路上ライブ
城から外へ出た俺らは即座に王国民たちに取り囲まれる事態に陥った。
「おお、勇者様だ!」
「勇者様!」
「私たちの救世主よ!」
彼らの表情は昨日とは変わって明るい顔をしていた。
幾分かはマシな表情をしている彼ら民たちに安心をした。
それでも、一瞬で表情は次第に沈んでいく。
「ああ、どうしたらいいのでしょうか」
「この国は終了ですよね」
「場所を移す必要あるのかな」
などと愚痴をつぶやいた。
あまりの浮き沈みの激しさに圧倒された。
ここの民の精神的におかしなことは理解していたつもりだった。
いざ目の前にその光景を押し付けられるかのように見せつけられると怖気づく。
そんな時に隣で大きく息を吸うような行動を種村さんが起こしていた。
彼女はにこやかな営業スマイルのような笑顔を浮かべる。
「皆さん、しっかりしてください。この国はあなたたちを育ててきた愛すべき国じゃなかったんですか! みんなで力を合わせて壊れた建物を修復しましょう!」
その笑顔を向けて囁いた言葉にこの国民の気持ちをどれだけ揺れ動かすことができるのだろうかと不安さを感じながら反応を見守った。
反応は絶望的だった。
俺は涙目を浮かべてるのにやはりここの人たちにはアイドルの笑顔という良さを知らないで生きている存在だから反応が鈍いと思えた。
それだけではないのだろう。
あまりにも絶望な状況でずっとこの世界はあり続けていた。
その絶望な光景が身近に降りかかって精神も瀕死状態なんだ。
「あ、あの種村さん例の歌でどうにかなるんじゃないですか? 昨日みたいに反応が良かったですから」
「え?」
「だって、昨日歌った時にここの人たちみんなまるで聞いたこともなかったかのような反応を示した上にあの時の笑顔ったら感動的でしたよ」
「はぁー、あまり気乗りしないんだけど」
「そ、そこを何とかお願いします」
「わかった。でも、あなたに一つだけ伝えておきたいことがあるの」
「なんでしょうか?」
「過剰な踊りはやめて。なるべく抑えめに盛り上げて頂戴」
「っ」
「なんで、そんな絶望的な表情をするのよ。別に踊るなってだけでしょう!」
「オタクにとってあこがれのアイドルの歌を聞いて踊るなってのは命を捨てるのと同義なんですよ!」
「知らないわよそんなオタク理論!」
「アイドル声優がそんな悲しいことを言わないでくださいよ!」
「涙ながらに訴えられても困るわ」
必死に口論するというよりもコントに近い俺たちの会話を人々は見ていた中でそんな人垣に一つの微かな笑い声が聞こえてきた。
俺と種村さんはその笑い声の先に反応を示すように見たらひとりの少女が笑みを浮かべていた。
「勇者様たちを見てたらよくわからないけどなんかここがあったかい。それに頬がわかんないけど……うふふ」
一人の少女は面白いという感情を理解せずとも自分なりにうまく人へ伝えたくて必死で言葉を並べ立ていた。
そんな少女を見て俺らは心に温かい気持ちを少女からいただくようにもらっていた。
「やっぱり、変えないといけないわね」
「わかっていますけど、目的ってここの国の人たちと仲良くなるでしたよね? 一応目的は出だしから達成しています?」
「いいえ、まだじゃない? とりあえずココだと歌うにしても邪魔だし崩落跡地に行きましょう。すみません、皆さまちょっと通させてください」
話をどんどん進ませて彼女はその行動も突き動かしていく。
崩落跡地とは昨日にあの闇ギルドなるものがあった場所である。
「あそこってあまり昨日のことがあるから行きたくねぇんだけどなぁ」
「文句言わないであなたもついてきなさいよ、勇者様」
「わかってますけど、種村さんも一応勇者ってことになってますよね?」
「私は勇者じゃない。アイドル声優よ」
頑固として勇者であることを彼女は認めようとせず崩落跡地へ向けた足を一切止めることはなく勇んで向かっていった。
*******
もともと闇ギルドとこの国で評されている場所があった跡地。
昨日の経験を考えて見るとあの場所が『闇ギルド』なんて言われていたことも何かとわかってしまうものだった。
