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襲撃者

 俺は慌てて雪菜を探しに走った。

 街中を走り駆け巡り、町の中心の通り沿い。

 その裏道に入るところで彼女の姿を見かける。


「雪菜さん!」


 声をかけたが彼女は足を止めることはなく、そのまま裏道へと姿を消す。

 彼女に話をして止めなければ何か複雑な感じのままこの先進んでいくのは気が咎めてしまう。


(そんなのは嫌だ!)


 足に力を入れて地面を踏み込んで加速する。

 まるで風を切るような感覚の速さに思わずびっくりしたが裏道にすぐに入る。

 最悪な現場を目撃する。

 壁の中へと吸い込まれていく雪菜の姿と雪菜を壁の中に吸い込ませる謎の黒い手。


「何してんだてめぇっ!」


 拳を固めて壁に向かった。

 彼女に向かい手を伸ばすが、雪菜の涙目の顔がそのまま壁の中へと沈んでいく。


「うわぁっ!」


 壁を殴りつけて壊すが壁の中には誰もいなかった。

 壊された壁が起因となってその壁の家屋は倒壊する。

 倒壊する瓦礫の中に俺はただ放心しながら埋もれていった。

 ――それから数十分後に俺は駆けつけたイスア国の騎士団に救出された。

 幸いにも建物は空き家だった。俺以外に怪我人はでなかった。

 だが、幸いではないことが一つ浮上してしまった。その空き家は空き家ではあったがわずかにそこで何者かが秘密基地としてイスア国の内情を探るのに利用していた痕跡があったのだ。

 他国へと情報を流すのに利用する計画書類や道具などと一緒に。

 また、その書類には他国へと勇者を拉致する計画も含まれていた。


 ********


「よもや他国にあなたが出向く前にこのような事件が起きるとは想定外でしたわね」


 王城内の玉座の間で重苦しい空気が流れていた。

 その空気の原因は言うまでもなく、イスア国の象徴的勇者である種村雪菜が拉致されたことに起因する。


「それで、ミレイ。拉致した国はどこかつかめましたの?」


 王女が玉座の間で唯一、椅子に座らずに立ったままの一人の騎士へと説いた。

 この国の騎士団にして騎士団長。国の安全を守る筆頭騎士の女性。

 今回の騒動は彼女の落ち度にも起因してくることになってくるため彼女は沈痛な面持ちで受け答えた。


「拉致した国はスメラギ皇国の人間でした」

「なるほど、スメラギ皇国が魔王とのつながりは濃厚になってきましたわね」

「皆様、本当に申し訳ございません。私が彼女の護衛に常についていれば……」


 ミレイは深く頭を下げ、自らの腰鞘に納めた剣へと手をかけた。


「この罪はこの命を持って」


 俺は慌てて席を立ち彼女の腰にあった剣を取り押さえる。

 その場にいた全員、ジルや王女は俺の素早すぎる行動に驚愕していた。


「おいおい、勇者ぁいつのまに身体能力向上なんて魔法を使えるようになったんだぁ?」

「驚きましたわね」

「本当についさっき覚醒したばかりさ。それにこれは魔法なんかじゃない。たぶん、勇者の力の一片だよ」

「ハハァッ! すげぇなやっぱりアタシのご主人様はちげぇや」


 すごくうれしそうにはしゃぐジル。

 時に俺はそのジルに強く聞かねばならないことがあった。


「ジル、お前俺の言うことは何でも聞く約束だよな?」

「なんだよ、勇者ぁ改まって」

「お前は最近、俺の命令で他国へと偽の情報を流すように仕向けるように命じた。だが、そのあとから襲撃事件や今回の事件が発生している。ジル、お前は嘘偽りなく俺の命令通りに行動をしているよな?」

