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感動と感情

 私はアイドル声優としての順風満帆な人生を歩んできていたといえた。

 だからこそ、大きなステージでの演者に選ばれたと思っている。

 それがまさか、異世界において歌うなんて思わなかった。

 しかも、それをたった一人の男のために。

 その男はオタ芸でドラゴンを一匹倒してしまった。

 この私種村雪菜に向けられる笑顔は心底引いてしまう。

 

 けれど、ちょっとだけかっこいいと思ってしまう姿でもあった。


「まったく、なんで異世界の召喚された人が私とあのファンだけなのか」


 呆れたように感じながらも頬がゆるんでいた。

 私は後ろを振り返ると膝をついて涙を流す二人の人物。

 ここの場所を貸してくれた店主と私が保護した少女。


「お姉ちゃん、今の何?」

「よくわからぬ何かが先ほどからあふれるのだ。ああ……」


 この世界には感動するという言葉がないのか二人は戸惑っている様子だった。

 同時にその二人の姿に私はうれしさを抱く。

 その戸惑いは感動をしているからだ。

 よく見れば眼下に集まる、あの馬鹿な私のファンの男を筆頭にして集まるイスア国民たちが私を見上げていた。

 ファンの男が言う。


「みんな、こういう時はこうするんだぜ」


 拍手の音が鳴り響いた。

 次第にそれは大きくなっていき、私へと向けられる。

 妙に照れ臭くなって私は彼らの前から消えるように店内に引っ込んだ。

 二人が私へと声をかけた。


「あのやはりあなた様もまた勇者です」

「お姉ちゃん!  私もこの感じがわかんないけど暖かくてぽかぽかするんだ。だから、こんな気持ちをくれたお姉ちゃんはゆうしゃだよ」


 私は笑ってしまって答える。


「私はアイドルよ。それに本当の勇者はあのドラゴンを討伐した彼よ」


 私はそんな一言を告げ、店内を出るように階段を下りていった。

 一つだけ決心することもできた。


(この世界は間違ってる。感動や娯楽を知らないような絶望した人々に私は感動を与えたい)


 ずっと帰りたいと思っていた感情に新たな使命を持った気持ちが芽生えていたのだった。


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