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アングレカム第1章【夏の日常編】

作者: さか。

昔書いたものです

文章は稚拙です

楽しんでいただければ何よりです

 夏の日差しを浴びながら暑いと呟きながら歩くさくらという女の子は今日もまた少し元気がなかった。それは、あくまでも体力的な話ではない。肩に付かない程度の長さの髪を、後ろに束ねて暑さを軽減させる。


 手に持って使う扇風機を回しながら、タオルで顔を拭う。


 夏の朝は涼しいようで暑い。涼しげな風が吹いていながら太陽の照らす陽が差し出していて結局の所暑いのだ。


 時間が経って行き、涼しい風も何処へやら。蝉の鳴き声が大きくなり、太陽の光が強くなる。


 ジンワリとまた汗を掻く。ソルティライチを軽く一口飲む。

 一つ一つ足を前へと運びつつ、踏切を前に足を止める。電車が通った数秒後に踏切は通れるようになり、目の前を見ると友人が踏切前にあるマンションにて座っていた。


 友人の名前はまきというらしい。彼女は肩より長めの髪の長さをしており、またそれをさくら同様後ろで束ねて少しでも涼しさを感じられるよう努めている。


 さくらを見つけたまきは瞬時に笑顔を作り、「さくちゃ〜ん、おはよ〜〜」と言いながらさくらに向かって手を振る。

 さくらもニコリと笑いながら手を振り、まきに近付いて行く。


 まき「あー、もう。今日ホント暑くない!?」


 さくら「ホントやね〜。暑過ぎて溶けそう。」


 まき「さくちゃんが溶けたらうちが食べるね」


 さくら「まきちゃんに食べられるのか……」


 まき「さくちゃんどんな味すんのかな。イチゴかな?サクランボとか?」


 さくら「めちゃくちゃいい笑顔しながら怖い事いうのやめて」


 2人してそんな冗談を笑いながら暑い事を忘れて学校への道路を行く。


 その道路の道中にて、ゆうかという女の子を見かける。彼女も友人の1人である。

 さくらとまきよりも長く伸ばした綺麗な髪を靡かせながら、まきに名前を呼ばれたタイミングで振り返る。

 振り返り美人とは彼女の事を言うのか。


 ゆうか「あ、まきちゃん、さくちゃん!おはよ〜〜」


 まき「ゆうかちゃん今日も今日とて美人ですなぁ〜〜?これは今年の夏休みの花火大会にて男が出来る予感ですかな?」


 ゆうか「うちに出来るんなら、まきちゃんにもできるやろ〜」


 さくら「てか、なんで2人に彼氏出来ないの?」


 まき「私は出来ない、じゃなくて無闇矢鱈と作ろうとしないだけ」


 ゆうか「それうちが作ろうと必死みたいな流れになるやん」


 まき「えっ、私はそんなことを……言ったつもりは……あはは」


 ゆうか「まきちゃ〜ん?きらーい!」


 さくら「2人とも可愛いからすぐ出来ると思うけどな」


 ゆうか「さくちゃんの方が、やろ〜。こんなべっぴんさん、なんでみんな放ってるん〜?おかしない?」


 まき「ほんまほんま。こんな美少女なかなかに居らんのにね。」


 さくら「急に矛先をさくらに向けないで!」


 ゆうか「矛先なんてなぁ〜。思った事言ってるだけやしなぁ」


 まき「それな〜〜」


 さくらの照れた顔を見た2人は、ニヤニヤと笑いながら学校の校門の前でさくらの頭を撫でる。


 校門へと入り、靴箱へと向かう。ミンミンと小煩い蝉の声が聞こえていないかのように3人は談笑しながら歩く。




 _____________________


 学校の昼休みになる頃には既に猛暑にでもなったのではないかと疑う熱量を浴びたグラウンドから帰ってきたさくら達。更衣室で、体操服から制服に着替えながら、滝の様に流れる汗をタオルで拭く。


 クーラーの効いた更衣室の中、体育の授業で浴びた熱を外へと逃すために下着姿でクーラーの風を浴びる。


 まき「んん〜〜っ涼しい……。ほんと、これが扇風機だったらうちら死んでたよ」


 ゆうか「ほんまやなぁ〜。でもあんまりゆっくりしてるとお昼休みも終わるからぼちぼち行かなあかんなぁ」


 さくら「あの暑さの中からこのクーラーをガンガンに効かせた部屋に来てすぐに出て行けってのはある意味鬼やよね。」


 まき「そんなん言っても、教室もクーラーガンガンやん」


 ゆうか「そない言うても……動きたくないんやもんな〜〜」


 さくら「わかる〜〜」


 3人の談笑に割って入って来た女子がいた。彼女の名前はさつき。少し癖の掛かった髪をボブ程度まで伸ばし、先程まで後ろで束ねていたのを更衣室に戻って来て解いたらしい。


 さつき「さくちゃん、まきちゃん、ゆうかちゃん!夏休みに花火大会あるやん?うち行きたいねんけど、3人とも行く??」


 まき「あ、そう言えばもうそんな時期かぁ」


 ゆうか「さっちゃんも行くん?」


 さつき「うん、行こっかなぁって思ってるよ。でも1人で行くのは寂しいけん、誰かと行きたいなぁって!」


 まき「うち、さっちゃんの浴衣見たい!さっちゃん浴衣着てくるやろ?」


 さつき「浴衣着て行くよ!お母さんが用意してくれるって言ってくれてるし!」


 さくら「さっちゃんの浴衣?それだけで花火大会に行く案件立ったんですけど」


 ゆうか「わかる。うちも見たい。でもうちも行くとなると浴衣かな。せっかくやし」


 さくら「……ゆうかちゃんの浴衣だって……」


 まき「……おいおい、ヨダレが垂れかけたぞ……」


 さくら「いや、まきちゃん。もう垂れてる」


 ゆうか「流石にキモいからやめて」


 さつき「さくちゃんもまきちゃんも浴衣で来たらええやん!みんなで着ようよ!」


 まき「え、めっちゃいい……行こ行こ!」


 さくら「みんなで花火見ながらりんご飴舐めようよ」


 ゆうか「うちめっちゃりんご飴好きやで〜〜」


 さつき「うちは、いちご飴も食べたい!」


 まき「いちご飴いいよね〜〜」


 4人はそのまま制服に着替え、談笑しながら更衣室から廊下に出て、教室に行くまでの間4人で話を盛り上げていた。


 教室に着いた頃、クラスの高身長美女子の2人組、はるかとみうから声を掛けられる。


 みう「まきちゃん達、今日カラオケ行くんだけど行かない?」


 はるか「クラスの男子と行くんだけど、ウチらだけってのもって思ったのとみんな来てくれたら楽しいと思うの!」


 ゆうか「今日は別に予定無いからうちは別にええで〜〜」


 さくら「私も。」


 まき「クラスの男子数人か……ちょっと彼氏の日高に怒られるかも……まきちゃんファンクラブの人達も騒いじゃうかも。」


 みう「彼氏?」


 はるか「まきちゃんファンクラブ?」


 ゆうか「大丈夫。安心して。いつものただの妄想やから。」


 まき「はぁ〜〜??ゆうかちゃんきらーい!!」



 _____________________



 夏の猛暑の中、体育という授業を受け、めちゃくちゃな量の汗を流しながら全員で笑い合いながら授業終わりの後水道で水を浴び合う者達。彼等はDK“男子高校生”と呼ばれている。


 その中の1人りゅうのすけは、グラウンド近くにある段差に座り込み、俯いていた。

 そこら辺のイケメン俳優よりもカッコいい顔立ちをした彼は学校の中でもかなりの人気を有していた。

 りゅうのすけに近付いた男子、せいやはりゅうのすけの肩を叩きながら声を掛けた。

 短いながらセットされた髪の毛を見る限り、運動をしながら上手く髪の毛が崩れない様に動いていた事がお見受け出来る。


 せいや「おう、りゅう。大丈夫か?」


 りゅうのすけ「……はぁ……はぁ……クソ……学校の後乗馬に行くんだぞ……殺す気か……」


 せいや「とりあえず暑いから更衣室行こうや」


 りゅうのすけ「せいやくんヤンキーなのに優しいよね」


 せいや「っるせぇ!俺はヤンキーちゃうわ!」


 りゅうのすけ「いつもいつ締められるんだろうってドキドキしてる」


 せいや「締めへんし、ドキドキすんな」


 りゅうのすけ「んふ!てか、かずきくんは?」


 せいや「かずきなら、そこで水浴びて汗流してたぞ」


 りゅうのすけ「かずきくーん!一緒にお昼ご飯食べよ〜〜!」


 せいや「あいつのさっきまでの瀕死状態どこ行ったんや……」


 りゅうのすけは手を振りながらかずきという男子生徒へと近付いて行く。

 黒髪短髪でキリッとした目が特徴な彼は、りゅうのすけ程ではないにしろ女子に人気がある男子の1人であった。


 かずき「……お、あぁ。りゅうか。ちょっと待ってや。」


 りゅうのすけ「大丈夫!安心して!俺かずきくんに焦らされるの慣れてるから!」


 かずき「俺がいつお前を焦らした……」


 りゅうのすけ「うっそ〜〜!この前の夜を忘れたの〜〜??ねぇ、ひろあき〜〜!」


 ちょうど横に居た真面目そうな雰囲気を醸し出す男子生徒、ひろあきにりゅうのすけは声を掛けた。


 素っ頓狂な顔をしながら「へ?」とだけ言う。


 かずき「ひろあきに無茶振りしたるなや。」


 せいや「かずき〜〜この前激しい夜を共に過ごした仲じゃないの〜〜」


 腕と足と腰をクネクネとしながらせいやはかずきにそう言った。

 かずきは笑いながら「話をややこしくする為に入ってくんなや〜〜。てかクネクネやめえや」と言う。


 りゅうのすけ「3人の秘密だったのに言っちゃってごめんね!」


 ひろあき「いやいや、俺らなんもしてないやん……」


 せいや「わたしとは遊びだったの!?」


 かずき「……なんやこのカオス空間は……」


 しばらくして、4人は更衣室へと歩いて行く。今日の昼飯は何を食べるのか、帰った後は何をするのか。そんな他愛も無い話をしながら。


 かずき「あぁ〜〜あぁああ〜〜。暑い〜〜疲れたぁ〜〜」


 りゅうのすけ「かずきくんの手作り弁当楽しみだな!」


 かずき「なんでやねん。俺が手作り弁当なんか作ったらゲテモノしか出来へんぞ……。」


 りゅうのすけ「かずきくんの作ったモノなら俺はなんだって食べるよ……!」


 せいや「おいおい、ホモップルそろそろ閉幕してくれや。」


 かずき「開幕してねえよ!助けてくれや」


 ひろあき「はは。そういやさっき女子達が夏休みの花火大会で盛り上がってたで」


 せいや「ひろあきナイス。いいやん、花火大会。」


 りゅうのすけ「花火大会なんて暑いだけだろ。ゲームしてくるわ。」


 せいや「んな事言うなよ。ほら、女子の浴衣とか見れるやん」


 りゅうのすけ「興味ねーよ」


 ひろあき「りゅうくん、一緒にたこ焼き食べようよ」


 りゅうのすけ「たこ焼き?いいね」


 かずき「コイツ、女子の浴衣よりたこ焼きに釣られるって、健全な男子高校生としてどうなんだよ。」


 せいや「もしかしてマジのゲイ?」


 かずき「……あり得る……。」



 _____________________



 学校が終わり、放課後。たった数時間過ごした学校は長いようで短くあっという間に終わりを告げ、さくら達は靴箱で靴を履き替えている。


 明日は土日休み。そしてもう少ししたら夏休み。いろんな楽しみが待っている夏休みがもう少しで手の届きそうな今日。


 さくらは、1番遅くに靴を履き替えて、まき達のいる場所へと駆けつける。


 まき、ゆうか、みう、はるか、さつき達と一緒にガールズトークに華を咲かせながら駅前にあるカラオケ屋へと足を運んで行く。


 カラオケに着くとそこにはクラスの男子が既にいた。

 背が高く、ガタイがしっかりとしたあきせ。優しそうな顔でまき達を迎え入れる。

 短髪でヘラヘラとした笑顔が特徴なくうどう。ヘラヘラしながらもある程度整った顔のおかげか誰もヘラヘラした顔を気にも留めない。


 筋トレが趣味の短髪爽やか笑顔のたいちは、ヘラヘラしてるくうどうの顔を見て何故か吹き出して笑ってしまう。


 背の高い茶髪をセットしたイケメンのせいじは何を歌おうかと曲選びに没頭する。


 特に何事も無く楽しいカラオケの時間は過ぎ去って行く。みんなそれぞれが様々な曲を歌い、盛り上がりを見せ、ずっと笑いが絶えなかった。


 さくらの初々しい歌い方に皆が癒され、ゆうかのスタンダードな上手さに皆が拍手を喝采する。

 まきとあきせの盛り上げ上手さで常にカラオケの盛り上がりは安定していた。


 くうどうのネタの詰め合わせかと言わんばかりの歌のチョイスに爆笑の渦を巻くカラオケのワンルームは、あっという間に退出時間を迎え、彼らは料金を払う為に談笑しながら部屋から出た。


