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【短編】鏡モチのオッサン

作者: rara33

※「なろうラジオ大賞3」参加作品です。(使用ワード「鏡」)

 ピンポーン♪


 元旦の朝、小学生の僕が玄関に出ると、大きくて丸い鏡を持ったスーツ姿の男が立っていた。


「初めまして。わたくし、『鏡持ち』でございます」

「鏡モチ?」

 呆気にとられた僕に、男は丁寧なお辞儀をした。

「本日から鏡開きの日までお世話になります」

「お母さーん! 変な人がいるー!」


 出てきた母は、男を見てペロッと舌を出した。

「ママ、うっかりしてて。ネットで『鏡餅かがみもち』と間違えて『鏡持ちのオッサン』を注文したみたい」

「うっそー!」

「ではお邪魔します」


 おせち料理の並ぶ食卓で、母から話を聞いた父は豪快に笑った。

「ママはドジだな~。仕方ない、オッサンも一杯どうぞ」

「では遠慮なく。ぷはー! 正月一番に飲むビールは最高ですな!」

 父とオッサンは真っ赤な顔で笑い合った。


「ほらコウ、お年玉だぞ」

「ありがとうお父さん!」

 ポチ袋を受け取って中身を見ると、金額は去年と同じ3千円だった。


『春には小6になるのに、3千円は安すぎだよ~。お父さんのケチ!』

「え? コウ、今なんて言った?」

 父に言われて僕はハッとなった。

「いや! なんにも言ってないよ!」

 確かにそう思ったけど、口には出していなかったのに。なぜ?


「それはこの鏡が言ったのですよ。映った者の本音を語る、魔法の鏡なのです」

 オッサンが両手に抱えていた鏡を指さして言った。そこには僕の顔が映っていた。

『もっと金持ちの家に生まれたかったな~』

 鏡の中の自分が不満げにしゃべるのを見て、僕は驚いて飛び上がった。


「そんなこと思ってたのね! ママは悲しいわ」

 目頭を押さえる母の姿が、オッサンの鏡に映った。

『もう! パパに似てバカな子ね』

 鏡の中の母が冷めた目で言った。


「おい! 俺に似たとはどういうことだ!」と父が前のめりになった。

『ふだんドジなくせに! おせちも満足に作れない味オンチが!』

 鏡に映った父がフンと鼻を鳴らした。父と母が喧嘩を始めて、僕は急いで止めに入った。


 そんな本音が鏡からダダ漏れの生活が十日とおかほど続いて、ついに「鏡開き」の日を迎えた。


「それでは鏡を開かせていただきます」

 僕たち家族の前でオッサンが丸い鏡に触れると、真ん中からパカッと割れて、両開きにひらいた。


 鏡の内側は三面鏡で、のぞきこんだ僕たちの姿が無限に連なって映っていた。



『『お前がドジなせいで』』

『『あなたがバカなんでしょ』』

『『僕こんな家族いやだー!』』


 3人の本音が、カエルの合唱のようにいつまでもリフレインした。

最後までお読みくださり、誠にありがとうございますm(_ _)m

※文字数(空白・改行含まない):991字です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 本音を言う鏡というアイデアは過去にもあるけど、それをこういう形で「めでたいはず」の鏡餅で、しかも親子3人というカオスな形で行なわせたところが見事で、思わず笑ってしまいました。『コレハ酷イ』…
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