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<罠師は地雷原で踊り狂う>

 大体25世紀に世界平和の為に仮想世界が実用化された。それによって血で血を洗うような戦争は無くなり、細やかな揉め事も一種のスポーツとして格ゲーやFPSで行われる程になった時代。

 その時代中でひっそりと発売され、しかしプレイヤー達の口コミで爆発的に流布した『VRMMORWSRPG(バーチャルマッシブマルチプレイヤーオンラインリアルワールドシュミレートロールプレイングゲーム)』の名を掲げた新作ゲーム『フォーチュン』。何でも出来る仮想世界と美しき現実世界が合わさったかのようなグラフィックが絶妙に折り重なった所謂"神ゲー"だった。


 今作の主視点となる主人公、『兎原舞衣』は第二陣での参加。ステータスは魔力と走力、運命に均等振りして初期選択スキルは得意な舞踏とランダムで選ばれた罠作成の二つ。舞衣はそのまま、面白そうだと言ってプレイを開始した。

<Welcome to 『Fortune』,Rapis>


 キャラメイキングを終えた私は、どことなく西洋風味のある街中に立っていた。初心者への配慮がないのが唯一の欠点だとレビューに書いていたがここまでとは思わなかった。だって、開始を押して10秒も経ってないしな。


 先に、私をこのゲームに呼びつけた待ち合わせ相手を探さなきゃならない。中央広場にいると伝えられたが……あ、いた。アイツらしい痛々しい姿をしている。


「おお来たかラピード!」


「だから、私はラピスだっていつも言ってるでしょ…モルガン」


 金の刺繍の入った黒套を身に纏い、腰にはなんだかヤバそうな剣をぶら下げて待っていたこの男が私をこの世界に呼びつけた張本人、親友のモルガン……じゃない、モルガーナさ。相も変わらずリアル同様派手な格好が好きらしいね。


「なぁモルガン、私の装備は用意してくれてないのか?」


「なぁ、俺に女性用装備を用意できるほどの度胸があると思うか?…あるんだなぁそれが。ほらよ」


 素のまま渡されたソレは鋭い短剣と胸当て。装備した私の姿は…うーん、似合わねえなぁ


「その目で俺を見るな、仕方ないだろう。素材が無かったんだよ。初期装備よりは幾分も強いんだから許してくれ。一先ず狩りに行ってラピードの戦い方を……待て、ラピード、お前は何を選んだんだ?」


「舞踏とランダムで出た罠設置だが、何か問題あるのか?」


「なんてこった…なぁラピード、どうやって踊りながら罠を設置するんだ?引っ付いてきた道端のガムみたいに靴底に準備しておくのか?」


「なんでもやってみて、それから考えればいいんだ。あとその案は採用させてもらうよ」


「OMG…俺はとんでもないヤツをこの世界に呼んじまったらしいな。ああいや、俺も同類みたいなものなんだが…」


<数分後>


 街から出た私は、モルガンのコーチング通りに素材採取中。罠作成には"作成"と名の付く通り素材が必要らしいね。だから今はアイツから言われた爆裂胡桃と針山毬栗、そしてニトロリーフを集めているのさ。


それにしたって、モルガンのやつはどこに行きやがったんだ。野暮用があると言って別れてから全く連絡がないしな。…おお、これで罠が作れるんだな。えーっと何々…


<罠作成レシピ>

爆裂胡桃+針山毬栗+ニトロリーフ×5=破裂針罠(Lv1)

etc…


他にもレシピは沢山あるみたいだが、その殆どが詳細不明だね。素材を入手したら分かっていくんだろう。


 ふぅん…とりあえず作ってみたこの針罠、流石に靴底に入れるには大きすぎるけど踊りながら投げられるくらいの大きさだな。フリスビー、って言ったほうがわかりやすいね。一先ず実戦といこうか。いい加減戦いたくてウズウズしてたんだ……って罠一つだけじゃ足りなさそうだしあと2、3個作ってからにしよう。下準備は大事だからな。勝てないのは嫌だしさー


