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#15 前世の記憶part4


 屋敷に到着し、多くの兵士に怪しまれたが、盗まれた財宝の引渡しと、罪人の在処を知っていること、サグメを見せつけると難なく入り込めた。

 

 兵士に案内され、大きな屋敷の中へとサグメと稚彦の二人で入っていく。

 

 神からすればどうってことの無い屋敷だが、この時代の建物にしては豪華なものと言える。

 

 襖や瓦、長い渡り廊下に庭には大きな池。正面からしか出入りできないように柵が用意されている。

 

 いくつもの部屋を通り過ぎ、下を向く女性たちが目に入る。周りを囲むように兵士たちが配備されていた。

 

 吉次が警備が厳しいと言っていたが、捉えた女性が抜け出さないようにしていると解釈していいだろう。

 

 町の人たちからの情報では捉えられている家族は、明日兼近に好きなようにされるとの事だった。

 

 前に忍び込んだ時に聞いたらしい。身分が高いものから順番に毒牙にかけられるというわけだ。

 

 町の人間たちは美味しいご飯と体を綺麗にしてから夜伽を開始するらしい。それに要す時間が1週間というわけだ。

 

 ーーーーーーー。

 

 「我に献上品とな。話のわかる糞もいたものだな。」

 

 眼前に豚のように肥えた肉体の大男がニヤリと笑う。

 

 周りには女ばかりを侍らせ、自らの肉体に擦り付けるように肩を組んでいる。

 

 浮かんでくる感情は皆同じ。不快感だ。

 

 そう言うまでもなく彼こそが『今野兼近』。

 

 今その男の目の前に、稚彦とサグメはひれ伏している。

 

 ほかの町の人達は息を潜め、今か今と好機を狙っている。

 


 

 ーーーーー。

 

 「おい糞。その美しい女が汚れるだろ。離れろ、気色悪い。我の物ぞ、その女は。」

 

 話始めようと顔を上げた稚彦にいきなり罵声を浴びせる。

 

 まだ献上するとは一言も言っていない。

 

 ああこれはもうダメだな、と天稚彦は理解した。

 

 『兼近は近い将来死ぬ運命です。』

 

 サグメの言葉が脳裏によぎる。

 

 不要の因子は早めに消した方がいい。

 

 「……。その言葉は怯えの裏返しか?……今野兼近。」

 

 稚彦は我慢できずに言葉が漏れてしまう。

 

 話し合いや探り合いなど最初からする気のない輩には何をしても無駄ということだ。

 

 腹の底が透けて見える。財宝などによりも目先のサグメに目がくれたのだろう。話そっちのけで稚彦には目もくれていない様子だ。

 

 天稚彦はまどろっこしいことはやめよう。そう心に決めた。

 

 考えてきた作戦は何個もあった。だが、話が出来ないのであれば意味は無い。それに無事に屋敷に入れたのだ。及第点だろう。

 

 なにより、こんな男にサグメを1歩も近づけたくないという気持ちに晒される。

 

 「ほう?誰が口を開いていいと言った?おい、やつを捕らえよ。牢に監禁して男どもの餌にしてくれる。」

 

 自分は誰よりも偉い。何をしても許される。欲望のままの醜い存在。

 

 これはもう、力の差を見せつけるしかないのだ。

 

 多くの民たちが恨みを持った理由が一瞬でわかる。

 

 理不尽で不快で、殺したいという衝動に駆られる。

 

 「ありがたきお言葉。俺らあの男、好みで狙っていたんです。久しぶりの上物だ。」

 

 護衛していた前に控える2名の剣士が、稚彦をみて舌なめずりをする。

 

 「そうか。我以外の男などゴミでしかない。貴様ら兵士たちのようなゴミだな。」

 

 兼近は不快な顔を見せ、さっさと連れていくように催促する。

 

 なんとなく兼近のやり方が見えてくる。兼近の元で働くものは過酷な労働環境に耐えきれず、罪人に手を出しているのだろうか。ここでは男の扱いはもっと酷いものなのだろう。

 

 民からお金をまきあげているのは女たちを養うためということだろうか。

 

 女は皆兼近の元で夜伽と快楽を求められる。代わりに贅沢な暮らしが与えられる。

 

 そして兵士は男や面倒を見きれなくなった者たちや逃げ出した者を好きにする。いわゆるストレスの捌け口にされているのかもしれない。

 

 どこまでも不快だ。たった数分でこの屋敷に漂う悪意の数々が垣間見える。

 

 「……ああ。やめだ。」

 

 立ち上がると、稚彦は剣士2名をあっという間に斬り捨て致命傷を与える。

 

 傍から見れば、ただ横をとおりすぎただけにしか見えない。華麗で美しく痛みすら芸術的に思えてくる刀さばきだ。これが神の振る舞いなのだろうか。ひたすらに美しいと感じてしまう数秒の出来事だ。

 

 二人の体から血が吹きでて、兼近は唖然とする。

 

 「な、なんだ。なにをした……?」

 

 「クズにまとわりつくのは、クズだと言うことだな。優しさを見せた俺が悪かった。これじゃあ、殺されるのはすぐ先の未来だな。」

 

 「あああああああっ!?来るなあ!!!」

 

 ーーーーーー。

 

 兼近が叫ぶと全身から赤黒い瘴気のようなものが溢れ出る。

 

 「それが、貴様の身に刻まれた悪意だ。……自覚あったんだな、悪いことをしているって。」

 

 「なっ!?なんだあああっ!まとわりつく!かゆいかゆいかゆい!!!!あぁああああっ!!!」

 

