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玉座の裁判

 私はアイドルの種村雪菜としての異世界事業も兼ねた夜間ライブを終えて王城へと戻った。

 王室内では何だか不穏な空気を感じて私は小首をかしげる。


「なにかしら?」


 王城内の廊下を歩きながら自室へと戻ろうとしたときに城内の侍女の噂話が耳へと偶然にも聞こえた。


「え、それって本当?」

「勇者様と王女様がまさか密事する中なんて」


 私は自分の耳を疑いおもわずその場で足を止めて二人の侍女に歩み寄っていく。

 侍女がこちらを驚きの様相で見返してきた。


「あ、あのユキナ様何かありましたか?」

「今の噂どういうこと?」

「え、噂ですか?」

「そのあの人、霧山頭と王女がそ、その……」

「ああ! 先ほどたまたまわたくしも耳にした話でして。何でも勇者様はお一人で王女に用事があると部屋へと向かわれたとか」

「そ、それだけ?」

「こんな夜更けに部屋へと向かっていったので密事の中なのではないかと」


 私は飽きれたが同時に不安も痛感する。

 その不安がなぜ感じるのか不思議だった。


「あ、あのユキナ様?」

「彼を擁護するわけじゃないけど、たぶんそんな仲ではないんじゃないと思うわよ。それより、今彼は一人で向かったといった?」

「ええ」

「例の奴隷はどうしたのよ?」

「それですが、なんでも鍛冶屋のところで働かせるために置いてきたとか」

「はぁ!? 何それ!?」


 私は彼の不用心なまでにあの敵だった女の信頼性に正直がっかりしてしまうほどである。

 隷属していてもまだ危険性がある女を一人にするなど言語道断だ。


「頭ったら、どうしてあそこまであの女を信用できるのよ。魔法の効果だってどこまで可能性が見出せるかわからないのに」

「あの、ユキナ様?」

「ちょっと、鍛冶屋まで案内して」

「鍛冶屋ですか? 王女の寝室ではなく?」

「なんで王女の寝室なのよ?」

「いえ、あの……ユキナ様は勇者様と王女様の関係を気にはならないのかなと」

「さっき言わなかった? そんな仲じゃないと思うって。だから私は彼をその辺は信じてるの。それよりもいったとおり案内して」


 私の強引な言い分に少々渋っていた侍女だったが従い、廊下を歩いて先導し案内を始めた。外へと出向いてある場所にまで来る。


「鍛冶屋ってここだったのね」


 侍女に引きつられてきた場所に見覚えがあった

 その場所はあの事件の際に自分がこの世界で初めて歌を歌わせてもらった場所だった。


「ここまででいいわ。あとは自分一人で平気」

「わかりました。では、これで」


 侍女を帰らせて私は目の前に聳え立つ建物に向き合いその扉を開いた。

中を開ければどこか焦げ臭く、あちこちに道具が散乱していて如何にも古びた工場のような場所だった。

 奥に一人の鍛冶師のおっさんが、何かを鎚で打っていた。


「おや、これはこれはあの時の女の勇者様じゃないか」

「どうもです」

「今日は悪いがもう店終いなんだ」

「あ、いや、別に何か依頼をしに来たわけじゃないわ。ここにあの勇者が働かせに預けた奴隷がいないかしら?」

「ああ、例の傭兵なら3階のベットで娘が面倒を見ていますよ。案内しましょうか?」

「あ、いえ、大丈夫よ」


 奥に見えた階段を使って上に上がっていく。

 3階に付けばベットがあってそこに確かに女はいた。

 だが、彼女はいたのだがその彼女は鍛冶屋のおじさんの娘らしき少女の首筋に牙をたて血を飲んでいた。