 楽しい時間は一瞬で過ぎ去り、料金を支払い、カラオケの自動ドアを開けて、みんな一斉に外へ出る。


 背伸びをしながら、あくびをしてあきせはみんなに声をかける。


 あきせ「いやぁ〜〜楽しかった!」


 たいち「いや、ほんまにな。」


 まき「あきせ君の男と女が1番おもしろかった」


 くうどう「いや、待って。俺のとびらをあけてのが面白かったやろ?」


 ゆうか「いや、くうどう君はネタ詰め込み過ぎて笑いが止まらんかったわ〜〜」


 さくら「ふふふ。」


 まき「どうでもいいけど、お腹減ったわ〜〜」


 みう「ほんまに。帰ったらお母さんがチキン南蛮作ってくれてるってLINEくれたから凄い楽しみ!」


 さつき「え!チキン南蛮は羨ましい!チキン南蛮食べたくなってくるやん!」


 ゆうか「チキン南蛮が恋しい」


 まき「チキン南蛮の心にしたみうちゃん恨めしや」


 みう「なんでよ!」


 たいち「単にまきちゃんがお腹減ったら、野獣になるだけやから気にしたらあかんで」


 あきせ「野獣まき。怖いわ……」


 まき「きらーい!たいち君もあきせ君もきらーい!!」


 はるか「まきちゃん、今度ご飯食べに行こうよ」


 まき「はるかちゃん好き」


 くうどう「んじゃ、俺は今から焼肉やから行ってくるわ」


 まき「くうどう君いちばん嫌い」


 ゆうか「まきちゃんやばい」


 たいち「くうどう、また今度飯行こうな」


 くうどう「おう。まきちゃん、俺今から焼肉行ってくるわ」


 まき「いや、分かってるわ!さっき聞いたから〜〜!もうくうどう君マジできらーい!!」


 さくら「ふふ。このメンバーで花火大会行ったらめちゃくちゃ楽しそうだね」


 さつき「それいいかも!さくちゃん」


 たいち「花火大会?そういやもうそんな季節か。」


 あきせ「去年は行けてないな」


 くうどう「俺は去年お母さんと行ってきたで」


 さくら「お母さんと行ってきたの面白いけど、仲良いの良いことだよね」


 くうどう「まぁ、仲ええかは知らんけど」


 まき「くうどう君、焼肉連れてって」


 くうどう「まきちゃん、後で写真だけ送るな」


 まき「きらーい!!」


 ゆうか「花火大会このメンツで行くの楽しそうやけど、人数多いからなあ。当日の花火大会の人混み凄そうやからそこが難題かなぁと思うで」


 たいち「それは確かにやな」


 あきせ「当日、何人かに分かれたりしてもええかもやな」


 さつき「男女2人ずつに分かれてもいいかも。どこかのカップルが恋に発展するかも」


 まき「ほーう。にやにや。」


 ゆうか「うちの方見ながらニヤニヤせんといて〜〜。まきちゃんの方こそなんかあるんやない?」


 まき「うちはもう彼氏おるからなぁ〜。」


 たいち「まきちゃん彼氏おったん!?」


 あきせ「うそやん!大阪のおばちゃんやのに!?」


 まき「2人ともきらーい!」


 ゆうか「安心して。まきちゃんの妄想やから」


 まき「ゆうかちゃんもきらーい」


 さつき「まぁ、どうするかはまた追々決めることにしよ!」


 さくら「そだね。とりあえず今日はそろそろ帰るよ。晩御飯食べなきゃだし」


 そうして各自解散し、各々の家へと帰宅を開始して行った。



 _____________________



 週末の朝りゅうのすけは寝惚けた顔をしながら、学校の支度をする。もう少しで夏休み。そんな朝。


 ボサボサの髪を整え、歯磨きをした後、母の作ってくれた朝ご飯を食べながらボォーッとテレビを眺める。


 りゅうのすけ「……お母さん、今日って乗馬あったっけ」


 りゅうのすけ母「今日ないんじゃない?」


 りゅうのすけ「うん、わかった。」


 もしゃもしゃとフレンチトーストを食べ、お茶を飲み、席から立ち上がって部屋にあるリュックを取りに向かう。

 カバンに学校の用意と、スマホのモバイルバッテリーなど適当な雑貨を入れ、リビングにへとまだ戻る。


 リビングで少し時間があったので、再度コップにお茶を入れてそれを少し飲み朝の情報番組を流し観る。


 内容なんて頭に入ってきていないだろうが、学校へ行くまでの時間、他に何かするよりもただこうやってボォーッとする方がりゅうのすけとしては好きだった。


 ボォーっとしながら、今日の授業はなんだったとか、学校の友人と何をするだとか、昼休みの昼休みに何をするだとか。そんな事を適当に考える。そんな時間がりゅうのすけは好きだった。


 そんな間に家のインターホンが鳴り響いてくる。ボォーっと考えていたりゅうのすけの世界は一瞬で崩れ去り、りゅうのすけはリュックを背負って家の出入り口の扉へと向かう。


 ガチャリとドアを開けたその先にいた人物は、みうだった。


 りゅうのすけ「……おはよ。」


 みう「りゅう!おはよ!」


 りゅうのすけ「あっちーな。」


 みう「ほんとにねー。てか今度クラスのみんなで花火大会行くんだけど、りゅうは花火大会行かないの?」


 りゅうのすけ「……花火大会……?あー、そういやかずきくんとかひろあきとかと一緒に行くって話をしたような。」


 みう「え!珍しい。毎年ガンダムしてくるとか、ゲームするとかって言ってこないのに。」


 りゅうのすけ「んー、たこ焼き食いてえなあって思って。」


 みう「たこ焼きかよ!たこ焼き食べたら帰るの?」


 りゅうのすけ「んぁ、どうかな。分かんねえ。」


 みう「なら、私と一緒に花火見ようよ。」


 りゅうのすけ「ヤダ」


 みう「なんでよー。またゲーム?」


 りゅうのすけ「べっつにー。」


 りゅうのすけはそう言いながらへらへらと笑い、しばらく歩いた先に居たひろあきの肩を後ろから掴む。

 急な出来事でびっくりするひろあきは、そのままりゅうのすけに気付き、挨拶を交わす。


 ひろあき「……おわっ!?って、りゅうくんか、おはよ。」


 りゅうのすけ「よー、ひろあき。おめえ昨日の荒野、なんだよ」


 ひろあき「いや、あれは俺は悪くない!相手が強過ぎた!」


 りゅうのすけ「んな事関係ねーよ。10キルしろ、10キル」


 ひろあき「は!?10キル!?無理無理。俺1キルも出来んまま死んでんで!?」


 りゅうのすけ「俺は15キルしたわ」


 ひろあき「りゅうくんが上手すぎるんだって……てか俺久しぶりにやったし……」


 りゅうのすけ「は?潰すよ?怒るよ?いいの?泣くよ?」


 ひろあき「情緒不安定かよ!」


 りゅうのすけ「えぐっ、えぐっ、ウヘヘヘ!」


 ひろあき「なんだよ!もー!反応がし辛いわ!」


 りゅうのすけ「ダメだなぁー、とりあえずしばらく荒野、特訓だな。お前下手過ぎ。」


 ひろあき「テスト終わって時間出来たしいいけどさ」


 みう「りゅう〜〜、みうも混ぜて!」


 りゅうのすけ「お前すぐ死ぬやん」


 みう「だから、りゅうがみうに教えてくれたらええやん」


 りゅうのすけ「は?手間」


 ひろあき「ははは……。そう言えばみうちゃんって、花火大会行くの?」


 みう「……うん!行くよ。クラスの男女数人で!さっきりゅうに花火見よって言ったらヤダって言われたけどね」


 ひろあき「どうせ俺達も男だけで花火大会行ってもとかって話してたしなぁ。でもみうちゃんとこ、男女数人でしょ?一緒に回るのキツそうだな」


 みう「別にみうはこっちに来てもいいよ」


 りゅうのすけ「は?先約がいるならそっち行けよ。そいつらに迷惑だろ。クズが。」


 みう「ん〜〜!みうはりゅうと花火見たいの!」


 りゅうのすけ「知らねーよ。自分の都合で周りに迷惑かけんなクズ女」


 みう「……ん、わかった……」


 ひろあき「あわわ、りゅうくんちょっと言い過ぎだよ〜〜、なはは」


 りゅうのすけ「コイツはこれくらいでいいんだよ」


 ひろあき「……みうちゃん、花火を見るタイミングになったら俺が連絡取ってりゅうくんと見れるように仕向けようか?」


 みう「……いいの?」


 ひろあき「別にいいよ。幼馴染のよしみ的なのもあるし。だからそう落ち込まないで」


 みう「うん、ひろあき、ありがとう。」


 りゅうのすけ「さぁて!学校着いたら1回荒野するぞ!」


 ひろあき「マジかよ」


 頭をかきながら、ひろあきは苦笑しりゅうのすけの背後をついて行く。みうはひろあきより後ろで俯きながらりゅうのすけの背中を見る。


 昔あんなに小さかったのに。


 今はこんなに大きくなって。


 自分の手の届かない所へ行きそうで怖い。


 中身は変わってないようで変わってる。大人になっていってる。


 彼の横顔を見つめながらみうは胸に秘めたる想いをこの夏に解き放とうと決意を固めた表情をする。



 _____________________



 夏の日差しが身体を照らしていじめてくる。何もしてなくても汗が流れてくる。

 暑い事という嫌悪感と、汗が身体中から流れる嫌悪感。ダブルパンチをされながらもひろあきは公園を通り、いつも行く図書館へと歩く。


 ひろあき「いやぁ、嫌になるとかより、溶けそうなくらいに暑いな……」


 被っていたキャップをより深く被り直し、道中にあった自動販売機でスポーツ飲料を購入する。その自動販売機に売っていたのはアクエリアスだった。


 ひろあき「近くにあった自販機がコカコーラでよかった。今めっちゃアクエリ飲みたかったんよな。」


 そう言いながらひろあきはそのままアクエリアスを購入し、ペットボトルの先端部分にあるキャップを握り締めそのまま捻るように回し、キャップを開けた。

 ゴクゴクと勢い良く飲み、一息吐く。


 少し多めに飲み、大半を残し、キャップを閉めてアクエリアスを持っていたリュックの中に閉まった。


 持って来ていたタオルで汗を拭い、彼はまた図書館へと道路を歩み始める。


 真っ青に染まり、どこまでも広がっていそうな青空を見上げて、いい天気なのはいい事だな。とそう呟いて横断歩道を渡った。


 数分後に辿り着いた図書館は正に天国のような場所だった。猛暑で地獄と化した街から、クーラーの効いた広々としたこの部屋に入って、適当な席を探して背負っていたリュックを適当にテーブルの上に置き、そこに座り込みひろあきは一息吐く。


