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#16 閉扉と解放の決意


 「さあ、これから出雲へ向かうぞ!!」

 

 そう、高らかに天稚彦は宣言する。

 

 ようやく1歩進んだと、サグメは微笑む。

 

 こんな風に巻き込まれながらも進んでいくのだと感じていた。

 

 無茶苦茶な人だ。だが、きっと上手くいくはずだ。

 

 ーーーーー。

 

 『繰り返すな。思い出すな。』

 

 ーーーーー。

 

 「あの?今何か言いましたか?」

 

 「ん?なに寝ぼけてんだ?さっさと行くぞ?」

 

 サグメは振り返って救済した町を見下ろす。

 

 「気の所為?」

 

 天稚彦はすこし微笑んで先へと向かっていく。

 

 どこからか声が聞こえた気がした。

 

 だが、気のせいだろうと切り替えて、サグメは後を追いかける。

 

 ーーーーー。

 

 出雲の近くまで二人は瞬間的に向かう。

 

 神のふたりならば、時間をかけずに向かうことなんて容易い。

 

 だが、この世界での身分やお金がなかった。文化がある程度進んだこの世界で、地位を確立している大国主神に会うためにはそれが必要だった。

 

 天照大御神から二人が課せられたのは2つ。

 

 ひとつは息子を捜索すること。

 

 もうひとつは息子の代わりに現世を平定すること。

 

 そしてその大国主神が治める国が出雲なのだ。

 

 常世の神のひとりであり、現世に偶然訪れた神だ。

 

 そして天照大御神の息子である『アメノホヒ』が派遣されていたのも出雲である。

 

 ーーーーー。

 

 出雲の付近に到着すると先程までの町とは大きく異なるということを痛感させられる。

 

 「賑やかな所ですね。」

 

 同じようにそう思ったのかサグメ画口を開く。

 

 天稚彦も同じことを考えていた。

 

 たったひと月とはいえ、町という空間に慣れきっていたためだろうか。

 

 豪華な建物、賑わう商店の数々、人の多さ、国全体のデザイン性の高さなど、何を比較してもこの世界では一級のものばかりだろう。

 

 「ま、行くか。」

 

 「はい。素直に進むといいんですけどね。」

 

 「不安か?」

 

 「国に入るための身分やお金を得るだけでひと月掛かったんです。不安にもなります。せっかく築き上げた絆も1からですからね。」

 

 「随分とあの町に入れ込むな。そんなに気に入ったか?」

 

 「ええ。あの宮ノ森という女性、不思議な縁を感じましたから。」

 

 「さすがシャーマンだな。そういう感覚は大切だよな。祀られる神にでもなったらどうだ?」

 

 「やめてください。僕はそんなお調子者の天狗ではありませんよ。」

 

 「天狗ってお前、架空の生き物じゃないか。お調子者かどうかは天狗にも寄るんじゃないか?俺はお前の天狗姿見てみたいな。」

 

 「はいはい。雑談していたら着きましたよ。」

 

 ーーーーー。

 

 「なに?アメノホヒ様を探していて、大国主神様に会いたいだと?いくら兼近の件を解決したからと言って成り上がりの貴族にそんな権限が与えられると思っているのか?」

 

 大きな城を警備する兵士に話を聞いたところ即門前払いを受けた。

 

 「会うだけですよ。献上品もお持ちしております。謁見願えませんか?」

 

 「アメノホヒ様もそうやって何度も頼みに来たよ。」

 

 「え?やはりここにアメノホヒ様がいらっしゃるのですね!」

 

 「ああ。何度も門前払いを受けるうちにこの国に馴染んでいってな。この国に使えるようになったよ。いまや大国主神様の立派な右腕で二つほど紛争をお止めになられている。」

 

 「ならば!せめて、アメノホヒさまに会いたいのですが可能でしょうか!」

 

 「あ、ああ。それならば、構わないと思うぞ。今は神を祀る『琴上神社』?『琴上寺』?だか作ってるぞ。なんでもスサノオ様を祀る施設だそうだ。」

 

 ーーーーー。

 