「勇者ぁ、これは隷属契約に反する質問だぜ。アタシを疑ってるっていうのか?」


 俺は今までジルを信じてきていた。今回の騒動ではさすがに彼女を疑ってしまう。

 襲撃事件のすぐ後に起こっている概要が概要だ。


「勇者、アタシも別に擁護する気はねぇさ。でも、もしもあたしが勇者の命令にそぐわないことを一つでもしたらこの魔法でアタシは死ぬ。それすら忘れたとは言わせねぇぞ」


 ジルの訴えかける圧に俺は彼女の目を見て首筋のあざを見た。

 彼女の言葉に嘘偽りはない。

 それは魔法が信用を示している。

 彼女の仕事の証明は最近も目にしている。

 それは蓄音機の開発だ。

 あれが同盟の計画の進行にもつながらない。


「疑って悪かった。すこし疑心暗鬼に陥ってしまってる」

「まぁ、アタシにも気持ちはわかるぜぇ。けど、断言していい。アタシは裏切ったりしてねぇさ。第一、今のアタシはあっちにとっても用済みらしいしな」


 彼女は遠い目をしながらため息をついた。


(そうか、あの襲撃事件は彼女を消すための……)


 俺はそうとは気づかずに彼女を疑ってしまったことへ謝罪の気持ちでいっぱいになる。


「本当にジル申し訳ない」


 自然と涙があふれていた。

 その場にいた全員が俺のそのあまりにももろい姿に慌てふためいた。


「おいおい、何もなくこたぁねぇだろ。勇者が情けねぇ姿さらすなよ。こっちが弱るじゃねぇえか」

「勇者様、ここは私も協力してかならず雪菜様を救い出す計画を考えます」

「そうですわ!」


 3人に慰められて、情けないと思い立ち涙をぬぐう。


「それよりも、気を取り直してさっそく雪菜様を救う手段を考えなくてはいけませんわ。わが国ではまだ彼女の存在は必要不可欠でしたのにこのような事態では国の再建どころか世界の平和も遠い目的ですわ」


 王女がその場の空気を換えるように話の方向性を持ち直すように説明をする。

 それに続けるようにミレイが挙手して回答をする。


「そのことで一つ王女殿下にお伝えしたいことがあります」

「ミレイ、何かしら」

「これを皆様でご覧ください」


 ミレイはあらゆる道具と書類の束を机の上に出した。


「これは?」

「スメラギ皇国のスパイが秘密基地にしていた空き家から押収した計画書とそのほかもろもろです。残っていたといってもほぼ燃えカス同然のもので限界まで魔法で修復した形だけになりますが」


 秘密基地にあった物的証拠はスメラギ皇国のスパイが秘密基地にしているとわかる品の数々ではあったがそれはほぼ燃えカスも同然にはなっていた。

 秘密工作員がそう簡単に証拠など残すはずはなかった。

 ほぼ、知られてもスメラギ皇国が損するような書類や道具は残されてはおらずほぼ無意味とも取れるような証拠品だけだった。

 ならば、どうしてスメラギと決定つけられたか。

 それは騎士団のミレイの腕によるところ。


「私たちはまずあの空き地でこれらの証拠品を見つけました。あの空き家には人がいた痕跡としてはまず傭兵が住処にしていたことや浮浪人が住処にしていたなど想定できましたが、それでも私は怪しんでこれらの証拠品の再生を試みてこのスメラギ皇国の記章の入ったバッジのかけらを見つけることができました」


