異世界の新発明機
「おっさんの場所?」
ジークライトの解決策があるといわれて付いてきてみればそこは鍛冶屋であった。
いろいろと自分も懇意にしてもらって道具やらライブの設備の設計建設を任せてしまっている。
もちろん、それに見合った報酬を国はしっかりと今は払っている。
「おい、ジルどこで油を売っていた。買い出しにしては時間がかかりすぎだぞ」
「うっせぇ、ウル! アタシは勇者の奴隷であるがアンタの奴隷ではねぇんだ。勇者の命令で仕方なくだ! しっかりと買いだしてしてるだけでもありがたく思えっての」
鍛冶屋のおっさんの本名、ウル・ダイバーンというがその名前を呼び捨てで言い合う仲にまでなっているのに俺は驚きと安心をする。
「なんだ、仲良くやってるんだな」
「勇者、どこが仲良く見えるんだ? アタシはアンタに命令で仕方なくやってるんだぜ。わかってんのか?」
「そういうわりにしっかりと仕事をこなしているじゃねぇかよ」
「チッ」
そう言いながらジルは頼まれていた買い出しの物をおっさんに渡していた。
中に入っていたのは何かの鉱石類のようだ。
「ちっ、これだけか。他は?」
「ギルドに聞いてみたけど今は復旧作業でほぼあてがってるから無理だって話だぜ」
「けち臭い」
「それより、ウルそろそろ気付け。勇者が来てんだ」
ようやくおっさんがジルに言われて作業ゴーグルをとってこっちのことを確認した。
深く頭を下げる。
「いやはや、これは申し訳ない! 作業をしているとどうにも視界が狭まってしまって! 今日は何ようですか!?」
「あー、いや、ジルの奴が俺が離れてる間にこの街で歌を届けられるような変わりがあるっていうから連れてこられたんだ」
「なるほど、例の奴ですね!」
すると、彼は二階にいる娘を呼びつけた。
「何お父さん?」
二階から降りてくる一人の女性。
この鍛冶屋の娘であるユカリさん。
彼女は俺らの存在に気付くと慌てたように頭を下げた。
「これは勇者様! 今日も来ていただいてありがとうございます!」
「そんなかしこまらないで」
「ユカリ、勇者様は例のラクリマ機を見たいそうなんだ。ジルと一緒に持ってきてくれないか?」
「あれを? でも、あれは一度外に出さないと」
「だから、二階から運搬していきなさい」
「わかったわ。ジル手伝って」
そう言われてジルが動き始める。
二階に上がったジルを見送りながら俺らはただその場に待たされることになった。
どうにもずいぶんと大きな装置のようだ。
「あの、そんなに大きな機械を作ったんですか? 予算は?」
「ああ! その心配はいりません。王女殿下からは国のためにと前金を多くいただいておりましておかげで金には困らない生活を送らせてもらっております。これも勇者様のおかげで」
「いや、こっちはただお願いしているだけですから。逆にありがたいので」
しばらくして2階から慌てるような音がした後に声がかかる。
「おい! ウル勇者様を二階に案内していいんだよな?」
「もうできたんならそうしてくれ。では、勇者様2階へどうぞ。申し訳ないですが私はまだ作業中ですので操作は二人が実演してくれますので」
実演というとそれなりに操作をして何かを起こす装置のようだ。
一体どんなものを作ったのだろうか。
そんな気持ちを胸に二階へと上がった。
すると、二階のベランダに出ている二人の姿。
その二人の間に正方形上の箱にまるでラッパのようなものがのっかった装置があった。
「これって蓄音機じゃないか!」
まさに俺の世界である音を流したりするための機械そのものだった。
この世界の人間がライブを見たりしただけでこの装置の開発に行きついたのは驚きである。
「あれ、勇者様ご存じなのでしょうか?」
「まじか、アタシは知らねぇ自信あったがこりゃぁがっかりだな」
「いやいや、十分に驚いているさ! たしかにこれなら俺のいない間にでも音楽を流すことができる。しかし、よくコイツの開発を思いついたというか。俺もあればよいなっては思ったけど」
その開発には考えたが何分内部構造の設計を知らないので伝えるのも難儀するので記憶の外に追いやっていた節もある。
そんな折にまさか、実物を作ってきてしまうなどとは思わなかった。
「コイツは元々は風の魔力を収束して放つ魔力波装置なんだぜ」
「魔力波装置?」
「そうさ。周囲の魔力や自然の生み出す風などを収束して放つもんさ。戦争の道具ってやつだ」
「じゃあ、音とかはどうするんだ?」
「そこだ! ウルとアタシやユカリはいろいろと知恵を絞って考えた。音を収束できるようにするためにどうするべきか! そして改良を行い完成したのがコイツだ!」
ユカリさんは蓄音機の箱の部分を何か操作して押すと箱の部分にある蓋が外れて何か黒い網目のようなものが出ている。そこから何か光のようなものが見えた。
「今から私がここに声を入れます」
ゆかりさんは叫び声を加える。
蓄音機を再度操作して数舜後。
耳をつんざくような叫び声が響く。
あまりのうるささに鼓膜が震えて頭ががんがんと響いた。
「これは……」
「まだ、改良が必要だがこうして音を収束して放つようにできたってわけだ。だから、ユキナにはこの装置に向かって歌ってもらいそれを流せばいいってわけだ!」
そのジルの説明に真っ先に頭に思い浮かんだのは校内放送を思わせるようなイメージ。
思わず歓喜に震えてユカリさんとジルの身体を抱きしめて感謝をした。
「ありがとう! これはすばらしい! これなら確かに俺がいなくても大丈夫だし雪菜もいなくても歌を届けれる!」
「うれしいのはわかったから離してくれよ」
「ええ、勇者様恥ずかしいです」
俺は慌てて二人から離れる。
「ひゅーひゅー! 熱いね勇者様ぁ!」
「さすがは勇者様だ! 女性を二人も相手なんて羨ましいね!」
最初の蓄音機の試しで人が集まっていた前で堂々と抱きしめていたためかヤジが飛んできた。
それもとんでもなく恥ずかしい。
「ごめん!」
慌てて離れると後ろにぶつかる人の気配。
ゆっくりと振り向くとすっかりとその存在を忘れていた彼女が明らかにお怒りの表情で笑顔を取り繕っていた。
「ずいぶんと楽しそうね」
「雪菜さん、これはちがう! あまりの嬉しさに」
「もう知りません!」
彼女は怒ったようにその場を後にして出ていってしまった。
「あ、勇者様。この装置はどうしましょうか?」
「それは使えるからあと一つ開発を依頼したい! またあとで話をさせてくれ!」
そう伝言を伝えながら俺は慌てて雪菜の後を追いかけるのだった。
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