自分たちを捕縛した赤髪の女ジルを筆頭にした集団の人相の悪さと世紀末のような恰好をした姿はどことなく悪目立つ。なによりもあの場所にあった地下で見た光景は暗く人を監禁しておくような環境がしっかりとあるなんて悪さをするような施設としか思えない。
彼女たちも言っていた『闇ギルド』は悪の巣窟であり、非合法的活動をする輩の請負所だという説明も納得できてしまった内容。
この世界の闇ともいえる場所に召喚されて真っ先に触れさせられたからこそこの悲しい世界のことを変えることに勇気を持って行動を起こせるのだろうとさえ思えた。
今はその闇ギルドの崩落跡地にいる俺らに観衆の注目が集まっている。
「なんだ?」
「勇者様だ」
「何かを始めるのか?」
「昨日のようなことでもするのかぁ」
俺らのネームバリューとその知れた顔でどんどんと人は集まっていた。
復興作業中のところに押しかけるなんて非常識なんてことも思えてしまうが種村さんはこの場所をそれでも指定した意図を俺は彼女の傍に立っていてなおわからない。
「あの、こんな場所でマジでするんですか?」
「ココだからいいの。ここで私たちは決意した。この国を変えると。そして、悲劇の場所ともなった場所をまずは光に変える。良い思い出に変えるの。さあ、盛り上げてよね」
なんて無茶ぶりを振られて俺も意志を決め込んで大きく息を吸って叫んだ。
「さぁ、みなさんこれから始まるのはアイドル声優、種村雪菜の異世界初の路上ライブです! これは貴重ですよ!」
大きな声で叫んでアピールする。
周囲の観衆には『ライブ』という意味がわかっていないのだろう。
それをわからせるようにして種村さんが歌い始めてくれた。
すると、みんなが驚きながらも昨日のことを思い出したかのように顔に喜びの表情を見せ、明るさを見出していった。
復旧作業中の騎士たちも手を止めてこちらに意識を向けている。
「さあ、みんなで盛り上がっていきましょう!」
種村さんが歌いだしたのはまさに元気を与えるようなパワフルポップな曲。
俺はサビから一人コールを始めた。
「FuFUU!」
周囲は次第に同じように盛り上がって俺と同じ挙動や掛け声をし始めた。
中には追いかけきれてなくても自分独自のアレンジでやり始めている人たちも出てきた。
子供たちにいたっては一緒になって歌い始める。
「はい、はいっ!」
なるべく抑えめで周囲にわかりやすいようなコールで統一化させていくのも中々にオタ芸魂としては悔しさがあったがそれでも周りを楽しめるように必死で頑張った。
曲も2曲、3曲と続く。
周囲の観衆の数もいつのまにか大勢がいた。
幕間に入った段階で、種村さんに呼び出された。
そのまま崩落地に集まった観衆からなるべく離れていき声の聞こえないところまで来ると彼女に耳打ちされる。
憧れのアイドルに近づかれてもはや真っ先に口からは感想が出ていた。
「いやぁー最高の曲です! やっぱりあなたは素晴らしいです」
「はいはい、ありがとう。それよりもあなたのスタミナと盛り上がりようには驚き。それはともかくとしてちょっと相談あるの」
「なんですか?」
「この状況を見て思いついたのよ。この場所で歌ってこれだけ人も集まって、ここはちょうど街の中心部に近い。さらに立地も平坦な更地。ステージにいいと思わないかしら?」
「え」
俺は彼女が何を言わんとしているかなんとなく察することはできてしまう。
「そんなこと可能なんですか!? 王女が許可するでしょうか?」
「させるのよ。だいたいあの王女は契約したのよ。私たちの思うようにしてい言って。今は復旧って言っても瓦礫を撤去しているだけでしょう。それならーー」
「あまりいい案とは思えないんですけど。予算とかかかりそうですし」
「そ・こ・で、 あなたよ」
「え」
「私のマネージャー兼プロデューサーになりなさい。そうこの異世界であなたは私専属のマネージャー兼プロデューサーとして仕事をするのよ」
「はぃいいいいっ!?」
とんでもない申し出をされて俺の叫びは観衆の人たちにまで響いてどよめきを与えるのだった。