 さてと、と吐くように言いテーブルの上に置かれたリュックを自分の足元へと移動させて、適当な本を探しに席を立ち上がる。


 少し調べ事がしたかった。その為にココに来た。ひろあきは静かに目当ての本が数冊程置いてそうな箇所を探す。


 キョロキョロとしながら、数十分と時間が経ったがなかなかに見つからない。


 やはり無謀であったか。そんな事をふと考えながらも、まだまだ、もう少しだけ、探そう。そう考えながらこの広い市立図書館の中をトボトボと歩き出した。


 もうしばらく探していると、ひろあきはクラスメイトと遭遇する。短髪に整えられ、爽やかに輝く笑顔をする、るいだった。


 るい「あれ、ひろあき?どうしたの。なんか探しモノ??」


 ひろあき「あ、るい。うん、まあね。」


 るい「何探してんの?」


 ひろあき「んー、えっと……」


 ??「魔術本でしょ!!」


 ひろあきが何かを言いそうなタイミングで後ろから突撃するかの如く人がやって来た。


 その人は女の子だった。ひろあきのクラスメイトであり、友人の1人である。

 彼女の名前はなお。肩甲骨以上にまで伸ばされたサラサラな綺麗な髪を靡かせながら輝かしい笑顔でひろあきを見ている。


 ひろあき「……魔術本?」


 なお「私今魔術本探してたの」


 るい「いや、それ君の探しモノでしょ!」


 なお「うふふ、冷静なツッコミありがとう。さあ、ひろあきさん、るいくん。共に魔術本を探し当て、共に魔術を学ぼうではないか」


 るい「ボク、普通に勉強に来ただけやねんけど」


 ひろあき「俺も少し気になる事があって。それで花火に関する本を探してたってだけで……」


 なお「多分ね、魔術本はね、あっちの方にあったと思うんだよ」


 るい「話聞いてあげてなおちゃん。1mmも聞く気ないじゃん」


 なお「なおね、錬金術とかも気になるんだよね。あと、軍服が載ってる本とか無いかな。それしばらく眺めてたい。」


 ひろあき「マイペースか」


 るい「ところでひろあき。なんで花火の本なんかを?」


 ひろあき「あぁ、少し気になったんだ。花火の作り方について。」


 るい「あぁ、なるほどね。なんか、花火大会の事件とかあったのかと思っちゃったよ」


 ひろあき「……事件?なにそれ。」


 るい「いや、ただの推測だよ。なんかあったんかどうかボクも知らないよ。」


 なお「花火の作り方とかより、人間の造り方とかに興味は無い?魔術と錬金術を融合させて、人間を造ったらどうなるのかしら。」


 ひろあき「とりあえずしばらく探したけど見当たらないし、入口付近にある検索出来る機械でも使って探してみるよ」


 るい「その方が賢明だね」


 なお「おいおい〜〜!冗談だっての!休みの日に君ら同級生と会えて嬉しいから言った冗談だっての!分かれよ!もう〜〜!ごめんな!」


 ひろあき「はは、冗談でよかったよ。なおちゃんは夏休みになってもそんな感じだろうね」


 なお「あと数日学校行くだけで夏休みが来るのもテンション高い要因の一つでもあるぞ!」


 るい「もうすぐ夏休みかーー。」


 人の多さと図書館の割に少し騒がしいこの部屋の中は3人の騒がしさに気に留める人なんていやしなかった。

 3人はそのまま入口付近にある本を検索出来る機械へと足を運び、お目当ての本を探す。


 本を見つけだし、花火に関する本を数冊、ひろあきはそれを手に持ち荷物を置いたテーブルへと戻り、るいとなおと3人で各々円の形をしたテーブルを囲うように座る。


 ひろあき「知り合いの人に花火職人の人が居て、その人に花火を作ってみないか?って誘われて、どんな形の花火を作るにはどんな風にしたらいいのか、ってなったら気になって。職人の人らに聞いても分かんないとこ多いと思うから、自分で事前にある程度の知識付けときたいってのと、色々な事知っときたいと思って」


 なお「魔法陣とか作れるかな」


 ひろあき「……分からんけど、作ったやつ今度の花火大会で打ち上げてもらう予定なんやけど……」


 なお「いいじゃん!街の夜空に魔法陣!カッコイイ!!」


 るい「……ひろあきがなに作りたいか決める権利はないのね……」



 _____________________



 学校の昼休みになり、授業が終わった生徒達はゾロゾロと動き出す。

 その中でみうは1人溜息を吐いていた。


 みう「はぁ〜〜」


 まき「どしたん、みうちゃん。もしかして恋のお悩み?」


 みう「そうなんよ、まきちゃ〜〜ん〜〜!!」


 まきにハグをしながら悩みがあると訴えるみう。それを聞きつけた2人の女子が弁当箱を持ち、みうに近付く。


 1人の名は、ひな。背はそこまで高くもなければ低くもない。顔はそこそこ美人。腰にまで伸ばされたストレートヘアが良く似合う自称石原さとみ。

 恋の話となればひなが居ないと始まらないと言われんばかりの女である。


 もう1人の名はまや。形付かない程度に切り揃えられた髪が良く似合う通称魔性の女。

 恋の悩みはまや様へ。そう言われ、次々と恋の相談をする女子達男子達が絶えない恋のスペシャリストである。


 まき「あ、ひなちゃん、まやちゃん!一緒にお昼ご飯食べる?」


 ひな「こぉ〜ら!まきこ。私の事はさとみって呼びなって言ってるでしょ?」


 ひなはそう言いながら髪を手でサラリと靡かせる。


 まき「あ、ごめん!さとみ!」


 まや「みうちゃん、恋で悩んでるようね。大丈夫。私達が来たからにはその恋」


 ひな「解決、させちゃうよ〜?」


 みう「さとみ、まやちゃん!ありがとう〜〜!!」


 4人は席をくっ付け、各々弁当を開きながら話を進めて行く。


 まや「……うんうん。なるほどね。幼馴染でもあるりゅうくんのことが好きだけど、全く相手にされないと。」


 ひな「さとみ的には〜……その恋応援したいなぁ〜〜」


 まき「りゅうくん変なとこあるけど、なんだかんだで顔が良いってので人気が高いからなぁ〜」


 ひな「さとみ的には〜、まぁ確かにりゅうくんはイケメンだとは思うよね〜」


 まや「いつの間にか誰かと付き合ってるかも知れないよね」


 みう「うぅっ……それはヤダな……」


 まき「はむっ、モグモグ。まぁ、でもりゅうくんの事やから彼女とか作らなさそうな感じもするよねー。知らんけど。」


 ひな「さとみ的には〜……あの子普段おふざけキャラな所があるしなぁ。かずきくんとかとよくふざけて暴れてるイメージがある。でも、りゅうくんって意外と真面目な所があるからそこに惹かれる人も多そう。あ、ひなは、あ、ちゃう、さとみは別にそんなん考えた事もないけどな〜」


 まや「確かにね。あの子、子供っぽい様で大人なとこもしっかり持ってるよね」


 みう「そうなんよな……りゅうカッコいいんよな……。あぁ……花火大会に告白しようって思ったけど……やっぱりやめようかな……」


 まき「え!花火大会で!?それはいいと思う!うちらも協力したい!」


 まや「花火を見ながらの告白……ロマンティックやん……」


 ひな「ええやんそれ。とりあえずひならで告白の練習でもする?」


 みう「え、告白の練習?……でも確かにみうもなんて言えばいいんかわからん……」


 ひな「ひながお手本見せよかー?」


 まき「きゃ!夏のビッグイベントの予行演習やな!楽しい!」


 まや「とりあえず、ひなちゃんがみうちゃん役、まきちゃんがりゅうくん役でやってみよ」


 ひな「おーけい」


 まき「うちにりゅうくん役出来るかどうかは分からんけど、みうちゃんの為に頑張りましょう」


 まや「よし、じゃあ早速スタート」


 ひな「……人混み、凄いね〜」


 まき「そ、そうだな」


 ひな「ここ、蚊多いね〜〜」


 まき「うん、そうだな」


 ひな「……じゃかじゃんじゃんじゃん、す〜きですす〜きです心から〜愛していますよ〜〜と〜〜♬」


 まや「カーット!ひなちゃん!?」


 まき「はははは!!」


 みう「あっはっは!はは!待って、お腹痛い!」


 ひな「え?良くない?歌に想いを乗せて相手に届ける的な?」


 まや「だからと言ってなんで長渕剛の巡恋歌をチョイスすんの」


 ひな「良い歌やん?んで、もし振られでもしたら、こーんなにすーきにさせといて〜〜勝手に好きになったはないでしょ〜〜ってな感じで」


 まき「ふふふ、ふぐっ、あははは!ひなちゃんヤバい……」


 みう「あは、はぁ、はぁ、ははは!もうやめて……」


 ひな「え、めっちゃよくない?」


 まや「……いや面白さは満点です。でも告白するには0点です……」


 ひな「えー!なんでよ!」


 まや「ゴホンッ!さて、気を取り直して。もう一度やろうか。はい、スタート!」


 ひな「……花火、綺麗だね?」


 まき「うんっ」


 ひな「…………ねぇ」


 まき「…ん?どうしたの?」


 ひな「……好き(→)だ(↓)よ(⤴︎)〜?」


 まき「ブッ」


 まや「ストーップ!」


 みう「あははははは!!!!なにそのクセの強い好きの言い方……あはは!」


 ひな「あれ、今のは普通によかったくない?」


 まや「なんで、好きだよの「よ」で口角上がんの……」


 ひな「へ?」


 まき「ダメや……ひなちゃん自身ずっと真面目にやってるつもりやからこれ以上あんま言えへん……」


 告白の練習はその後しばらく続き昼休みが終わろうとする頃、4人は弁当を食べ終えてない事に気付き、急いで弁当を食べた。


 果たして、みうの告白は成功するのだろうか。



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 夏になると自然と鳴り響く蝉の鳴き声がまるでこの世界を包んでいるような気がする。一体どこまでこの鳴き声は聞こえるのかどうかが不透明な訳で、小さい頃からこの不思議に疑問符をつけていた。


 知らない間に聞こえなくなり、知らない間に聞こえていて。


 本当にこの世界は蝉にでも征服されてしまったのではないか。


 そう子供心ながらにも思っていた昔の話はさて置いて、夏休みまで後3日に迫った本日。


 さくらはいつもと変わらない朝を迎え、いつもと変わらない通学路でいつもと変わらないメンツと巡り合い、そのまま学路を辿る。


 あと3日もしたら夏休み。実感なんていつも沸きはしないのに、ただ休みという単語を聞くだけで、長期休みだと言うだけで学生達のワクワクは止まらずにいた。


 学校に着き、さくらは時間が余っていたので、図書室へと歩いて行った。なんとなく小説を借りたかった。


 何の本を読もうかと。それだけを考え、廊下を歩いて、教室から少し距離のある図書室へと辿り着く。


 引き戸を開け、そのままいつも読んでいる本のコーナーへ。この前はこれを読んだ。だから今度はこれを読もう。いや、それとも……。そう考えながらいつものコーナーに着き、朝のHRまでの少ない時間に本を探そうとする。


 さくら「……なににしようかな。この前はこれやったけど……んー、悩むなぁ」


 さくらが腕を抱え悩んでいると背中になにかが軽くぶつかる。そのなにかはりゅうのすけであった。


 りゅうのすけ「……お、さくちゃんじゃん。ごめんな、ちょいよそ見してたわ。」


 さくら「りゅうくん?ああ、いいよ。おはよ」


 りゅうのすけ「うん、おはよ。どれ借りるの?」


 さくら「少し悩んでる」


 りゅうのすけ「なら、俺のオススメでも読んでみるか?」


 さくら「……んー、そうだね。うん。教えて!」


 さくらはそう言い、りゅうのすけの言う“オススメ”の元へとりゅうのすけと一緒に向かう。


 りゅうのすけ「つーか、高校生にもなってアンパンマンの絵本なんて読むのさくらくらいやぞ」


 さくら「え、あはは…。」


 りゅうのすけ「ほら、あった。」


 さくら「……アングレカム ……?」


 りゅうのすけ「今度映画化するやつ。まー、俺は読んだ事ねえけど女子の間で人気になってるやつ」


 さくら「りゅうくん読んだことないの!?読んだ事ないのにオススメってどういう事!?」


 りゅうのすけ「ねーよ。俺が本読むと思うか?漫画さえ読めねえんだぞ」


 さくら「……ま、いいや。これ借りるね。」


 りゅうのすけ「おう。」


 さくら「そう言えばりゅうくんはなんで図書室に?」


 りゅうのすけ「……たまには自分じゃ行かないとこ行って気分転換でもしようかなって。」


 さくら「へー。」


 りゅうのすけ「さっさと借りてこい。でないとチャイム鳴っちまうぞ。」


 さくら「そだね。行ってくる。」


 蝉の鳴き声が包むこの世界の中、男女2人はいつもと変わらない世界を生きていた。何事も無いように、蝉の鳴き声がこの世界を包んでいたとしても、征服していたとしても何の変化もないように、2人は自分達のまま過ごし、生きていた。


