魔法世界イシュラナの歴史
契約を結んでからの次の日、は王国内での復興会議が俺らに待ち受けていた。
政務的活動ごとになんてやったこともない俺には良い意見なんて出せるかどうかは不安で仕方なく緊張の面持ちだった。
会議は次々と進行してただ永遠と議論される意見に耳を傾けていくだけしかできない。
俺と同様にこの世界へと飛ばされてきてしまったアイドル声優の種村雪菜の横顔を窺うと彼女もまた意見をすることもなく頷いていた。
彼女は俺と違ってこの会議の内容の一つ一つを理解している様子であるのはさすがと思える。
同時に見惚れていた。
そんな俺に突然として話題を振る。
「という具合にやっていきましょうか。どうでしょうか? 勇者トー様にユキナ様」
「私は構わないです」
「えっと、はい」
話が振られたが、全く話を聞いておらず焦りがでる。
何をどういう風にやっていくのか進行計画が全く理解できておらぬのがやばいと痛感する。
「では、勇者様方には今日から街の人々たちとの交流をお願いします。その中であなた方の目指すもので執り行ってくださいませ。私共は先ほどの説明通りに動きますわ」
「お願いします」
会議は終わりを告げたのかそれぞれがバラバラに動き出した。
戸惑う俺の様子を一瞥してくるアイドル声優。
おもわずドキリとしたが彼女は俺を見てため息をついた。
「え」
「あなた、何も話を聞いてなかったのね」
「え、あ、いや……はい」
「まったく、あきれる」
「うぐぅ」
アイドルに幻滅されたオタクの精神はもう崩壊して死んでしまいたい気分になってくる。
「ちょっと、なにもそんな絶望的な表情にならなくていいじゃない。強く言い過ぎてわるかったわよ」
「いえ、事実なものは事実ですから、あはは」
「まったくもう、移動しながら私なりに解釈した程度で説明するわよ。一応この世界についてのことも説明してくれていたのに……」
「この世界……」
彼女は先導してくれて、俺はその後を続くように王室の会議室を出ていった。
廊下を歩きながら彼女からの俺は世界や会議のあらましを聞かされた。
*******
そもそもの話、この世界は元々は魔法の文化が特に発達していて人々も戦争などは全くしておらず多種多様な種族と文化を共有していた時代があった。
だが、時が進み、ある時に謎の自然現象によって世界は崩落の危機を迎えたらしかった。
あらゆる種族が死に絶えていき、文化の共有という仕組みさえも失われていった。
ある時に人間の一人が魔法によって世界を救う手段を見つけた。それが異世界の扉を開き、そこから別の力を呼び寄せる方法だった。
それが勇者という存在である。
その呼び出された勇者は世界を救う手段を教えて人々を導いていった。
自然の環境は抑えられ、人々の生活も安泰していった。
同時に種族の減退から国というものを築き上げ、国で独立した生産を築き上げる文化を行っていった。
時として再び暗黒の時代はやってきたのだ。
人の傲慢な野望が他国の作物やあらゆるものを求めるようになって戦争が勃発した。
それは長きにわたってしまい現在のイシュラナという魔法世界を築き上げていったのであった。
そして、そのイシュラナの中で人間の種族を中心とした魔法の武器や職業大国で名を知らしめているイスアは敵国、イシュラナで最も権力を持っているとされる魔王なる存在による大打撃を受けたという結果だ。
そのために呼び出された勇者が種村雪菜と霧山頭だった。
「王女殿下の話によるとそんな歴史の中で今回の悲劇は歴史を再現しているかのような感じみたいです。王女たちはそのために神殿内で他国との会談を行うようで、その他騎士たちは街の復興作業を行いつつ、配給を行うなどの行事もあるらしいです」
「じゃあ、その手伝いに俺たちは?」
「いえ、その手伝いではなく私たちは私たちでできうることをしてくださいということが王女殿下の申し立てです」
「俺たちでできうること?」
「はい。契約をした通りやるべきことを街を警邏しておくことで探せるのではという話ですよ」
