勝利は、酩酊の中にある
巨像が――堕ちる。
プレイヤーたちの殺意が、ボクから巨像へと向き直ったのを感じた。そもそも、黄金御殿ごと墜落したボクらは、地形ダメージでお陀仏しており、目標の殺害を達成した彼らが次なる標的を捉えるのは自然なことだった。
「エレノア戦士治療院は、こちらですよぉ~! お姉ちゃん、お兄ちゃんたちぃ、どんどんおいでやす~!」
エレノアの手で『素人』に戻ったプレイヤーたちは、楽しそうに世界の敵へと群がる。
「肉の塊が転がってる!! 切り分けろッ!!」
「運営が作り出したモノは、全て破壊しろォ!! 殺せェ!!」
「人間の醜さを舐めるなァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
倒れ伏した破邪六相は、15%程のダメージを受けていたが、まだ水上に浮かび上がるくらいの力は残していたらしい。挑みかかってくるプレイヤーたちを六本の腕で払い除け、必死に再浮上しようと試みる。
「ダメだ!! 刃が立たねぇ!! 素人程度の筋力じゃ、まともに攻撃が通らねぇぞ!!」
「筋力……なら、戦士に転職したら!?」
「馬鹿野郎!! そんなことしたら、星の重力に導かれて、強制海底ぐらしだぞっ!!」
「でも、攻撃が通じないじゃん!? どうするのよぉ!?」
復活したボクは、チャット欄にお告げをささやいた。
『沈めろ♡』
「は? 沈めろって、どうやって?」
『重石なら、幾らでも転がってるだろ♡』
ようやく気がついたのか、プレイヤーたちは、人柱として捧げられていなかった『光の戦士たち』を見つめる。
無抵抗。救いを求めるかのように、天に向かって両手両足を伸ばしている彼らは、仰向けにひっくり返っている。
そんな無抵抗主義者の群れに、爛々と目を輝かせたプレイヤーたちが、口元を歪ませて近づいていった。
あるものはクロールで、あるものは背泳ぎで、またあるものはバタフライで……水中だろうとも、目を閉じようとせず、獲物を求めて寄ってくる。
その速度と殺意は、抜きん出ている。あっという間に、哀れな木偶たちは取り囲まれていた。
「な、なにするつもりだ……? お、おい、公式Vtuberの指示に従うつもりなんてないよな……? お、俺たち、仲間じゃないか……? い、一緒に運営を倒そうって……絆を試されてるんだって言ってただろ……?」
「…………」
「な、なぁ!? よせっ!! やめろっ!! おいっ!?」
「先輩、視てごらん♡」
ボクは、ぽかんとお口を空けて、空を見上げている先輩の肩を叩く。微かに反応を示した先輩の肩を抱いて、七色に光り輝いている水上を指差した。
「夜明けだよ♡」
「よせぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!! やめろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
理路整然と受け渡されていく戦士は、七色に光り輝きながら、破邪六相の下へと運ばれていく。その手慣れた手付きは、無機物を相手にするソレだった。
早朝の漁港で行われているかのような、テキパキとした出荷を思わせる無言作業……まるで、水面に七色の橋が出来たかのようだった。
七色死橋を生者が渡る。
朝靄に包まれている温泉街で、その神聖なる作業を俯瞰していたボクは、絵画に切り抜かれた神話を視ているかのような気持ちになった。自己犠牲を厭わない戦士たちは、戦死者の館へと導かれてゆく。
七色の後光に照らされて、悲鳴と罵声を上げながら、涙混じりに運ばれてゆく。
「「「「「…………」」」」」
笑顔のプレイヤーたちは、物言わぬ戦士たちを破邪六相に結びつける。
男とも女とも、老人とも子供とも似つかない慟哭が上がって、六本の腕を天に伸ばした巨像が沈んでいく。破邪六相に付き添って、地獄へと堕ちていく戦士の魂たちは、最期まで罵詈雑言と呪いの言葉を吐いていた。
少量の泡を残して、破邪六相は沈黙していき……ひゅーっと、音を立てて、天に花が開いた。
『Congratulations!!』
朝の空に、炸裂する花火。
世界の敵のHPを25%削りきり、撤退に導いた証拠。祝福の文字列が、宙空に表示される。
わっと、大歓声が上がって、この決死的作戦に参加した誰もが、抱き合って喜びを分かち合う。抱き着かれた瞬間、どさくさ紛れに刺殺されたプレイヤーが、ぷかぷかと水面に浮かび上がった。
危険を察知したプレイヤーは、猜疑心を残したまま引き上げ始める。戦利品を漁るために潜水を始める者や、水面の死体の足を引きずって回収するプレイヤー、ひっくり返っている戦士に介錯を施す人たちもいた。
「「「「「…………」」」」」
誰の顔にも勝利の余韻は残らず、周辺を油断なく見つめる両の目だけが残った。
力関係の図式を理解したのか、座敷に上がってきて平服した係員が、上等なワインとワイングラスをもってくる。
ボクは、朝焼けの空を見上げる。天に昇った戦士の魂なのだろうか、薄っすらとした星の形が残っていた。
椅子に腰掛けて、足を組んだボクは、美しい夜明けに乾杯を捧げる。
ワイングラスの中で、踊り続ける赤色……葡萄酒をくゆらせてから、ボクは、笑顔で飲み干した。
「……ぁあ♡」
擬似的な酩酊に、ボクは感嘆の声を漏らす。
「酒が美味い♡」
こうして、ボクらは、絆の力をもって第一形態を撃破した。