 借りてきた本を大事そうに持ち、教室へと歩くさくらを見ながらりゅうのすけは声をかけた。


 りゅうのすけ「さくちゃん、今日なんか予定ある?」


 さくら「今日?んーっと……あっ、今日は弟を連れてアンパンマンショー観に行く!」


 りゅうのすけ「お前、ほんとアンパンマン好きだな。」


 さくら「えへへ、うん!好き!」


 りゅうのすけ「また今度アンパンマンミュージアムでも行くか」


 さくら「え!行きたい!行こ!誰誘う?」


 りゅうのすけ「……そうやな。また決めとくわ。」


 さくら「うん!わかった!またねりゅうくん!」


 さくらはりゅうのすけに手を振りながら階段を駆け上って行く。りゅうのすけはその背中を見ながらどこか虚しく、どこか嬉しそうにしながら、自分の教室へと戻って行った。


 また今日が始まった。



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 夏休みというものは始まるまでが遅く感じ過ぎるまでが早く感じるものである。


 夏休みに入り、花火大会まであと少しと迫った今日この頃。ひなはただなんとなく暇だったのでコンビニへとやって来た。


 コンビニに入るだけで外の猛暑の暴力を受けてきただけに中の涼しさの癒しを異様に感じられる。


 流れていた汗がさらに涼しさを際立たせる中、ひなはただなんとなくスウィーツコーナーへと歩く。


 その際に見た事のある女の子と遭遇する。


 ひな「あれ、なおちゃん?」


 なお「あらら、ひなさんやないの。偶然ね。」


 ひな「なおちゃんもなんか買いに来たん?」


 なお「んー、私はどっちかって言うとなんかお菓子作りたいなぁって思っとんのやけど、何を作ろうかってので悩んどるねん。家の近くのケーキ屋行ってきたけどなんかちゃうなぁ〜って思って。コンビニとかやと個性的なん置いてるかなって思って。」


 ひな「ええやん!ひなもなおちゃんの作ったお菓子食べたい!」


 なお「ええけど、その前に何を作るのかを決めないとやなあ。」


 ひな「なら、これは?マカロン!」


 なお「マカロンは作るのが難しいからなあ……あ、ロールケーキにしよ。」


 ひな「ロールケーキ作るんならコンビニ来んでも良かったやん!」


 なお「まあまあ。こういうのは気分やん?実はケーキ屋の時からロールケーキ作ろうか悩んでたし。ぶっちゃけコンビニは涼しさを求めてきたに過ぎん」


 ひな「……まぁ、ロールケーキも美味しそうやしな!」


 なお「これからスーパーに買い物行くけど、ひなさんも来る?」


 ひな「行く行く!勿論!手伝うよ〜?」


 そう言い、2人はそのまま癒しの空間から再度熱の暴力空間へと舞い戻る。そのままめちゃくちゃな暑さを感じながら近くにあるスーパーへと足を運んだ。


 また涼しさの中癒されながら、彼女らは目的のロールケーキの材料を求めてカゴとカートを押しながらその場所へと足を運ばせる。


 なお「暑いから飲み物も買おうか。」


 なおがそう言い、ひなが適当な飲み物を選ぶ。


 ひな「ロールケーキって何味にすんの?普通のやつ?」


 なお「……うーん、そうやね〜〜……ひなさん何味がいい?」


 ひな「ひなは、チョコとかでもいいかも!」


 なお「ヨーグルト味にしよっと。」


 飲むヨーグルトを見つめながらなおはそう呟いた。


 ひな「ひなの意見少しは聞いて!」


 なお「おぉ、ごめんごめん。なんやっけ、チ◯コ味?」


 ひな「もうわざとやろ!?チョコ味やって!」


 なお「あぁ、チョコね。流石に男根の味の再現とか無理やろって思ってたところやってん」


 ひな「誰が好き好んで食べるねん……」


 なお「チョコとヨーグルトの2つでも作りましょか。少し時間かかるかもやけど」


 ひな「なら、半分ずつとか、一口交換したりしたら2つとも食べれるな!とりあえずカフェオレとかそこら辺やと味合うし、ええやろ」


 なお「半分こええなぁ。一先ず必要な具材ググって……っと。ふむ。こんなもんか。」


 その後なおが適当に必要な材料をカゴに入れて行く。しばらくして、買い物は終わり2人はなおの家へと向かった。


 ひな「……お邪魔しまーす!」


 なお「お邪魔されまーす」


 そのまま台所に行き、ひながなおの母に挨拶を済ましている間にひなはお菓子作りをする際に着るパティシエが着るような服を着て、お菓子作りに必要な材料、そして ボウルなどの必要な道具を粗方出し、作業にあたる。


 ひなもコップに買ってきたカフェオレを注いで、それをなおの横に置き、自分はカフェオレをゴクゴクと一口一口と楽しみながら飲む。


 ひな「ぷっはぁ〜〜!!美味いわぁ!!」


 なお「ビール飲んだオヤジかあんたは。」


 ひな「ははは!それはおもろい。ところでひなが手伝える事はある?」


 なお「んーっと。とりあえずこれとこれとをかき混ぜといて。」


 ひな「任せて!作ったるで〜!ひなSPケーキを!!」


 なお「ふっ」


 一生懸命に材料をかき混ぜるひなの横顔を見ながらなおは小さく笑った。

 今日は本来1人で作って、母と一緒に食べるだけだった。そんな予定だった。


 だがひょんな事から友人とコンビニで出くわし、一緒にお菓子を作り、お菓子を食べる事となった。


 なおは、そんな偶然が奇跡のように感じ、ひなと今日出会い、急遽一緒にお菓子を作る事になったそんな今日がとてつもなく大事で大好きな日になっていた。


 いつもより楽しいお菓子作りは、2人でやるとあっという間に時間が過ぎて行き、あっという間に出来上がりの時間を迎える。


 なおの母を加え、2人は出来上がったケーキを机に並べて、買ってきたカフェオレを3人分のコップに注ぐ。


 なお母「あら、今日のはいつもより美味しそうね!」


 なお「ヨーグルト味がどうなってるのか……ワクワク……」


 ひな「当たり前でしょ!ひなとなおちゃんが作ったんですよ!美味しいにきまってますよ〜!」


 なお母「それもそうね!それじゃあ早速いただきましょうか!」


 ひな&なお「いただきまーす!」


 外の暑さとお菓子作りの労働を忘れ、なおとひなは、作ったロールケーキを美味しく頂いた。忘れていたわけじゃない。2人でお菓子作りをする楽しさと、ロールケーキの美味しさに頭から抜けていたのだ。


 ……夏休みもまだ始まったばかり……。


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 夏休みに入ったからと言っても夏休み期間中毎日ずっと何かしら予定があるのかと聞かれるとそうではないだろう。


 人によれば、バイトがあったり、課題をしたり、家族と出掛けたり……色んな予定があるかも知れない。


 だが、人によれば夏休みのほぼ毎日が何の予定の無い人物もいる。


 ……そう、りゅうのすけである……。


 りゅうのすけ「あー、あー、暇だ。このゲームもクリアした。このゲームはクソゲー。このゲームは飽きた。……あー。やる事ねえ……」


 そんな時にひろあきが家へとやって来た。インターホンの音が家の中へ鳴り響き、それに気付いたりゅうのすけが外へ出る。


 りゅうのすけ「んだよ。ひろあきかよ。」


 ひろあき「りゅうくんこんにちは〜。これからゲーセン行くんだけどりゅうくん来ない?」


 りゅうのすけ「……んー、あー、行くわ。」


 そう言いドアを閉めて、すぐに服を着替え、荷物を持ち再度ドアを開けりゅうのすけは出て来た。


 ひろあき「よっしゃ〜行こうか」


 りゅうのすけ「どこのゲーセン?」


 ひろあき「駅前のとこ」


 りゅうのすけ「あー、あそこね。おけ。」


 りゅうのすけの家から徒歩15分程。駅が見えて来て、その近くにあるゲームセンターへとひろあきとりゅうのすけは入って行った。


 そのゲームセンターの中にはせいじとせいやの2人が鎮座していた。りゅうのすけ2人のところへと行き、近くにある自動販売機にて適当な飲み物を購入。


 せいじ「りゅうくん!レースゲームしよ!」


 りゅうのすけ「いいよ」


 せいや「おっしゃ!俺もやるで!負けへんでな!」


 3人はレースゲームが置かれている場所へと移動し、各々コインを投入し、ゲームを起動させる。


 ひろあきはりゅうのすけの後ろからそれを見て誰が勝っても良いように全員の応援をしておく。


 ひろあき「みんながんばれ〜〜」


 りゅうのすけ「よし、これだな」


 せいじ「ふんふんふん〜〜」


 せいや「オラオラ!おっしゃあ!」


 レースゲームをスタートさせ、3人が順位を競い合う中ひろあきは後ろから誰かに声を掛けられる。


 声をかけられたのはかずきとあきせだった。


 かずき「おっす、やっぱみんなここにいたか。」


 あきせ「ひろあき〜〜!やっぱお前がいると癒されるわ」


 ひろあき「おー、かずきにあきせ。やっぱ暇になったら大体ここに集うよ。」


 ひろあきがそう笑いながら答えていると、あきせはそのまま自動販売機でジュースを一本購入。軽く飲み、それをカバンに直し、せいじ、りゅうのすけ、せいやのレースゲームを、ひろあきとかずきとそのまま観戦する。


 かずき「おぉ!せいや君が抜いた!さっきまでせいじ君が1位やったのに!」


 せいや「オラオラ!このまま突っ走ったらぁ〜!」


 あきせ「かと思いきやりゅう君が逆転か!おもろい勝負やな!」


 ひろあき「すげえ!」


 そんなこんなで大盛り上がりのレースゲームもとうとう終着を迎えようとする。

 最後にせいじとせいやが競り合ってる中、後ろからりゅうのすけが追い抜きりゅうのすけの勝利でゲームは終わりを迎えた。


 周りから賞賛を受けながら、りゅうのすけはかずきへと絡みに行く。


 りゅうのすけ「かずきくんじゃん!」


 かずき「おう、てか今気付いたってそんだけゲームに夢中だったのな。」


 りゅうのすけ「ゲーム中にもかずきくんの気配感じてたけどね」


 あきせ「気配感じるとか戦士かよ」


 りゅうのすけ「昨日のビデ通楽しかったね!かずきくん!」


 かずき「してねぇし、した事ねぇよ!」


 りゅうのすけ「ビデ通でいっぱいイチャイチャしたもんね!かずきくんがメッセージ残るのは嫌だって言うから通話でってなって、ビデ通して……これで何回目のビデ通だっけ?」


 かずき「リアルなんだよ!周りに誤解生むからやめてくれ!」


 あきせ「……かずき……」


 かずき「あきせぇ〜〜??こいつの言う事信じてんじゃねえよ!!」


 ひろあき「さてさて、次なんのゲームしよっか?」


 かずき「ひろあきナイス」


 りゅうのすけ「ひろあきとの3人のビデ通も楽しかったよなぁ〜〜んー!!」


 かずき「よーし、ひろあき。エアホッケーしに行くぞ」


 ひろあき「お、オッケー。」


 その後各々はしたいゲームへと移動を始めた。エアホッケー、ダンスゲーム、音ゲー、スポーツゲーム……etc.

