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#12 前世の記憶part1


 世界は流転し、時空は数千と数百の時を遡る。

 

 これは少年少女、はたまた、神、鬼を交えた前世の記憶である。

 

 ーーーーー。

 

 「良いでしょうか。人間の世界、所謂現世を平定してくるのです。先に旅立った息子が長らく帰ってこないのです。いいですか。日本という国を作った大国主神の元へ向かっているはずです。任せましたよ。」

 

 

 

 天照大御神に命令を受けた二人の神の姿がそこにはあった。

 

 一人は黒髪の美しい女性で名を『探女』という。

 

 どことなく天野真護に雰囲気が似ている。そう思わせるのは青く綺麗な刺繍の入った民族衣装のような装いをしているからだろうか。

 

 その装いは天野が『天邪鬼』という鬼の姿になった時に見せる装いに酷似していた。

 

 もうひとつの影は、白く美しい短髪の美少年だ。名を『稚彦』といい、どこか大人びた表情や力強い瞳は琴上幸理の姿を彷彿とさせる。

 

 そう、それもそのはず。どういったわけか、これが『前世』の彼らの姿なのだ。

 

 

 ふたりは跪き、天照大御神の命令に対し、「御意」と受け入れる姿勢を見せ、その場を後にする。

 

 ーーーーーー。

 

 「今日からお供させてもらいます。『探女』です。よろしくお願い致します。」

 

 天照大御神の金色の太陽を模した宮殿から出ると探女は深々とお辞儀してみせる。

 

 一挙手一投足が美しく絵になる美女。

 

 宮殿の黄金と相まって天から美女が舞い降りたかのように美しい。

 

 彼女は天に愛されている。そのためか彼女は未来予知、天候予測などのシャーマン的な力を得意とする。

 

 稚彦のサポート役として遣わされたようだ。

 

 「かってえなあ。」

 「はい?」

 

 形式的な挨拶をしたまでのことなのに、稚彦は笑ってみせる。

 

 「現世っていやぁ、別世界だぜ?自由に楽しくやってこーぜ」

 

 「え、でもお仕事ですよ?しっかりと役割を果たさねば。」

 

 「お堅い御嬢さんだ。」

 

 「どうとでも仰ってください。僕は怒られたくありません。」

 

 「おいおい、珍しいなあ。ボクっ娘かよ。楽しくなるなあ。」

 

 「はあ。不愉快ですね。」

 

 「まあそう言うなって。俺、『稚彦』な。よろしくう!自由に純粋に行こうぜ」

 

 「……はあ。」

 

 楽しそうに話す稚彦。それに対し不快な顔を浮かべる探女。

 

 真面目な天野と人を振り回すユリという関係性は、そう変わっていないのかもしれない。

 

 ーーーーーー。

 

 目の前に佇む大きな扉。独特な模様が散りばめられ『異物』であることを主張しているかのようだ。

 

 「これが異界の門ですか。」

 

 異界の門。どこからともなく現れた『二つの世界を繋ぐ扉』。

 

 先に扉を見つけた大国主神が扉をくぐり、現世を発展させた。

 

 そして近年現世を統治するのも常世の勤めだと『天照大御神』が宣言し、息子を旅立たせたのがずいぶん前というわけだ。

 

 「そう、これが『異界の門』だな。大御神に許されたものは出入りを許される。……って言うけど、こいつが現れた理由も不明瞭のままだからな。見つけたもん勝ちみたいなところはある。……ま、よく分からんが俺らはこれに触れていいって訳だ。」

 

 「お詳しいんですね。……ただの馬鹿ではなかったようで。」

 

 「っえぇ。つれないねぇ。仲良くしようぜ。これでも頑張って勉強してんだぜ?」

 

 「……はあ。お顔も整っていて知識もあるのに、これじゃあ地方に飛ばされても仕方ないですね。言葉遣いがまるでなってません。」

 

 「……それを言うなら、お前さんだって整った顔してんだろ?お互い様だよ。」

 「……別に僕は……」

 

 ストレートに思ったことを口にする稚彦。そこに偽りはなく、純粋な言葉があった。

 

 悪態をついた探女は、不覚にも見た目を褒められ胸がざわつくのを感じる。

 

 気まずい空気が流れる中、稚彦は続ける。

 

 「ま。着いてこいよ。……いい仕事か悪い仕事かそれが決まるのは俺たち次第なんだからな。」

 

 「はいはい。立派にこなして、成果残してくださいね。」

 

 仕方ないというような面持ちで天探女は納得してみせる。稚彦には何を言っても無駄なのだ。あくまでも支援に徹しよう、と探女はそう思った。

 

 「よし!んじゃ、行くぜ!!!」

 

 稚彦は高らかに宣言し異界の門へと手を翳す。続けて天探女も翳してみせる。

 

 そしてふたりは、いとも容易く扉に触れ、肉体を輝かせる。

 

 次の瞬間には、2人の姿は跡形もなく消えていた。

 

 常世から現世へ旅立ったということだ。

 

 ーーーーーー。

 

 「ここが……異世界。」

 

 「現世な。俺たちがいたところが常世だな。」

 

 2人の体は徐々に光を失っていく。

 

 視界が晴れると、目の前には澄んだ空、美しい花、どこまでも広がる草原が見える。

 

 「なにもない。でもとても美しいところですね。」

 

 「そりゃ、最近になって『人間』ってのが生まれたばっかみたいだからな。」

 

 「ニンゲン?……文明を発展させる個体ですか?」

 

 ふたりは当てもなく歩き始めると話し始める。現世のことについて詳しい稚彦が現世について解説を始める。

 