 話を聞き付けた二人は兵士が話す『琴上神社』へと足を進めた。

 

 「まさか、こんなに早くお目にかかれるとは。『アメノホヒ』様。」

 

 兵士に指示された場所は国から少し外れた林の中に一際輝く人物がいた。

 

 石を何段も積み重ねている作業の様子が見える。

 

 神が纏うオーラなのか複数の男の中に、アメノホヒがいることがひと目でわかる。

 

 サグメと天稚彦はすぐさま跪き挨拶をする。

 

 「そうか。期限の3年か。」

 

 男は状況を理解すると一言呟いてみせる。

 

 「皆!俺は彼らと話がある。今日は解散して構わない!ご苦労であった!」

 

 声を張り上げ、男たちに指示を出す。その言葉をきっかけに男たちは大歓声を上げて、その場を駆け足で去っていく。

 

 いつの時代も突然の早上がりほど嬉しいものはないだろう。

 

 「……母上の使いか?まさか神をよこしてくるとは。立場は同じだ。そんなにかしこまるな。それに俺より常世で人気だった2人に跪かれると気分が悪い。」

 

 「ありがとう。俺もその方が助かる。なんでまた、こんなことを?」

 

 「最近来たばかりなのか。このところ天候が悪くてな。水神様が暴れている、供物を捧げろと民衆は怯えてしまっている。だからこの世界を救ってくれる神も存在していると民に認知させるためだ。」

 

 「暴れ神を祀ってどうする気ですか。僕にはそんなに価値のある話だとは思えません。」

 

 「スサノオ様は現世じゃ、英雄だ。いずれこの地で暴れているヤマタノオロチも沈めてくださるはずだ。スサノオ様が吐き出した猛気はほとんど自らで討伐している。抑えきれなかった猛気も封印して管理している。」

 

 「その猛気がこの世界で解き放たれようとしていることもご存知なのですか?」

 

 「何を馬鹿な。あれは常世で管理している代物だぞ?そんなの現世の平定なんて夢のまた夢になってしまう。」

 

 「それがきっと狙いなのでしょうね。現世を自分のものにしようとしている悪神がいるということです。天照大御神様に平定を諦めさせる。」

 

 「だからこそ、我々はあなたと大国主神様を説得してこの世界を平定したいと思っています。この世界には神が必要なのです。教えてください。何故、大国主神様と一緒にこの世界を平定しようとしないのですか?たったひと月ですが、天照大御神様の言う通り導き手が必要です。人間は愚かな部分も多い。」

 

 「傲慢だと思わないか?」

 

 「え?」

 

 「俺たち神は人に信仰され、勝手な解釈を持たれている。それは俺達も同じだと思ったんだ。何度も大国主神様に言われたさ。人の世は人が作るのが相応しい、とな。」

 

 ーーーーーー。

 

 長い討論の末、二人は黙って引き下がることしか出来なかった。

 

 確かに二人は常世では神である存在である。

 

 だが、現世ではただの部外者にしか過ぎないのだ。

 

 ーーーーー。

 

 「諦めるおつもりですか?」

 

 夜になり、宿を借り二人は部屋でくつろいでいた。

 

 そんな折り、サグメが不意に聞いてくる。

 

 「アメノホヒ様の話その通りだと思ったんだよ。……あの方は自分が出来ることを見つけて動いている。それでいいのかもなって。」

 

 「牛鬼はどうするのですか。僕は嫌ですよ。ここまでやってきたのに何もせずに帰るなんて。」

 

 不服そうにサグメは頬をふくらませる。

 

 刹那。

 

 天稚彦はサグメに顔近づけてくる。

 

 「なら、逃げてしまわないか?全部役割を捨てて俺たちだけで生きてみないか?」

 

 「……本気ですか?」

 

 落ち着いているように見えて、サグメの鼓動は高鳴り続けていた。

 

 共にいる時間が長すぎたのかもしれない。

 

 二人でいれば、それでいいのではないかとどこかで安らぎを求めてしまう。

 

 頬が熱を帯びて赤く染っていくのが、分かる。

 

 サグメは必死に思考をめぐらせる。

 