 誰がここに集まろうと声を掛けたわけでもなく、誰が集めたわけでもなく集まった皆は各々したいゲームをしたり、対戦系ゲームをして、十分に楽しんでいた。


 暇だったはずの今日はあっという間に夕方を迎え、各々帰りの時間を迎える。

 また集う約束をして、各々の家へと道路を歩く。


 りゅうのすけはひろあきと一緒に帰りながら凄く充実した顔をしている。

 その横顔を見ながらひろあきはホッとして、自分も楽しかったと思いながら帰宅路を行く。


 まだまだ夏休み。次はどこへ行こうか。



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 夏の日差しを浴びたくないさくらは、外を眺めながらクーラーの効いた部屋でアイスを食べている。

 バニラアイスを一口食べ、それを食べながらテレビへと視線を向ける。


 暑そうな外ばかり見ていても仕方ない。そう思いながら、チャンネルを変える。しかし今はまだ朝。朝のニュース番組くらいしかほとんどやっていない。しかもどこも夏の暑さについてや、熱中症予防情報などを放送する番組が大半。


 暑そうな外を見ているのと違いが無いじゃないか。


 仕方ないのでさくらは黙ってテレビを消して、リモコンを机の上に置いて、気がついたら食べ終わっていたアイスをゴミ箱に捨てて立ち上がって部屋へと戻る。


 夏休みと言っても予定が無ければただ家にいるだけでつまらない日常が只々続く。


 寝起きから少し時間は経ったがさくらはまだ髪もボサボサで、寝巻きからも着替えていなかった。


 クーラーの効いた涼しい部屋の中、外から聞こえる蝉の鳴き声を聴きながら夏を感じつつ、さくらは暇ながらにまだ重たい瞼を閉じ、また少し眠りへ堕ちた。


 どれ程時間が経ったのだろう。分かりもしない。薄っすらと目を開け、身体の向きを上へと変える。


 さくら「んん〜〜っ!!」


 朝から他の家族は出掛けていて不在だったが、もうそろそろ帰って来ているだろうか。寝惚けた顔をしながら、ボサボサの髪を軽く手でさわきながら、さくらはリビングへと向かう。


 リビングに繋がるドアを開けると家族が居て賑やかになってる気がした。

 気がしただけで、開けてみるとそこはシーンと物静かな部屋が無音の中、何かが動く音だけして広がっている。


 朝もそうだがいつもより広いような感覚でリビングのテーブルへと腰掛け、さくらはテーブルの上にある飴を1つ口に含み、舐めながらテレビをつける。


 時間は15時になっていた。コロコロと転がしながら舐めるストロベリー味の飴を無言で舐め続けながら再放送のバラエティ番組にチャンネルを変え、観る。


 あぁ、なんて退屈なんだろう。そう言えば母や父達は何時に帰ってくると言っていたか。昨日の夜に自分だけを置いて出掛けると言い、夜まで帰って来ないと言っていた気がする。そう言えば晩御飯も食べて来ると言っていた。


 さくらはぼんやりそう考えながら、そう思い出して行き、はぁ〜〜とため息を吐く。


 仕方ない。適当にご飯を済ますか。となれば良いのだが、いかんせんさくらは寂しがりだった。このまま1人で居る家の中を過ごし終える事が出来ないでいた。


 誰か、友達の中で一緒にご飯を食べに出掛けてくれる人は居ないだろうか……。


 そう思い、さくらはスマホを手に取り、LINEを開いて、誰でも良いから誰か居ないかと友達欄から探して行く。


 さくら「……んーと……はるかちゃんはそう言えば花火大会前くらいまでお婆ちゃん家に帰ってるらしいでしょ?みうちゃんも同時期くらいまで沖縄に居るらしいし……んで、ゆうかちゃんは今日はバイトって言ってたな……んー、あ、まきちゃんもバイトだ。」


 そう思い出しながら、何も用事の知らない何人かに声を掛けたが、全員行けないと連絡される。


 家族とご飯に行く者や、友達と出掛けていて、そのままご飯を食べに行く者。

 今現在家族と出掛けている者も居れば、家の用事があるからと言う者も居る。


 何故さくらが出掛けていない今日に限って皆はこんなにも用があるのか。


 さくらはそう思いながら深い溜息を吐く。


 すると、スマホがブーっとバイブ音と共に軽く揺れた。


 さくら「……りゅうくん……?」


 りゅうのすけから「今何してる?」というLINEが届いたのだった。


 さくらは、ポチポチとメッセージを打ち込み、それを送信した。


 さくら「今何もしてないよ……っと」


 すぐにバイブでスマホが揺れ、さくらは即座に反応する。


 りゅうのすけ『なら今から映画観に行こうぜ』


 さくらは数々の友人からの玉砕を経ていたので、最早会えれば誰でもいい気がしていた。そのまま「いいよ」とメッセージを送り返し、適当な集合場所と時間を決めて、数秒固まる。


 さくら「え!?りゅうくんと遊ぶの!?ちょっと待ってよ!髪の毛ボサボサだし!ブラまだ付けてないし!と言うか軽くでもお化粧とかした方がいいよね!?服何にしよう!?」


 さくらは大慌てで準備をした。今持っている服で、お気に入りかつ自分でもオシャレだと思っている服を選び、カバンにお金やスマホにモバイルバッテリーなどを入れて深呼吸をして家を出る。


 さくら「ボォーっとしながらLINE返してたけど、今からりゅうくんと2人きりで会うのか……緊張するな……」


 外の暑さのせいなのか、緊張のせいなのか。どっちのせいなのか分からない汗を流しながらさくらは集合場所であるイオンへと向かった。


 集合場所であるイオンには家から近かった為10分程度で辿り着いた。

 さくらは汗をハンカチで拭いながら飲み物を購入しに向かう。

 お茶を買って、さくらはイオンの中にあるフードコートへと向かう。


 さくら「……ここでご飯食べて行こうかな……」


 さくらは集合場所であってイオンの中のフードコートで1人ボォーっと棒立ちしていた。


 お茶を飲みながらスマホを見る。まだ集合時間には少し早い。

 タプタプとスマホを触りながらりゅうのすけを待つ。


 りゅうのすけはスマホを触るさくらを見ながら笑顔で声を掛けた。


 りゅうのすけ「おい、さくちゃん!」


 さくら「え!あ、えっと、こんにちは!」


 りゅうのすけ「どした?なんか表情硬いじゃん。」


 りゅうのすけはそう言いながらさくらの頭を優しく撫でた。頭を撫でられたさくらは不思議と心が落ち着き、気が付いたら笑顔になっていた。


 さくら「ううん!なんでもないよ!ところでなんの映画観たいの?」


 りゅうのすけ「んーと、スパイダーマン」


 りゅうのすけはそう言い、スタコラと映画館へと続く道路を辿る。

 さくらは小さい頃に観て以来のスパイダーマンだったので、久しぶりという意味も込めての楽しみもあった。


 映画館に着き、映画の切符を購入し、りゅうのすけは続いてチョコレート味のチュロスを3本購入。

 一本をさくらへと手渡す。


 さくら「え!ありがとう!お金払うよ!」


 りゅうのすけ「いいよ、別に。来てくれたお礼だって。それにほらそろそろ映画始まるぞ」


 りゅうのすけはそう言い早歩きでさくらと共に映画への入り口へ向かう。従業員に半券を渡し、そのまま上映スクリーンへと向かう。


 席に座る頃にはりゅうのすけはチュロスの1本を食べ終えている。

 幸せそうにチュロスを食べるりゅうのすけを横目にさくらはありがとうといただきますを言いながらチュロスを食べた。


 さくら「はむっ、うまっ」


 そうして、映画は始まった……。



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 約2時間程経った頃に映画は終わり、りゅうのすけとさくらは外へと出てきた。


 2人して面白かったと感想を言いながらこの後どうするかを話していた。


 りゅうのすけはどうせ家に帰ってもする事がゲームくらいしかなかったのでまだ帰りたくはなかった。


 りゅうのすけ「飯でも行くか。」


 さくら「うん!いいよ!」


 すんなりとOKを貰い、りゅうのすけは一瞬戸惑いはしたが、そのまま集合場所であったフードコートへと2人して戻る。


 まだ一緒に居たいという気持ちが心の中にあったのか、りゅうのすけはまださくらと話せる事が嬉しく思っていた。


 りゅうのすけ「とりあえず何食おうか」


 さくら「そうやね〜〜。なんでもいいんやけどなぁ〜!ここのフードコートなんでもあるから悩む〜!」


 りゅうのすけ「俺もなんでもいいよ。さくちゃんの食いたいもんに合わせるよ。なにがいい?」


 さくら「んー!何にしようかな!」


 悩んだ末さくらとりゅうのすけは最近クラスの中でも話題になっていたステーキ屋に入った。

 2人して同じメニューを注文し、届くまでの間水を少し飲みながら談笑をしていた。


 さくら「ここ、最近出来たんやって」


 りゅうのすけ「みたいやな。普通に内装綺麗やし」


 さくら「みんな美味しいって言ってて行ってみたいって思ってたんよね」


 りゅうのすけ「そういや、ひろあきとかが美味いって言ってたな」


 さくら「ひろあきくんずるい。先に来てるなんて」


 りゅうのすけ「まだ食った事ねえやつおるやろ」


 さくら「ふふ、やね。はぁー、楽しみだな」


 りゅうのすけ「やな。ステーキにしては値段も手頃やし、高校生の俺らには助かるわ」


 さくら「ほんとにね!」


 適当に話していると早速メニューが届く。熱い鉄板の上に置かれたステーキは焼き音と共に香ばしい香りを連れてやって来る。


 2人の前にステーキは置かれ、ソースの説明をされ、店員はそのままキッチンへと戻って行く。


 さくらはトマトソース、りゅうのすけはガーリックソースをかけて更なる香りを楽しむ。


 さくら「ん〜〜!美味しそう。いただきます」


 りゅうのすけ「いただきます」


 ステーキをナイフで切り、一口サイズにして口に含む。ステーキは切られると肉汁を出し、更に辺りにジュゥ〜という焼き音が響く。


 2人は映画の感想の話や、学校の話、それに花火大会の話に花を咲かせていた。


 りゅうのすけは、水を飲み、また一口サイズのステーキを食べる。

 美味いと思いながら、丁寧に噛み、呑み込む。


 そして、さくらと一緒に話しながら食べているという事にステーキの美味しさは更に倍増していたのかもしれない。


 肉の焼き音と香ばしい香りと2人の会話が弾むこの空間に誰も踏み入る事など出来やしないだろう。


 さくらは一口一口食べる事に猛烈な幸せそうな表情を浮かべる。

 その顔を見たりゅうのすけも同時に幸せに感じている。


 自分のこの感情はなんなのかは全く分からない。ただ、この子と一緒に居るという事が幸せで、かつ楽しい事は分かる。


 朝起きた時からずっとさくらにLINEを送る事だけを考えていた。

 内容を考えたり、断られたらどうしようとか。


 結果的に15時半頃に決心を決め、送信したLINEは速攻で返信が来て、映画に行く事になり、今こうやって2人で楽しくご飯を食べている。


 正直返信が来るなんて思いもしなかったので、映画に行くのも適当に決めた事で、今日観たスパイダーマンの映画も前にひろあきと一緒に既に観た映画だった事はりゅうのすけの中だけの秘密だ。


