表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/141

大前提の死

 先輩(眠り状態)を挟んで、ボクは、聖罰騎士団ジャッジメントキラーの団長と向き合っている。


 片膝を立てて座っている彼女は、色濃く残るくまの上からボクを睨みつけた。


けいに力を貸して頂きたい」

「む・り♡ か弱い女の子に酷い要求をぶつけるな♡ ドッジボールをやる時は、美少女を狙わないのが不文律でしょ♡」


 ボクに対する威圧のつもりなのか、突っ立っている聖罰騎士団ジャッジメントキラーたちは、こちらから姿が視える立ち位置を崩さなかった。


 肉盾エレノアで急所を隠しながら、ボクは微笑を浮かべる。


「そもそも、テメーら、人にモノを頼む態度じゃねーだろ♡ 物騒な得物エモノぶら下げて、たったひとりを取り囲んでおきながら、『力を貸して欲しい』なんて戯言ざれごとが通るとでも思ってんのか♡

 失せな、ファッション力皆無のお飾り鎧どもが♡」


 抜剣した聖罰騎士団ジャッジメントキラーに対して、団長は、咎めるように舌を鳴らした。


けいの言う通りだ。もう、この世界は遊戯ゲームではない。玩具をぶら下げて、話すのとは訳が異なるからな。

 どうか、我々の不敬を許して頂きたい……ね」


 剣を収めた聖罰騎士団ジャッジメントキラーが消えて、丸腰になった団長は、鎧を脱いでアンダーウェア姿になった。


「信じられないなら、殺して頂いても構わない」

「エレノア……れ♡」

「人に命令してないで、そのうすぎたねぇ手を汚しなよ! もう、ドス黒くて取り返しつかないんだから!!」


 言うことを聞かないNPC(エレノア)を蹴り飛ばし、急所を晒したボクは、無手で団長の前に座り込む。


「お互いに、腹づもりは晒して話そうか♡」

「……良い」


 微笑を浮かべた彼女は、身じろぎして座り直す。


「まず、大前提から話そう。

 ボクは、あなたたちには協力しない。つまり、現実世界への帰還を目指すつもりはないし、終着点ファイナル・エンドに到達するつもりもない」

「なぜ?」

「死ぬから♡」


 ボクは、胸の前でハートマークを作る。


「あんたたちにもわかってるでしょーが、このクソゲーの理不尽な難易度が。立ち向かうだけムダだよムダ。全員、皆殺しにされて、塵ひとつ残りはしないよ。今頃、現実世界で、ボクらが目覚めないってニュースになってるだろうし、いずれは外側から助けが来るのを待つのが一番に決まってる。

 真正面から、世界クソゲーに立ち向かってどうすんの?」

「逃げるのか」


 ――ミナト、この世界はね、正しい人間が正しく救われるようには作られていないの


「…………」


 ――この世界は、クソゲーだ


「…………」

「ミナトきょう、座れ」


 言われてから、ボクは、無意識に立ち上がっていたことに気づく。


 指の隙間から、団長は、立ち尽くすボクを見据えた。


「33084人だ」

「なにが?」

運営アラン・スミシーの宣言があってから、初日の死者数、引いては、現在、ファイナル・エンド世界で生存している人間の数量は8万飛んで6032人」

「…………」

VR(バーチャルリアリティ)をプレイしている33084人もの人間が、たったの24時間で大量死したらどうなると思う?」


 彼女の言いたいことがわかって、ボクは押し黙る。


「ファイナル・エンドのプレイヤーは、世界中に散らばっている。間違いなく、世界規模の大問題だ。動くのは、日本の警察だけではない。

 昨今のVR(バーチャルリアリティ)の経済規模を知っているか? 安心安全の札が張られているVR上で、取り返しのつかない不祥事が一件でも起これば、死ぬのはこの世界のプレイヤーだけではない。ありとあらゆる場所で、ありとあらゆる金が動いて、ありとあらゆる人間が首を吊る。

 我々が直面しているのは、ライトノベルに書かれているような、都合の良いデスゲームなんかではない。金にまつわる何事かが起これば、一般人の想像を絶するような、プロフェッショナルたちが同時に動く。

 我々は、24時間以内に救助されていて然るべきだ。ひとりのヒーローが、デスゲームをクリアするような時間なんて存在しない」

「なら、なんで、ボクたちはまだココに居る?」

「体感時間だ」


 団長は、眠たげな目で、ボクを捉えた。


「我々は、あたかも、ゲーム世界で一昼夜を過ごしたように思えるが……恐らく、実際には1秒も経過していない。

 現状の技術を活用すれば、ドーパミンの過剰分泌で脳を異常に活性化させ、無理矢理に体感時間を引き伸ばすことは可能だ」

「つまり、ボクらは揃って薬中で、外からの助けも来ないってことか♡ 有り難いね♡」


 ぴくりとも笑わずに、団長は口を開ける。


「助かる方法は、ただひとつ」


 彼女は、真っ直ぐに、両目でボクを射抜いた。


「この理不尽クソゲーをクリアするしかない」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] デスゲーム化は歓迎してます。度肝抜かれました [気になる点] 他の方も書いてましたが、ネット小説で読者の声をそこまで気にすることはないと思いますよ? [一言] あけましておめでとうございま…
[一言] え、秒で八万人がいきなり死ぬとかこわ
[一言] うおおぉぉぉぉ!待ってましたァ! ミナトには頑張ってもらいたいですね! 次も楽しみに待ってますぜ、作者様。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