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「――この世には二種類の幼女が存在する。それは、体が幼い女の子と頭が幼い女の子のことである」
才児神
(リーディカティア出身の神/年齢不詳)
ロリ・コーン (2020).幼女神学入門.メスガキヤ出版
言葉や文字というのは、自身の感情を伝える有用なツールの一つである。しかし、状況によっては人を傷つける恐ろしい刃にすらなってしまう。刃は拡散的に広がり、様々な人々に浸透する。
当事者が気付いた時には遅いのだ。広まった情報を記憶から抹消させることは不可能で、変化させることは難しい。
そう、それはわかっているのだが……
無表情で目の前の浮遊する光の球体を見つめると、それは困惑するように点滅を繰り返し、音声を垂れ流した。
「……その、なんだ。我々。神というのは、信仰を糧にして生存し、力とする。その力を利用して恵みや災禍をもたらす存在なのは周知の事実であろう?」
「ええ、まぁそうですね」
「そのため、神は人々から忘れられた場合。存在が消えてしまう。認識される必要があるのじゃよ」
「ええ、まぁそうですね」
「つまり、人々は神が万能であると思っているが、実はそうではない。人々が万能だと思っているからこそ、我々は万能であるのだ」
「ええ、まぁそうですね」
「大丈夫? BOTになってない?」
「ええ、まぁそうですね」
「全然大丈夫そうじゃないのぉ!?」
慌てふためくこの球体は、私を含めた全ての神を取りまとめる存在として信仰されている。所謂、主神という奴である。地球に存在する日本という国の娯楽に熱中してしまい、様々な神に被害を与えている悪しき存在だ。
「いや、私もお前には申し訳なく思っとるんじゃよ……まさか、こんなことになるとは思わんじゃろ?」
「ええ、まぁそうですね」
「いやBOTから戻ってきて!?」
主神は変わり果ててしまった私の姿を見て、申し訳なさそうに光の球体をぎゅーっと小さくさせる。
「……神は信仰によって己の力を手に入れます。その力の内容も、信仰の内容によって変化することも事実。例えば武神であると信仰されている神は肉体的に強くなりますし、賢神と進行されている神は様々な知恵を活かすことが出来ます。確かにそれは理解しているのです。わかります。ですが、私のこれはどう信仰されたらこうなるんですか!」
ちんまりとした幼い女の子の姿。頭から生える謎の猫耳。身に着ける衣は何故かフリフリのアイドル衣装。おかしい、あまりにもおかしい。
「いやほら、別の世界の武神は教主が可愛いエルフの少女になった影響で500年位の間、一時的に女体化してしまう事件とかあったじゃろう? あれと似たようなもんじゃよ。あいつもTSした! やったー! とか喜んでおったじゃないか」
「そうですね。確かにそのような小さなことで信仰が変化してしまう事は理解できます」
「じゃろ?」
そう、私だって、私が管理する世界での内部的な問題であったのであれば、受け入れる事は出来たのだ。可愛い我が子が私の存在をそうやって認識したのであれば、それを受け入れよう。そのくらいの器量は私にもある。
「――ですが、私がこうなった原因って主神が行った『安心安全異世界転生計画』で転生していった日本人の影響ですよね? 責任、あなたですよね?」
「…………」
「おいまて、黙るのはやめてもらいましょうか」
『安心安全異世界転生計画』という奇妙な計画。これは、神々が信仰によって力が変異する特性もあって、やらざるを得なかった計画である。
ある日のことだ。地球という世界に存在する日本という国。ここで一つの信仰が産まれてしまった。『トラックで跳ね飛ばされたりして死んだ俺たちを神様が手違いだとかいって別の世界に記憶を保持したまま転生させてくれる』という糞みたいな信仰である。
当然、地球を管理する神は頭を抱える事になった。この信仰のせいで『手違いで人を殺してしまう』ことが急激に増加してしまったのだ。当時は神々の間で「あの神ドジっ子でかわいいよな」とか「信仰で弱体化してて草」とか「地球世界の生死管理ガバガバってマ?」とか話題になったのが記憶に残っている。いや、貴方たちも日本文化に毒されすぎじゃないですか……?
