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明日からのための作戦

 厨房につくと俺は雪菜とミレイにお願いごとを頼むことにした。


「え、私と騎士団長で?」

「ああ、無理を承知だけどそこを頼むよ」

「でも、それでできるの?」

「そこは問題ないよ」


 俺は用意していたメモ用紙にざっくりと行う行事の一環を記載した。


「これをミレイさん、あなたに渡しておきます」


 それをしっかりと受け取ったミレイは困惑した表情をしながらその文面を読む。


「謎な名前のようなものがあったりしますが、大丈夫ですか?」

「逆に聞きますけど、俺の名前と騎士団長のあなたの命令を効かないギルドはありますか?」

「さすがにそのような場所はないと思う」


 彼女の断言を聞いてほっと安心して胸をなでおろす。


「ならば、大丈夫です。雪菜さんは例の昼休みの興行活動を行ってください。闇ギルドの跡地はもはやあなたのステージのようなものですから」


 続けて雪菜にも安心をさせるようにする。


「俺は次の計画の準備があるのでこの厨房を離れることはできなくなります」

「それは理解している。しかし、私と雪菜様だけで勇者様の事業を手伝える保証はない」

「いいえ、これは雪菜とあなたがいてこそできるのです。雪菜は歌で大国の人の心をもう掴んでいます。そろそろ街には他国の潜入兵が多くいる頃合いでしょう。それを見抜いて雪菜の身辺を警護してあげてください。それから例のギルドはあなたのような知れ渡っている強気存在が言ってこそ力になりますから」


 メモ用紙に記載しているのは作戦メモ。その行事活動は二人にしかこなすことはできないと思ってるものだ。


「わかった、さっそく私たちは昼休みのほうにかかればいいのね?」

「はい、お願いします」


 二人はそろそろと厨房室から出ていった。

 その入れ違いになるように一人の男性が入ってくる。

 この厨房を預かっている料理人長だ。


「おや、勇者様これは驚きました。また、何かご利用で?」

「そうですね。料理長ここではお酒とかって作ったりしていますか?」

「おさけ? それは何ですか?」

「あー」


 この世界にはそのような存在がないのかもしくはまたしてもこの世界特有の名称があるというようなことなのか。

 簡単に俺は身振り手振りで料理人長に説明をした。


「ふむ、聞いたこともないですね」

「そうですか」

「力になれず申し訳ない」

「いえ、大丈夫です。では、料理人長には昼休み用のカレースープをお願いできますか?」

「それはいいですよ。あなたに教えてもらいましたのでウチでは今はあれを用いてあららゆるメニューを思考錯誤させてもらっております」

「そうですか。良い傾向です」


 ここの料理人には飯を見てわかる通り調理技術が足りていないどころか知識がなかった。

 だからこそ、カレースープの調理の提供は彼らに良い刺激を与え新たな改革の始まりを意味していた。


「それよりも、勇者様一つお尋ねしても?」

「はい?」

「先ほどからあそこにいる方は?」

「あー、あいつのことは気にしないでください」


 料理人長が恐る恐る背後に目を向ける。

 真っ黒なコートを着込んで顔を覆い隠すようにフードをかぶっている女の存在。

 彼女の正体はこの場の料理人にもバレるわけにはいかない極悪人。


「ジークライト、お前料理くらいできるか?」

「あん? 料理だぁあ?」

「そうだ。厨房にいるだけじゃなく少しは手伝ってもらう」

「チッ、出来なくはねぇよ」

「なら、手伝え」


 俺はカレースープの材料をキッチン台に用意しながら説明をする。

 あらゆる食材を出し終えて、彼女が不満そうにこちらを見つめ文句を口にする。


「アタシに手伝わせる意味があんのかよ」


 俺はその言葉に思うことを口にした。


「女の手で作ったものというのは一つのブランドになるんだ」

「はあ?」

「今のは何でもない。いいから、少しでも街の人に被害を出した自分の行いを反省して手伝え」

「くそっ!」


 文句も言いながらも自らの首についた枷が隷属の証としてある以上彼女は渋々従った。

 俺は料理人に効いてあるものを無いか聞く。


「それならば、奥の倉庫にありますので持ってきましょうか?」

「いや、自分で取りに行きます」


 俺は厨房から出て奥の倉庫に行く。

 食糧庫らしいその場所に目当てのものはあった。

 俺はそれを大量に手にもって厨房室戻ると、料理に~少し離れたキッチン台でその材料を置いた。

 目の前に準備したものを見ながら俺は顔を顰める。

 なぜなら、それらはもう熟し発酵してしまったような果物だった。

 もともと捨てるようで別に分けてあった果物立ちであろう存在。


「あってよかった」


 しっかりとそれらの特徴や検分も確かめたうえでの試す工程。

 さっそく料理人長に聞いてある道具を持ってくる。

 発酵した果物を圧縮道具のようなもので押しつぶしていく。

 すべてを押しつぶした後に容器の淵に代理となるようなロートみたいな道具を使い中に果汁を流し込んでいく。

 それらをこの世界の冷蔵庫のようなものの中に入れた。

 あらゆる過程を一通り終えたタイミングでカレースープの土鍋を持ってきた料理人長とジークライトがあらわれる。


「畜生、こんな仕事させるなんていい度胸だな」

「自業自得だろう」

 