 学校でも1番と言える程にモテるりゅうのすけ。今まで色んな女の子に声を掛けられ、遊んだ事は何度かあった。

 しかし、どんな女の子と遊んでも何も感じる事は無かった。


 楽しいとは思う。ただ一方的に向けられた想いにりゅうのすけは答える事が出来なかったのかも知れない。


 好きだと言われても、イマイチピンと来なかった。


 りゅうのすけ本人今この瞬間に抱いている感情の答えは分かっていない。


 ただ。ただ一つだけ。


 今自分はとてつもなく幸せで楽しい時間を過ごせているという事だけ、それだけを理解して今を過ごしていた。


 さくら本人は肉の美味しさに酔い痴れていた。


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 髪を靡かせ、世界を見下すように見る。


 ひな「ふぅ〜〜……まだ私の時代や……な……」


 まき「ひなちゃん!お待たせ!」


 ひな「お?こらこら?こらこらこらこら?お?まきこ?まきまきこ?私の名前は〜〜?ワンモア〜〜〜?」


 まき「さ、さとみです……」


 ひな「そうでーす、さとみでぇ〜す。そして貴女は……」


 まき「普通にまきですけど……」


 ひな「おぉ〜〜んんん???まきこ〜〜??まきまきこぉ〜〜?ほり?ほ〜り〜き〜??」


 まき「……ハッ!……堀北真希……!!」


 ひな「……そう貴女は堀北真希……そして私は石原さとみ……そして……美女2人が居る此処は……」


 まき「……此処は……」


 ひな「公・園“おおやけのその”……やで……」


 まき「……そんでひなちゃん。公園に呼び出して何の用なの?」


 ひな「まあ、ここで私の?ソロコンサートしてもええんやけど、さ?」


 まき「いや、もうすでに蝉の大合唱が先に始まってるで」


 ひな「この蝉の鳴き声の大合唱に勝てるほどの歌声を披露すればええんやな」


 まき「いや、あのさとみさん。もう暑いんでイオンモールでもどこでも良いからこの暑さ凌げるとこ移動しませんか……」


 ひな「イオンモール……いいね!」


 2人はそのまま公園からイオンモールへと移動を開始する。

 そもそもなんでひなはまきを公園に呼び出したのか?からまた話が始まる。


 ひな「いやぁさ、公園って〜なんか、落ち着くやん?いつまでおってもタダやし。」


 まき「居るのはタダやけど、暑過ぎる……あ、イオンモール着いたらついでにアイス食べに行こうよ」


 ひな「ありあり!」


 公園から少し離れた位置にあるイオンモールに着くまでに徒歩で20分はかかっていた。


 中に入ると、クーラーの涼しさだけではなく多くの店舗が立ち並び、数多くの人がイオンモールの中で買い物などを楽しんでいる。


 涼しさを感じながら2人はそのままフードコートへと足を運ばせる。

 流れ出ていた汗も数分後には止まり、アイスを食べる頃には少し寒くなっていた。


 アイスを食べ終え、少し運動をしようか、とまきが良いゲームセンターへ。

 2人は寒さを紛らわせる為、エアホッケーやバスケットのスポーツ系のゲームを2人で楽しんだ。


 その後身体があったまって来たタイミングでリズムゲームやダンスゲームを楽しみ、2人でプリクラを撮る。

 プリクラを撮り終え、その後女の子が使うような雑貨が売っている店へと入り適当な可愛らしい文房具やカバンやポーチなどを見て2人はその時間を楽しむ。


 そして、夕方頃フードコートにてポテトを食べながら女子トークに華を咲かせていると、遠目に見えるのは見覚えのある2人の男女だった。


 まき「……?あれって……」


 ひな「ん?どしたん?」


 まきの一声にひなは後ろを振り返りひな自身もびっくりする。


 ひな「え……?あれってさくちゃんとりゅうくん?」


 まき「やんなやんな!うちの目が悪いんかと思った」


 ひな「2人って付き合ってんの?」


 まき「知らない知らない!でも意外な組み合わせ……」


 ひな「あ、りゅうくんが頭撫でた」


 まき「いつも笑顔やけど、なんかいつもより笑顔な感じする」


 ひな「わかる!あ、そのまま楽しそうにどっか消えたな。……えー!ひなめっちゃ驚いたわ。」


 まき「うちも!……みうちゃんには言わん方がええかな?」


 ひな「んー、話ややこしくなりそうやしなぁ……しかも付き合ってるって決まった話じゃないし」


 まき「やんなぁ〜。いやぁ、なんかドキドキする〜」


 ひな「なんか見たらあかんもん見たって感じしてドキドキしたな」


 まき「そんな感じそんな感じ!でも見られて困るんなら地元のイオンモール来んなよって話やけど」


 ひな「いや、それな」


 その後ひなとまきは、さくらとりゅうのすけの話を少し続けて時間が時間だったのでそろそろ帰ろうとの事となった。


 この日見た事は2人の秘密、と言うことで解散し、2人はそれぞれのモヤモヤの中、どうにかややこしい事にはならないようにとだけ願った。


 …………ただ……この光景を見たのがこの2人だけだったら良かったのだが…………。



 _____________________



 夏の夕暮れ時、若い男女数人が集う時間があった。

 数日前に集まって食べ放題にでも行って飲み会をしようという企画が立てられたのだ。


 勿論彼らはまだ高校生。飲み会と言っても形だけのものでお酒を飲みはしない。

 ただ集まってみんなとはしゃぎたいだけの口実が欲しかっただけなのだ。


 当日食べに行く食べ物はすき焼きに決まり、夏の夕方19時頃に集いに参加する者達は続々とお店の前にもう既に何人か集まっている中に、ぼちぼちと人は集い始める。


 まき「ほーい!来たよ!まきちゃんだよ!」


 ゆうか「いえーいまきちゃーん!」


 りゅうのすけ「バケモンが2人揃ったな。」


 まき「はぁ?なんやこら」


 ゆうか「りゅうくんきらーい」


 りゅうのすけ「うっせー!こっち向くな!話しかけんな!」


 ゆうか「ウザ〜」


 りゅうのすけ「地球外生物が何か言ってやがるぜ」


 まき「あ、ひなちゃん!やっほー」


 ひな「いえい。来たよ」


 さつき「ゆうかちゃん、まきちゃん!こんばんは〜」


 ゆうか「あー!さっちゃん!」


 まき「さっちゃーん!」


 あきせ「続々と集まってきてるな。てか、りゅうくんが一番最初に来てたんが意外やったわ」


 かずき「こいつ気分屋なとこがあるけど、みんなで集まってワイワイすんのは好きだからな。前日までLINEで行きたくねーとか、行かねえからとかって言ってたくせにこういう時1番最初に来るからな」


 あきせ「ツンデレかよ」


 りゅうのすけ「は?そんなんじゃねえし」


 ひろあき「典型的だよな……」


 たいち「おーっす!間に合った?」


 かずき「おう、たいちくん。全然まだ大丈夫だよ」


 たいち「よかったよかった。いやぁグループLINEでも言ったけど家の用事があって間に合うか不安やってさ。まー、間に合ってよかったわ」


 あきせ「たいち、家の用事って何してたん?」


 たいち「んー?いや普通にじいちゃんと昼飯食べに行って、家族で少し買い物行ってってしてただけやで。買い物行ってたとこが少し遠いとこでな。」


 かずき「あー、それなら遅刻する不安に狩られるわな」


 たいち「そうそう」


 くうどう「……俺が……来たよ……ヌゥー……ン……」


 あきせ「おわぁ!?ってくうどうかよ!びっくりさせんな!」


 くうどう「ははははは!いやぁ、どうもどうも」


 かずき「お前は相変わらずやな」


 りゅうのすけ「くうどうくん、何持ってんの?」


 くうどう「お?あぁ、これな。ちょっと家族で旅行行って来てな。そのお土産。お菓子なんやけど、デザート系やから焼肉食べた後にどうかなって。渡すついでも兼ねて」


 かずき「お、いいねぇー!こいつふざけたやつなんやけど、こういうとこあるから嫌いになれへんのよな」


 あきせ「わかる」


 なお「おぉ、結構揃ってたな。」


 まき「なおちゃーん、お久!」


 なお「おぉ、まきさん今日もべっぴんさんやのぉ」


 まき「よく言うわこの美少女が」


 りゅうのすけ「うるせえどっちもブスだろ」


 まき「うるさ〜」


 せいや「すんませーん、少し遅れました〜」


 かずき「お、せいやくん。まだ大丈夫だよ」


 りゅうのすけ「遅れたから土下座な」


 せいや「いや!本当に!ごめんなさい!」


 あきせ「いや、本当にしなくていいから!」


 まや「みんな〜〜、お久ーー!」


 さくら「うへ〜やっと着いた〜」


 まき「まやちゃーん!さくちゃーん!」


 ゆうか「さくちゃん、髪型どうしたん!?めっちゃ可愛いやん!」


 さくら「ん、なんかお母さんがしてくれたの。別にいいって言ったんだけどさ。」


 まき「そんな事ないよー!可愛いやん!ねぇ、りゅうくーん?」


 りゅうのすけ「なんで俺に振るんだよ」


 まき(……ふむ、この様子は2人は付き合ってるわけではなさそうだな……?あの話はひなちゃんとの秘密にしててよかったみたいですな……)


 まき「いやぁ、近くにおったからさぁー」


 りゅうのすけ「まぁ、でも似合ってんじゃん」


 さくら「えっ、あ、うん。ありがとう……」


 まき(……んんっ!?)


 みう「あれ、もうみんなおるやーん!もう、りゅう〜置いてかんといてや!一緒に行こう行ったやん!」


 りゅうのすけ「うるせえ知るかクズ。遅れてくんなよ」


 はるか「りゅうくん相変わらずだね。」


 りゅうのすけ「おう、はるかちゃん。久しぶりじゃん」


 みう「なにこの対応の差〜!ひどない!?」


 まき(……もしや……いや、まぁ、でも……うん。私は知ーらないっと。)


 るい「ごめんごめん、勉強してたら時間ギリギリになってしまって」


 りゅうのすけ「るいくんのほっぺたムニムニの刑で許してやろう。ムニムニ〜」


 るい「ほごほご」


 あきせ「るいが小動物にしか見えへんな」


 ひろあき「いや、ほんまに。りゅうくんが背高いのもあるけど。」


 せいじ「うっす!」


 かずき「おー!せいじくん来たか!この前のゲーセン以来やな」


 せいじ「いや、ほんまに。かずきくんと普段そんな遊ぶ事ないから今日楽しみやったわ」


 かずき「俺も俺も」


 りゅうのすけ「なに!?かずきくん浮気!?」


 かずき「浮気も何も誰とも付き合ってねえし、そもそもせいじくんともお前ともなんもねーよ」


 りゅうのすけ「私とは……遊びだったの……」


 かずき「もういいもういい」


 せいじ「ははは!りゅうくん、後で荒野しよや」


 りゅうのすけ「お!いいよ!」


 かずき「よし、そろそろみんな揃ったか?そろぼち入ろうか」


 みんな「はーい!」


 そんなこんなで男女総勢18人が集い、すき焼きを食べに店へと入り、大人数で入れる個室へと案内され、適当な席へと着く。


 適当な注文をして、各々はドリンクバーに飲み物を入れに行く。

 ふざけて飲み物を混ぜる者、好きな飲み物を入れる者、ノリで合わせる者多種多様に居ながら、ドリンクバーだけで盛り上がり、全員が戻ってきたところでりゅうのすけとくうどうの適当な乾杯の合図で、飲み会はスタートする。


 くうどう「それではお集まりの皆様。わたくし、くうどうめが、乾杯の音頭をとりたいと思いまする。」


 りゅうのすけ「いいゾォ!いいゾォ〜」


 くうどう「はぁ〜!」


 りゅうのすけ「カンパーイ!!」


 全員「カンパーイ!!!!」


 _____________________



 飲み会という名の高校生のふざけ合いやお喋りの集いはスタートをし、間もなくしてガヤガヤと騒がしくなる。


 せいや「おい!肉肉!牛肉もっと追加や!」


 かずき「はいはい、待て待て」


 なお「誰やぁ!私の牛肉盗ったん」


 ひな「あ、ごめん私かも」


 なお「別にいいよ〜!もっと食べて食べて〜」


 ひろあき「ちょっと、この謎のドリンク誰が入れたん!?」


 あきせ「ひろあきがトイレ行ってる隙にせいやくんとりゅうくんが。」


 ひろあき「あの2人が入れたんなら絶対やばい……」


 まや「ネギうまっ」


 ゆうか「うちもネギ食べたい〜!」


 るい「モグモグ」


 みう「りゅう、はいこれ」


 りゅうのすけ「おう、ハグッ、モグモグ。」


 たいち「肉も美味いけど、野菜も美味いな」


 はるか「ほんまに!かずきくーん、野菜の追加もお願い〜」


 かずき「ほいほい」


 かずきは、注文用のパッドを使って次々と具材や料理を追加注文して行く。

 お酒を飲んでもないのにその場の雰囲気で酔っているかのように皆のテンションは上がっていき、それぞれのトークに盛り上がりを見せる。


 りゅうのすけ「ここめっちゃクーラー効いてるね。寒くなって来た」


 かずき「なんで夏にすき焼たべてんのに寒くなんだよ。さっき俺が来てたシャツで良いなら貸すぞ?」


 りゅうのすけ「ありがとう〜!あ、俺の着る?」


 かずき「なんでやねん、お前また寒くなるやんけ。ユニフォーム交換やないんやぞ」


 りゅうのすけ「いやぁ、着たいかなって思って。うへへ」


 たった数十分で大盛り上がりを見せる飲み会の中に、誰かが1人ある一言を呟いた。

 その1人は、さつきだった。


 さつき「さーくちゃん!食べてる?」


 さくら「うん!美味しいね」


 さつき「ほらほら、もっと食べ!」


 さくら「ありがとう」


 さつき「そう言えばこの前さくちゃんイオンおった?」


 まき(さっちゃーん、触れちゃう!?触れちゃうの!?)