 兼近はまとわりつく瘴気を払おうと、周りの女に瘴気を擦り付ける。

 

 それが伝染するように女たちの体にもまとわりついていく。

 

 「来ないで!!!触らないで!!!いやぁああああっ!!!」

 

 響き渡る悲鳴。

 

 「稚彦様。やりすぎです。不快に思われたのは分かりますが、これでは……。というより、せっかく作戦考えたのに」

 

 「交渉なんて通じる相手じゃなかった。すまん。……それに殺したわけじゃない。苦しめているだけだ。悪意を持たない人間なんていないからな。オレはその罪の意識を再認識させているんだ。」

 

 稚彦は低い声で続ける。

 

 「ヌイ。あとは好きにしろ。約束通り、兼近はをどうするかはお前が決めろ。」

 

 稚彦が声をかけるとヌイがゆっくりと兼近に近づく。

 

 「た、助けてくれええ!!!な、なんでもするからあ!!!」

 

 自らの悪意で溺れて、苦しみの表情を浮かべる兼近。

 

 そんな様子を見て、ヌイはひたすらに醜いと思った。

 

 こんな泥のような罪悪感に晒されて、全てを恐れ、それでも欲望のままに生きることしか出来ない男。

 

 こんな奴のために復讐の炎を燃やしていたのかと、自分を情けなく思った。

 

 「興味無い。俺は姉貴とシズカを探してくる。……ありがとう、気づかせてくれて。」

 

 ヌイは走り出し、屋敷の中へとかけていった。

 

 続くように吉次と町の人達も稚彦に一礼し、屋敷の中へと向かう。

 

 一人残った猿の助が稚彦にひと声かける。

 

 「あんちゃん。俺たちは目的を履き違えてたんだな。守りたいものを守る。それで良かったんだ。」

 

 「それが伝わったんなら良かったよ。少なくともこの町に関する不当な政治は終わるはずだ。全ての件を、兼近に報告させる。もう大丈夫だ。お前も家族のところに行ってやれ。」

 

 「俺に家族はいねえよ。……ただこの町が好きで、みんなためになんか出来ねえかって。……俺にはあいつら見てえに命をかけてまで守ろうと思うもんはねえさ。ただ、心を動かされたんだよ。」

 

 「ふふ、いい人なんですね。…でも今ひとつ未来見えましたよ。せっかくですから、教えます。……生涯仕える主を、この先見つけるでしょう。……それがきっと命をかけて守りたい人になるんじゃないですか?」

 

 「おいおい、サグメさん頼むぜ。それっぽっちじゃ全然わかんねえよ!」

 

 「ふふ、すぐに分かります。桜の香りがする美しい方ですよ。」

 

 ーーーーー。

 その後朝廷に全ての財宝を献上。兼近の罪の数々を報告し、兼近は立場を追われることになった。

 

 屋敷で兼近に擦り寄っていた女たちは、贅沢な暮らしで幸せを得ていたらしい。しかし多くの有力な権力を持つ女性を拉致していたことが発覚し、あの女性たちなら助けられたかもしれない事実と欲に溺れたことにより人間性を疑われた。多くの貴族から恨まれる結果となった。

 

 

 この件では心の傷を負った女性が多い。天稚彦は多くの賞賛の声と地位を確立した。街の人々は救えたが、その前に犠牲になったものたちが余りにも多い。

 

 兼近も甘い蜜を吸っていた女たちも、天稚彦の力によって罪の意識に苛まれ心を閉ざし居場所を失い死んだような瞳でこれからも生きていくのだろう。

 

 殺すことよりも残酷で重い罰を天稚彦は与えたことになる。

 

 ーーーーーー。

 

 一月後、兼近の件は落ち着き新たな領主がやってきた。

 

 兼近の1件で、男を領主にすることに反対の動きが見られたからだ。

 

 なんでもお偉い貴族の血筋らしく、捉えられていた貴族の1人のようだ。捕らえられている最中ずっと女性たちの精神面をサポートし支え続けていたことから、町の人たちからの支持は厚かった。

 

 大元の権力は本家が所有との事で、貴族と言っても力はそこまで持っておらず、町の人たちと立場は相違ない。この時代女性が進出してきた時代でもあるため珍しいことでは無い。

 

 偉く美しい女性で、桜のような澄みきった香りが魅力的だ。

 

 

 「きょ!今日から!!この街を任されることになりました!!『宮ノ森桜夜』と申します!よ、よろしくお願いします!!!……私はこの町を暖かく住みやすいところにしていきたいと思っています。屋敷で皆さんの心の強さは拝見しております。私も何もかもが初めてです。本来このような立場の人間では無いことは重々承知しておりますが、皆さんと町を一緒に作って行けたらと思ってます。」

 

 ーーーーー。

 

 「良かったですね。無事に出雲国にも行けますし、町の人たちも無事でした。」

 

 「ああ。新しい領主も上手いことやってくれるはずさ。」

 

 「そのうち、権力を失ってもこの自然豊かで暖かい土地は守られていくと思います。」

 

 「まったく、不安要素はあるかもしれんが、そういうこと言うなよ。つぎの旅立ちの前にさ。」

 

 「いいじゃないですか。権力なんて持たなくても彼らは、良い街づくりをしてくれますよ。」

 

 「そうだな。」

 

 「ええ、僕達神が導いた『始まりの場所』なんですから。」

 

 二人は微笑ましい顔でその場を後にした。

 

 目的地は出雲国だ。

 

 ーーーーー。

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