<30分後>


 モルガンからの連絡はなし。罠のストックは十分。今度こそ本番にしよう。手始めに…あそこにいる猪を倒してみよう。直線的で倒しやすそうだ。まず、アイツと私の間に罠を置いて…


「こっちに来な、バカ猪野郎!」


「Buuuuuu!!」


 あはははっ、猪がお顔を真っ赤にして一目散にこっちに走ってきたよ!罠を勢いよく踏んで…


「Bhuu!?」


よっし転んだ!針罠はダメージだけじゃなくて刺さったときの痛みやスリップダメージもあるらしいね。足裏に釘が刺さるみたいなものさ、痛いねえ…早く楽にしてあげようか。くりくりしてる目ん玉に短剣をグサッと…しぶとい。口の中にも針罠を放り込んでドカン。ふぅ、やっと死んだね。流石に一つだけじゃ殺すのはキツそうだ。


「お疲れさん、ラピード」


「おいモルガン、一体どこに行ってたんだ?この俺様がチュートリアル代わりになってやるって言ったのは一体なんだったんだ」


「はは悪い悪い、だが素材採取中に敵と出会わなかっただろう?万が一を思って掃討していたのさ。それにこの森は素材が豊富な代わりに危険なネームドモンスターが居てな……」


…ん?あそこに何かでかい影が見えるな。うーん…あれは…ああ、熊か


「アイツは血の匂いに敏感で凶暴な肉食の熊だからストロングベアーのブラッドと呼ばれている。まぁ、こんな森の浅い所にはそうそう出ないから安心していい。さっさとこの死体を片付けて一旦街へ…」


 あ、ダメだ、こっちに来てるね。とりあえず罠は投げておいて…


「おいモルガン、後ろを見ろ」


「そうだな、街に戻ったら俺の贔屓にしている装備職人を…あん?なんでだよ」


「後に噂の熊が居る」


「はっはっはっは、そんなわけないd……WTF、何でここに居るんだよ!?」


「モルガンがフラグ乱立するからだろうが!私は逃げるからモルガンがなんとかしな!」


「ああクソ、仕事を増やしやがって…まさに口は禍の元って奴だな!」


「BUGAAA!!」


 罠が発動して熊が痛がってるうちに私は踵を返しモルガンを置いて街へ駆け出す。…いや待て、こいつを倒せば報酬が美味しいんじゃ……


「作戦変更だモルガン!やっぱりこいつを倒す!」


「マジかよ、こいつを倒すっていうのか!?まぁいいさ、最近は歯応えがない奴らばかりで退屈していた所だ、ノってやるよ。おいラピード、間違えて"俺達"に罠を仕掛けるんじゃねえぞ!」


 はぁ?何言ってんだこいつ、頭おかしいんじゃないか?


さ、蜃気楼と踊ろうぜ(ファタ・モルガーナ)!」


 オイオイ…私の目が可笑しくなっちまったのか?モルガンの黒套の刺繍が光ったと思ったらモルガンが増えちまったぞ。


 まぁいいや、舞踏でモルガン達と熊でバトルダンスしながら針罠を置いてこう。チクチク刺さって痛そうだな


「さてラピード、オマエにとっておきののプレゼントがあるんだ。ま、俺のインベントリの肥しだけどな」


 増えたモルガンの一人が置き終えて少し下がった私の方へと向かって話しかけてきた。後ろでやられたはずのモルガン達のうち一人が消えているから…ああ、コイツ以外は偽物デコイか。


「はぁ、私は廃品処理業者じゃねーぞー?」


「いいから受け取れ、そして罠を作れ。コイツは鼻が効くからそれを防ぐようなものを頼む!」


 突っ込んで行ったモルガンからどっさり山のように出されたアイテムを回収。おお、採取なんかさせずに最初から渡してくれれば良かったのに。そうしたら最初から派手なことが出来たからねー。


