えっ!? この状況で、最強職に転職させてくれる美少女NPCがいるんですかっ!?
「なんで、エレノア様がココにいるの……早急にお帰り願いたいんですが……?」
呑気にきつねそばを啜っているファイナルエンド界の邪教徒は、愛らしい顔立ちをボクの方に向ける。
「無理だよぉ、お仕事だもん」
「お仕事……? 誰を殺しに?」
「て・ん・しょ・く!」
頬を膨らませたエレノアに、睨みつけられる。
「エレノアのお仕事は、プレイヤーの皆を転職させることなんだよ! ミナトお姉ちゃんは、そんなことも知らなかったの?」
「誰かさんに、無限にぶん殴られたせいか、意識障害出てるからね♡ 知らなくても、仕方ないね♡」
ボクの皮肉に対して、エレノアは、本当にわからないと言わんばかりに首を捻った。
「転職担当のエレノアが来てるってことは、今回のイベントでは、意識的に職業を切り替える必要があるってこと……?」
「あれ? くぎゅー?」
先輩が口に出していた独り言を聞きつけて、笑顔のエレノアが反応を示した。
「くぎゅーも来てたんだ? なんで、ミナトお姉ちゃんと一緒にいるの? わけあり? わけあり?」
「う、うるさいわね。あたしが、誰と何しようが、あんたに関係ないでしょ」
気まずそうに、先輩は顔を背ける。
「え~? 関係あるに決まってるのに~! くぎゅーだけ遊んでてずるい~! エレノアだって、ミナトお姉ちゃんと遊びたいのに~! ふんたーたちだって、ずるいって言うと思うよ~?」
「仕事よ仕事!! 配信してるの!!」
「はぁ? 配信? なんで?」
「うるっさいわね!! あんたは、昔から、ネチネチネチネチ!! アルゴリズムかどっか、狂ってんじゃないの!! あたしが配信しようがしまいが、あんたには関係ないんだから口挟まないでくれる!?」
白けた目を向けるエレノアに対して、妙に敵対的な先輩が噛みつきまくる。たぶん、転職する度に、あの無限殴打を受けてきたのだろう。狂信者に怒りを覚えるのもわかる。
「まぁまぁ、先輩、イカれたNPC如きにかかずらうことはないよ♡ ボクが本気になれば、コイツ、ワンパンよ?♡」
「エレノアは、ミナトお姉ちゃんのこと、一億パンくらいできるけどね」
「テメー、ゴラぁ♡ テメーよォ♡ やっぱり、憶えてるじゃねーか♡ エレノアとエレノアを対面で並べて、永遠に不毛な殴り合いさせてやろーか♡ 公式Vtuber様の権力にかかれば、テメー如きのコピーアンドペーストは余裕だぞぉ♡」
「NPC軽視発言だ~! 悪いんだぁ~! そういう発言してると、くぎゅーに嫌われるんだからね~!」
「別に先輩如きに嫌われても……」
ちらりと、先輩のリアクションを伺うが、恐怖のあまりにまともに反応もできないのか……顔を青くして、立ち尽くしている。
「とりあえず、エレノア、暇だからミナトお姉ちゃんに付いていこ~っと!」
「はぁ!? じょ、冗談じゃないわよ!! 付いてこないでよ!! あんた、本当にやめてくれる!?」
ボクが拒否するよりも早く、先輩は、大袈裟に否定を示した。
「だって、ミナトお姉ちゃん、他の人より面白いんだもんっ!」
笑顔のエレノアが、ぎゅっと、ボクの腕を抱き込んだ。
NPCだろうとPCだろうと、体温やら身体の柔らかさやらは、ダイレクトに伝わってくる。あたかも、現実で、可愛らしい少女に抱きつかれたかのようだった。
「ミナトお姉ちゃんは、エレノアと一緒の方がいいよね~? ね~?」
「アッハッハッ!
寝言は寝てから言えカス……」
ぐいぐいと、エレノアの顔面に手のひらを押し当てて、引き剥がそうとした瞬間――両腕を腹に回される。
刹那、腹部に、強烈な衝撃を覚える。
「むんむんっ!」
「……がァッ!?」
「むんむんっ!」
「『むんむんっ!』なんて、可愛らしい発言とは裏腹な超絶膂力♡ 正式名称、エレノア・クソゲ・ゴリラがよォ♡ クソゲー界のエベレストから堂々の下山を成し遂げて、人里に下りてきてんじゃねーぞ♡ 上腕二頭筋から繰り出される腕力が、現実の標高に合ってねーんだよ♡ とっとと、猟友会に撃ち殺されろ♡」
腸が口から飛び出るんじゃないかと錯覚するくらいの圧力、たまらずボクはギブアップを宣言した。
ようやく、解放されて、息も絶え絶えにボクは膝をつく。
魔の手から、必死にボクを救おうとしていた先輩は、己の無力を嘆くかのようにエレノア目―クソゲ科―ゴリラ属に分類されるエレノア・クソゲ・ゴリラを睨みつけた。
「だいじょうぶだよ! エレノア、ふたりの邪魔はしないから!」
「既に邪魔をしているという意識はないんですか♡ ゴリラの脳みそって、人の3分の1しかないらしいね♡ お察しください♡」
「ほ、本当に、邪魔しないでよ……?」
ボクを背の後ろに隠している先輩を視て、エレノアはため息を吐いた。
「あのね~! エレノアは、良い子ちゃんなんだから! 大人気NPCだよ! 人の嫌がることなんてやらないもん! もんもん!!」
「秒で嘘ついてる時点で、信用できねーんだよ♡ この狼女がよぉ♡ 渋谷のハロウィンに参加して、クソみてーなホスト崩れにクソみてーなナンパされてろ♡」
「わかったよぉ、もぉ! そこまで言うなら、エレノアが、ミナトお姉ちゃんたちの味方だっていうことを証明するから!
転職! ファイナル・エンドで、一番、人気のある職業にミナトお姉ちゃんを転職させてあげる!」
「大人気職業……つまり、最強職ってこと?」
エレノアは、不敵な笑みを浮かべる。
「じゃあ、ミナトお姉ちゃん、膝をついて頭を下げて。
転職ダンスするよ~!」
お馴染みのキモオタ御用達のダンスが始まった(ボクは、キモオタなので、クリティカルヒット判定を受ける)。
マンチキンを自称するボクは、最強職になれるのであればなんでもする。エレノアに言われたとおり、膝をついて頭を下げて、転職の準備を整えた。
「それじゃあ、ミナトお姉ちゃんを転職させるよ……!」
ボクの頭の上にかざされたエレノアの両手が、蒼色に発光し始めて、転職用の演出が流れ始める。
「ファイナル・エンドで、一番、人気のある職業!!」
ボクの身体が蒼色に光り始めて――
「『戦士』に転――」
「死ねや、テメェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!!!!」
ボクのミドルキックが、エレノアの腹に突き刺さる。
腹を押さえて、悶絶している美少女に唾を吐き捨ててから、ボクたちは希望という名の未来へと逃げ去った。




