表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/141

初心者戦争《ビギナーズ・ウォー》

 ――初心者ビギナーを泣かせてやろう。


 その一心で、『ほのぼの丘』に集った同士クズたちは騒然としていた。


「おい! なんだアレッ!?」


 単眼鏡スキルで遠方を見通していたプレイヤーの叫び声が、始まりの狼煙のろしとなった。


「みんな、視えてる!? 今ね!! ヤバイヤバイ!! すごいこと起きてるから!! 召喚獣カメラの切り替えだいじょぶ!? すごいすごい!! こんなの前代未聞じゃないの!?」


 初心者ビギナー狩り……略して、『ビギ狩り』の愛称で親しまれているイベントを配信しに来たVtuber、御心・ファッキン・妖華は興奮で息を弾ませる。


 30万人以上が視ている彼女の配信に、召喚獣カメラが捉えた異形が映り込む。


 そこには、凄まじいスピードで、こちらに向かってくるプレイヤーが映っていた。ただの人ではない。ひとりがもうひとりを肩車して、戦士のスキルである『突進』を用いて、肩に担いでいるプレイヤーを運んでいるのだ。


 パンツ一丁の男性プレイヤーの上で、腕を組んでいる美少女が目に映る。


「誰!? アレ、誰なの!? 召喚獣カメラ、映ってる!?」


 応えるかのように、プレイヤーネームが映る――『ミナト』。


「死ねやウラァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 彼女の大口から、殺意が迸る。


 怨嗟に包み込まれた美少女は、猛烈なスピードで走るプレイヤーに乗って、口角泡を飛ばしながら迫ってくる。両目は血走っていて、両腕の筋肉はぴくぴくと震え、口元は殺戮を期待するかのように歪んでいる。


 プレイヤーネーム、『ミナト』。


 彼女は、木製の短剣を振り回しながら、どんちゃん騒ぎをしている大勢のプレイヤーへと突進してくる。


「は、速く、撃てよ!! なにしてんだ、あんな初心者ビギナーごときに!?」

「バカ言うな!! さっきから、撃ってんだよ!! 何発も!! エフェクト、視えてねぇのか!?」

「なら、なん――嘘だろ」


 ミナトへと、魔弾が迫り――


「死ねぇえええええええええええええええええええええええええええ!!」


 碧色の閃光がほとばし


 ジャストガード――正確無比なタイミングで弾かれて、ミナトに接触した魔弾が彼方へと弾き飛ばされる。


 パパパパパパパパパキィン、連続成功。


 無限とも思える魔弾や光矢の雨あられ、その集中砲火を、ミナトは信じ難い精度でかき消した。


 異常を前にして、ほのぼの丘に集ったプレイヤーたちは言葉を失う。


「嘘、だろ……ジャストタイミングでのガードなんて……ま、まともに成功した試しねぇのに……なんで、あんなに成功して……」

「あ、足だ!! 足を狙え!! 『ミナト』じゃなくて、馬の方の『ドルフィン』を狙い撃て!!」


 方針変更。気取ったミナトは叫ぶ。


変形トランス・フォーム!!」


 肩車の姿勢から反転、ミナトはひらりと身を反転し、肩に両足をかけた状態で頭を地面へと向けた。両足をドルフィンに掴まれて、逆立ちをしているような状態、この体勢であればドルフィンの前面をすべてカバー出来る。


 パパパパパパパパパキィン!!


