ボランティア活動
路上ライブを終えて、俺はアイドル声優の種村さんに頼まれごとをされて断り切れず、まずは王女のことを探しに王城へ戻っていた。
だが、王城で真っ先に言われたのは。
「あれ、勇者様何もお聞きになっていないのですか?」
まるで知らされたかのような当たり前の事実を王国騎士の人に伝えられる。
王女は職務のために外出中であると伝わされ、さらに。
「会議の際にお伝えしていないはずはないと思うんですが……」
自分が会議の内容に聞き耳すら立ててないことが露呈するのは非常にまずくそそくさとその場を適当にごまかして退散した。
退散した後に行く場所など検討もなく、俺は街の被害跡地に来てしまっていた。
そこでは騎士たちの復旧作業が永遠と行われ続けている光景だった。
その彼らの表情はライブの時は輝いていたのに今はロボットにまたなったかのように感情さえ見えない瞳でもくもくと建築作業をしているだけ。
さらに配給活動も行っていた。
この闇ギルド一体だけに被害が及んだわけでもなく他の個所でもドラゴンのジルの攻撃の被害はあったようでその被害を被った住宅の住民たちが配給食をもらいに来ているという状況。
「しかし、数が多くないか?」
路上ライブの時も感じていたことだったが配給をもらいに来ている列は一向に止まることはなかった。
その光景を見ていると無性に申し訳ない感情が膨れ上がり、配給を行っている基地テントの中に入った。
すると、騎士と民間人の視線が集まってくる。
「これは勇者様、いかがしましたか?」
「手伝うよ」
「勇者様、それはなりません、勇者様にそのような手を煩わせる行いを……」
「やらせてくれないかな。ここの住民たちをこんな風にしたのは俺にも責任があるわけだし」
「しかし、それは仕方なかったことで……勇者様は恩人ですよ」
具材の入ったスープっぽいものが鍋の中にあった。それを器によそって配っている挙動をまねて、同じように彼らに配給する。
俺はスープを見て不思議に思った。
「これ、スープか?」
「すーぷとはなんですか? これは『フォルチャ』です」
「ふぉるちゃ?」
ここの専門用語が出てきて、一瞬戸惑う。
それがこの食べ物の名称だというのは理解した。
「気になるなら食してみますか?」
「えっと、俺が頂いても大丈夫なの?」
「はい」
民間人に配給を一度停止し、隣の騎士がよそってくれた『フォルチャ』なるものを食した。
唖然とした。
うまくない。
ただの塩水に具材を入れただけのものだった。
「い、いかがですか?」
「ど、独特な味だね」
そうとしか答えられなかった。
もはや、こんなものしか今はないのかと疑問に思った。
「民間人には今、これしか配給できないのか?」
「えっと、そうですね。現在は魔道路が壊れていますので水や火、電気などの使用魔具が動いていないので他の食べ物を提供するのは難しいですね」
魔道路なるものが如何なるものかは聞いただけで大体の予想はできた。
この世界における電波塔や水道、ガス管などの役割を果たすために重要な魔法の機械のことなのだろう。
「でも、この食べ物だけでも十分に民は満足してくれてますので」
「そうか」
俺はもはや何も言えないままに配給をつづけた。
「でも、本日に魔道路の修理に王女殿下が向かっていますので明日には他の物を配給できるとは思います」
「他の物か」
なんとなく俺にはそのもの自体も『フォルチャ』のように味気のないようなものが出てくる気がした。
周囲の人たちはまるで食に関してはその動作をするしかないから無心で食す行為をしているだけでしか見えない。
「食事にも楽しみってあるんだけどな」
「何か言いましたか?」
「いや、なんでもないよ」
この光景を見ているのもつらい。
何か自分にもっと他にすることを目指す道が徐々に見えてきた。
