉体を捕まればよかっなあ。だが、お前を喰らえば問題は無いだろう?」

 

 鬼は私の頭を持ち上げ、無理やり唇を重ねる。

 

 最悪のファーストキスだ。

 

 ドブのような臭さ。当たるトゲトゲした髭。

 

 わたしはもう、心を失っていた。

 

 「やはり、鬼が紛れていたか。『消えな。』」

 

 トビラが開け放たれ、歳をとった女性が唱える。

 

 「しまっーーーー」

 

 言葉を終える前にその鬼は醜くも姿を消す。

 

 残ったのは醜い人間の体のみだ。

 

 「怖かったろう?さあ、『憎しみを解き放て』」

 

 「ぁああああああっ!!」

 

 まだ男は生きている。

 

 こいつは鬼に絆されて、私に酷いことをした。

 

 鬼は敵だ。

 

 鬼に関わる全て敵だ。

 

 一族が滅びる前に。

 

 すべて。

 

 「淘汰する!!!!」

 

 私は勢いのまま、男を踏みつける。

 

 「ごはっ!?た、たのむ。ゆ……ゆる……してくれ」

 

 「これを使いな。あんたを護る刃だ。」

 

 「っ!!!!」

 

 私は刃を手に取り、男をそのまま突き刺した。

 

 「あっあああああああっ!!!」

 

 私の手は止まらない。

 

 この男に身を委ねたのは、百合野だったからだ。

 

 鬼のくせに鬼のくせに鬼のくせに。

 

 私の中の憎悪は膨れ続ける。

 

 こんな奴にこんな奴に。

 

 夢も理想も現実の前では崩れ去る。

 

 私は何もしていないのに。

 

 「そうだ、それでいい。鬼を全て淘汰しろ。その先に鈴蘭が待っているさ。」

 

 「……スズ……ラン?」

 

 「ああ、そうさ。それまではお前は私の元で戦え。鬼を殺すためにな。」

 

 ーーーーーー。

 

 目の前に優しく微笑む男がいる。

 

 頭をそっと撫でたり、美味しい料理を作ってくれる。

 

 扉の向こうには私の友達がいる。

 

 

 いつも楽しいやり取りをしてくれる。

 

 あなたといる時だけは普通でいられた。

 

 どうして。あなた達なの?

 

 

 

 ーーーーー。

 

 

 鬼のくせに。

 

 私だって普通の暮らしをしたいのに。

 

 邪魔してやる、壊してやる。

 

 全員の化けの顔を剥がしてやるんだ。

 

 『悪意を、悪意を。』

 

 『鬼を許すな。』

 

 私の役目は鬼を淘汰すること。証明するんだ。役割を果たすんだ。

 

 優は危険な存在だ。

 

 ハジメは鬼だ。

 

 このふたりが悪だと証明するんだ。

 

 ソラあなたが優を守ったって、私は容赦しない。

 

 あなたみたいな人と巡り会えていたら。優のように私を守ってくれたの?

 

 

 ーーーーーー。

 

 そして現在。

 

 数秒の時、カレンの中で悪意が暴走していた。

 

 カレンは背伸びをして、そっとハジメに口づけをする。

 

 「っ!?おまえ!」

 

 ハジメは驚きながらも一瞬のうちに顔を逸らし、カレンの唇は頬にあたる。

 

 ガタン、と扉が閉まる音が聞こえてくる。

 

 優だ。優に違いない。

  今の光景を見ていたに違いない。

 

 「……お前にも事情があるのは分かるが、こんなやり方、後悔するぞ。」

 

 ハジメは低い声で俯くカレンに告げると、リビングに向かおうとする。

 

 ーーーーーー。

 

 罪悪感が拭えない。

 

 何でこんなやり方でしか近づけないんだろう。

 

 ああ、思ったより心痛むな。

 

 私にはなんで、誰も助けてくれる人がいないんだろう。

 

 私にもハジメさんのような人がいたら。

 

 そうか、私。優のこと本当に友達だと思っていたのかもしれない。

 

 2度目のキス、心がめちゃくちゃだ。

 

 でもこれは全部『呪い』のせい。

 

 私はみんなの中には入れない。

 

 ーーーーー。

 

 「……お願い、助けてよ。」

 

 カレンは涙ながらにそう呟く。シャツをカレンの手がぎゅっと掴んでいる。

 

 苦しそうな顔だ。初めて会った時のユウを思い出す。

 

 悪意に苦しむあの時の少女と同じ顔している。

 

 「……おまえ、泣いてんのか?」

 

 ハジメは放っておけず、瞳の涙を拭う。

 

 だが、何かを思い出したかのようにカレンはハジメの手を払い除ける。

 

 彼女の心はもう限界なのは間違いない。でも、頼れないのかもしれない。

 

 平和ボケしていた。ハジメは自らの発言に後悔する。

 

 誰も彼もを救うことなんて出来ない。

 

 そういう無理なこともあるということを忘れていた。

 

 そのどうしようもない無力感にかつての鬼としての夢を思い出す。

 

 『人の悪意を食らってやる。世界すべて、悪意なんてない世界を目指す。』

 

 「帰ります。優にごめんって伝えてください。」

 

 カレンはハジメの唇をそっと触れ、耳まで朱に染める。憧れていた年上とのキス。

 

 鬼相手なのに、胸がときめいていた。

 

 涙ぐみお別れを告げる少女。どうしようもなく衝撃的な少女だった。

 

 ハジメは呆気に取られ、呆然としていた。

 

 ーーーーーー。

 

 駆け出す足。止まらない鼓動。

 

 

 分かっている、これは使命なのだ。

 

 無になれ。

 

 己を捨てろ。

 

 全ては百合野のために。

 

 「優、ごめん。」

 

 だが、カレンの中では楽しかったあの時間が脳裏によぎる。

 

 「さようなら、私の青春。憧れだった寮生活……素敵なお友達と年上の彼氏……君は持ちすぎだよ。」

 

 涙が止まらなかった。

 

 

 

 ーーーーーーー。

 

 

 

 「オレが大切にしたいものは、『優』だ。」

 

 口をついて出た言葉。今やるべき事だと自覚する。

 

 ハジメは言い聞かせるように自らの言葉として吐き出す。

 

 ハジメは優の所へと向かうのであった。

 

 ーーーーー。

 

 ーーーーーー。

 

 「なにあれ?どういうこと……なの?」

 

 優はどうしていいのか分からず、部屋に閉じこもる。

 

 息が荒くなるのを感じる。

 

 自分のことでいっぱいになって、心の中が悪意で満たされていく。

 

 これが、嫉妬と言うやつか。

 

 「胸がくるしっ……」

 

 優はそのまま涙を流していた。

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