種村雪菜の過去と勇気
私、種村雪菜は舞台の上で活躍していた人生を送っていた。
学生時代は普通に映画が好きでよくファンタジー映画などを見ていた。
その影響もあって吹き替え声優さんとかにも興味を持っていた。
ゲームやアニメにも偏見はなくどちらかというと好きな部類でよく少女向けアニメも見ていたりしていた学生であった。
そんなある時に聞いた声優さんのラジオを聞いて中学になるころには演劇の道へと進みたいと思うようになっていた。
だけど、現実は厳しかった。
中学では芸能活動などは禁止。
夢をあきらめきれず演劇部などに入り演劇のノウハウを高校生まで学びすべてに費やした。
親からも隠れてひっそりと志す夢。
建前だけでもよくしたいそう思い行きたくもなかった美術大学まで通う人生。
大学生活時代に転機が来た。
ついに念願の演劇者としてのデビューの機会が訪れた。
最初はアシスタント時代から脇役の女優としての出演とまだ最初の一歩だったけれどもそれでも努力を重ねる日々。
そこからが私の絶好調の時期。
ついに果たす夢のステージ。
声優の研修生オーディションに合格した。
念願叶った音響スタジオという舞台で私は声を武器にしてあらゆるキャラクターの声を当ててきた。
私のその声はいつしか世間に知れ渡った。
大手の企業からのアイドルキャラクターの声のスカウトを受けて合格し、アイドル声優としての存在まで確約され、私の舞台は増えていき、忙しい毎日だった。
そのまま行けば私は輝くはずだった。
ある現場でのことだ。某会社のディレクターからの強制的な『枕営業』を強いられた。
もちろん、断った。
そんなの許されることじゃない。
そのことが彼に火をつけたのだろう。
一人での帰り道に私は見知らぬ男に襲われかけた。
叫び声をあげたそこに駆け付けた青年のおかげで助かったのだ。
「あ、あの大丈夫ですか!? 今警察を呼びますね」
やさしいその人はすぐに携帯を取り出して警察へと連絡をしようとした。
だけど、私はその優しさを無碍にした。
数舜前に男性に襲われたという恐怖がおもく心に伸し掛かって男性が怖くなった。
彼が来ていた服が私が演じていたキャラの衣服であるのを見て勝手な偏見も甚だしく襲われると勘違いして逃げ出したのだ。
そのあとのことは覚えていない。
家に引きこもり、仕事も手に付かずしばらく休業活動をした。
それから1年後に復帰した。
大舞台のステージ。いつのまにかアイドルと声優なんて二つの職業を兼任するような大物になっている私は緊張を胸にそのステージで休業活動から1年ぶりに踊ることを胸いっぱいに膨らませていた。
「さぁ、がんばるわよ、みんな!」
グループリーダーの役割をしている先輩が声をかけて円陣を組んだ。
それぞれが分かれて、1チーム目の歌うユニットグループとして出番が待っていたその時に私の前が真っ赤に染まった。
「なにこれ?」
続けて悲鳴が聞こえた時に急激な浮遊感に身体は包まれた。
私は目をつぶる。
目を開けた時には見知らぬ場所にいたのだ。
*******
謎の集団に襲われた後に同じ境遇の男性に救われて、抜け出した私は見知らぬ街を駆け抜けた。
高層ビルが密集しているだけでそこが本当に異世界なんて非現実的な場所だってわからされた。
走って、走って、走った。
行く先々で空を飛ぶ人々たちがこちらの様子を見ている。
その視線が怖い。
足を止めたら殺される。
だから、走るしかない。
でも、本当にそれでいいの。
王城の前を通り過ぎ、足が止まった。
彼のあの必死の顔と私を守った行動は過去を思い返した。
私は1年間休んだのは怖かったからだったのもあった。
けど、それは同時に罪悪感もあった。
また、繰り返そうとしている。
怖くて体は震えていた。
でも、2度と同じ過ちは繰り返さないと決めたではないのか。
「もう、なんでこんなことになってしまったの!」
王城の中に私は走って駆け抜けた。
途中で私は兵士に身柄を拘束され、そのままあの神殿のあった間に通された。
神殿の間で集団を率いていた女、王女だった女性が私へと近づいてきた。
「勇者様、どうして逃亡なんて真似をしたんですの? 私の話を聞いてくださるならしっかりとした対応をしますのに」
理不尽極まる嘆きの言葉。
勝手な言い分に腹が立った。
「逃げるに決まってるわ。素性の知らないあなたたちの勝手な都合を押し付けられて平常心でいられるほど強いメンタルを持ってないのよ!」
すべての鬱憤をぶちまけるように私は吐き捨て続けた。
「こっちは勝手にこんな異世界に飛ばされて勇者に任命するとか言われて、いい迷惑なの! 勇者なんかになりたくない! ただ声優アイドルとしての出世の道を歩んでいきたかっただけなのにそのすべてをあなたたちが壊した! なによりもそのせいで私はまた襲われて一人を見捨て逃げた!」
「逃げてきた? そうですわ、もう一人の勇者様はどちらにいらっしゃるのですの?」
「何者か知らない連中に捕まったわよ。あなたたちのせいよ! どうにかしなさいよ馬鹿ぁあ!」
周囲が静かになっていくと瞬時にあわただしく動き出した。
王女が指揮をとって、武装兵士を集めだした。
「勝手な言い分でしたわ。勇者様の気持ちを考えず強引に進めたことには謝罪しますわ。ですが、私たちには必要なんですの。ですから、勇者様はかけてはならない存在でもあるんですわ。お願いしますわ勇者様。あなたたちを拉致したもの居場所を教えてくださいませ」
態度を改めた王女が私の前に膝間づいた。
私は二度の過ちを繰り返さないためにも勇気を振り絞る。
「私の名前は勇者なんかじゃない。私は本条雪菜であり声優アイドル種村雪菜よ」
私は宣言と共に彼女たちを率いてあの見知らぬ彼を救いに動き出した。