 視界が反転している状態でも、当然のように、ミナトはジャストガードを成功させる。


「おいおいおいおいおい!! 本当に、アイツ、ココまで辿り着くぞ!? どうするんだよ!? 殺意の塊が、デリバリーされちまうぞ!!」

「お、落ち着け!! あのレベルのプレイヤーが、おれたちを殺せるわけがない!!」


 狩る側から狩られる側へ。


 一部のプレイヤーは、気圧されて、脱出装置ログアウトを使用する。精神的に動揺したプレイヤーの命中率が、目に見えて下がっていった。そもそも、とんでもない速さで、こちらに向かってくる対象に当てられるプレイヤーの方が少ない。


 そんなこともあって、ミナトは――ついに、ほのぼの丘へと到着した。


 ドルフィンの肩を蹴飛ばし、ミナトは、宴会場の中心に着地する。


 会場は、静まり返っていた。


 音楽はスピーカーごと消え去り、踊っていたプレイヤーは硬直している。弁当や飲み物は踏み荒らされ、恐怖で引き攣った顔が並んでいる。誰も彼もが、眼前に現れたバケモノを恐れていた。


 ミナトは、落ちていたマイクを拾い上げて――笑った。


「全員、殺す」


 瞬間、始まる。


「撃てぇえええええええええええええええええええええ!! 早く撃てぇえええええええええええ!! コイツを殺せぇえええええええ!!」


 なりふり構わなくなったプレイヤーは、宴会場の中心に着地したミナトを射撃する。ドルフィンは、一瞬で蒸発したが、ミナトは素早く身を屈めた。


「ぐぁあああああ!! おい、今、撃ったのは誰だ!?」

「いてぇ!! テメェ、なにしやがる!!」

「お、落ち着け!! みんな、一旦、落ち着――」


 結果、互いに互いの弾を喰らう。


 なにせ、このほのぼの丘は、PVPエリアである。お互いの攻撃は当たり得るのだ。その上、今回のビギ狩りに集まっていた各々は、普段は笑いながら殺し合いを繰り広げるくらいの仲良しである。


 今まで、いつもの殺し合いが始まらなかったのは、初心者ビギナーと呼ばれる共通鴨スケープゴートが居たからだ。


 つまるところ、膨らみきった殺意を破裂させるには、たったひとつのキッカケが必要だった。


「「「「「死ねやウラァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」」」」」


 ミナトの殺意に感化されたかのように、プレイヤーたちは同士討ちを始めた。誰も彼もが、ビギ狩りのために遠距離武器しか装備出来ない『長弓の射手(スナイパー)』に転職してきたこともあって、同士撃ちの花火大会エレクトリカル・パレードが開催される。


 赤、青、緑……多種多様な光が飛び交って、屍が積み重ねられていく。


 祭りと聞いて駆けつけてきた害悪プレイヤーが、周囲を焚き付けるために現れて、援軍として走ってきた初心者ビギナーたちも参戦する。


 みんな、笑っていた。目の前の人間を消し去ることに、全力をもって、笑いながら取り組んでいた。


 暴力の真髄――世はまさに、大殺戮時代!!


 たったひとりの初心者ビギナーによる“キッカケ”で始まったその戦争は、ファイナル・エンド史に残る最大級の犠牲者数、1万3032人という数字をもって幕を下ろした。


 唯一の生き残りは、配信中は無敵プロテクトのかかる公式Vtuberである御心・ファッキン・妖華、ただひとりだった。


 彼女は、後に、当戦争についてこう言い残している。


『人生ではじめて、走ってくる地獄を視た』


 『初心者戦争(ビギナーズ・ウォー)』……その発端ともされる初心者ビギナーの名前が、ほのぼの丘に立てられた慰霊碑の一行目に書かれている。


 ミナト――この戦争を契機に、その名は、クソゲー界にとどろいていくことになる。

この話にて、第一章は終了となります。

ここまで読んで頂き、本当にありがとうございました。


次話より第二章となりますが、引き続きお読み頂ければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 殺意の塊が、デリバリーwww
[良い点] キャラメイクで大笑いしてしまいました。 不意を突かれて疲れるほど笑いました、その後の質問がどんな質問だったのか凄く気になります。 インナーの美少女がトンデモな状態で猛スピードで迫ってくる…
[良い点] もうね……天下一クズ道会ですよ……とまとがNo.1だ……(訳.クズ、狂人が跋扈〈活躍〉する小説を書かせたらとまとの右に出るものはいない)
2020/11/15 08:18 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