<罠作成メニュー>

紅蓮獅子唐+炸裂胡桃+可燃石×2=拡散刺激罠(Lv3)

パラライズビーの針×5+炸裂胡桃×2=破裂麻痺針罠(Lv3)

マグマスライムの核+アクセルハーブ×2+爆燃石×5=爆燃焼却罠(Lv2)

可燃蔦=時限式化カスタム(1分)

etc…


 他にも沢山あったが緊急事態だから仕方ない、これだけにしておくか。罠を作るにも時間がかかるからねー。


「まだかラピード!」


「もう少しさ、ちょっと待ってな!」


 さっき倒した猪のお陰でレベルアップしたからボーナスポイントは走力に振って…よし、さっさと置いてパパッと倒そうじゃないか。


 おっと、罠がやっと出来たみたいだね。タダの針罠よりよっぽど時間が掛かったが、強い罠は時間がかかるのかね?


「出来たよ、道を開けなモルガン!」


「流石に俺の魔力が持たねえ、早くしてくれ!」


 一つ目、こっちにきた熊を踏んで避けながら足元に拡散刺激罠を投げた。おお、見事に踏んでくれたね。辛そうな匂いが上にいる私にまで伝わってくるよ


「Bshuu……!」


 二つ目、またこっちにガムシャラに走ってきた熊の進行方向に麻痺針罠を設置。ああ、また見事なまでに踏んじゃったみたいだ。苦しそうに悶えているよ


「Bru…Bshuuaa……!!」


「…なぁラピード、このまま殺れるんじゃないのか?」


「まぁ待ちなモルガン。もう一つ、とっておきの逸品があるのさ」


 最後に取り出したるは時限式爆燃焼却罠。今作れる中で一番強そうだからこれを作ったのさ。…まぁ、お陰でかなり時間を食わされたけどね。


「さぁ逃げるよ、近くに居たら私まで死にかけない」


「よし、今のうちにトドメを…っておいマジか」


 駆け足で森の外へ飛び出す。カタログスペックじゃ森の一帯が燃えるんじゃないのか?それでも生きてたら……まぁ、大人しく死ぬしかないねー。


「はぁ…はぁ……ここまで逃げれば問題ないか」


「じゃ、森にごちゅくもーく、綺麗な火柱が上がるよ」


「火柱?なんだ今から祭りでもするってのか」


「そうだね、楽しい楽しい祭りが始まるのさ。じゃ、一つ踊っておこうか!」


 こういう時は、起爆に合わせてポーズを……


『ドォォォォンッッッ!!!』


<ネームドモンスター[ストロングベアーのブラッド]が討伐されました。24時間後にリポップします>


 ああ、この世界に来て良かった。今の私の感情を表すような綺麗な爆発を、燃え盛る光景は現実じゃ見られないし、ましてや踊れやしない。


「うーん…こりゃあ確かに『幸運フォーチュン』だな!」


「言葉が出ねえ……俺の語彙力じゃ言い表せないな。ああそうそう、『フォーチュン』って運命って意味らしいぞ。運営が言ってたから間違いねえ」


「…えっ?マジで?そりゃあ…恥ずかしいったらありゃしないね!」


<[大口広げた空腹森林]及び[獲物喰らう酒池肉林]が破壊されました。約一ヶ月後に再生します>


「……へへへ、うん、やっちまったな!」


「俺、怒られたりしないよな……」


「大丈夫大丈夫、バレなきゃいいって!」

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― 新着の感想 ―
[良い点] VRジャンルですね。最初の英語が効いてます。主人公と同じように仮想空間に入ったような気持ちになりました。罠師という設定も面白いですね。どんなバトルになるんだろう、と想像が膨らみます。 速い…
[良い点] タイトル。罠師!マニアックな職業きましたヨ。自分そういうマニアックなの好きなんです。王道もいいけど、ちょっと変わった攻め方もいいですよね。罠師だから、地雷を見つけられちゃう感じですかね。こ…
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