 彼女は人差し指にわずかに乗る程度の小さなかけらを手に取る。

 何かの魔法を施した。

 かけらがみるみると何かの形を取り戻していく

 まるで時を戻すようにして。



「へぇ、すげぇな騎士団様はそんな力を隠し持っていたってか」

「そんな優れた力ではありません。これは物に限って時を戻すことができる私のみが備え持つ特異な魔法です」

「そりゃぁ、便利だねぇ。あ、でもアタシにはあんたが無限の剣姫って言われる所以がわかったぜぇ、ハハッ」


 ジルとミレイの間で見えない火花が飛び散る。


「おい、ジル余計な口出しをして彼女をあおるな。今、ミレイさんは大事な話をしている。最後まで俺は聞きたい」

「ちっ、つまらねぇ」


 ジルは少し不貞腐れた態度を示す。

 そのまま席を立った。


「おい、ジル?」

「アタシはただの奴隷だ。いくら主人の命令でこの場に来たがやはりアタシには居心地がわりぃから帰らせてもらうぜ」

「おい、ジル!」

「勇者ぁ、アタシはアンタの奴隷だ。アタシをいつまでも対等な扱いをしていたら本当に裏切るかもしれねぇぜ。ハハハっ!」


 ジルはそんなこちらの猜疑心をあおるような言葉を言い残して玉座の間から去っていった。

 あとに残された3人だけがあらためて顔を突き合わせる。


「赤髪のジル、彼女の粗暴はなんがありますが多少は見方を変えるべきかもしれませんわね」

「え」


 王女は立ち去ったジルを称賛する言葉を口に出した。

 俺はその意図がわからず間の抜けた声が出てしまう。


「あの者は自らの立場を理解して、こちらの信用を得るためにその場にいるべきではないと自ら判断をして立ち去った。もしも、あのままここに居座れば信用性は私たちから得られはしませんでしたわ」

「あ」


 俺はそのことにようやく気付いて彼女の言った言葉の意味を理解して愚かさを痛感した。


「俺は馬鹿だな」

「それより、ミレイ話を進めて頂戴」

「あ、はい!」


 ミレイは記章がスメラギ皇国であることを突き止めた証拠だとたたきつけると次に、手にした一枚の燃えカスの紙をまた自らの時戻しの魔法で復元する。


「これは契約書の一枚でしたがここにはスメラギ皇国へと勇者を拉致して持っていく計画書の密文が書かれていました。それとお二人に伝えねばならない重要なことがさらにありました」

「重要なことですの? それはなんです?」

「私も先ほど気づきましたことで、我が隊の騎士が間違えてこちらを水にぬらした際に浮かび上がったこの白紙の裏地をご覧ください」


 そこに書かれたのはこのイスア国の地図と今後の俺が編み出していた計画の意図についてが鼓膜書かれたものだった。


「これはイスア国の地図に勇者様が考えた計画の一部概要ですわね」

「そうです。このことから私は王城内部にスパイがいると確信いたしました」


 俺と王女に緊張感が走る。

 王女はすぐに何かに気づいたのか紙を手に取った。

 最後の下の文字を見つめながら机をたたきつける。


「ミレイ、彼女は捕らえておりますの?」

「はい。捕縛を命じております。ちょうど、船で出向をしていたところを捕縛いたしました」

「今すぐ私の前に連れてくるのですわ!」


 俺にはわけがわからず王女の手にしていた紙の最後の文字を覗き見た。


「何かの後?」

「勇者様にはご存じはありませんわね。これは我が国へと入国を許可する紋章ですわ」

「入国を許可!? だって、相手はスメラギ皇国ですよね? 他国を簡単にこの国は招き入れるんですか?」

「簡単には招き入れませんわ。私や宰相など高官の立場の者が判断をいたしますわ」


 その言葉に俺はある一人の女性の顔が浮かぶ。


「まさかっ!」

「私はスメラギ皇国がこの国に入国している事実を知りませんでしたわ。そうした国の事務はすべてあるものに任せていましたわ。だからこそ、この仕打ちは重く受け止めていますわよ」


 玉座の間にノックの音が響いた。

 俺は音に気付いて席を立つ。

 ミレイや王女も席を立ち、魔法によって形成されていた椅子はたちどころに消える。


 玉座の間の重苦しい扉が開いて一人の人物が騎士に捕縛されてはいってくる。

 乱れた特徴的な青い髪に怒りに満ちたその形相を俺に向けていた。

 その一人の人物はとにかく俺へのあたりが強く何かと敵対心を出していた。


「よく来ましたわねクレアス・ナーラ」


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