その結果、ムっとした地球世界の神は信仰によって使えるようになったもう一つの力を乱用していく事になる。それが『転生特典を持たせた地球人を記憶保持したまま別世界に転生させる』という能力であった。
これが地獄の始まりである。剣と魔法が存在するちょっと下水回りが快適な世界。通称ナーロッパ系世界の神たちは転生してきた地球人の影響で悲鳴をあげるようになった。想定していた世界の経済事情や歴史が急激に変化していくのは序の口。下手に地球人に介入してしまい、ラスボスみたいな感じで殺されることが確定してしまった神も存在する。
こうして、一定数の神々はかなりの変異を遂げてしまった。これを神々は『日本人転生パンデミック』と呼称し、今でも恐れ続けている。そこで、我らが主神は今まで地球の神が管理していた転生能力を引き継ぎ、神々と人々が安心して転生する事が出来るように綿密に計画を組もうとした。これが『安心安全異世界転生計画』の全貌である。
このような情勢の中、私の世界は『日本人転生パンデミック』の影響を受けていなかった。また、私は人々の才能や可能性を司る才児神と呼ばれ、信仰されていた。このような理由から、自身が管理する世界の更なる可能性が広がる事に期待し『安心安全異世界転生計画』の日本人ワールドステイ先として立候補したのである。
こうして、綿密に計画され、ヨシ! と実行した結果。私の姿はこうなったのだ。更に言えば、奇跡を行使する際に語尾に「~にゃ!」をつけないといけない謎の縛りも追加されている。どうして……?
「主神。私はですね、確かに世界の可能性が広がる事を期待して、貴方の計画を受け入れました。ですが、何故私の可能性が広がってるんですか? それも不適切な方向へ」
「これも、日本人による信仰『ガバ』の影響なんじゃろうな。いやはや、人間の可能性というのは無限大じゃのぉ……」
「そういうことじゃないんですよ。やっぱ人間って凄いなで終われることじゃないんですよ」
「……」
「黙るな現場主神」
「はい」
ため息をつき、しどろもどろになった光の球体を見つめる。なんか困ったようにぐにぐに動いていますが、正直言って気持ち悪いです。
「まぁ……もうこうなってしまった事は仕方ありません。この状況を覆す事は出来ませんから」
「そうじゃな……本当にすまんかったと思ってる。このままだと、お主は最終的に精神までもが幼女になる可能性が高い」
「改めて聞くと無茶苦茶嫌ですねそれ」
神の能力は人間の信仰に影響される。これは、精神も同じこと。現在は信仰が中途半端に捻じ曲がっている影響から私の精神は保たれているが、このまま信仰の変化が進めば、私は語尾に「~にゃ!」を付けるただの幼女となってしまう可能性が存在する。
私の本来の力は才児神。どのような能力も手に入れる事が可能である童を象徴とし、人々の努力を奨励し、単純な諦めによって自身の可能性を消失させないように警告する神である。そのため、確かに幼い少女の姿として祀られている事は多かったし、姿が変化する前も幼女であったことは否定しない。
しかし、今は違う。才児神としてではなく、幼女神として崇められるようになってしまった。ただの才能がある幼い女神として扱われるようになってしまい、幼い幼女から成長することはないという概念を付けられようとしている。それは、私が本来望んでいた信仰の内容とは真逆のものだ。これを肯定するわけにはいかないのである。
「もう、私の姿が変貌するのは諦めました」
「諦めるんじゃな。可愛いのは良いと思うぞ」
「……ですが! この諦めは本来の目的を見失わないためのものです。私は姿が変わる事を嘆いているのではありません。私への信仰が変化し、私が本来司っていた教えが消え去ることが気に食わないのです!」
可能性を司っていた私が単一の存在へと変異するのは絶対に認めたくない。このまま、ただの幼女となることを受け入れるのではなく、新たな可能性が広がるように活動していきたい。それが才児神としての真っ当なあがきだろう。
「それで、儂にどうして欲しいのだ? ただ愚痴を言いに来たわけではないのだろう?」
「ええ、これは『安心安全異世界転生計画』を企画した貴方にしか出来ない事です」
「……ふむ。言ってみよ」
正直な所、私のこの決断でどうなるのかはわからない。だからこそ、面白いのかもしれない。
だって、私は可能性の神なんですから……!
「主神。あなたの転生させる力を利用して、私を私が管理する世界――リーディカティアに転生させてください。私自らが本当の才児神の布教をしてみせますよ……!」
「……凄いマッチポンプじゃな」
「マッチ付けたのあなたですよね」
「はい」
「責任。とってくださいね」
「……はい」
舞台の上に幼女は立っていた。
「皆さん。我々の神、才児神からこのような言葉が伝えられています」
頭から猫耳を生やしていた。
「――この世には二種類の幼女が存在する。それは、体が幼い女の子と頭が幼い女の子のことである」
フリフリの可愛らしい服を身に着けていた。
「これの本来の意味は、文武両道で完璧な人物など実際には存在しないという意味です」
才児神の巫女と呼ばれる存在が現れた。彼女は全員が想像していた神と合致する見た目をしていた。
「つまり、皆さんは幼女という事ですにゃ!」
こうして、才児神による布教活動が始まろうとしている。
……唯一の問題はそう、ちょっぴり彼女への精神汚染が手遅れだったということだけである。