「そうだな。それも一つとして打ち出すほかないよな。考え方によっては新たなライブの方式をできるかもしれない」
「何か言いましたか?」
「いや、一々反応しなくていいから」
俺のツッコミに首をひねられても困る。
配給活動の最中に民間人がまたざわつき始めた。
ある一人の騎士がテントに入ってくる。
「王女殿下が戻られたぞい!」
「おお! では!」
「それが魔道路の修理にまだかかるらしい」
なんとも悲しくも沈んだ空気が流れ始めた時、テントにまた一人入ってきた。
それは種村雪菜さん。
俺と共にこの世界へ勇者召喚されたアイドル声優。
「た、種村さん!?」
「ちょっと、来て王女殿下と話し合うから」
「え、え、ちょっと! まだ配給が途中で」
「そんなのはあと!」
俺は強引に手をひかれてそのまま連れてかれるのだった。
******
「闇ギルド跡地をすてーじなるものにしたいですか?」
種村雪菜と並び、俺は目の前の王女を前にして彼女と共に進言した。
王女にはその『ステージ』というものがどういうものかはやはり理解に乏しく困惑した表情を浮かべた。
この世界は娯楽という文化が元から少なく、ないといっても良いレベルの世界。
『ステージ』というよりも『ライブ』や『演劇』という習慣がない。
もしかすれば、そこから説明を踏まえていく必要がある。
「それは勇者様方がこの世界を変えていくのに必要なものとなるのですわね?」
「ええ、なります」
堂々と隣の雪菜さんの発言に俺は度肝を抜かれた思いで、目を瞬いた。
(宣言していいのか? だいたいステージあるだけでライブで民に笑顔をできるものでもないような気がしちゃうんだけど)
ライブをするのは彼女だ。
その彼女を舞台で輝かせるのは俺の仕事にあるからその期待もある宣言なのだろうか。
「あ、あの雪菜さん、本当に大丈夫なんですか?」
「ひゃっ」
突然の耳打ちに驚いたのか彼女が耳元を抑えて羞恥に顔を赤らめてこちらを睨みつけてきた。
「あ、すみません。耳敏感であったとは知らず」
「突然、女性の耳元で囁くのはセクハラよ。変態」
「うぐっ」
オタク心とはどうしようもない。
その発言が至福の喜びにさえ感じてしまうのだから。
その喜びの笑顔を噛み殺しながら、王女の前に俺は向き直る。
「殿下、私のほうからも一つ」
「なんですの?」
「今回、闇ギルド跡地を利用してステージを立ててほしいというのはもちろんです。私たちの目的は世界を変える、それはすなわち、民人に笑顔をまずは取り戻させてくのが当面の目的であるのです。ですが、ステージがあれば確かに民を盛り上げることは可能となりますけれど、民の全員を盛り上げることは難しいです。この世界の民は未だに疲弊した心を持っている」
「なるほど、つまりは完全とはいかずともまずは1歩とはしたいということですか?」
「その通りです。ですが、王女殿下もそれでは不服もありますよね?」
「たしかに、ステージなるものがどれほどの予算がかかるかはわかりません。民からの信頼性もありますし、魔道路がまだ動かせてません。建築作業も時間を要します。体力を消耗していく騎士や人々も増えていっては作り上げた後でもリスクはデカくなると予想できますわね」
俺の言い分に正直に申した王女の言葉。
隣の種村さんが鋭く睨みつけてきて小声で「どうしてそういうこと言ってしまうのよ」と文句を垂れていた。
俺には策略がもう一つあった。
「そこで、私に一つ提案があります。私たちはこの世界を復興させ、世界に笑顔を届けるためにこの国を基盤としたもので文化の革命を考え始めています」
「ぶんかの革命ですか? ぶんかなるものがわかりませんけど、それはどのように?」
「まず、王女殿下、腕の良い料理人と厨房にそれから腕の良い鍛冶職人と工房を紹介してもらえませんでしょうか?」
「はい?」
俺はその申し出をしたときにその場にいた全員が首を傾げた。