ゲーム作ろうぜって言ってから解散する率98%
ゲームなんて作れない。
ボクの返答に対して、シャルは笑顔で答えた。
「そっち方面は期待してません」
「なら、なにに期待してんだ♡ 将来性か♡ どこまでも遠大に広がるミナトくんの将来性に期待してんのか♡」
「ミナトくんはね、マネージャー!」
「……は?」
舐めた口を利くシャルのほっぺたをこね回すと、彼女は「やめへへへ」と笑いながら、ぺしぺしと叩いてくる。
「良いじゃん、思い出づくり思い出づくり! きっと、こういうのが、後々、見返すことで青春の煌めきになるの!
数カ月後くらいに、一緒に思い出してさ、笑い合うのが良いんだよ!」
その頃には、ボクはもういないけどな。
このタイミングで言うべきか言わざるべきか、結局のところ、ボクは判断を保留してしまった。と同時に、彼女の『思い出づくり』という言葉にほだされて、最後なのだから、まぁ良いかと納得する。
「…………」
レアを見遣ると、苦笑して頷いた。
「まぁ良いけどさ……で、マネージャーってなにすんの? 野球部かバスケ部かサッカー部の彼氏作って、クラス内カースト駆け上ればいいの?」
『女子マネージャーの大半が、男漁りのために入部してるみたいな偏見はやめたまえ』
「アメリカでは、最強はアメフト部だぞ?」
「で、男漁りのために入部するのは、チア部か演劇部ね」
『やめたまえ』
悲喜こもごも、本場アメリカのスクールカースト話に花を咲かせてから、紆余曲折の後に本題に戻る。
「わたしは、ディレクター兼プログラマー兼デバッガー! 基本的に、偉そうなこと言いながら『進捗どうなってんの? え、マジ、まだ終わってないの……チッ』とか、会社の経済状況を考えずに、プログラマーに無茶な要求を与える業務をしてるよ!」
『偏見しか言ってはいけない空間と化してないかい?
私は、就活全敗引きこもりニートだが、こう視えても絵が得意でね。デザイナー兼プログラマー兼デバッガーだ。Pix○vで垢バンされた回数とT○itterで殺害予告を受けた回数なら誰にも負けない』
「負けて良いところで勝って、勝つべきところで全て負けてくるのはやめろ♡」
「わたしは、ディレクター兼プロデューサー兼プランナー兼デザイナー兼サウンドクリエイター兼シナリオライター兼プログラマー兼デバッ――」
「もう、全部、お前一人でいいんじゃないかな……」
新メンバーの俺に、改めて自己紹介と言うことで、シャルたちは各々の役職を唱える。死んだ眼で、唱え続けるレアが、労働の中核を担っているのは間違いなかった。たぶん、本当にコイツひとりでゲーム作れると思う。
「なんで、全員、プログラマーとデバッガーを兼任してんの?」
「「「誰もやりたくないから」」」
「あ、はい」
もちろん、世の中には、プログラムを組むのが大好きと言う人がたくさんいる。でも、嫌いだと言う人もたくさんいる。
「で、最後のひとりの役割は?」
「ATM。
で、これから、ミナトくんにやって欲しいのは――」
「さらっと流せない闇が耳を打ったんだが」
『いずれ、光に変わることを祈ろう』
あまり、首を突っ込みたくなるような話でもないので無視。世の中の8割方、直視に耐えない光景ばかりなので、幼少の頃から身につけておくべき必須スキルだった。
「ミナトくんにはね、進捗管理をやって欲しいの。役職で言えばプロデューサー。基本的に『進捗どうなってんの? え、マジ、まだ終わってないの……チッ』って、言ってれば良いから」
「なんか、ディレクターと役割かぶってない?」
『なら、私の連絡先も教えておこうかな……あ、でも、T○itterのDMはやめてくれ! 殺害予告とち○ぽの画像の山から探すの大変だから!』
「なにをしたら、そんなことになるんだ……?」
こうして、ボクの役職はプロデューサーとなった。
と言っても、やることはそんなにない。シャルから譲り受けた端末に導入したスケジュールを視て、計画通りにタスクが遂行されているか確認するだけだ。もし、進捗に遅れがあるようなら、舌打ちするだけの簡単なお仕事である。
「チッ」
『ハハハ、本当に、ミナトちゃんは舌打ちするだけだね。もうちょっとこう、手心と言うか、飴と鞭と言うか、ほんのり香る優しさをプレゼントフォーユーしても良いと思うな。私なんて、ほら、ちょっと投げキッスしてもらえればドンドコやる気が出るよ』
「チッ(投げキッス)」
『高難易度の間違い探しかな?』
進捗に遅れを出す常連は、クラウドである。
インスピレーションが湧かないとか、かつて矢を受けた膝が痛むとか、右スティックが壊れたとか、本日は晴天なりとか、適当な理由をこじつけて作業をサボる。
それでも、本当にギリギリのタイミングで、良いイラストを上げてきたりするので許されていた。たまに、リミットブレイクして、画面の向こう側で段ボールの大剣を振り回す以外はまともな人間である。
シャルは、たまにサボるが、アイディア力がある。
集中力はないものの、一度、スイッチが入った時の入れ込みようは恐ろしいものがあった。休日の朝から深夜まで、ひたすら、『気に入らない』という理由でドロップ率の調整をしてたりする。
対して、レアは、一度もサボったことがない。
作業の進捗に遅れをきたしたこともないし、それどころか、妹の作業をさり気なくフォローしていたりする。右手でソースコードを書きながら、左手でコード進行しているのを視た時は、コイツ頭おかしいと思った。
彼女に『なんで、そんなことしてるんだ?』と聞いたら――
「なんでって……腕は、二本しかないだろ?」
平然とした顔でこう返された。
結局のところ、この凹凸クリエイターチームは、レア・クロフォードという名の凸に支えられている。シャルもクラウドも、屋台骨に全身を預けて、各々の才能を発揮しているのだ。
レアたちが出展を目指している『デジタルゲームフェスタ』は、早くも来月行われる。そのため、ゲーム制作も佳境に入っていた。
にも関わらず、謎の四人目は姿を見せようともしない。
四人目なんて、本当は存在しないんじゃないだろうか……そんなことを考えていたボクの前に、デジタルゲームフェスタが。
そして、別れの時期が、直ぐそこにまで迫っていた。