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傭兵の謎1

 闇ギルド跡地であの災害の一件から変わらずに行われてる夜の配給作業。

 今日は騎士たちだけで配給は行われ、雪菜さんが野外の夜間公演を行い、会場に笑顔を届けていた。

 俺はその光景を遠目から窺っていた。


「ここからなら、会場を一望できそうだな」

「あ、あの、勇者様?」

「ああ、すみません。急に押し掛けるような形になってしまって」

「いえ、それはかまわないがこの伝えられた通りの物というのは?」


 俺がいるのはジークライトとの戦いの時に雪菜が訪問して、歌を歌う場所に利用した鍛冶屋だった。

 そう、ペンライトを作ってもらった場所でもある。

 そこには多くの鉄を用いた道具が作られており、中にはペンライトを模した武器の開発もしている様子だった。

 今回の俺はライブ活動においてまた必要があるのじゃないかと思う物の製造を依頼に訪問していた。

 その目的のブツの大まかな概要を伝えたが店主は困惑した眼差しでジッと俺を見ている。


「歌を彼女が歌うための演出に使うんだよ」

「えんしゅつ? なんですかソレ?」

「まぁ、それはライブでわかるんだけど、その前に店主にまだお願い事をしてもいいだろうか?」

「勇者様の頼みであれば全然引き受けますがなんでありますか?」

「まずはこのペンライトだけれども色が常に固定なところがある。それを変えられる機能をつけてほしい」


 作ってもらっていたペンライトには実は色の変化させる機能がついておらず、常に一色のみであった。


「色ですか。照明の部分をどうにか魔道石で弄ればどうにか改良できそうではありますね」

「この棒の部分を棒じゃなくできたりもしますか?」

「え!? 棒じゃなくても良いんですか!?」


 意外な反応を示す鍛冶師のおっさんがあるものをどっさりと持ってきた。

 箱の中に入った様々な形をした残骸。


「えっと、これは?」

「ペンライトを改良しようと私なりに考えて作ったものなんですよ! それの結果で生み出されたゴミ山です」


 そういった鍛冶師のおっさんの言うゴミ山を俺は漁り始めた。

 その中にいくつかライブ向きに使えそうな形状のものがいくつかあった。


「コレとコレは使えそうですね」

「っ! コレとコレですか! ああ! 無駄にならずに済んでよかったです!」


 すぐに何か作業に取り掛かり数分してああッという間に丸形の先になったペンライトが生まれた。


「これはいいな。ぜひ、コイツをまた量産してほしい。それから、ギルドにこの形の奴を配達もお願いしても問題ないだろうか?」

「ギルドにですか?」

「ああ、コイツはギルド限定にでもしたい」

「よく、わかりませんがわかりました。それと、勇者様最初に置伝えてくれた道具なんですが」

「ああ、どうだ?」


 店主が逡巡した後に首を全力で振った。


「無理無理無理無理、無理です! そのような勇者様の知識にある道具など一回の鍛冶職人である俺に作れるなどないです!」

「そこを何とかお願いできませんか! 無茶を承知でお願いしたいんです」

「ですが、聞いての構造でもわからないですし」


 よほど怖いのか彼はおびえた表情でいる。


「無理か。それなら、ペンライトをどうにか利用して作ることでどうにかできないか?」

「えっと……どういうことでしょうか?」

「ペンライトは一応照明にもなる。つまり、その部品だけの構造を利用して」

「っ!」


 鍛冶職人は何かに感づいたように大きな紙に設計図のようなものを書き始めた。


「このような感じでどうでしょうか!」

「おお! いいね。それを作り上げたらギルドに送ってくれると助かるよ」

「わかりました。どのように扱うかは存じませんが何とか頑張ってみましょう」

「それと、おおーい! ジル!」


 俺は外で待機していた奴隷のジークライトを呼び出した。

 鍛冶屋の中へと入ってくるジークライトは多くの道具の合間を縫って近づいてくる。

 道具の間を通り抜けるが実に億劫そうな顔をしている。


「おい、勇者ぁ、アタシを呼びつけたってことは何かやるってのかぁ?」

「ああ。ジル今日は奴隷としてお前に初の仕事を与える」

「あはっ! なんだ? アタシへひどい仕打ちか!」

「その喜び方が逆に怖いがひどいことはしねぇよ」

「なぁんだよ、なら、何をさせるんだ?」

「そこまでがっかりするのが逆にひくわ。ゴホン、ジルお前今日からここで働け。そして、ギルドの配達係をしろ」

「あ? なんだと?」


 おっさんに聞こえない声量で耳打ちする。


「単純な作業だ。お前はこの鍛冶場を損傷したこともあるんだ少しは詫びの気持ちとして手伝いをしていろ」 


 俺は鍛冶屋の店主に向き直ってジルの肩に手を置いて宣告する。


「おっさん、この女をしばらくここで働かせてやってくれないか。例の配達作業やその完成する道具を主に使用するのはコイツになるからあとのことはすべてコイツに任せてくれ」

