表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/141

スパチャ(命)

 20:00:00――あっという間に、四時間が過ぎ去った。


 壊滅状態の温泉街の只中、係員の少女たちは慌ただしく動き回っている。


 駆け走るNPCたちは、せっせと、設備の修復に励んでいる。時折、サボっている姿を見かけるものの、一生懸命に建材を運んだり、建物の補強を図ったりと大変そうだった。


 半壊した旅館。崩れた壁にもたれかかったボクは、視線の先にる破邪六相を見つめる。


 黄金御殿の横に並び浮かぶ世界の敵(ワールドボス)は、人を寄せ付けぬだけのようにそびえていた。


 なおも、初撃ボーナス(嘘)を狙うプレイヤーたちは、破邪六相による領域能力エリア・スキルによるものなのか、レベルが5以下に下がることはないことを知ってから、ひたすらにゾンビアタックを続けている。


 あたかも、砂糖に群がるアリのようだ。


 だが、その巨大な砂糖は、宙空に浮かび上がっており、アリンコの手が届かない高度に存在している。


 現在、破邪六相の領域能力エリア・スキルによって、転職制限を受けたプレイヤーは、低級職にしか就くことが出来ない。


 低級職の中で、遠距離攻撃者(Range-DPS)職に相当するのは『射手』と『魔術士』だけだ。双方の射程(Range)をもってしても、攻撃が届いていないのだから、そもそも破邪六相に通用する攻撃手段は存在していないのだろう。


「…………」

「どうする、ミナトぉ……?」


 早々に、諦観に浸された先輩は、浴衣に着替えて温泉旅館を満喫していた。さっきから、係員たちが運んできた海鮮料理に舌鼓したつづみを打っているので、理不尽の塊(ワールドボス)をどうにかしようというつもりはないらしい。


「次、なに食べる? あたし、なんだか、お腹減っちゃって。危急の折には、生存本能が働いて、空腹感を覚えるって本当みたいね」

「いや」


 ボクは、振り返って、先輩に微笑む。


「そろそろ、としますか、アレ♡」


 あんぐりと、大口を開いた先輩は、掴んでいた伊勢海老をぽろりと落とした。


「ど、どうにか出来るの……アレ……? あ、あんた、なにをどうやって……倒す方法の算段がついてる時点でこわいんだけど……?」

「まぁ、13連撃のゴブリンとか、オリハルコン・ヤドカリとか、重力で一歩も動けないとか……クソゲーに慣れてたら、アレくらいどうとでもなるというか……所詮、ただのデカブツというか……」

「アレをただのデカブツと言い張れるあんたが怖い」

「いや、でも、ひとつ、大問題があるんだよね」


 ボクは、先輩の落とした伊勢海老を拾い上げる。殻を剥いてから、身を口に滑り込ませながら言った。


「他のプレイヤーの協力がいる♡」

「ミナトお姉ちゃん、ソレ、大問題どころか解が存在しない問題でしょ」

「うわぁ!! あんた、どっから湧いてきたのよ!?」


 いつの間にか、席に着いている闖入者。


 箸を握り込む形で持っているエレノアが、刺し身を突き刺して、『むぐむぐ』言いながら美味しそうに食べていた。


「そして、大変ムカつくことに、パワー系狂信者エレノアちゃんの協力も必要なんだよね♡ 協力しろオラぁ♡

 もしくは、死ぬかだ。30秒で選べ」

「え~? ミナトお姉ちゃん、協力を要請する相手に対して、そんな大口叩いていいの~? エレノア、おへそ曲げて、知らんぷいぷいしちゃ――」

「30! 2――0!!!!!!!」


 伊勢海老で顔面をぶん殴ると、殻が木っ端微塵になって、綺麗に剥かれた身だけが残った(自動エビ剥き機-ELEANOR)。


「で、ミナト、どうするの? ファイナル・エンド・プレイヤーなんて、言語が通じないどころか、常識を二束三文で売り飛ばしたような連中よ? 運営並びに公式Vtuberに対する憎悪は、ハッキリと目に見えるくらいなんだから、クラスに一人はいる優等生みたいにこっちの言うことを聞いたりしないわ」

「先輩は、絆ってなんだと思う?」

「……脳神経、ちゃんと通ってる?」


 ボクが『絆』と口にしただけで、頭がおイカれになったと解釈するのはやめろ♡ 余計な口叩けないように、脳梁切断して、思考の架け橋を落としちゃうぞ♡


「先輩、絆とか奇跡とか愛とか、そういう諸々ってのは“外側”から視える結果に過ぎないんだよね♡ その裏におぞましいモノが潜んでいようとも、映画のラストシーンで力を合わせて戦えば、人々は絆の力だって言い切っちゃうわけ♡」

「め、目の前におぞましいモノの総本山がいるせいか、段々、あんたの考えている邪悪が透けて視えてきた……」


 失礼なことを言う先輩に、ボクは、綺麗なウィンクをプレゼントする。


「ボクたち、Vtuberだぞぉ♡」


 そして、笑う。


「絆とか奇跡とか愛とか……そういうのを切り貼りして、成り立ってるような業種だ……キャラクターを演じきるのがプロでしょうが♡ 視聴者リスナーの喜ぶ配信を作り上げるためなら、命も魂もこのクソゲーも、なにもかも捧げきって笑うのが本質ってヤツじゃあないのかい♡ 視聴者リスナーからの投げ銭(スパチャ)だって、彼らの命を削り取ってるようなものだもの♡

 つまるところ、ボクらは、常日頃からかばねの上に立っている♡」


 両手の指を格子状にして、ボクは、その中心に捉えた先輩を覗き込む。引き攣った笑顔の先輩に、最高の笑顔をお届けした。


「ファイナル・エンド・プレイヤーなんて、二足歩行するただのにえだ♡ 如何いかなる時代でも、犠牲はつきもの♡ 昔は、建物ひとつ組み立てるのにだって、大量の生贄が捧げられてたんだ♡

 このクソゲーの発展のために、命も魂も絆も、ぜーんぶ捧げてもらおうよ♡」


 笑うボクに対して、怯える先輩の両目は、忙しなく動き回っている。


 あたかも、逃げ道を探すように。


「さぁ、先輩、一緒に建てようよ♡」


 その逃げ道を、そっと塞いで、ボクは先輩に向かって両手を広げる。


「立派な人柱♡」


 諦めたかのように、死んだ目の先輩は、にへらと笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] あれ、エレノアが可愛く見えてきた。殻割りできて便利だし。 …おっと、ファイナルエンドに染まりすぎて親衛隊《あっち》のセカイに入りかけていたようだ [一言] くぎゅー先輩… ファイナル…
[気になる点] エレノアちゃんに甲殻類ぶつけて殻むくの流行りそうですね! 僕はカニをぶつけることにします。ところでファイナルエンドのnpcに人工知能が搭載されていたと思うのですが、「殺せ」モードではな…
2020/12/24 19:39 退会済み
管理
[一言] くぎゅー大丈夫か?目のハイライトがなくなってるのが目に浮かぶんですけど笑 次も楽しみに待ってます!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