 さくら「イオン?あー、いた。」


 さつき「やんね!あの時家族と行っててんやけど遠目に見えて見間違いかなって声かけ辛かったんよ。」


 さくら「そうなんだ。」


 さつき「横に男の人おったっぽいし、デートかなんかやと余計声掛けんの迷惑かもやしって」


 まき(あぁ、うちも思ってたけど!めっちゃ聞きたかったけど!!)


 さくら「あー、あの時一緒に居たのりゅうくんだよ」


 さつき「あー、そやったの?」


 みう「え?さくちゃん、りゅうくんとデートしてたの?」


 さくら「へ?」


 まき(おぁー!多分これバチバチ起こるやつかな……?)


 りゅうのすけ「は?してねーよ。お互い暇だったから適当に会ってただけだわ。誤解招く言い方すんなクズが。」


 みう「……へぇ。」


 まき(……ん?ていう事は2人は付き合ってなくて?普通に遊んでただけなのかな?うーん、分からんけどとりあえず私は飲み会楽しもっと。)


 さくらはなんとなく、今のみうに対して恐怖を感じていた。元々さくらはみうがりゅうのすけに対して好意を抱いていた事に関しては知らなかった。


 勿論今も知らない。だからこそなんであんな不機嫌そうな雰囲気を醸し出すのかがあまり分からなかった。


 もしかして好きなのか?と一瞬考えはした。ただ、だからと言って普通に遊んでただけで、しかもりゅうのすけとみうは付き合っているわけではない事は知っているので怒られる意図が無い、と自己完結しさくらはそのままさつきと適当に話しながらすき焼を食べ続けた。


 程なくして、2時間程のすき焼食べ放題の高校生の男女の集いは終了を迎えようとして、会計の時間が訪れようとしている。


 さくらは先にトイレを済まそうとトイレに行こうとしたその時、みうが背後から声をかけて来た。


 みう「……さくちゃん」


 さくら「……?みうちゃんどうしたの?」


 みう「りゅうの事、好きなの?」


 さくら「…すき…?まぁ、すきかな。」


 みう「……そう。分かった。」


 みうはそれだけを言い残し、皆の元へと戻って行った。さくらはそそくさトイレへと急いで行き、すぐに用を足して皆の元へと戻った。


 こうして男女数人のはしゃぎたい集いは会計を済まし、外で軽く駄弁った後すぐに解散を迎えた。


 一部の人達の心のモヤモヤを残したまま。



 _____________________



 暑い陽射しを受けながら歩く若者1人。彼の名はひろあきという。

 ひろあきは、なおというクラスメイトの女の子と、るいというクラスメイトの男の子3人である場所へと向かっている。


 知り合いの花火職人の元だ。


 ひろあきがLINEで今日はその予定があると告げると何故かなおがついてきて、なおがるいを連れて来た。


 ひろあきはどうせ止めたところで聞きはしないだろうと諦め、溜息を吐きながら2人を花火職人の元へと連れて行く。


 るいに関しては興味本位だけだったが。


 なおは完全に自分の作りたいものを作る気でいそうで、ひろあきは不安がっている。


 なんでもいいが、それを花火職人の人が許してくれるわけがない。花火なんてひと玉作り上げるのにそうとうなお金がかかる。


 自分のオリジナル玉を作らせて頂けるだけでも運が良いというものだ。


 作る、というよりただどんな花火にしたいかのデザインを相手に教えるだけで、ひろあき自身は花火を作るところを見学する事になる。


 それについては素人であるひろあきが下手なものを作るよりも職人に作ってもらう方が良いだろう。というひろあき本人も納得の上での話。


 特に本人は花火職人になりたい訳でも無いので、るい同様興味本位で受けた話でしかない。


 ただなおはどんな花火にしようかの話について1人で勝手に盛り上がっている。


 なお「街の夜空にドカンっとどデカい魔法陣を放出させるのもアリだけどなぁ〜!魔神召喚すんの。それか錬成陣?なんの錬成陣にしようかなぁ〜……賢者の石でも造っちゃう?」


 るい「それだとこの街の人達が賢者の石になっちゃうよ……」


 なお「それはハガレンの話だろ〜。と言うか必要な物材やらを集めないと錬成はそもそも出来ないからなぁ……。あ、でもそれだと魔法陣も生贄を用意しないと……あ、生贄は花火を打ち上げたとこでもいっかな。そしたら、錬成陣もそうすりゃいいか。」


 ひろあき「実現しないとは言え、この人とんでもないこと言ってるよ……」


 るい「そして、自分が提供したデザインで打ち上げる事も当然としてる……」


 なお「いやぁー!ワクワクするねえ!」


 ひろあき「そ、そだね……」


 そうしてひろあきの家から自転車で片道20分〜30分程の距離にある花火職人の家へと向かう。


 事前にひろあきの方から、当日見学者が自分の他に2人増える事は連絡済みである。

 そう連絡したら、別にいいよという二つ返事で了承してくれたので、そのまま、なおとるいを連れて行く事となった。


 花火職人のひろゆきという男性の家へと辿り着き、インターホンを押ししばらくしたら出てきたひろゆきの手招きの元近くにある作業場へと赴く。


 作業場に着き、ひろゆきからひろあき達は簡単な説明を受ける。


 ひろゆき「えっとね。とりあえず花火って、様々な火薬とか炎色剤と言われるものを調合して作られるんよ。ここの作業が、どの工程よりも1番注意深く作業が行われるのね。」


 ひろゆきは徐にスマホを取り出し、スマホの写真の中からあった、炎色剤の写真を彼らに見せ、説明を再開する。


 ひろゆき「色は、赤、緑、青、黄色、紫、銀ってあって。赤はストロンチウム、緑はバリウム、青は銅の化合物、黄色はナトリウム、紫はカリウム、銀はアルミニウムの粉末……てな感じいろんな化学物質を使ってて、非常にキケンな作業でもあります。細かい事は覚えなくてもいいんだけど、ただ危険って事は注意深く頭ん中に叩き込んどいて。」


 ひろあき達「はい!」


 ひろゆき「んで、その次に星作り。星って言っても、惑星作るとかそんな規模の話じゃないからね。」


 場に少し笑いを起こしながらひろゆきは説明を続ける。


 ひろゆき「星は花火を構成する上でも最も重要な位置を占めてて、まぁ、実際に星を太らせて行くには……えっと、あった。この写真見て。この〈星掛け器〉ってのを使ってるんよね。あ、星って呼ばれるのがこの写真ね」


 なお「ほおほお」


 るい「へぇ、花火の元みたいなものかな?こうなってんだ。」


 ひろあき「本やネットである程度調べてはきたから、また後でその工程を見れるのが楽しみだな」


 ひろゆき「そうだな。本やネットでは書いてない、見られないような、いやYouTubeとかで観れるんかな?まぁ、何にしてもネットや本とかで観るだけ、読むだけってよりも現場で見た方が色々学べるってもんだ。楽しみにしてもらうのは結構だが、安全にだけ気をつけてくれよな。」


 ひろあき達「はーい!」


 その後細かい説明などを簡単に受け、その説明が終わった後になおはひろゆきへと声を掛ける。


 なお「ねえねえ、ひろゆきさん。話で聞いたところひろあきさんがデザインした花火を作るって話らしいじゃないですか」


 ひろゆき「あぁ、そうだが?」


 なお「私の分、もしくはひろあきさんと合同デザインとかってダメですかね?」


 ひろゆき「んー?うーん……なら君の分も作ろうか?」


 なお「え!?いいんですか!」


 ひろゆき「なに、打ち上げる予定の花火をもう1つ削ったらいいだけの話さ。その1つを君のデザインで打ち上げよう。」


 なお「ウッヒョイ!やったぜぇ!!」


 ガッツポーズをし、ルンルン気分でひろあき達の元へと帰ったなおを見て、ひろあきは本当にやった。この人は本当に恐ろしい人だ」と心の中で思いながら、その後花火を作る工程を見学して、なおとひろあきのデザインを描いた紙をひろゆきへと渡し、3人は家へと帰った。


 るい「この人強運過ぎるやろ……」


 なお「いえい!よかったー、家で事前にデザインしてきといて。」


 夏の暑い夕差しを浴びながら3人は花火の話に盛り上がりながら家への道路を自転車を押しながら歩いた。


 _____________________



 花火大会もあと少し、と言った今日この頃。なおは暇つぶしに外を散歩していた。


 花火大会、自分のデザインした花火が打ち上げられる楽しみにルンルンしていると、当日が楽しみ過ぎて、嫌という程待ち遠しかった。


 夏の昼間という事もあって、とてつもなく暑いが、なおは空を見上げて今日もいい天気だ、なんて呑気に言いながらにこやかな笑顔で適当な道を歩いている。


 しばらく歩いていると、目の前がザーッとテレビの砂嵐の様な映像が流れ、なおはクラっとして、その場に倒れ込んだ。


 汗をダラダラと垂れ流し、長い間水分を補給していなかったため、熱中症になり掛けてしまったようだ。


 このままだと危険だ。なおはどんどん薄くなる視覚の中、目の前を見つめ、頭痛と闘いながらもなんとかして立ち上がろうとする。しかし力が入らない。息も荒くなり、意識も朦朧として来る。


 すると、力を入れていないのに身体がスッと立ち上がった。誰かに持ち上げられたようだ。そのまま背におぶられながら、なおはその人から香られる匂いに安心して眠ってしまった。