 このまま、受け入れてしまいたい、それが本心であるのに。

 

 その一言が言えなかった。

 

 ーーーーーー。

 

 『やめろ。』

 

 ーーーーーー。

 

 頭にノイズが走る。

 

 現実と夢が混同して行く。

 

 不思議な感覚だ。

 

 この光景、このセリフ、思考。

 

 全てが以前にも起きた気がして胸騒ぎが止まらない。

 

 声をしぽり出したい。

 

 『やつを止めなければならない。』

 

 『あの方がもうすぐ来てしまう。』

 

 断片的な記憶だけが追憶していく。

 

 意識が引き剥がされるような不快な感覚が募り、タイムリミットを迎える。

 

 ーーーーーー。

 

 刹那、トビラが強引に開け放たれ、一人の美女が選択を延期させる。

 

 ーーーーーー。

 

 「お願い!かくまって!!!」

 

 キス寸前の距離にあった二人は瞬時に離れ驚く。

 

 「なんだ、騒がしいな。」

 

 落ち着いているのか冷静に対処する天稚彦。

 

 サグメもようやく鼓動と不思議な感覚を落ち着かせ、顔を上げる。

 

 ーーーーーー。

 

 

 刹那。記憶が蘇る。

 

 目の前の女性こそ、サグメの心を乱した存在『下照姫』。

 

 サグメにとって恋敵も同然となる女性。

 

 そして、その人物を認識したことで、サグメは全てを思い出した。

 

 「僕は……何をしている?」

 

 それはサグメのいや、天野真護の前世が壊れる瞬間であった。

 

 

 全てを思い出したからだ。

 

 ーーーーーーー。

 

 

 

 遠い記憶。宿で出会った少女下照姫は大国主神の娘であった。

 

 それを知り、僕は最低なことを言った。

 

 この国を手に入れてしまえばいい。そうすれば、自由に望む世界を作れると。

 

 下照姫を天稚彦が惚れさせるのにそこまで時間はかからなかった。

 

 何故ならば、下照姫は初めから天稚彦を好いていたからだ。自分のものにするために、『私を利用して』と天稚彦に近づくようになったのだ。

 


 

 そして、どういうわけなのか。運命なのか。天稚彦と下照姫が思いを寄せていた兄アジスキタカヒコネは瓜二つの容姿だったのだ。

 

 いまのユリとクロエもその前世の運命を引き継いでいるのかもしれない。

 

 それから徐々に距離をつめいていく二人を見ていくうちに心は荒んで行った。

 

 僕は彼の隣にいる道を諦めたんだ。

 

 どうしようもない、あまのじゃくだったのだ。好きだと素直に言えていればよかった。

 

 その醜い気持ちがどんどん悪意を増幅させて言った。

 

 いつしか、離れていく彼を自分のものにしたい、擦り寄るものは全て消し去りたい。

 

 そういう歪んだものへと変わり、8年が経過した頃、災いの矢が僕の悪意に反応した。

 

 それをあの人は守ってくれた。

 

 僕は痛感した。どこまでもボクは愚かであったと。

 

 『純粋に生きろよ、サグメ。俺お前と町救った時すごく楽しかったんだ……これで良かったんだ。サグメ、自分のために生きてくれ。』

 

 苦しくて仕方がないはずなのにそれを隠すように、彼は最期まで微笑んでいた。

 

 そしてそこに現れたのがアジスキタカヒコネ。

 

 全ての元凶はこいつだと知った。

 

 牛鬼を常世から奪ったのも、そして常世で鬼と呼ばられる者が暴れた一件についても関わっていた。

 

 兼近に牛鬼を渡し、悪意を増幅させたのもこいつだった。天稚彦とサグメが現世に行ったあと、酒呑童子という鬼に牛鬼を取り付かせ、暴れさせ、手薄になったところを残りの牛鬼を盗み出し兼近に渡した。

 

 常世と現世の時間の流れが違うことで起こせた事件と言える。

 

 全ては現世を自分のものにするための行為。

 

 そして災いの矢で死んだ天稚彦を見てこいつは笑った。

 