 「そう、人間。まだ知恵をつけたばかりだがな。俺たちみたいに発展するのはまだまだ先みたいだが。」

 

 「そうなんですね。でも時を刻む世界と聞きましたよ。ここは。」

 

 さすがに探女も旅立つ世界のことを調べなかった訳では無い。

 

 自らの知識で会話を進める。

 

 「時間っていう概念があるみたいだな。俺たちは寿命が長いから意識したことは無いがな。人間というのはあるらしい。」

 

 「我々の世界にいる『人』とは違うのですか?」

 

 「ああ。俺たちの世界の人は分類で言えば神人と言うらしい。そして俺たちは神。アマテラス様は大御神という括りらしい。」

 

 「なんですか。その分類は。初めて聞いたのですが。」

 

 調べていても地位に差があるのか、稚彦のほうが現世について詳しい。

 

 何もしていなかった訳では無いが、成果を出せず、腑に落ちない顔をする。

 

 「別の世界があると聞いて勝手に作ったんだよ。君が知らなくても無理はない。」

 

 不貞腐れた様子の探女に気が付き、稚彦は軽くフォローを入れる。

 

 声掛けは優しく、微笑む笑顔が探女の脳裏に焼き付く。

 

 たった数分で稚彦という男の魅力がどんどん伝わってくる。

 

 「……なるほど。だから、人間だの、時間だの、曖昧な言葉が多いのですね。」

 

 意識すると余計に赤面するので、認めたくない探女は会話を無理やり進める。

 

 「そうかもな。でも人間ってのは俺たちとも神人とも違うらしい。悪意と善意両方を兼ね備えた存在らしいぞ。」

 

 「だから、人間?狭間の存在らしいということですか?下手を打てば、鬼と神の力を人間は使えるのですか?」

 

 「いいや。プラスマイナスゼロって感じだ。神力なんて持ってないみたいだ。」

 

 「文明が進むのは大変そうですね。」

 

 「ああ。だが、『陰陽師』というもんがいるらしい」

 

 「陰陽師?」

 

 「妖力、霊力と呼ばられる特殊な力を媒介を通して使えるらしい。」

 

 「そんな存在が……」

 

 「ああ。ここから先の世界、そいつらが文明を発展させるのかもな。」

 

 稚彦は誇らしげに解説を終えると、草原のいちばん高いところから指を指す。

 

 「まずはあそこの町に行こう。どちらにしても情報が必要だ。そしてこの世界の生き方もな。」

 

 「はい、そうですね。」

 

 ーーーー。

 

 街に入ると、木でできた建物が何件か立ち並ぶ。人々は疲れきった顔をしながら商売を進めている。

 

 歩く度に視界に『お尋ね者』の似顔絵が記されているのが目に入る。

 

 旅人が珍しいのか、金を欲しているのか街の人々は積極的に話しかけてきた。


「お客さん、旅の方ですかい?どうだい、一口!」と言った具合だ。活気がない街が2人が来たことで活気を見せる。

 

 事前に準備していたお金を使用し、2人は食べ物、伝統工芸品、飾り物、着物、流行り物、見世物などを堪能しつつ、情報収集に務めた。

 

 幸いなことに使用されていたお金は常世旧文明の貨幣にそっくりであった。

 

 地方の中では発展していた街らしく、しばらくして直ぐに大国主神の居場所の情報を得ることが出来た。

 

 なんでも有名貴族が治める土地らしい。

 

 得られた情報としては、大国主神は国を作った神として祭り上げられているということだった。

 

 もちろん実在していると思っている訳では無いだろうが、伝承が伝わりに伝わって、この街から北に進んだ国で『大国主神』の名前が盛んに扱われているようだ。

 

 しかし肝心な探し人である天照大御神の息子は見つからなかった。

 

 だが、異界の門を同じように渡ってきたのならば、同じような行動を取るだろう。目的は『大国主神に変わって現世を治める』ことであるからだ。まずは大国主神に会いに行くだろう。


つまりは名前が噂される北の国に向かった可能性は高いということだ。だがしかし、道は遠い。旅の第一歩といったところだろうか。

 

 「そう簡単には行きませんね。」

 

 「まあ、旅っぽくていいじゃねーか。……それはともかくお金や身分を手に入れないとな。」

 

 「私たちが神ですと言えば、跪いて献上して下さるでしょうに。」

 

 「横暴だなあ。俺たちの最終目的は、『この国を平定すること』だぞ?」

 

 「そのためには文化体系を把握することも大切。だから生活レベルも人間に合わせると?」

 

 「分かってるじゃねえか。……そうすれば、信頼や絆も自然と生まれてくるさ。」

 

 「何を根拠に言っているのやら。」

 

 「今日の経験からさ。……まあ言いたいことはわかるさ。……朝廷が得する政治に加え、貴族や血筋にこだわった世代交代、周囲の権力者同士の争い。……平定なんて夢のまた夢だ。」

 

 「ならば、さっさと力見せて終わらせましょ。天もそう申しております。『現世を平定するの大変困難で、運命に任せよ』とね。」

 

 「だがなあ。せっかく文化を築いているのに我々が力を見せては、何もかもが崩れてしまうだろ?……北に向かった国で『出雲』に大国主神もいる。……要は、溶け込んでればいいんだ。……俺に任せろ。」

 

 「何か考えがあると?」

 

 「ああ。馬鹿正直に街を歩き回っていたわけじゃないさ。…これからのことも考えてる。」

 

 稚彦は得意げに語って見せた。

 

 ーーーーーー。

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