【短編】鏡モチのオッサン
※「なろうラジオ大賞3」参加作品です。(使用ワード「鏡」)
ピンポーン♪
元旦の朝、小学生の僕が玄関に出ると、大きくて丸い鏡を持ったスーツ姿の男が立っていた。
「初めまして。わたくし、『鏡持ち』でございます」
「鏡モチ?」
呆気にとられた僕に、男は丁寧なお辞儀をした。
「本日から鏡開きの日までお世話になります」
「お母さーん! 変な人がいるー!」
出てきた母は、男を見てペロッと舌を出した。
「ママ、うっかりしてて。ネットで『鏡餅』と間違えて『鏡持ちのオッサン』を注文したみたい」
「うっそー!」
「ではお邪魔します」
おせち料理の並ぶ食卓で、母から話を聞いた父は豪快に笑った。
「ママはドジだな~。仕方ない、オッサンも一杯どうぞ」
「では遠慮なく。ぷはー! 正月一番に飲むビールは最高ですな!」
父とオッサンは真っ赤な顔で笑い合った。
「ほらコウ、お年玉だぞ」
「ありがとうお父さん!」
ポチ袋を受け取って中身を見ると、金額は去年と同じ3千円だった。
『春には小6になるのに、3千円は安すぎだよ~。お父さんのケチ!』
「え? コウ、今なんて言った?」
父に言われて僕はハッとなった。
「いや! なんにも言ってないよ!」
確かにそう思ったけど、口には出していなかったのに。なぜ?
「それはこの鏡が言ったのですよ。映った者の本音を語る、魔法の鏡なのです」
オッサンが両手に抱えていた鏡を指さして言った。そこには僕の顔が映っていた。
『もっと金持ちの家に生まれたかったな~』
鏡の中の自分が不満げに喋るのを見て、僕は驚いて飛び上がった。
「そんなこと思ってたのね! ママは悲しいわ」
目頭を押さえる母の姿が、オッサンの鏡に映った。
『もう! パパに似てバカな子ね』
鏡の中の母が冷めた目で言った。
「おい! 俺に似たとはどういうことだ!」と父が前のめりになった。
『ふだんドジなくせに! おせちも満足に作れない味オンチが!』
鏡に映った父がフンと鼻を鳴らした。父と母が喧嘩を始めて、僕は急いで止めに入った。
そんな本音が鏡からダダ漏れの生活が十日ほど続いて、ついに「鏡開き」の日を迎えた。
「それでは鏡を開かせていただきます」
僕たち家族の前でオッサンが丸い鏡に触れると、真ん中からパカッと割れて、両開きにひらいた。
鏡の内側は三面鏡で、のぞきこんだ僕たちの姿が無限に連なって映っていた。
『『お前がドジなせいで』』
『『あなたがバカなんでしょ』』
『『僕こんな家族いやだー!』』
3人の本音が、カエルの合唱のようにいつまでもリフレインした。
最後までお読みくださり、誠にありがとうございますm(_ _)m
※文字数(空白・改行含まない):991字です。