 しばらくして気がつくとそこはイオンモールの子供がブロックなどで遊ぶコーナーだった。その近くにあるソファにてなおは眠りについていたようだ。


 脇と首と手首やおでこが冷たい。見てみると、凍ったお茶が両脇に挟まれており、手首やおでこには冷えピタ。首には濡れタオルがあった。


 疑問符を浮かべながら、起き上がると男性が近付いて来て、なおに声をかけてきた。


 その男性はかずきだった。


 かずき「お、起きたか。ほらアクエリ。いやぁ、近くにイオンがあって助かったわ。クーラーガンガン聞いてるし、色々買い揃える事出来たし」


 なお「……?」


 渡されたアクエリアスを持ちながら、現状を把握出来ないままなおはかずきを見る。


 かずき「なおちゃん、熱中症で倒れてたんだよ。」


 なお「へ?あ、そうなの?……えっとごめんなさい……迷惑かけてしまって……」


 かずき「いいよ。君がこのまま熱中症で倒れて亡くなってたかも知れなかったし、俺は助けられて本当に良かったと思ってるから」


 なお「……ごめんなさい……このお金とか後で払います……」


 かずき「いい!いい!気にしなくていいから!ほら、頭痛とかもう落ち着いてきた?」


 なお「うん、もう平気。」


 かずき「そっかー、よかったー。とりあえずもう少し涼んで行こっか。」


 なお「かずきさん、ありがとうございます……」


 かずき「うん、いいよ」


 貰ったアクエリアスのフタを手を震わせながら開けて、気が付いたら涙を流しながら、なおはアクエリアスをゆっくりと一口ずつ口に含みながら飲んだ。


 自分の不甲斐なさと、熱中症で倒れた事へと注意不足、迷惑をかけてしまった事、そして何よりもかずきの優しさに触れてなおは無意識のうちに涙を流していた。


 かずきはそんななおを見ながら、背中を撫でて、なおを落ち着かせてあげた。


 なおは気持ちを落ち着かせた後、再度かずきへ謝罪とお礼を述べた。



 _____________________



 花火大会も目前となったとある日。女子勢の何人かはまきの家に集まってどんな浴衣を着て来るのかで話が盛り上がっている。


 まき「ゆうかちゃんどんな浴衣着るの?」


 ゆうか「うちはなぁ、一昨年着たやつかなあ。去年お父さんの実家の方に帰ってて花火大会行きそびれたから去年行ってへんから今年は着たいし、行きたいねん」


 さつき「そう言えば去年ゆうかちゃん見なかったなぁ」


 ゆうか「そうそう〜〜。ほんま行きたかったわぁ〜」


 さくら「さくらも去年は行ってないな。家から花火見れるからそれで満足してた」


 なお「なんやそのベストな位置にある家は。もうみんなでそこで集まって談笑しながら花火見たらええんちゃう?」


 ひな「あかんあかん。みんなで見るんやったら河川敷とかで見なあかんて。それにこのメンバーで揃ったら近所迷惑間違い無しや」


 みう「それは間違いない。家で見るのもいいけど、みうは外でみんなで見たい」


 はるか「うちも。てか、家で浴衣で集まるとかシュール過ぎん?」


 ゆうか「いや、言えてる。ははは!」


 まき「幼稚園とか小学校低学年くらいやとええやろけどなあ〜〜。もう高校生やと外で集まった方がええやろな」


 さつき「やなぁー。屋台とかは何人かの少人数で分かれて回って、花火見る時集合するとか?」


 さくら「人数多いし、その方が良いかも」


 まや「せやねぇ。いくらなんでも大人数でゾロゾロ回ってたら絶対何人かはぐれるだろうし。」


 なお「どうも。よくはぐれる人です。」


 まき「自慢気に言う事ちゃう」


 なお「キャハ」


 ひな「みうちゃんは少し場所の離れたところで別行動とか?」


 みう「え、なんで?」


 ひな「この前の練習、忘れたとは言わせへんで?ほら、頑張ってきーや。」


 みう「……う、うん。ありがとうさとみ。」


 ひな「……私はいつでも、恋する乙女の味方やから、な?」


 まき「ひなちゃ〜〜ん!!」


 ゆうか「イケメン過ぎて泣ける」


 ひな「こぉら?まきこ?」


 まき「うん、ごめん。さとみやったね!」


 なお「ところで、浴衣の話どこ行った?」


 まき「んー、やっぱみんな当日までの楽しみにしようよ」


 なお「うん、その方がよろしいな」


 さくら「うん!楽しみ!」


 ゆうか「みんなで写真撮ろな〜〜」


 ひな「ゆうかちゃん?……それありぃ〜〜」


 ゆうか「やんなぁ!」


 はるか「撮ろ撮ろ!」


 みう「いいやん!それはめちゃくちゃ楽しみ!」


 各々適当な談笑をしつつ、まきの母が出してくれたお菓子を食べつつ、夕方までの時間を適当に楽しく過ごした。


 そうして、解散の時間はすぐに訪れ、彼女らはまきの家の前で花火大会に再会をする事を約束してその日を終わらせる。


 しばらくしてさくらが1人で帰宅路についていた時だった。後ろからみうから声をかけられた。


 みう「さくちゃん」


 さくら「え?あぁ、みうちゃん。どしたの?」


 みう「わたし、りゅうに告白するから。」


 さくら(え、なんでそんな事さくらに報告すんの?分かんないんだけど)


 さくらは戸惑いながらも返答をする。


 さくら「へ、へえ。頑張ってね」


 みう「……自分はりゅうに好意を抱かれてるって勘違いしてるから余裕なのかしらね。大丈夫。りゅうは暇つぶしに誰かしらに声をかけて遊ぶ人だから」


 さくら「は、はあ。」


 みう「さくちゃんの一方的な片想いに終わると思うよ。それじゃ。負けないから。」


 そう言いさくらに背を向けてみうは自宅へと帰った。みうの表情そのものは、ミスコンで優勝した事もある美人な顔をしているだけあってか、物凄い圧力を感じた。

 その圧力に負けて、さくらはみうに対して何も言い返せずにいる。


 さくら「わたしの……カタオモイ……?」


 しかしさくらは言葉の意味を理解出来て居なかった。そもそもさくらは片想いをしているなんていう自覚なんて無かったし、りゅうのすけに対する感情なんて自分の中ではすきではあるが、それはあくまでも友達としてのすきである。


 だからこそさくらはみうが何を言っているのかナチュラルに分からない。


 その後歩きながら、みうは何を言っているのだろうかと少し考えたが、考えても分からずに道を歩く。


 まきの家から少しかかる帰宅路の道中、帰宅途中にあるコンビニに立ち寄りながら、考え事を続行。


 さくら(……カタオモイ……カタオモイ……硬くて重いの?ん?なんだっけこの言葉どっかで聞いたんだけど、しばらく聞かなかったせいかどういう意味だったが、喉ら辺まで出てるはずなのに出てこない……んー?)


 腕を抱えて悩んでいると後ろから声がしたので振り返る。するとその声の主はりゅうのすけだった。


 りゅうのすけ「こんなとこで腕抱えて考え事か?」


 さくら「あ、りゅう君」


 さくら(流石にみうちゃんがりゅう君に告白する話は言えない……)


 りゅうのすけ「何考えてたかは知らねーけど、あんまり根詰め過ぎんなよ」


 さくら「う、うん。ありがとう……」


 りゅうのすけ「てか、花火大会の屋台でたこ焼き売ってるとこって何処ら辺かな」


 さくら「たこ焼き?んー、普通に何店舗か屋台出てると思うなぁ。結構な広範囲でやるらしいし、さくらも毎年行ってるわけじゃないから分かんないや」


 りゅうのすけ「そうなんだ。俺初めてなんだよね。花火大会行くの」


 さくら「え、そうなの?」


 りゅうのすけ「うん。毎年ずっと家でゲームしてたから。」


 さくら「へぇ〜」


 りゅうのすけ「でも、祭の屋台とかで食うたこ焼きとかってめちゃくちゃ美味いじゃん。お母さんがたまに買って帰ってきてくれる事あってそれは食べた事あるんだけどさ。今回は屋台でその場で食いたいなって」


 さくら(……この人花火大会自体全く興味無いじゃん……)


 りゅうのすけ「確か近くの神社でやるんだろ。あの無駄に馬鹿でかい」


 さくら「無駄かどうかは分かんないけど、近くの神社でやるよ。そこに連なる河川敷辺りでも屋台とかやってるみたい」


 りゅうのすけ「それなら神社に入らなくても河川敷の方でたこ焼き買えるな」


 さくら「食べたらどうするの?」


 りゅうのすけ「んー、考えてないけど。多分ひろあきとかかずきくんと花火見て帰るんじゃない。」


 さくら「ヘェ〜」


 さくら(よかった……一応花火は見るみたい。みうちゃん頑張ってね)


 りゅうのすけ「と言うかそろそろ帰らねえと。晩ご飯が待ってる」


 さくら「あ、ほんとだね」


 2人はコンビニにて適当な飲み物を買い、そのままコンビニを後にして、外で飲み物を飲みながら歩き始めた。


 りゅうのすけ「お前ん家何処ら辺よ」


 さくら「ん、もう近いよ」


 りゅうのすけ「んじゃ、近くまで送ってくわ。」


 さくら「そんな、悪いよ」


 りゅうのすけ「いいよ。もう結構暗くなってきてるし。夏だからって言っても19時越えたら薄暗くなってくるもんだな」


 さくら「うん、そうだね。昼間と比べたら全然涼しいね」


 りゅうのすけ「あー、めちゃくちゃ涼しい。花火大会は人混みが多そうだなあ〜……」


 さくら「人混み多くなると嫌でも暑くなっちゃうもんね」


 りゅうのすけ「そうそ。なんかひろあきがデザインした花火が打ち上がるらしくてさ。それ見るために行くんだよ」


 さくら「え!そうなの?すごい!」


 りゅうのすけ「あいつとは付き合いが長いし、いつも助けてくれるからよ。こんな時くらい見に行ってやるかなって」


 さくら「助けてもらってるの?」


 りゅうのすけ「ん、いやまあ、大したことじゃないよ?暇な時遊びに誘いに家に来てくれたり、毎朝登校する時、道中で待っててくれて一緒に行ってくれたり。あいつが居ねえと多分不登校になってたかもな。」


 さくら「ひろあきくんとそんなに信頼し合ってるんだね」


 りゅうのすけ「普段こんな事恥ずかしくて言えねーけどな」


 さくら「そんなもんだって。普段お世話になってる人にお礼を言うタイミングって中々掴めないと思うし。親にだってそうじゃん」


 りゅうのすけ「そうだな。確かに。でも、何か特別な日……例えば誕生日とかがあれば、その時くらい言えるようになれるようしとくよ」


 さくら「うん、それでいいと思う。じゃあ、私こっちだから。バイバイ」


 りゅうのすけ「うん、ありがとう。バイバイ」



 _____________________



 日は一刻の猶予も無いかのように、時間が過ぎて行く。明日にでもなれば花火大会が始まるという事で街は賑やかさを徐々に増して行っている。


 二日間に及ぶ花火大会は、初日は神社からその通路の如く連なる河川敷までに立ち並ぶ出店が街の人達の気分を盛り上げてくれる。


 夕方から夜までに続くこの夏祭りに人々は日々のストレスや疲れを忘れて集って行く。


 1日目も2日目も花火が打ち上がるという事で、花火職人達も大忙しと仕事をこなしている。


 そうして、花火大会前日の今日は、屋台など出店の準備をする人が昼から夕方までてんやわんやと賑わっている。


 祭というものは、日程が近付くに連れて、もう直ぐかと待ち遠しくなり、前日になり準備を始める人々が増えてからやっと花火大会が明日明後日と2日間あるという実感が湧くものである。


 その1人であるさくらは1人晩ご飯のお使いを頼まれながら、近くを歩きそう感じる。


 さくら「いやぁ、凄いな。もう明日か。」


 ボォーっとしばらく準備している人々を見つめてさくらは凄いと思うと同時に明日を楽しもうという気持ちを込めて、再度買い物へと足を動かす。


 今日の晩ご飯は母の作るカレー。


 それもそれで楽しみだと思いながらスーパーへと向かう。


 さくら「ママのカレー久し振りだな。」


 そう呟き、歩く。歩いている最中にある事を思い出す。


 それはみうに言われた一言。「一方的な片想いで終わると思う」である。


 片想いが何の事かを考え、思い出し、さくらはこう思った。


 さくら「……さくらが片想い……誰に?」


 イマイチピンと来なかった。さくら自身恋というものをした事が無かったので、まず人を好きになった事すらなかった為、恋愛感情というものがさくらの中でイマイチ分からずに居た。


 しかし、あの言葉の指し示す片想いの相手とはどう考えてもりゅうのすけしか居なかった。


 何故さくらがりゅうのすけに片想いをしていることになっているのだろう。


 さくら自身りゅうのすけの事はすきである。しかしそれはあくまでも友達としてのすき。


 恋愛感情で考えた事なんて無かったし、そもそも恋愛感情の好きがわからなかった。


 さくら「……んー、なんにしてもみうちゃんの恋が成就してくれたらいいな。」


 さくらはそう思い、スーパーでの買い物を終わらせて帰宅路を歩く。


 明日には待ちに待った花火大会が始まる。どこかで少し男女の関係性が変わってくるかも知れない花火大会。


 ただ花火を見るだけで終わる花火大会。


 みんなで花火を見て終わる花火大会。


 様々な花火大会が待っている。



 _____________________


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