 ジークライトの文句に軽く流す。

 料理人長は興味深そうに材料の残骸を見ていた。


「勇者様は何をおつくりなっていたのですか?」

「ああ、それはコイツです」


 冷蔵室の中を開けて見せると料理人長は目をキラキラさせていた。


「な、なんですか!? 『フィッテ』しかし、発酵した果物を使うなど聞いたことなどない。あれはそもそも新鮮な野菜や果物を使うもの」

「コイツは大人の飲み物ってやつです。しばらく日を置かないと完成しないので完成形は明日にでも提供します」

「それは興味深いです」


 料理人長と他愛もない料理談議に花を咲かせてるとその空気を壊す発言をさらりとジークライトは言う。


「つーかよ、勇者すこし臭うぜ」

「うっさいわ! 発酵物を触ったから仕方ないだろう!

「ギャハハハハ」


 料理人長が訝しんだような表情でジークライトの方を見ている。

 今の笑い方と発言が彼女が囚人であると見抜かれそうになってしまっていると思った俺は慌てた。


「料理長、俺すぐにシャワーでも浴びてきます! ほら、お前も来い!」

「んなっ! てめぇ、アタシの身体も目的だったのか! ふざけんなアタシはそこまで安い女じゃねぇ!」


 俺は彼女の言い分を無視して強引に彼女を連れてその場から出ていった

 急いで身体を洗い流してこようと部屋へと俺は向かった。


*******


 別件で活動している雪菜は例のごとく路上でのライブ活動に重視していた。

 ミレイさんがちょうどメモで頼まれていた仕事から戻ったのか近くで待機しながら私のことを見守っていた。

 周囲のお客さんを見れば昨日よりも聞いている人が多いように見受けられた。

 さらに何人か怪しい目をした人物の存在も目に付いた。


「彼女は何者だ?」

「この感覚は魔法か?」


 冷静な分析を口にしている怪しい人物たちと会話が聞こえる。

 私は構わず歌う。

 しばらく休憩に入ることにしたときに壇上下にいたミレイさんが出迎えた。


「お疲れ様です、さすがですね。あなたの魔法は」

「これは何度も言うように魔法じゃありませんよ」


 ここの人たちにとっては歌とは魔法のように思えてしまうものなのだろう。


「しかし、さすがは勇者様でした。メモに記載された作戦の通りに私はギルドに配達と諸々の用意をお願いしましたらスムーズに行きました。それどころか、彼の読み通りに周囲には多くの潜入兵がおりますね」

「え」


 冷静に周囲を観察しながらミレイさんが説明した。


「彼は何者なのですか? 戦闘経験も優れ、食材を使い未知の食を生み出す。さらにこのような変革をもたらす計画まで」

「私にもさっぱりよ。彼と私はただの赤の他人だったのだから」

「え? そうなのですか?」

「ええ。私のいた世界では私は自慢じゃないけど一部では有名人だったわ。だけど、彼は全く私と接点なんか持たないような赤の他人。どちらかといえば私に対して勝手に憧れを抱いているような人」

「まるで、そのような人物には見えませんけど」

「そうよね、今の彼を見たらそう思っても無理ないわよね。私だってそう思うもの」


 ミレイさんに言われて私にだって思うところはあった。

 彼の知識は料理だけではなく、その場に適応したあの人のことを動かす魅力もある。

 それは彼がこの世界にいるから未知の力が働いているなんてことも考えられるけれども、そうだったとしても十分にそれを活かせる彼の度量のすばらしさ。

 おかげで私は置いてかれるような気持ち。


「あ、あのユキナ様?」

「なに?」

「いえ、何か悲しいお顔をしていたので」

「あら、そうだった? 平気よ。それよりも、このまま護衛は任せていいの?」

「はい、私共騎士団が責任を請け負います。あなた方はしっかりとあいどる活動なるものに専念をしてくださいませ」


 彼女のたどたどしい言葉遣いの『アイドル活動』におもわず私は笑った。


******


 風呂場から俺は上がって急いで着替えをすます。

 外では士官ににらまれながら俺のことを待っていたジークライト。


「わりぃ、待たせたな」

「アタシを護衛に付けるとは良い身分だな」

「まぁ、そういうな。それよりも不審な奴はいなかったか?」

「ハッ、そんなやつがいるか? アタシ以外に」


 彼女の自虐に苦笑しながら俺も周囲を観察した。

 何人かの士官ににらまれる。

 やはり、よく思わない連中が何人かいるのは心得ていた。

 勝手な行動を起こしているのだから、暴君もいいとことだ。


「あいつらの見る目も変わらせるための活動にはまだ足りてない。信者をより密度濃くしないとダメなんだ」


 俺の中にはあるいろんな作戦案が成り立って動いている。

 彼女にプロデューサーになってほしいといわれた一件からだいぶ経過してしまっているがそれも無理からぬこと。

 今の状況ではプロデューサーという業務を行うにはあまりにも活動範囲を狭まれる。


「この世界の信者を増やす活動の一端ではすくない。より世界を笑顔にして平和にするにはまだ一歩程遠い」


 今日はまだ冷蔵庫にしまった品を出せない。

 だからこそ、今日はやるべきことの名目はできていた。


「今日からさっそくもう一個のアイドルプロデューサーっぽいことを仕掛けてみますかね」



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