 『つまらぬ堕神に惚れたな。我が妹よ。』

 

 『私のせいなんです。私が彼を唆したからこんなことに。』

 

 それを聞いたアジスキタカヒコネは簡単に妹を切り捨てた。

 

 僕はそこで理解した。こいつを野放しにしてしまっては、天稚彦が作ってくれたこの世界が壊れると。

 

 そして常世も現世もこいつのつまらない娯楽で滅んでしまうと。

 

 僕はやり遂げないといけないと思った。

 

 本当に天稚彦を狂わせたのは僕なのだから。

 

 そこに迷いはなかった。

 

 ボクは純粋に思ったことをやり遂げる。

 

 僕がやりたいことだからだ。


『僕は……アマノジャク。そう、みんなの邪魔をするんだ。あなたのためなら僕は!!!鬼にだってなってやる!!!この世界を僕が平和にしてみせる!!!僕に力をよこせ!!!牛鬼!!今から僕は……天探女としての名を捨てる!僕こそが!鬼!天邪鬼だ!!!!』

 

 そう思った時、簡単に牛鬼を体に取り込み、奴を消し飛ばした。

 

 そして、魂となった下照姫と天稚彦を空へと飛ばしたのだ。

 

 きっと次のふたりは近い存在になれることを信じて。


だが、僕の自我があったのはそこまでだった。取り逃したアジスキタカヒコネ。


僕は結局その後、世界を混乱に陥れてしまったのだ。

 

 ーーーーーー。


 

 「ほう?自力で戻ってきたか。アメノサグメいや、天邪鬼と言おうか?」

 

 どこまでも暗闇が広がる無とも言える空間に天野は目を覚ます。

 

 「やってくれたな。僕に前世の記憶を見せるなんて酷いことを。『アジスキタカヒコネ』。」

 

 目の前にたつユリによく似た女性『クロエ』に苛立ちを隠せない。

 

 あのあと天邪鬼は自らの悪意に溺れ、世界を守るために天狗という分身を形成した。

 

 そして案の定、悪の塊となった天邪鬼は後にユリの家系の先祖となる幌先、百合野、琴上の運命を尽く歪ませていく。

 

 自らが悪に染まった過去の記憶を見せられたのだ。苛立つのも無理はない。

 

 クロエは悪趣味なのか不敵な笑みを浮かべている。

 

 「全く、クロエと名乗っただろう?それに酷いこと?感謝して欲しいぐらいだね。我のおかげで、愚かな堕神に罪を認識させてやってるんだ。我の妹『下照姫』、今は琴上輝だったか。どちらにせよ苦しめた罪は重い。お前も恨んでいるのだろう?やつがいなければ、自らが鬼になることは無かったと。」

 

 クロエは不敵に笑って饒舌に語ってみせる。

 

 「いい加減にしろ。前世なんて関係ない。僕は自分の意思で牛鬼を取り込み天邪鬼となったんだ。そして『あの町の守り神』として天狗とふたつに別れた。『あの人』と作った町を守るために。」

 

 「そうだったな。穢れた心のせいで、天稚彦、いや。ユリは災いの矢で貫かれる。本来悪意を持っていたのは貴様なのになあ!アハハハハハっ!!!!ユリを自分のものにしたかったのだろう?でもユリはお前を選ばなかった!共に旅をした町に未練がましく自らの分身を作ってさあ!!!貴様の汚れ具合たまらないよ!アハハハハッ!!!」

 

 まるで小物のように汚い笑い声を撒き散らす。彼はこの手の話が好きなようだ。到底理解できない。

 

 「言ってろ。神にとって記憶は大事な力だ。さっきまでの僕と侮るなよ!!!」

 

 話は無駄だと呆れ、力を取り戻した天野が全身に力を込める。全盛期の力を取り戻したのだろうか。いぜんとは比較できないほど美しく幻想的なチカラが滲み出て見える。

 

 「確かにそうなのかもなあ!でもさあ!見ろよ!周りを!!!お前以外前世に囚われてやがる!はやる気持ちもわかるが、こっちとしては『真城優』の歪みも見てやって欲しいんだよ。」