「あ、あの勇者様一つお尋ねしますがその方はもしや傭兵ではないですか?」

「ああ」

「でしたら、申し訳ないですが傭兵を簡単に仕事場に入れることはできません。今は勇者様がおりますから許可していますが、いくら勇者様の頼みといえども手伝いにとなると……」

「ならば、こういうのはどうでしょうか?」


 俺はジークライトの額へと手を触れる。


「この店主に危害を加えること一切として許さず、店主の命令を厳守とする。これは命令だ」


 ジークライトの身体中に刺青のような魔術の紋様が浮かび上がる。

 苦しみに喘ぎ、その場に膝をついた。


「おい、勇者ぁ! コイツはどういうことだぁ!」

「どうもこうもない。命令権の追加だよ」

「勇者ぁ、アンタ隷属魔法をたやすく扱えて来るようになってきてんじゃねぇかぁ。ああ、ぞくぞくするなぁ」

 

 ジークライトに行使した命令は彼女には興奮度をあげるだけにしかすぎなかった。

 俺がこの命令を行使した意図は店主の反応を覆すことにある。


「今のは一体」

「店主、確かにこいつは傭兵でした。でも、今は私の奴隷です。今のは隷属魔法の証です。命令を追加に行使しました。これで店主の命令もコイツは従います」

「っ!」

「あなたがコイツを憎んでるなら死ねと命じたりすることも可能です。それで、私の頼みごとを聞いてくれませんか?」

「あなたという方はなんとも横暴でありますね。わかりました。勇者様を信用しましょう。しかし、本当に私が命令をしてそれが可能なのか試してみてもよろしいですかな?」


 店主はジークライトへと近づく。


「ハッ、アタシを辱めるなり殺すなりするといいさ。アタシは屈しねぇぞ」

「傭兵であることをやめなさい」

「あっ!? アンタ何を言ってやがるんだ! そんなこと……ぐぁあああああ!」


 彼女の身体に電撃が走る。

 それは命令を無視したことによる魔術的罰則。

 彼女は苦痛に顔をゆがめながら、鍛冶職人を睨んでいた。


「あなた、見るからに若い。それなのにそのような粗暴な仕事について何も思わないのかい? 変える意味でまずは俺の命令を聞くのだ」


 ジークライトは屈したかのように服を脱ぎ捨てた。

 上半身が露出して素っ裸になるジークライト。


「おい、何し……」


 俺が口を挟もうとしたときに気付いた。

 ジークライトの胸元に何かの烙印のようなものが押されている。


「そうか、やはり君は烙印をもつ傭兵でありましたか」


 店主は分かったかのような表情をしているが全く俺には何が何やらわからない。

 ジークライトは悔しそうにその烙印に魔法で燃え盛る手を添える。


「……・……」


 どこかの言葉とも知れない詠唱のようなものをつぶやいた。

 烙印は消失すると同時にジルがその場で気を失ったかのように眠り落ちた。


「おい、店主、あんた何をしたんだ?」

「勇者様、あなたも簡単に人に奴隷の命令権をお譲りするものではない」

「いや、何をしたか聞いてるんですよ!」

「彼女に自分の傭兵の資格を剝奪するように命令したのです。ですから、彼女は力を失ったただの少女に戻りました。これで私は安心してこの場に彼女を招き入れます」

「剥奪?」


 困惑した俺を他所に鍛冶屋の戸にノックの音が響いた。


「お父さん、まだ仕事中? もう遅いよ……って、お客さん?」

「ああ、ゆかり。申し訳ない。今はまだ時間かかりそうなんだ。勇者様今日はこれでお引き取り願えますか? もう遅いので。彼女のことなら娘が面倒を見るので大丈夫です」


 もう、外は真っ暗闇に包まれていた。

 あっという間に暗闇に落ちる時間なのもわからないではないくらい今日の一日はハードであったかもしれない。

 俺は困惑したままにジルを見つめながら、その店を出ていった。


「傭兵のことについて俺は知らないことがあるのかもしれねぇな」


 俺はそう思いながら王城へと足を延ばしに歩みだした。



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