 私はおもわず喉を引きつらせ、悲鳴を上げる。

 その悲鳴は自分でも驚くほどに音波を放ち周囲を振動させた。

 それに衝撃を受けて、ジークライトも少女の首筋から口を離す。


「チッ、人の邪魔すんじゃねぇってんだ」

「あなたはやはり信用できなかったわ。今すぐ王女と彼に頼んで抹殺の命令を」

「おいおい、待てよ。まずはアタシの話を聞けって。この女は死んではいないし生きてる。それに今のは救命措置で」


 彼女に弁明は許されない雰囲気は次第に訪れ始めていく。

 3階へと慌ててやってきた鍛冶屋のおじさん。

鍛冶屋のおじさんは愛娘の様子を見て一目散に抱きしめた


「ユカリ!」


 娘の身体を抱きしめながら私と傭兵女の様子を見てからおじさんが傭兵に向かい手を掲げた。

「首を自分で折って死……」

「待ってお父さん!」


 その時慌てるように少女が声を上げた。


「その人は私を救ってくれたの。だから、殺さないで」

「どういうことだ?」


 私も意味が分からなかった。

 その後に私はとりあえずと慌てるように王城へと伝達を行うのだった。


*********


 脂汗を額に浮かべながら俺は玉座の間で王女と騎士団長のミレイさん、雪菜さんと一緒に一人の女を囲んで鎮座していた。

 その女とは件の鍛冶屋で鍛冶屋の店主の娘を襲った俺の奴隷としていたジークライト。


「ジル、どうしてあんなことをしたのかもう一度説明をしろ」

「だぁかぁらぁ、何度も言ってんだろう。アタシは急に現れたやつに襲われそうになっていたところをあの娘が守りに出て怪我をしたからアタシの血液を与えることで治癒を施したんだよ。第一ユカリだってアタシは何もしてないって言ってんだろ」

「いい加減にしなさいませ! いくら殺していなくともあなたは我が国の民間人をまた一人怪我をさせたというんですわよ! それに、勇者様を信じてあなたを奴隷にしましたけどこのような行動をしては彼女を殺すしかありませんわよ勇者様」

「怒る気持ちもわかるけど待ってくれ。ジルだって襲われたって話もあるし」

「嘘の可能性が大ですわ」


 さながら裁判でも起こってるかのような状況。

 王女のその言葉には賛同するように雪菜さんとミレイさんも大きく頷いた。

 彼女を未だに必死で擁護しようとしているのはこの場にいる俺だけである。

 そもそも、俺だって擁護なんてもうしたくないって気持ちもあるがこの先のことを考えればどうにかして彼女の身の安全を守ることもある。


「確かに彼女が嘘を言っている可能性大だ。だけど、彼女は奴隷だ。だから、俺に対してはウソは言えない」

「それはそうですわね」

「ジル、さっきのことは真実なんだな?」

「そうだっていってんだろ」


 ジルに施された隷属魔法が発動を示さないとことをみてそれが真実だという証明はなされた。


「だったら、なぜあの場にその襲ったものがいない? 彼女が何かをしたからいないのではないのか? そもそも襲ったものなどおらず彼女自身の自作自演ではないか?」


 最もな疑問をミレイさんが追求した。

 それに対してジルは小ばかにした笑いで答え始める。


「そりゃぁ、襲ってきたやつってのが魔法で消えたんだからいねぇに決まってんだろ! だいたい、アタシを消しに来た刺客がそう簡単に現場に居座ってやられる人物なわきゃぁねぇだろ」

「馬鹿を言いますわね。なぜ、あの場所にあなたがいると知っていますの? あそこにあなたがいることを知っているのは勇者様と鍛冶屋の親子だけだったはずですわよね? 第一、あなたが狙われる理由はこちらには理解できませんわ」

