伊達と酔狂、ロックンロール!!
ボクは、街の中を走り回って数を数える。
「ひーふーみー……」
影の数を指呼確認。
影たちに囲まれた瞬間、想定した逃走ルートに従って、窓から建物の中に飛び込む。
「ミナトトレイン、発車オーラァイッ↗↗↗(ガシャァンッ!!)」
「いやぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!! また来たぁあああああああああああああああああああああああああああ!!」
何度も、窓をぶち破っているせいか、温泉黄金郷の住人たちには顔を憶えられてしまった。夜な夜な、ボクに突撃訪問されているせいか、一部の住人は反応すらしてくれない。
「いやぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!! もういやぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「愉悦♡」
ただ、中には、未だに良い声で鳴いてくれるプレイヤーもいる。ボクのお気に入りだ。もっと泣け、喚け♡
「ひーふーみー……」
重要なカウンティングを繰り返しながら、次の建物の中に飛び込む。
「こんちはァ!! 三河屋でェすゥ!!(ガシャァンッ!!)」
「あ、いらっしゃい」
この時間を無駄にしないためにも、ボクは、攻略と一緒に仕事を始めていた。
宅配業である。夜中に動き回れないプレイヤーの代わりに、食料や飲み物を届けているのだが、それなりに儲かる。
「あざーしたァ!!(バリィン!!)」
「ねぇ? 普通に、玄関から入ってくるのダメなの?」
まだ、割れてない方の窓をぶち破って退室する。労働に勤しむボクを横目に、怠惰を貪る連中への嫌がらせだった。
駆け回りながら、温泉黄金郷の地図を呼び出す。建物の中には、印を付けて、影に囲まれやすい箇所には✕をつけておく。
温泉街の街路は、大体、把握することが出来た。着々と準備は整っている。
決戦地点の確保はOK。後は、勇気ある生贄が必要だ。とは言うものの、その用意が一番難しい。
「遅れて参上ッ!!(ガシャァン!!)」
「いや、今日、なんも頼んでないけど……?」
「あざーしたァ!!(バリィン!!)」
「窓、直してけやテメェエエエエエエエエエエエエエ!!」
配達ミスをしながらも、ボクは、仲間を求めて走り回る。
なにも、無闇矢鱈に、窓を割って侵入してるわけじゃない。コレは、第一試験なのだ。ボクの講じた策を満たせる魔人を探さなければならない。
なにせ、現況、一手間違えれば死ぬ。
真のファイナル・エンド・プレイヤーでなければ、ボクの策には絶対にノッてきたりはしない。聖罰騎士団の連中に手伝わせようとも思ったが、アイツらは真面目すぎて使えない。
恐らく、生真面目な人間は、最後の一手で違える。伊達と酔狂で、死を超えていくような人間でなければならない。
そんな人間は、果たして、この世界に存在しているか? さすがに、諦めの気持ちが芽生えてくる。
疾走しながら、ボクは、次の窓に狙いを定めて――音を聞いた。
天を貫かんばかりのFコード。
天雷が、耳朶をつんざいて、ボクはその部屋に飛び込む。室内に飛散するガラス、月が映り込む。月光を浴びたガラス片の中には、汗混じりに楽器をかき鳴らしている仲間がいた。
彼らは、窓を割ったボクを気にも止めず、演奏を続けている。
一瞬で、ボクは、引き込まれた。
なんて演奏だ。
ボクは、驚愕で自分の口を押さえる。
音が……聞こえねェ……!
あたかも、コンサートホールの中心で、スポットライトを浴びるかのように――月明かりの下、三人の演者が、音の波にノッている――水で満たされた金魚鉢をかぶって。
「!!!!!!!!!」
「!?!?!?!?!?!?」
「!!!!!!!!!!!!!!!!!」
大量の泡を噴きながら、三味線をかき鳴らし、和太鼓を打ち付け、尺八を吹きまくっているバンドグループ。
聞こえるのは、エレキギターの音だけだ。ソレ以外の音は、なにも聞こえない。水と空に消えている。
ボクは、心で感じる。
ココが、フィニッシュだ――見計らって、ボクは、外に飛び出して窓ガラスを割った。
破砕音の終止符が、破壊の名の下に告げられる。
一心不乱、彼らは、音のない演奏を終えた。
そして、思い切り、壁に頭を叩きつけて、死の間際で金魚鉢を叩き割った。彼らは、ラジカセから垂れ流していたエレキギターの音を止める。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
三味線をもった半裸の男が、右胸に彫った萌キャラを見せびらかしながら近づいてくる。
彼は、ニヤリと笑って、ボクに手を差し出した。室内に戻ったボクは、フッと笑って、彼の手を握る。
「今、わかった。
ボクとファイナル・エンド出来るのは、君たちしかいない」
ボクは、自分の楽器――即ち、窓ガラスを指した。
「一緒に、ロックンロールしようぜ♡」
「!!!!!!!!!」
「!?!?!?!?!?!?」
「!!!!!!!!!!!!!!!!!」
応えは、音で。
金魚鉢をかぶった彼らは、魂に刻み込まれるようなGigをかき鳴らした。
コレは、出会って、三秒で結成されたクソバンドが――理不尽に伊達と酔狂を教えてやる話だ。
新作短編『ツンデレの氷雨さんは、ツンが上手くいかない』を投稿しました。
作者ページの方にありますので、お暇があれば、ご一読頂ければ幸いです。
よろしくお願いいたします。