 

 「僕が天邪鬼になって下照姫様とユリの魂を見失ったんだな。それで探していたところに悪意を募らせる若い陰陽師を見つけた。」

 

 「そう、それが真城優。道満法師さ。」

 

 優がそっとクロエの横に立つ。瞳には光をともさず、まるで別人のようだ。前世の記憶を取り戻したことによる影響だろうか。

 

 「真城優。これで本当にいいんですか。」

 

 「この世界を見たらわかるでしょう。みんな悪意に囚われて、世界に不満を抱き、理不尽を受けている。」

 

 「君はそんな世界をハジメと出会ったことで、変えたいと思ったんじゃないのか?」

 

 「そうですよ。また、希望を見いだしてしまった。だから思い出したんです。自分の前世を。この力が宿った日のことを。………ソラがこの世界を変えるために『インバートマリス』を発動させました。でもどうですか。この世界は。私の前世と何ら変わりはないんです。逃れられないんですよ。運命には。生まれ変わっても私たちは巡り会ってしまいました。あなたとユリみたいに。」

 

 「自分の考えを変えなきゃ、世界なんて変えられないよ。真城優。君はその強さを持っているはずだ。」

 

 「なら、証明してみてください。わたしとクロエを倒してみんなを救ってみてください。……私にはこれしかありません。世界に裏切られたわたしにはっ!!!!」


優は大粒の涙を流しながら、力を解放する。もう、彼女にはこうすることしかできないのかもしれない。だれも彼女の苦しみに気がつくことが出来なかった。苦しみを知っているからこそ、彼女は誰よりも優しくて、周りを動かしていたのだと知る。

 

 「きっと、君の物語は僕には分からないよ。寄り添うのは僕の役目じゃない。でも、何をすればいいかはわかる。これがこの世界、いやみんなへの罪滅ぼしになるかわからないけど。僕は前に進むよ!真城優!!!!」


天邪鬼は自分の出来ることをやるしかないと心に誓う。闇囚われてどうしようもない時。どんな時でも寄り添ってくれる人が彼女にはいる。


あの時の自分とは違う、それに気が付かせることだ。

 

 ーーーーーー。

 

 だって、真城優。

 

 君はまだ諦めていないんだ。

 

 前世の呪いに縛られているだけなんだ。

 

 教えてあげるよ。僕にはそれが出来る。

 

 僕は何度も姿を変えて、悪意に囚われて、前世に呪われたから。

 

 「鈴蘭、この世界は幸せになるための世界なんだよね。僕はユリと幸せになってみせるよ。……そして教えてあげるんだ。……鬼と人間は結ばれたっていいって。……だって今を生きているんだから。」

 

 ーーーーーーー。

 

 すべての記憶を取り戻した少年は、己の過去を見ているようで悪意に苦しむ少女を救いたいと心の底から叫んだ。

 

 これは彼にしか出来ないことなのかもしれない。

 

 以前の自分も一人の少女に救われたように。

 

 今度は自分が悪意を宿す少女を救う。

 

 

 天野真護は持っている全ての力を解き放ち、世界を覆い包む暗雲を断ち切ったのであった。

 

 僕にできるのはここまでだ。

 

 あとは頼んだよ。ハジメ。

 

 優を救うのは君の役目だ。

 

 僕はユリを迎えに行かなくちゃいけない。

 

 過去に囚われている彼女を救ってやってくれ。

 

 

 ーーーーーーー。

 

 「………。分かってるよ。それは俺の役目だ。」

 

 見知らぬ土地、世界。

 

 前世なのか、精神世界なのか、現実なのか、分からない。色のない世界が無限に広がっていた。

 

 でも悪意で閉ざされた一人の少女の世界であることは間違いないだろう。

 

 鬼の少年は目の前で膝を抱える少女に声をかけるのであった。

 

 「ひとりで抱えるなよ。今のお前は、優には俺がいる。お前の悪意を食べてくれるやつがいっぱいるんだよ。」

 


それは心の扉に鍵を挿した瞬間だった。

 ーーーーーーー。

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