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ペンライトの意味

 ペンライトの輝きに俺は目を奪われてしまっていた。

 一瞬ですべてが何が現実で幻であるのかわからなくなる。

 そもそもこのペンライトは数年前にライブ会場で買った限定ペンライト『愛嬢雪絵』オリジナルペンライト。

 表面には『愛嬢雪絵』のイラストがついているのだ。

 もちろん、このキャラクターが好きなのも元々の発端は『種村雪菜』の演じるキャラクターだったから。

 単純なオタク的思考。

 オタク嗜好品なだけのグッズに異世界の魔法を打ち消すなんて能力があるなんてことは全くない。

 これは現実で言うならばライブ会場で推しをアピールするために振るただの光の棒だ。

 でも、事実に手には実際に魔法を切ったという感触が伝わっていた。

 これと同じことをどこかでも見ていたはずだ。


(あ、そうだ。王城だ)


 召喚された際に勇者の宿命を無理やり背負わされそうになった時、拘束の魔法を打ち消していた。

 そもそも、咄嗟に武器になるものがペンライトくらいしか思いつかなくってふるってだけだ。

 それがよもや、マジもんの武器になった。

 おかしな現象は三度続く。

 さきほど砕かれたもう一本のペンライトの欠片たちが急激な発光を集めて浮遊し始めた。

 周囲の男たちにまるで鳥のごとく襲いかかった。

 一瞬にして敵はたったジル一人だけになった。


「ハハッ、やってくれるじゃないの。勇者の力ってわけかい」

「恐れてるとこ、申し訳ないけどさ俺もよくわからないんだよ」

「アタシの腕を斬りつけといてよく言うねぇ」


 確かに先ほど気〇斬のような魔法を放とうとした彼女の腕を咄嗟にペンライトで切りつけた。

 正しくは魔法を打ち消したつもりだったが同時に彼女の素手も攻撃していたのだ。

 どうやら、ペンライトは本物の剣に変化したようだ。


(これじゃあ、某映画のライト〇〇バーじゃねぇか!)


 欠片たちはまだ浮遊していた。

 今度はジルを背後から襲い掛かったが彼女の周辺に突然と巻き起こった突風が欠片を周囲へと吹き飛ばす。 


「アタシの防壁を食い止めはできないよ」


 ジルがこちらへと向かいかかってきた。

 咄嗟に持っていたペンライトを構えたが。


「おせぇなぁゆうしゃさまぁ!」

「あぐぅ!」


 鋭い蹴りが暴風に乗せられて俺の腹部を直撃した。

 重くのしかかった良い蹴りだ。

 ジンジンと痛みだす腹部。


(肋骨何本か折れたな)


 思考は至って冷静にいられた。

 ある本で読んだことがあるが人は死に瀕すると過剰に冷静な思考回路をする。

 その言葉は間違いではなかったようだった。

 敵の周辺の男たちは動かない。

 目の前のジルの周囲にあるものといえば敵の男たちが持っていた剣くらい。

 敵の剣を奪い取り、自分の剣とうまく組み合わせて二刀流なんてマネをすれば少しは勝ち目を予測する。


(いいや、無駄だな。素人が剣の数を増やしだけでは勝てる見込みなんかない)


 相手は俺を殺す気はないのだから素直に従うべきなのだろう。

 だけど、それはプライドが許さない。


「ああ、こういう時に自分の性格が本当にいやなる。なんでこんな時だけ負けたくないっておもっちゃうかなぁ」

「へぇ、アタイに勝つきかい? そんな状態で」


 俺は立ち上がってしまった。

 足がガクガク震えて手に持ったペンライトは震えてる。

 刀身もわずか20センチ程度で短くって剣なんて呼べる代物じゃない。

 でも、このペンライトは魔法を打ち消すという秘技を見出してくれていたのを思い出す。

 これしか自分には武器はないと強い気持ちをもって握る手を強めた。

 地を蹴って果敢に飛び掛かった。

 どこからか、ふと先ほど逃がしたはずの彼女の声が聞こえた。


(私はもう逃げない)


 聴き間違えるはずもない種村雪菜の声。

 おもわず笑みがこぼれた。

 相手の動きがその瞬間に垣間見えた。

 ゆっくりと。

 相手の魔法による風を乗せた拳とペンライトがぶつかった。


「なにっ!?」

「うぉおおおおおおおお!」


 勢いに乗せて彼女の腕を叩ききる。

 血しぶきが舞って彼女は苦痛の顔をして腕を抑えてふさぎこんだ。


「あぁあああああっ! このゆうしゃぁあああああああ!」

「はぁ、はぁ」


 自分自身でもよく今の動きが見切れたと思えたくらいの偶然。

 ペンライトがどんどんと輝きを増していた。

 周囲に散っていた欠片がペンライトに集まった。

 すると刀身は伸び、普通のロングソードくらいの大きさに変わる。

 だけど、形はーー


「いや、ペンライトじゃん!  そこは変わるフラグだろ!?」


 なんとも悲しいオチ。


「あはは! あはははは! ただ刀身が大きくなったくらいでいい気になるんじゃないよ!」


 ジルは立って、頭上に手をかざしていた。

 彼女の周辺に異常な風が集まりだす。


「アタシは報いなきゃならねぇんだ。 この何にもなくてつまらない世界で生活する楽しさを教えてくれた魔王に!

 そうさ、戦争って至高の喜びなんかを知らなかったアタシは魔王のためにも勝つんだよ!」


 それは彼女を中心として急激に巻き起こる竜巻と化す。

 この地下では崩落に巻き込まれてしまう。

 彼女を中心として頭上が崩落し始めて空が開けた。

 だが、俺は頭上から迫った瓦礫の中に埋もれていくしかなかった――


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