俺らの目的は町の人々への笑顔を届けに町を警邏することらしかった。
「では、街へ出はらいましょう」
******
城から外へ出た俺らは即座に王国民たちに取り囲まれる事態に陥った。
「おお、勇者様だ!」
「勇者様!」
「私たちの救世主よ!」
彼らの表情は昨日とは変わって明るい顔をしていた。
幾分かはマシな表情をしている彼ら民たちに安心をした。
それでも、一瞬で表情は次第に沈んでいく。
「ああ、どうしたらいいのでしょうか」
「この国は終了ですよね」
「場所を移す必要あるのかな」
などと愚痴をつぶやいた。
あまりの浮き沈みの激しさに圧倒された。
ここの民の精神的におかしなことは理解していたつもりだった。
いざ目の前にその光景を押し付けられるかのように見せつけられると怖気づく。
そんな時に隣で大きく息を吸うような行動を種村さんが起こしていた。
彼女はにこやかな営業スマイルのような笑顔を浮かべる。
「皆さん、しっかりしてください。この国はあなたたちを育ててきた愛すべき国じゃなかったんですか! みんなで力を合わせて壊れた建物を修復しましょう!」
その笑顔を向けて囁いた言葉にこの国民の気持ちをどれだけ揺れ動かすことができるのだろうかと不安さを感じながら反応を見守った。
反応は絶望的だった。
俺は涙目を浮かべてるのにやはりここの人たちにはアイドルの笑顔という良さを知らないで生きている存在だから反応が鈍いと思えた。
それだけではないのだろう。
あまりにも絶望な状況でずっとこの世界はあり続けていた。
その絶望な光景が身近に降りかかって精神も瀕死状態なんだ。
「あ、あの種村さん例の歌でどうにかなるんじゃないですか? 昨日みたいに反応が良かったですから」
「え?」
「だって、昨日歌った時にここの人たちみんなまるで聞いたこともなかったかのような反応を示した上にあの時の笑顔ったら感動的でしたよ」
「はぁー、あまり気乗りしないんだけど」
「そ、そこを何とかお願いします」
「わかった。でも、あなたに一つだけ伝えておきたいことがあるの」
「なんでしょうか?」
「過剰な踊りはやめて。なるべく抑えめに盛り上げて頂戴」
「っ」
「なんで、そんな絶望的な表情をするのよ。別に踊るなってだけでしょう!」
「オタクにとってあこがれのアイドルの歌を聞いて踊るなってのは命を捨てるのと同義なんですよ!」
「知らないわよそんなオタク理論!」
「アイドル声優がそんな悲しいことを言わないでくださいよ!」
「涙ながらに訴えられても困るわ」
必死に口論するというよりもコントに近い俺たちの会話を人々は見ていた中でそんな人垣に一つの微かな笑い声が聞こえてきた。
俺と種村さんはその笑い声の先に反応を示すように見たらひとりの少女が笑みを浮かべていた。
「勇者様たちを見てたらよくわからないけどなんかここがあったかい。それに頬がわかんないけど……うふふ」
一人の少女は面白いという感情を理解せずとも自分なりにうまく人へ伝えたくて必死で言葉を並べ立ていた。
そんな少女を見て俺らは心に温かい気持ちを少女からいただくようにもらっていた。
「やっぱり、変えないといけないわね」
「わかっていますけど、目的ってここの国の人たちと仲良くなるでしたよね? 一応目的は出だしから達成しています?」
「いいえ、まだじゃない? とりあえずココだと歌うにしても邪魔だし崩落跡地に行きましょう。すみません、皆さまちょっと通させてください」
話をどんどん進ませて彼女はその行動も突き動かしていく。
崩落跡地とは昨日にあの闇ギルドなるものがあった場所である。
「あそこってあまり昨日のことがあるから行きたくねぇんだけどなぁ」
「文句言わないであなたもついてきなさいよ、勇者様」
「わかってますけど、種村さんも一応勇者ってことになってますよね?」
「私は勇者じゃない。アイドル声優よ」
頑固として勇者であることを彼女は認めようとせず崩落跡地へ向けた足を一切止めることはなく勇んで向かっていった。