「ハッ、そんなのどっかで情報が漏れたんだろうよ。あとな、狙われる理由は心当たりがあんだよ」

「心当たり?」

「アタシを殺しに来た女は魔王の兵士の一人に違いねぇっての。その証拠にコイツを手に入れたからな」


 彼女は円卓の上に一つの物体を置いた。

 それは見ると明らかに折れた刀の刀身に見えた。


「それただの折れた刀の刀身じゃねぇかよ。それが何になるんだ?」


 俺のツッコミにジークライトは笑う。


「おいおい、刀って知ってんのかよ勇者様。こりゃぁ驚いたぜ」

「は? 刀くらい知っている。それは俺の世界でも有名な武器だったし」

「へぇー、そりゃぁ面白れぇ話だ。勇者の世界では有名な武器ってことはスメラギ皇国の奴はもしかしたら元は勇者と同じ世界から来た奴らの子孫かもな」

「は? スメラギ?」


 その話どこかで聞き覚えがあって思い悩んでいると王女が口を挟みこんだ。


「無駄話はそこまでですわ。ジル、あなたはそれが本当に襲撃者が持っていたものだとおっしゃいますの?」

「コイツはアタシを襲撃したやつの武器をアタシが蹴り折ったもんだ。なんなら、ユカリに確認してみればいいさ」


 王女が暫く黙りこんだ。


「王女殿下、本当にスメラギ皇国が魔王と繋がっているのだとすれば一大事です。早急に対策を考える必要があるのではないですか?」


 ないやら暗雲立ち込める空気。


「あ、スメラギ皇国って魔王の関連国じゃないかって噂していた国のことか」


 俺は今更思い出したように声を上げた。

 それに対してぎろりと王女に睨みつられた。


「よもや、勇者様今までお忘れでありましたの?」

「あー、いや、あはは」

「ずいぶんと、こちらは思い悩む国でありますのよ。スメラギ皇国は世界では独立とした他国協和を重んじている国であり、スメラギ皇国に手を出すことはすなわち他国にも手を出すことに繋がるのですわ」

「待て待て。この世界って国同士で同盟を結ぶことはないんじゃないか?」

「スメラギ皇国だけは違うんですわ。あの国だけは自らで文化を発展していってるんですがその文化を売って発展してきた斡旋国なのですわ」


 その言葉を聞いたときに俺は衝撃を受けた。

 今から俺がやろうとしていることと近いのである。

 これでは俺の計画とはうまくいく保証も手薄になるんじゃないかという不安が募り始めた。



「あはは、おいおい勇者ぁ。まさか、今から自分がやることと近いとか思ってるか? それはちげぇぞ」

「なに?」

「スメラギ皇国ってのは文化を売って相手から資金や文化をもらってるが決して同盟を結んでいるわけじゃない。あいつらはあくまで商売をしているってわけだ。協力関係なんだよ。文化を共同しているのとも違うぜ。しかも、あいつらは質がわりぃのは必要がなくなったときの対策でそんな契約をしている最中に自国の兵士を忍びこませてるんだ」


 その発言に俺はおぞましさを感じる。

 自ら生き抜くことさえできるならばなんだってやるという気合を感じる国という印象を一発で受けた国の内情だ。


「そんなスメラギ皇国はそうやって今までうまくやってきて幾つもの国を必要なくなれば内部から破壊していった。アタシもそんなスメラギ皇国に潰された国の出身者だったわけだがな」

「なんだって?」

「あとよぉ、王女殿下。アタシを襲撃したのは魔王軍の幹部だぜぇい」


 そういった発言が王女に緊張感を走らせた。

 ミレイさんは怒りに立つ。


「なぜ、貴様はその事を先に言わない! 殿下」

「ええ、今すぐ国への巡回を行ってくださいませ」


 ミレイさんはその場から立ち去ってすぐに街の巡回に出向いていった。

 俺はジルの方を見ながら王女へと目を向ける。


「彼女のことはこれで信用置きましたか?」

「いいえ、まだですわ。いくら狙われる理由はどうあれ彼女が危険なのは変わりませんわ。なので、これからは奴隷をいくら命令権で行使していたとしても一人にすることは許しませんわよ」


 彼女の真摯な瞳に俺は渋々頷くしかなかった。


「あなたの言うとおりにしましょう。今回はこちらにも非があったので」


 周囲の視線に当てられて俺はあきらめたように吐息を零した。


「しかし、今回の一件は逆に好都合で利用できるかもしれない」

「え」

「どういうことですの?」

「どうせ、ジルには後々に魔王の傘下へと情報の錯乱である情報を流出させる予定でした。なので、今回はこの機に乗じて例の作戦を早めようと思います」


 雪菜が気づいたように言葉を切り出す。


「それって、ミレイさんにお願いしてた?」

「ああ、そうだ」 

「作戦というのは例の言っていたものですの?」

「はい」


 俺はこれから起こそうとする作戦を語った。


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